第158話 そして……。
ランヴァルド王やウルフ、ゲオルグから何度か依頼を受け、解決すると俺のレンタル期間は終わったようだ。
オセーレの仮住まいは結局、オセーレの俺の屋敷になった。
好きに使っていいと言う事。
これ以上屋敷があってもなぁ……。
何かあったら使わせてもらう程度だろうな……。
レンタル期間が終わりオウルに戻ると、マティアス王に謁見し、報告をした。
その時にランヴァルド王の手紙を渡したわけだが、マティアス王は封を切り中身を確認すると、苦虫をかみつぶしたような顔。
王は、
「ん……ああ、仕方ないな」
渋々ながら自分を納得させる言い回し。
そのあと、
「今後、レーヴェンヒェルム王国に何かあった場合もしっかり手伝うように。
当然、オースプリング王国に何かあった場合もだぞ」
と俺に言った。
「両方でしょうか?」
「両方だ。
できれば、オースプリング王国のほうを優先して欲しい。
わかるよな?」
俺をじっと見て王が言う。
何を「わかれ」と言うのか……。
「お前は義父がオースプリング王国の子爵だったのだから、この国を優先するのが当然」
だと言いたいのか、それとも、
「アイナはオースプリング王国の王女である。
その婚約者は当然オースプリング王国を優先するのが当然」
言いたいのか……。
条件としては一緒なんだよなぁ……。
ん?
こりゃ、板挟みって奴じゃないかい?
仕方ないので、
「善処します」
という言葉で誤魔化した。
まあ、臨機応変という奴で……。
そして半年が経つ。
広大なマットソン伯爵の土地に居た魔物は、ケルたちのお陰でほぼ討伐された。
赤いスカーフをしたケルの群れは領民たちの誇りになっている。
税率の低い俺の領地には畑を求めて人が集まってきた。
開墾の奨励をしたからだ。
農家の次男三男だけではなく、税率の高い領地から土地を捨ててうちの土地に来る者も居る。
その点では他の貴族から文句が来ているそうだ。
そこは自業自得だと思う。
マナに手伝ってもらって木を抜いた荒れ地を整地し、安く売って耕してもらう。
伯爵としてフォレストカウとプラウを貸し出し、畑を耕す効率を上げる。
そして、順調に耕作地が広がっていった。
広げた木材は家の材料になる。
俺は木を乾燥させ、木材に適したものにしていた。
いろんなところで大工が家を作り人口が増えていった。
メルヌではフォレストカウの糞やコカトリスの糞を畑の肥料として使うと、育ちがいいらしい。
こぞって糞を取りに来る領民たち。
コカトリスとフォレストカウには、同じところで糞をするように依頼してある。
個体数の増加で、結構な量である。
リードラ曰く、
「フォレストカウやコカトリスの糞には魔力がふんだんに入っているからだろう」
とのこと。
まあ、生産量が増えるのは良い事です。
三日月島では塩田を作り、塩の製造を始めた。
マナに手伝ってもらいわざと浅く黒いプールを六面作り、南の島の太陽光でプールに張った濃い海水を蒸発させる。
既にかなり濃い海水のため、時間をかけると塩が析出してくる。
それを集めてさらに水気を切ると塩の出来上がり。
アランは村長の補佐をして村のリーダーのような立場かな。
塩の生産の指示を出していた。
俺が居なくても作れるから、いい感じだね。。
サトウキビも大きく育ち、フォレストカウを動力に使った搾り機を作成、絞り作業を行う。
できた搾り汁を一度濾し煮詰める。煮詰める際には木灰を使った灰汁を入れる。
ねっとりとした、黒糖が出来上がると冷却。
ひと口大にして袋に入れる。
健康にいい甘いお菓子としてオウルでも流行るようになった。
米もできた。
年が明けたら、何を作ろうか。
単位当たりの生産量は小麦よりも多いので、島民も喜び、コメの炊き方を教えて三日月島の主食になっていた。
周囲では魚も獲れるようで、食卓は賑やからしい。
そして、レーヴェンヒェルム王国側の俺の街、フラン。
小さな町ではあるが、そこには俺用の代官と騎士団が常駐する。
街道も繋いだので、一応領地っぽくはなった。
領地加増ってことでいいのかね。
気になるのが代官と騎士団の騎士に女性が多いという事。
ノーラ・ノルデンと言う女性が代官なのだが、変に誘ってくるのが気になる。
「無理にオウルにお帰りにならなくても、こちらにもベッドは有りますわよ」
と言って、上を脱ごうとするのだ。
俺は早々に逃げ去るのだが……。
更には騎士団の女性陣を俺が見に行くとソワソワしていた。
ある日、
「イングリッド、レーヴェンヒェルム王国に女騎士は多いのか?」
と聞いてみた。
「いいえ、そんなに多くは無いかと……」
「しかし、フランに来たノーラ・ノルデンという代官も女性だし、騎士団のメンバーも女性陣が多いんだが……」
「ノーラを代官に……。
実務能力は高いですね。
お父様はマサヨシ様に人間の婚約者が多い事を気にしているのでしょうか?
一度、お話をしなければいけませんね」
それからは女騎士たちは少し静かになったが、ノーラ・ノルデンの誘惑は続いた。
「魔族と人間が交わっても魔族側に似ます。
お気になさらず」
とのこと……。
何をお気になさらずなのだろうか……。
気にしてしまう。
ああ、タロスとカミラは結婚した。
結婚式では、皆の視線が厳しかったのを覚えている。
現在、マットソン伯爵の騎士団長をしている。
そして、カミラはリエクサのロルフ商会支店で店長として働いていた。
商会の支店が出来たことで、流通が活発になっている。
ロルフさんに依頼され、オウルとリエクサのロルフ商会を繋ぐ扉を作った。
まあ、少しづつではあるが成果は出ている。
俺はといえば俺の部屋の外で待っていた。
俺の隣に赤子を抱いた義父さんが居る。
カールと名付けられた義母さんとの子である。
グスマン伯爵家の後継ぎ息子だ。
そして、ソワソワする俺。
「お前もあの時の儂と同じだな」
一度出産を経験した義父さんが言った。
「仕方ありませんよ。
今度は俺が当事者ですから」
こういう時は待つしかないというのは知っている。
それでも、早く産声が上がり「母子ともに元気です」という言葉を聞きたいだけ。
何時間か前クリスの陣痛が始まった。
そしてしばらくするとカリーネにも……。
「義父さん、クリスさんと母さん大丈夫かな?」
「アイナが付いているんだ、大丈夫」
そう思うしかない。
この世界では男は出産に立ち会わない。
女の世界のことらしい。
女性陣はもれなく俺の部屋の中に入り、手伝いをする。
マナにも、アイナのフォローをするように頼んでいた。
まあ、結局どこの世界でも男はウロウロするしかないようなのだが……。
「やはり落ち着かぬかな」
と、義父さん。
「仕方ないですね?
ドンと座って待つようなタイプではないですから。
しかし義父さんがそんなに子煩悩だったとは」
「できたらできたで可愛いものだ。
プリシラは仕事があるから、儂が世話をしておる。
乳母をつけるのが通例だが、儂が子守係だ。
乳もプリシラがやっておるしな。
普通の貴族ではやらないだろう」
「すでにわれわれは普通の貴族ではないでしょう?
それにそのうち、我が家にも乳が出る者が増えます。
そうすれば、乳を分けるぐらいはできますよ。
今よりは義母さんの執務は捗るかと……」
「そうだな……」
役に立たないたわいもない話を男同士でしていると、オギャー!と言う泣き声が聞こえる。。
それも二つ。
「終わったようだな」
と、義父さん。
「ええ……」
俺は頷く。
すると、
「マサヨシ!
クリスが男の子で、カリーネが女の子。
もうちょっと待って、今産湯を使っているから」
すぐに教えたかったのだろうアイナが飛び出してきた。
顏には疲れが見える。
まあ、義母さんの時に比べればマシか。
あの時アイナはカールが生まれたあとに気を失ったからなぁ。
「準備が出来た」と声がかかると、俺は扉を開け中に入った。
俺のベッドで二人が横たわっていた。
汗で顔に髪が纏わりつき、出産の辛さを物語っていた。
その横には白い布に包まれた赤子。
クリスとカリーネは体を赤子のほうに向け乳をを与えていた。
やっぱり生まれたばかりは皺くちゃだね。
真っ赤な顔の赤子。
しかし目立つのは少し尖った耳と狐の耳。
俺の子……。
「お疲れさん」
クリスとカリーネに近寄りキスをする。
「あー、大変だったー!
出産ってこんなにしんどかったのね」
クリスが目線を上にあげ、俺に言った。
言葉遣いに王女の風格など無いな。
まあいいけど。
「人によっては一日超えるって聞いたことがあるからね。
クリスは安産だよ」
「そうなの?」
「そうみたいだね。
俺は体験したことが無い」
「そりゃそうか
男だもんね」
「そういうことだ」
クスリとクリスが笑った。
「私も久々。
前よりは楽だったみたい。
初産じゃなかったからかもね」
それでも疲れきった顔のカリーネ。
エリスは、
「あっ、掴んだ。
力強ーい!」
赤子に差し出した人差し指を掴まれ、その力強さに驚いていた。
暫く話を続けていると、
アイナが近寄ってくる。
俺は、
「ありがとな。
疲れただろ」
と頭を撫でた。
「ん、大丈夫。
腹は違っても我が子だから頑張れる」
「旦那様……いいですね……赤ちゃん」
「旦那様……欲しいです。
お父様も『そろそろか?』と聞いてきます。
年齢の割に孫が居ないのを気にしているようです。
お兄様もまだ結婚しておりませんし……」
中で手伝っていたマールとラウラが俺をチラチラ見ていた。
「それは我もだぞ?」
リードラが現れる。
「アタイだって」
クラーラも現れた。
「それを言うなら私もです」
イングリッドまで……。
やることはやってる。
タイミングなんだろうなぁ。
ちゃんと、周期測ってみるか……。
種族によっても違うかもしれないしな。
排卵日って月経周期の真ん中ぐらいだよな確か……。
「私も欲しい」
「私もです」
アイナとフィナが乗っかる。
「あなた達はまだです」
定番の突っ込みが入るのだった。
フィナが一度俺の部屋から出ると、おかゆを持ってやってきた。
三日月島の米をオウルの屋敷では使っている。
腹持ちが良いと好評だが、疲れた二人には消化がいいおかゆ。
中身は卵とダンジョンの四十階で手に入れたサイクロプスのボスの肉。
この世界では、魔力が多い魔物の肉を食べさせるそうな。
「マットソン伯爵家の後継ぎか……。
まあ、そう言うのは関係なしで、元気に育ってもらえればいい
そう思うよ」
「そうですね、義父さん」
二人で赤子を眺めていた。
クリスの子をアレックス、カリーネの子をシーラと名付けた。
こうしてオウルの屋敷に赤子の声が響くようになったのだった
読んでいただきありがとうございます。