表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/175

第168話 ヒヨーナの街へ。

 さて、アレックスの首も座り、落ち着いてきたようだ。

 とりあえずは、クリスの父ちゃんに挨拶に向かう必要がある……と思う。


 一応国王。

 うわっ、面倒くさそう。


 久々にアインに乗り、エルフの国の国境の街ヒヨーナの街を目指した。

 マールの両親に会えるようにしておかないとね。


挿絵(By みてみん)


 リードラと共に行くことも考えたが「たまには一人」って考えただけだ。

「もう増やさないようにね」

 と言うクリスの余計なフラグを気にしながら、

 パルティーモの出口にアインと向かい、まずは東へとネイスンの街を目指した。

 背に家宝のオリハルコンの大剣。

 冒険者風である。


 女っ気ない。

 こんなの久しぶり?

 いや、初めてか?


 などと思いながらアインと共に街道に沿って平原を駆ける。

 旅人たちはあり得ない速さで走るアインを見て驚いていた。

 トロトロ走る荷馬車を見つけると、

「何人たりとも……!」

 と叫びながらぶち抜いて言った。

 遠くにフォレストウルフが走っているのが見える。


 護衛かね?


 振り返ればただのバカである。

 この世界にネタ元を知っている奴は居ないしなぁ。


 まあ、そんな事をしながらたまに休憩を入れても普通は三日かかる街道を一日で走り切るアイン。

 早々に一度オウルの屋敷に帰るのだった。


 夜はオウルに帰ってくればいいってうるさいもんで……。


 次の日にはフィエルの街に向かい、さらに次の日にはヒヨーナに向かう。

 俺の前には鬱蒼とした木々が広がってきた。


 ヒヨーナの街はエルフの国オーベリソン王国の入口になる。

 大森林と言う森林の切れ目にできた街道の上に出来た街。

 周辺にある森から得る魔物と街道の中継地の宿場町として栄えていた。


 森の切れ目と言うことは、魔物との遭遇率も高い。

 それでも、商人たちは護衛を雇い森の切れ目を進むのだが、それでも強大な魔物相手では守り切れない事も多い。

 それは騎士が護衛をし、貴族が載った馬車でもである……。



 もうしばらくすれば街と言う所でデカい熊を見つけた。

 見た感じ十メートル近い。

 キングベアという魔物であり、現れただけでギルド討伐対象になるという大物らしい。

 馬車は倒れており、その周りで剣を振るう騎士たちが居た。


 この距離じゃ間に合わないか。


 俺は久々にライフルを構えるイメージを作る。

 装備的には狙撃用対物ライフル。

 目に映すのはキングベアの眉間。

 弾は圧縮した石。

 回転をつけて魔力は多めで、狙いすまして撃つと、キングベアの頭の上部が消えた。

 何が起こったのかわからない騎士たちはきょろきょろとしていた。

「私にもそれくらいできるのに」

 何故か出てくるマナ。

「そうだな、お前なら真空の刃で頸ごと飛ばしそうだ。

 ただ、頼むのも時間がかかりそうで、俺がやった訳だ」

「じゃ、仕方ないわね」

 そういうと、また体に戻っていった。


「大丈夫ですか?」

 アインに乗り高い位置からではあるが、騎士たちに声をかけた。

 そのまま馬から降りると、キングベアを仕舞いこむ。


 馬の残骸も除去だな。


 すると、

「手助けしていただき感謝する」

 と、隊長らしき騎士が俺に礼を言った後、

「しかし、先ほどのは?」

 と俺に聞いてきた。。

「ああ、私が……。

 ここに助けに来るまでに亡くなる人も居そうだったので、魔法で攻撃しました。

 魔物や死んだ馬については、このまま置いておいても邪魔になったり魔物を呼び寄せるだけなので撤去させてもらいました。

 必要だというのなら出します。

 とりあえず、けが人も多いようです。

 治療しますね」

 そういうと、魔法で騎士たちを治療した。

 横倒しになった馬車。

「中の方は大丈夫なのですか?」

 防衛に専念して失念していたのか急に隊長は、

「エレーナ様、ご無事でしょうか?」

 と言って馬車の扉を開ける。

 後から覗き込むと、中には執事らしきエルフの男とエルフの少女が居た。

 白磁のような白い肌に独特の細長い耳。

「どうしましょうか?」

 俺を見る隊長。

「どうしましょうと言われてもなぁ。

 とりあえず馬車から出して寝かせますか?」

 俺は収納カバンからマットレスを二枚取り出した。

 孤児院用のものを仕舞っておいたものだ。


 あまり良いものではないが、無いよりましだろう。


「貴族様に俺が触るといろいろ問題がありそうなので、あなたが二人を寝かせてください」

 と騎士の隊長に指示を出した。


 マットレスの上に寝かされるエルフの少女とエルフの執事。

 傷ついている所を魔法で治療した。

 そしてそのまま寝かせる。

 体は特に問題なさそうだ。


 そんな事をしている間に周囲が暗くなって来た。

 森に挟まれているせいで、暗くなるのが早いのだ。

 今から歩くとしても日暮れまでには間に合わない。


「野宿ですね」

「私たちは野営の道具は……」

「焚火をしておけば一応の魔物は寄ってこないでしょう」

 そして俺は軽く口笛を吹く。

 すると、オルトロス以下フォレストウルフ十頭のわんこ小隊が現れた。

 剣を構える騎士たち。

「ああ、私の従魔です。

 私の護衛をしてくれます」

 騎士たちに説明すると、

「周辺の警戒。

 倒せない敵は遠吠えで呼ぶこと」

 オルトロスとフォレストウルフたちに言った。

 皆は軽く頷く。

 そして森に消えた。

「警戒を依頼しました。

 何かあれば教えてくれるでしょう。

 あなた達もお腹が空いているでしょう?

 スープとパンぐらいは有りますので、どうぞ食べてください」

 俺は収納カバンの中からフィナのあたたかいスープとパンを提供した。

「美味い。

 何だこれは?

 こんな所で温かいパンなど……」

「ああ、私の婚約者が作った物ですね。

 私は便利な収納カバンを持っておりまして、その中に入れていたものです」

 そんな事を騎士たちと話していた。


 夜も更け、交代で監視を行う。

 俺は客人と言うことで監視には着かなくてよかった。


 一応【人助けで、野宿します】とアイナに念話しておく。

【また、たまたま?】とあきれた声が帰ってきた。


 余計なことなのかもしれないが、こっちに来てからの性分だ。

 仕方ない。


 しばらく横になっていると、

「エリー様、お目覚めに」

「私は?」

「キングベアに襲われ、馬車ごと横転させられてしてしまったのです。

 馬はキングベアに殺されてしまいました」

 倒れた馬車を見た少女は、

「それで、今は?」

「夜明けを待っております。

 明日の朝、ヒヨーナの街に向かいます。

 徒歩になるかもしれません。

 ご覚悟を」

「わかりました。

 よく寝ておかなければいけませんね。

 見たことのない馬が居ますが」

「旅の冒険者の馬でございます。

 私たちが苦戦しているところを魔法で手助けしていただきました」


 アイナぐらいかなぁ……。

 しっかりしてるなぁ……。


 そんな風に聞いていると、

 クゥ……と可愛い音。

 暗くて見えないが、顔は真っ赤なのではないだろうか。

「冒険者に言ってパンを貰いましょう。

 そうすれば少しは腹の足しになるかと」

 隊長が少女に言っていた。

「いいえ、この夜中に起こすのはやめましょう。

 あの人も疲れているかもしれません」


 気づかいしてくれている。

 そして、なんか出るタイミングを失った。


 俺は、

「ふぁー」

 などとわざとらしく起きてみた。

「ありゃ、まだ夜か……。

 おっ、起きたんだね。

 お腹は空いていないかい?」

「今、目を覚まされたのだ。

 先ほどのスープとパンを分けてもらえないだろうか?」

 隊長の依頼に

「お安い御用」

 そういうと、一人前のパンとスープを準備する。

「はいどうぞ」

 と渡す。

 すると、少女はスープをひと口すくって飲んだ。

「美味しい。

 これ、凄く美味しい」

 そして、

「家のお抱えよりも……上手。

 優しい味。

 このスープだから、パンも美味しい」

 かなり腹が減っていたのだろう、すぐに食べてしまった。


「お嬢さん、デザートも要るかね?」

 俺はフィナ製のプリンを差し出した。

「あっ、ロルフ商会のプリンです。

 嬉しい。

 滅多に手に入らない」

 少女はそう言ってひと口食べた。


 この辺でもロルフ商会のプリンは知られているのか。

 有名になったもんだねぇ。


 少女は何かに気付いたのか

「えっ、でも違う。

 こっちのほうが美味しい。

 それに商会の容器なら紋章が付いているはず。

 なんで?」

 俺に聞いてきた。

「隊長さんにも言ったが、俺の婚約者が作ったものだよ」

「でも、レシピは公開されていますが、作れる者など居ません。

 材料が手に入らないのです」

 少女は俺を見て少し考えると、

「ロルフ商会のお菓子は、ある料理人が作ったレシピで作られていると聞いています。

 その料理人はある貴族の婚約者だとも……」


 そんなことまで知られているのか……。

 ロルフさん情報ダダ漏れです。


 と感心していると、

「あなたはまさか、マットソン伯爵?

 そういえば、白いローブの下に黒い服を着ていると聞いたことがあります。

 ゼファードのダンジョンを攻略し、ドラゴンライダーでゴブリンスレイヤーのマットソン様?」

 期待に満ちた少女の目が俺に刺さる。


 こんなに簡単にバレるもの?


「はあ、そういうことだね」

「うれしい。

 そんな方に助けていただいたのですね。

 あっ、お忍びだったとか?」

 再び気を使う少女。

「まあ、とりあえず、プリン食べて寝ない?

 明日は忙しそうだ」

「わかりました」

 そういうと、少女は俺の腕を抱き、そのまま寝に入った。


 ん?腕を抱いたまま?

 静かに腕を抜こうとするがダメだ。

 マットレスの上で横になったら、何かやばい気がする。

 同衾だ何だと言われても困る。

 こりゃ地べたで寝るかねぇ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ