第162話 水処理センター(スライム活用)。
魔導具が活用されているこの世界にもかかわらず、リエクサの街の生活排水は糞尿込みで垂れ流しである。
魔力があればきれいな水は飲み放題と言うのもあり、排水で井戸や川が汚れるというのはあまり気にしないのだろう。
垂れ流された水は一応排水溝に入るのだが、排水溝に流れる汚水は臭、伝染病などの危険性をはらんでいると思われた。
俺は排水溝を作りその上に石の蓋をする。
そして、リエクサの郊外に排水の集水地を作った。
更にはそこでスライムを放つ。
すると、汚水の中にボタボタと体長が二メートルほどの五十匹ほどのスライムが飛び込みウネウネと活動を始める。
と言っても、汚水を吸い込み膨張し再び水を吐き出すだけなんだが……
するとスライムの中にゴミや糞が取り込まれ、噴き出した水が綺麗になるのがわかる。
リーフが言うには
スライムには「排水内部にあるものを食べ水をきれいにする」という指示を与えてあるそうだ。
人は襲わないらしい。
集水地から流れ出る水は糞尿の匂いがしていたが、そのうち見た感じの汚れもなく綺麗な物に変わるのだった。
「ん、成功だね」
俺がボソリと言う。
「マスター、何でこのような事を?」
リーフが聞いてきた。
「汚れた水は体に悪いからね。
それに、街では魔石で水を出している所も多いが、貧しい村では川から直接水を汲んだり、井戸を使ったりしていると聞いた。
その水が汚れていれば、領民たちが病気になる可能性がある。
病気になった時にキュアで治してもらおうと思ったら結構な値段がかかるんだ。
だから、病気になっても治療が受けられない人もいる。
まあ、皆元気なのが一番ってことだよ」
「で、ついでにスライムの『下水処理施設』っていうものの試験運用をしてみたわけですか」
リーフはちゃんと羽根で腕を組んで言った。
「そういうことだ。
水が綺麗なのはいい事だ。
綺麗過ぎちゃ生き物が生きていけないこともあるが、せめて飲めるぐらいにはしておかないとな」
今後魔石を使った水道も必要かもな。
「マスター、スライムを使う下水処理場が運用可能と言うことがわかりました。
これで、鉱山運営ができますね」
羽を羽ばたかせながらコンゴウが言う。
「まだ、排ガスの処理の問題は有るが、とりあえずは始めるか。
大きな精錬所をいきなり作るんじゃなく、先ずは小規模でテストしてみればいいだろう。
銅鉱山を作ろうか。
ロルフ商会と相談をしながら、大きくすればいいんじゃないかな」
こうして俺は鉱山運営に乗り出す。
領内にあった岩の下に銅鉱石が採掘できる階層を一つ作ってもらった。
「私が! 私が!」とリーフとコンゴウで揉めたが、順番と言うことでゼファードのダンジョンの四十一階を銅鉱石の鉱山にする。
コンゴウのダンジョンは広すぎる部分もあった。
ロルフさんに頼み、鉱山に詳しい人を探してもらう。
「旦那、銅鉱山を見つけたんですって?」
フーバーという髭もじゃのドワーフの山師を紹介された。
「ああ、邪魔な岩を動かそうと見ていたら、そこに何か鉱石が……。
拾ってみたら、銅の色が見えたんで地面を掘ったらこんな感じだったんです」
あくまで掘ったら出てきたということにしておく。
「こりゃすげえ。
こんな高純度の鉱石を見たことが無い。
これならば、投資しても十分に元が取れる。
いい鉱山を見つけたね」
フーバーはニヤリと笑って俺に言った。
当然である。
わざと、高純度にしていたのだから……。
「ここで鉱石を掘り出すとして、試掘するとしたら鉱夫は何人でどのようにすればいい?」
「任せてくだせい。
試掘し、精錬するところまではロルフの旦那に言われてますんで。
上手くいけば『鉱山を任されるかもしれない』とも……」
任すかどうかは決めていないが、ロルフさんの紹介なら別に問題ないかと思っている。
「どうせ、俺は鉱山の経営などはできない。
だから、専門知識を持った者が経営をしてくれると助かる。
ただ、任せるかどうかは試掘し精錬してできた銅を見てから決めることにするよ」
俺は一応の試用期間を作った。
フーバーの手下たちなのだろう。
数日後には十人程のドワーフが集まり、炉を作り始める。
別の五人程のドワーフはダンジョンの中に入り銅鉱石を掘り出していた。
炉が完成し、とりあえずは薪を使った精錬が始まる。
リーフにガストを五匹ほど作ってもらって連れてきた。
中央に魔石がある雲の魔物。
「旦那。
魔物なんて連れてきてどうするんだい?」
フーバーが魔物に驚きながら俺に言った。
「ああ、これは炉から出る煙に含まれる体に悪い成分を除去するための魔物だ」
「確かに俺たち山師が鉱石を掘り精錬を始めると、周りの木が枯れたり川が濁ったりする。
俺たちが原因なのはわかるんだが、何が原因なのかわからなかったんだ。
このガストが居れば、煙害を防げるって訳か。
しかし、金属を冷却した後の水は?」
「排水を溜める溜池を作り、その中にスライムを放って中の有毒性分を吸収してもらいます」
ガストを放つと、煙突の上に群がり煙突から出る黒い煙にガストが身を晒す。
すると、ガストを通した煙は白くなった。
「おお、黒い煙が白く……」
フーバーが驚いていた。
亜硫酸ガスのような物はわからないが、目に見えて白くなった煙に俺は満足する。
二週間ほどで、銅のインゴットを持ったフーバーとロルフさんが現れる。
「旦那、こりゃいい鉱山だ。
純度のお陰で、あまり余計な物も入っていない。
俺も長い間山師をやっているが、こんないい鉱山は見たことが無い。
このまま採掘しても問題なさそうですぜ」
フーバーがにっこりと笑いながら俺に言う。
「銅の販売は?」
ロルフさんが凄い勢いで揉み手をしながら俺に近寄ってくる。
「当然ロルフさんに任せます」
向こうは委託されたかっただろうし、まあ俺もそのつもりだったしね。
「ありがとうございます。
もろもろの相談は後日で。
契約書はマサヨシ様に作っていただくことでよろしいでしょうか?」
後日、フーバーたちの給料やロルフ商会の手数料など細かい詰めをする。
こうして、領地に銅山ができるのだった。
その後、マナに洗浄水、冷却水などのための工業用水の水源を準備してもらった。
山が近かったので、地下水は豊富らしい。
スライムとガストによる水と空気の浄化の目途も立ち、デカい排水用の集水地の整備を行う。
できれば、汚れた水については浄化後に再利用する形にしたいかな
必要最小限の利用。。
炉については魔石を使った物に変更。
魔力が多い者を温度調整用に雇う。
これは薪用の森林伐採を防ぐため。
どちらにしろ、溶解時に毒性がある煙が出るのでガストは活躍する。
そして、ドワーフのフーバーを頭として、追加で鉄、銀、金、ミスリル、白金、オリハルコン ヒヒイロカネの採掘、精錬を行う鉱山を作った。
全て「たまたまあった」ということにしたけどね。
土地だけは余ってたからねぇ。
付帯して武器の製造や宝飾品の加工をする者も移住してきているようだ。
ついでにスライムとガストの魔石も売っちゃってます。
王に申請しないとなぁ。
今後楽しみだね。
あっ、俺は婚約者用にヒヒイロカネの赤い指輪を作った。
後で聞くと、意味はこの世界でも赤い糸でつながる者と結婚するということらしい。
俺、何本糸持ってるんだろ。
その販売を一手に仕切るロルフ商会も「リエクサのほうが忙しくなるから」といって王都オウルの店を支店として、リエクサの街へ本店を構えた。
ちなみにロルフさんがタロスとカミラの子供……つまり自分の孫の顔が見たいから……というのが本当の理由なのは内緒。
数年の後、この鉱山はマットソンの家に国家の予算を超える莫大な富をもたらすことになる。
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