第165話 なんか来た。
クラーラが、
「マサヨシ、ちょっと来てもらえない」
とオウルに居る俺を呼びに来た。
乳児園に何かあったのかね?
俺はクラーラに付いて扉を超え、リエクサの屋敷を出て、街の中に入る。
そして、バクシーさんの鍛冶屋の前にたどり着いた。
そこにはバクシーさんの体躯を大きく超える大きなドワーフが一人。
「バクシーさん。
何かあったのですか?」
「ああ、マサヨシ様。
これは私の家の都合です。
口を挟まないで頂きたい」
強い口調でバクシーが言った。
「父さん、そんなこと言っても。
領主であるマサヨシが居ないとどうにもならないでしょ?」
さて何の話かね?
「この方は?」
俺はクラーラに聞いてみた。
「私の母方のお爺様。
バルトール爺様」
「そのお爺様が何で?」
バルトールという爺さんは俺をジロリとみると、
「最近この辺で鉄や貴金属が多く生産されるようになったと聞いてな。
儂らドワーフは武器の製造や貴金属の加工を生業にしている。
そこで、移住をさせてもらえないかと交渉に来たわけだ」
「王自らとはなぜ?」
バクシーさんが聞いた。
「王?」
「バルトール・グルンデン王。
この北西にある山を統べるドワーフの王。
山の中に街を作り、そこで剣を打ち、鎧を作り、指輪に細工をする。
外で依頼があれば、そこに行き建物を立てたりする。
そうやって稼いだお金で塩と小麦を買い、生活をする。
とはいえ人を抱えられる量も少なく、私と私の妻は国を出て店を構えた。
王とは名ばかりで、この辺で言う小領主ほどの力しかないのです。
、ただ、剣や鎧などの武器に関する技術はこの世界で一番と言っていい」
「王がマットソン子爵家に交渉に来たというわけ?」
「ああ、そういうことだな」
バクシーさんが言った。
「ここの貴金属は山を越えたローデリヒ王国の物より質がいい。
そして、安い。
あいつら、安い手間賃で高く小麦を売ってくる。
肉ばかりでは子供も育たない。
もし、我々がここに移住して、貴金属の加工をしたとして、それに見合った金額の手数料を払ってくれるか?」
「その前に何人ぐらいのドワーフが移住することになるのですか?」
俺は聞いてみた。
「五千人くらいだろうか……。
多いか?」
俺を見定めるように聞いてきた。
「いいえ、技術のある方が我が領に来ることは歓迎すべきこと。
何とかしましょう」
俺は言った。
だって、ドワーフですぜ。
最高級の技術を持った技術集団であるドワーフが住んでくれるなら、こんなにうれしいことはない。
「いいのか?
すぐに引っ越しの準備をする」
「わかりました……が、引っ越しの準備は要りません。
ちなみに、山の洞窟内で暮らしていると考えればいいでしょうか?」
「そういうことになるな」
「ローデリヒ王国側の入り口は?」
「一つだ。
それを潰されたら、我々は外に出る手段がなくなる」
山に閉じ込められることになるそうだ。
唯一の出入り口である洞窟を破壊されるのも困るらしい。
「わかりました。
これからバルトール王はどのようになさるのですか?」
「そうだな、儂は歩いて来たのでな、このまま歩いて帰る」
徒歩で来たんですか……。
「そう言えば護衛は?」
「バクシーが言ったであろう?
儂など小領主程度の力しかない。
誰も殺そうなどとは思わんよ。
それに、少々の魔物ならこの力で何とかする」
そう言って大木のような腕に力こぶを作った。
「そういえばここの森では襲われることはなかったな。
何度かフォレストウルフに監視されていたみたいだったが……」
わんこ部隊が活動中らしい。
「それでは、送って差し上げましょう。
それに、どうやって移住するかも説明したいと思います」
「もう決まったのか?」
驚くバルトール王
「ええ、早い方がいいんでしょう?」
「それはな」
「今日は我が屋敷で食事をお取りください。
そして明日にはお連れしましょう」
そして、俺はバクシーさんを見ると、
「ドワーフが居るという場所は何と言うのですか?」
と聞いてみる。
「イェーンと言う」
するとマップには山を越えた向こうにイェーンの街が表示されるのだった。
王にはリエクサの屋敷に宿泊してもらい翌朝にイェーンに向かうということでゆっくりしてもらうことになった。
「酒精が弱い!」
と王は言っていたらしい。
移住してくれば、ドワーフのアルコール度数の濃い酒もまわってくるかもしれない。
ちょっと期待。
次の日の朝、俺とリーフ、コンゴウ、そしてバルトール王でドラゴン形態のリードラの所に行くと、リードラを見上げ、
「これは見事な……。
こんなドラゴンの皮を使った防具を作ってみたい」
ボソリと言うバルトール王。
そう言えば皮があったな。
俺は良いとして、クリスやアイナ、リードラにマールの防具が無い。
いや、無いわけではないが、もう少し強力なものがあっても良いと思う。
騎士団にもそれなりの物を作らないとな。
リードラの背によじ登り、
「さて、それではイェーンの街に向かいますか」
と言うと、
「よろしく頼む」
すでに高い位置に居るため、少しオドオドしているバルトール王。
俺たちは空に舞い上がり、三十分もしないうちにイェーンの街があるという洞窟の入口に立っていた。
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