第16話 どこにでも変な性癖はあるようです。
「やっと見つけた、お前クリスティーナだろ?」
男たちのリーダーらしき者が言う、
「そう、私はクリスティーナ。それであなたは?」
「そんなものはどうでもいい。お前の主人はどこだ?」
「ここに居るじゃない」
俺に抱き着くクリス。
あー、面倒なの来たね。
「お前は奴隷商人名義になっていたはず。なぜそのデブが主人になっているんだ?」
「そんなこと言われてもなぁ……」
俺は頭を掻きながら言った。
「とりあえず来てもらおうか」
俺たちは武器らしい武器も持っていないように見えたのだろう。まあ、実際クリスは武器を持っていなかったのだが……。
「仕方ない、一度話はしないとな」
「マサヨシがそう言うのなら」
カバンを持った冴えないデブとエルフの美女は数人の男に囲まれどこかへ連れていかれることになった。
しばらく男たちに従い歩いていると、ものすごくデッカイ館が現れる。
壁なんて五メートル?
義父さんの屋敷よりも大きかった。
そして、裏口のようなところに着くと、
「ここから入れ」
と、俺とクリスは押し込まれた。
一応、二人とも倒れてみる。
でっかい庭に、でっかい噴水。
すっげー豪邸
そのまま、館の中に入ると迷路のような中を歩き、テニスコートほどの部屋に入った。石の床が続く廊下には何かの剥製が連なっていた。
「うわっ、何だこの剥製の数。成金って趣味悪いよな」
「ちょっと引くわね」
起き上りながら悪口を言う俺とクリス。
「デンドール様の趣味だ。魔物を痛めつけ殺したものを剥製にする……」
口角を上げ笑いながら俺たちに説明した。
「まあ、どっちにしろいい趣味じゃない」
歩くにつれ人型に近い魔物が多くなる。
ラミア、アラクネ、ハーピー……。
女型の魔物ばかり。
苦悶の表情を浮かべており鎖骨の辺りに、隷属の紋章がついていた。
「クリス、お前はデンドール様って奴の最終目標みたいだな。
エルフは魔物だと思われているみたいだ」
「そう、人以外は魔物。
しかし、美しい魔物を蹂躙するのもまた楽しい。
殺しても問題ないしな」
そんな事を言いながら、俺からしてデブと言って差し支えない男が現れた。
そして金銀の宝飾品で飾られた椅子に座る。
「んー、その辺がわからんけどねぇ。クリスを魔物判定するのは無いわぁ」
俺は顔を顰めて言う。
「しかし、どんな魔物も最後には私に媚びへつらったぞ。
エルフとて同じ」
「ゲヘヘ」って感じでデンドールは笑い、クリスを見ていた
「でも、それって隷属の紋章をつけてたからだろ?
言うこと聞かなきゃいけない制約でもつけてたんじゃない?」
図星?
デンドールが少し引く。
「それは儂が金で手に入れた物。
それが悪いか?」
そして開き直る。
「俺はこの世界の金の力がどの程度なのかは知らない。
努力して得たものかもしれないけど、これは許せないなぁ」
俺は呟く。
「お前ら、家族は?」
あえて聞いてみた。
「俺たちは皆身寄りなど居ない」
「儂もだな」
男たちとデンドールの声を聞き本気で動いてみた。
四人の男の頭を殴りつけると、形が残らない。
「力加減を誤るとこうなるかぁ……気をつけないとな」
手に着いた肉片を見て呟いた。
「バケモノだって知ってるけどやり過ぎじゃない?」
クリスが呆れている。
「怒らすのが悪い……と思うんだけど」
そう言ってクリスを見た。
「で、デンドールはどうするの?」
クリスはチラリとデンドールの方を向く。
「なっ、お前ら、儂の力がこれだけだと思っているのか?お前等出て来い!」
柱の陰に隠し部屋があったのか、そこから屈強そうな男が三人出てきた。
ごっついメイスを装備している。
「人ってさあ、息できないと死ぬよね」
俺は水球を出し、男たちの鼻と口を覆った。
息ができなくなった男たちは口の周りの水を外そうともがく。
そして、何もしないまま窒息で倒れた。
「頼みの綱が居なくなったみたいだけど……」
そう言いながら俺はデンドールを見ると、
「くっ、役立たずめ……」
と言って椅子のスイッチを押すと、後ろ向きにスライドし滑って行った。
「おぉ、サ〇ダーバードっぽい……」
と、俺が呟くと、
「何わけのわからないこと言ってんのよもう……」
クリスが呆れ顔だ。
レーダーで追跡すると、地下に向かったようだ。
俺は床を殴りつける。
すると、クレーター状に床が崩れ、地下が見えた。
クリスを抱え上げ飛び降りると、丁度デンドールが降りてきたところだった。
「お前、バケモノか!」
俺を恐れるデンドール
「既にクリスにはバケモノ認定されてるからなぁ。
今更バケモノと言われても……」
鼻を掻きながら俺は言った。
すると、
「デンドール様、ついにドラゴンの隷属化に成功しました!」
ローブを着た男が現れて、デンドールに言う。
「おお、それではお前の言うことは聞くのだな!」
「はい、間違いありません」
男は胸を張ってデンドールに報告した。
「切り札は最後に取っておくもの……」
ニヤリと笑うデンドール。
「今しがたできた切り札だろ?」
「いいんだよ、俺の生き運がいいって結果だ」
「あっ、そう」
俺はあえて男が出てきた方へ歩いて行った。
そこには檻の中にドラゴンが居る。
手足の部分に杭が打ち付けられ血が流れていた。
杭に魔力を感じる。
真白だったと思われる鱗には血の跡が赤黒く残っている。
「封印し固定するための物か……酷いな」
そしてその左胸の上に隷属の紋章。
「あいつわざわざ、ドラゴンの前に行きおった」
デンドールが笑う。
「お前、その男を焼き尽くせ!」
ローブの男が命令した。
ドラゴンが息を吸った瞬間に扉を蹴破って中に入り、杭を足場に隷属の紋章へ手を添える。
そして、魔力を流し込んだ。
すると、ローブの男が持っていた紙が燃える。
赤く変わった紋章。
「ありゃ、ドラゴンが気絶したかな?」
ピクリとも動かない。
ただ鼓動は感じる。
俺は杭を抜き治療魔法で治しておいた。
「杭は仕舞ってと……。
にしても、このドラゴンきったねぇなあ」
俺は洗車機をイメージし、水をかけて洗い乾燥する。
「ん、これでヨシ。
聞こえないかもしれないけど、お前に制約はない」
動かないドラゴンに言っておいた。
これでドラゴンの制約もなくなる。
「お前、それ……置いて行くのか?」
デンドールが指差した。
「これ、あんたのだろ?
さて、スッキリしたから帰るよ。
クリスに何かあったらあんたの手下のように殺すから。
何の傷もなく突然死のように殺すのなんて結構簡単なんだよ?」
すると、「ヒイ」といってデンドールは駆けて行った。
残されたローブの男。
「お前、魔法書士って奴か?」
「えっ、ええ……」
ローブの男は怯えながら答えた。
「やり方は?」
「この契約台に手を置いて、『奴隷になれ』と魔力を流し込むだけです。奴隷になる事を否定する者ほど魔法書士側の魔力が必要になります」
「つまり、あのドラゴンを弱らせ、何とか隷属化した訳か……」
「そうなります。
で、この紙でその契約を定着させれば隷属化は完了です」
説明が終わった。
「ん」
俺は手を出す。
「え?」
ローブの男はわからない。
「ん、紙」
「あっ、ええ、どうぞ」
三十枚ほどが束になった紙を俺に渡す。
普通の紙じゃないな……皮羊紙か。
それを収納カバンに仕舞った。
「契約台!」
俺が再び言うと、
「はいい!」
ローブの男は走り出し契約台を拾ってきた。
犬みたいだな。
これも収納カバンに仕舞う。
「君は、どの程度関与してるんだい?」
「えーっと、このドラゴンだけです。それまでの魔法書士はドラゴンに食い殺されたそうです……」
「自業自得か……」
「じゃ!」
「えっ?」
「見逃してやるから」
「あっ、ええ」
ローブの男は一目散に去っていった。
「もう、クリスは襲われないと思う」
「ありがとね」
クリスが抱き着いてきた。
んー、いい体してんだよなぁ……。
「でも、何か悪事の証拠が欲しいので……」
「きゃっ」
俺はクリスを抱き上げ再び一階に戻った。
「デンドールが外に出されて困るもの」をレーダー表示させると、この部屋の右手に表示があった。
隠し扉の本棚を引き抜く。
すると、机と宝箱があった。
中を漁ると手紙の類が。
宝箱には金品?
全てを収納カバンに入れる。
「これってただの泥棒じゃない?」
ヤレヤレと言う感じでクリスが言った。
「迷惑手当ってことで……このままメルヌの街に帰る」
「ドラゴンは?」
「んー、自分の巣に帰るんじゃない?」
「適当なこと言って……。
まあ、いいわ、ここに居てもいいことは無いでしょ。
さっさとメルヌの町に帰りましょう」
そう言うと、俺たち二人は義父さんの館に戻るのだった。
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