第166話 ドワーフ超速移住計画。
リードラにはリエクサに帰ってもらう。
入り口の長いトンネルを抜けると、魔石による照明が輝いて明るかった。
そこではガチムチのオッサンに幼子のような女性たちが歩いている。
見る人が見れば大喜びなんだろうが、俺にはどちらも気はない。
バルトール王を見つけた住人たちが、
「王様、お帰りなさい」
と頭を下げていた。
「ああ、ただいま」
軽く手を上げるバルトール王。
通りを抜け、そのまま屋敷に入る。
と言っても洞窟をくりぬいて作られた家。
王宮と言うにはいささか小さすぎる。
ただ、この屋敷を魔法も使わず鑿で作り上げたと聞いたときには驚かされた。
「父さん、お帰り。
首尾は?」
「バカ者、客人の前でいきなり成果を聞いてどうする」
「マサヨシ殿、申し訳ない。
これが愚息のラウンデルだ」
紹介されたのはバルトール王より二回りほど小さなドワーフだった。
髭がふさふさなのはドワーフの証なのだろう。
「初めまして、ラウンデルさん」
「初めまして、マサヨシ様」
「まあ、本人も居るからな。
結果を話せば、移住することになった。
しかし、この場から出て行かなくてもいいと言っている。
儂にはどういうことかはわからない」
俺のほうを見るバルトール王とラウンデルさん。
「リーフ、階層の入口出口は数カ所作ることができるんだよな?」
「ええ、可能です」
「それならば、四十二階をこの場とリエクサの郊外へ繋いでもらえるか?」
「マスター、それではこの場所に大穴が開いてしまいます。
この街のどこか広場にしたほうがよろしいかと」
リーフが言う。
家が破損する可能性があるのかもしれない。
すると、コンゴウが、
「直接鉱山に繋げばよろしいのでは?
都市で生産したものとして売り出す。
ドワーフたちの街として発展させるのはどうでしょう?
ドワーフたちは街に溶け込んではおりますが、自分の街と言うのはイェーンの街しかありません。
それも洞窟内で拡張するにも難しい」
ドラゴンの前にダンジョンマスターだった者は文官系だったのかね。
「わかった。
そんな話が出ているんですが、どうでしょうか?」
バルトール王の方を向いて言った。
「いいのか?」
驚くバルトール王。
「ええ、ただし採掘し、精錬した物は私たちのモノです。
それと汚水と排ガスの処理設備についても。
精錬の費用と加工費、人件費についてはバルトール王から我々に請求してもらえばよろしいかと。
街の拡大は計画書を出してもらい、私がやります。
そうしてもらったほうが費用はかかりませんから……。
小麦や野菜なども適正な価格で売らせてもらいます。
街にできる商店は多分ロルフ商会系の商店になると思いますが、売り惜しみなどしないように注意しますのでご安心を。
ただし、移住したのではなく、あくまでもお預けする街の横にイェーンの街と同じ区画で地下街を作ったということにしてもらいます。
よろしいでしょうか?」
「ああ、しかし、どうやるのかはわからないが」
移住の件はリーフと話をしているだけなので、バルトール王もラウンデルさんもポカンだ。
「とりあえず、どこか広い場所を」
そういうと、
「父さん、住居を広げようとしてやめたところがあったでしょ?
あそこはどうでしょう?」
「いいな、あそこは広い」
そういうと、
「付いてきてもらえるか?」
そう言ってバルトール王は先を歩き始めた。
暫く歩くと、大きなドーム状の広場。
「ココでどうだろう」
バルトール王が言う。
リーフを見ると「コクリ」と頷いた。
入り口を作ることができるようだ。
「それじゃ頼む。
ダンジョン内は迷うことが無いように一本道でな。
後、明るくしておいてくれ」
リーフは、
「マスター、畏まりました」
と言うと、輝き始めた。
すると、目の前が盛り上がり、そこに大きな洞窟の入口ができる。
「終わりました」
リーフその声で、
「じゃあ、行きましょうか」
バルトール王とラウンデルさんを連れダンジョンに入った。
蒼く輝く壁が道を照らしている。
五十メートルほど歩くと上り坂が現れ、それを上って外に出ると……そこにはせっせと働くドワーフたちが居た。
それを見て驚くバルトール王とラウンデルさん。
「これが今開発中の鉱山です。
すでに採掘精錬を開始しています」
そんな時、俺の前をフーバーが通り過ぎようとしていた。
そして、ビクリとして固まる。
「なぜ王が!」
その質問に、
「マサヨシ様がイェーンとここを繋ぐ道を作られたのだ」
バルトール王は答えた。
何故に敬語に
「フーバー、この場所はバルトール王に治めてもらう。
王の手足になって働いてもらえるか?」
俺が言うと、
「ええ、王は私の英雄です。
その下で働けるのなら……」
ローデリヒ王国側のトンネルは完全に潰し岩で覆った。
落盤と共に街が潰れたとでも思われたらいいだろう。
親戚や家族への連絡はドワーフの商人が行うそうだ。
驚いたことに、イェーンの街を出たドワーフの居場所はほぼ確認できるらしい。
ローデリヒ王国に居るドワーフたちは鉱山に集まるらしい。
「搾り取る場所がなくなってローデリヒ王国は困るだろうのう。
まあ、いい気味じゃ」
一気に五千人の人口が増えた鉱山。
技術職が多いドワーフが集まった場所はすでに街と言っていい大きさになっている。
俺はイーンの街と呼ぶことにするのだった。
街の名前は……考えるのが面倒だったからちょっと弄っただけで……。
読んでいただきありがとうございます。