第157話 囲い込み。
久々のコーヒーを堪能していると、
「旦那様、王城から呼び出しが」
そう言ってマールがやってきた。
俺は王城に上がる。
謁見の広間に通されると、ランヴァルド王とゲオルグが立っていた。
「呼び出しにより参上しました」
「大儀である。
早速話なのだが……。
お前は稀有の魔法使いと聞く。
そして、農業に詳しいとも……」
俺、そんなこと言ったっけ?
チラリとイングリッドを見ると目を逸らした。
ああ、情報元はここなのね。
「詳しいというほどではないですが、ほどほどには知っているかもしれません」
俺は答えた。
「では、地図を見てもらいたい」
俺はランヴァルド王が広げた地図に近寄ると、
「このラフテルの街周辺の荒れ地を開拓し、畑にしたいのだ。
我がレーヴェンヒェルム王国には荒れ地は有っても、水が無く畑は少ない。
麦などはオースプリング王国などから買っている始末。
できれば自給率をあげたい。
マサヨシ、できるか?」
と聞いてきた。
ちょっと行ってみないとわからないな。
「先ずは現場に行ってみないとわかりませんね」
そうか、
「この計画の担当者がゲオルグになる。
何かあればゲオルグに相談してくれ」
ランヴァルド王はそう言うと下がっていった。
「迷惑をかけるね、マサヨシ」
「お気になさらず。
こういうことのために貸し出されたのでしょうから……」
苦笑いでゲオルグに返す。
そして、
「そうですねぇ、荒れ地のままで放置されている理由は何でしょう?」
と聞いてみた。
「レーヴェンヒェルム王国はオセーレから北は山脈のお陰で雨も地下水も多く、農業が盛んなんだ。
逆に南は圧倒的に水も地下水も少なく、全体的に砂漠になっていないにしろ荒れ地が多い。
生活する分で精いっぱい、畑に水を撒くなどは難しい」
「要は水さえあれば作物は育てられる訳か」
まあ、肥料なども必要だろうが……。
結構な量の水はどこに消えている?
五日後、俺はリードラとラフテルの街に居た。
サバンナのような荒れ果てた土地を覗く俺。
乾いた土が風に吹かれて舞い上がる。
ラフテルは北部の国からオセーレに向かう商人や小隊の宿場町として栄えていた。
井戸を見せてもらったが、井戸は深いにもかかわらず水は少なそうだ。
「カラカラじゃのう」
細かい砂が入ったのか、リードラは目を擦る。
「マナ、井戸の水が少ないのは何でだ?」
マナがすっと出てくると、
「凄い量の地下水が流れているわよ?
でもね、その大量の地下水が地上に出てこないのは当たり前。
岩盤の下に地下水が流れているんだから
岩盤の上に流れる地下水はこの辺で降った雨が溜まった物
元々雨が少ない地方なんでしょ?。
だから、井戸を掘っても岩盤の上じゃ地下水が少ないの」
「つまり岩盤を何とかすればいい訳か……」
「主よ、岩盤を抜けば水は出る。
多分、相当な量が出ると思うわよ」
とマナが教えてくれた。
「我がぶち割ろうか?」
力が強くなったせいか、力で何とかしようとするリードラ。
ふむ、一度溜めて、大量の水を川に流すってところだろうか。
丁度デカいクレーターのようなくぼ地がある。
そこを溜池にして水を溜めて、そこから下流に流して水を分配する。
用水を取るような堰を作っておけば大丈夫だろう。
溜池からあふれた水は近くにある川に流すってとこかな?。
俺とリードラは王城でゲオルグに会っていた。
「えっ、水が出る?
それは本当ですか?」
「今あの街の周辺で井戸を掘っても水が少ないのはオウルの北の山脈から流れた地下水は岩盤の下に流れているためです。
今、岩盤の上に流れる地下水は、街の周辺で降った雨が地下に染み込んだもの。
元々の量が少ないため、井戸を掘っても出る量が少ない」
そう俺が説明すると、
「しかし、私たちはそんなに深く井戸は掘る技術を持っていません」
ゲオルグがガッカリする。
「私が岩盤の下まで井戸を掘り、湧きだした水で溜池を作る。
そこから水を分配すれば周囲を開墾できるのではないでしょうか?」
「できるのですか!?」
ゲオルグは俺に近づきがっしりと両肩を持ち揺さぶる
「はい、可能です。
でも、少し落ち着いてください」
「あっ、はい」
ゲオルグの手が離れる。
「それでは、早速やってもらえますか?」
ゲオルグが急かすが、
「とりあえず、地図を見てどこを畑にするか決めましょう。
そして、区画を決めどこに農業用水を通すかを考える」
「あっ、そうですね」
「二人で決めていいので?
部下とかは?」
「あっ、呼んできます」
こうして、ゲオルグ以下担当者と共に、高低差などを考え、用水路を通す場所や畑にする場所を決める。
あふれた水を流す水路も作った。
まあ、俺……というかマナがほとんどをやってくれたのだが。
一か月後……。
ゲオルグと共に扉でラフテルの街に来ていた。
広大な土地をフォレストカウに繋いだプラウが行き来している。
肥料としてコカトリスとフォレストカウの糞を混ぜ発酵させたものを鋤き込んでいる。
「凄いですね、プラウと言う農機具は、これがあれば仕事が捗る。
民たちの仕事が楽になる。
飼葉は手に入りますから飼育は可能だ」
まあ、動力がフォレストカウとはいえトラクターみたいなもんだからなぁ。
フォレストカウの講習はうちの三日月島で数日行った。
「あとこのフォレストカウの糞は肥料になります。
作物を入れ替える前に鋤き込むといいかもしれませんね。
現状では値が張ります。
ですから、国からの貸し出しと言うことで、貸出料を取るという形にしたほうがいいでしょう」
「このように慣れたフォレストカウを見たことが無いのですが」
「ああ、うちのフォレストカウは隷属しているので、基本言うことを聞きますから。
危害を加えるような者には反抗しても良い事にしています。
ですから、普通に扱う分には問題ありません」
「フォレストカウとプラウを用いれば、もっと畑を増やせると思うのですが……」
「必要であればご連絡いただければ準備しますよ。
とりあえず私の仕事はここまでです。
後は、ゲオルグ様以下の部下でお願いします」
「こんなに早期に出来上がるとは思いませんでした。
マサヨシはこの国に住まないのですか?
お父様に言えば、爵位ぐらいは準備してもらえると思うけども」
ゲオルグがさそうが、
「私にはすでに領地があります。
まずはそちらですね」
と、断った。
「残念だね。
手伝ってもらったお礼だ。
何か願いはないかい?
私にできることになるけれど」
「ああ、確か私の領地にあるリエクサの街からユアンの街が近いのですが、街道を作りたいと思っています。
できれば、作る際の口添えをしてもらえると……」
「それはいい。
早速、君の扉で」
気が早いな。
と言うか口調が変わった。
「どこに繋げば?」
俺はゲオルグに聞いた。
「王の間はわかるかい?」
「謁見の間までしか入ったことがありません」
「じゃあ、謁見の間まで」
「いいので?」
「いいのいいの」
軽いな。
俺は扉で謁見の間に繋いだ。
扉を開けると……誰も居ない。
到着したとたん、俺の手を引っ張りどこかに連れて行く。
そして豪華で大きな扉の前にたどり着いた。
「ゲオルグ様!」
扉の前に居た騎士が声をかける。
「お父様居るんでしょ?」
「おられますが執務中です」
「じゃあ、大丈夫だね!」
「入るよー!」
ゲオルグがいきなり扉を開け、中に入った。
「ノックぐらいしろ!」
ランヴァルド王が注意するが、いつものことなのか諦め顔だ。
そしてゲオルグは、
「お父様、マサヨシが領土であるリエクサと我が国のユアンとの街道を作りたいと言っていますが、承認してもらえないでしょうか?
結局爵位は断られましたけどね」
いきなり本題を持ちかける。
ん? 爵位?
ランヴァルド王は少し考えると、
「いや、まだ大丈夫だ。
丁度、ユアンの街の領主は居ない。
代官を出しているのだ。
丁度良いではないか、騎士爵あたりにして統治してもらえばよい」
「お父様、騎士爵ではあの土地は大きすぎます。
それに、マサヨシは向こうでは伯爵です」
「それでは伯爵でいいな」
「はい、伯爵で」
「伯爵?」
トントンと何かが決まる感じ。
唖然とする俺。
「お前は今日からレーヴェンヒェルム王国の伯爵だ。
何かあった時は頼む。
あっ、これはマティアスに渡しておいてくれ」
「お父様、話は終わりです」
「わかった」
「それじゃ、お邪魔しましたー」
俺はゲオルグ引きずられ、執務室を出るのだった。
「良かったねぇ、君は伯爵だ。
頑張れば侯爵ぐらいにはなれるんじゃないかなぁ。
多分こっちで侯爵になったら向こうでも侯爵になるだろうね」
「爵位を二個?」
「そうだねぇ。
まあ、これで遠慮せずに街道を作れるね。
良かった良かった。
レーヴェンヒェルム王国もマサヨシの領地も潤うんだからいいじゃない。
あっ、騎士は魔族のほうからまわすから準備しなくてもいいよ」
ゲオルグがにっこりと笑った。
「決定でしたね」
「ああ決まってた。
『爵位は要らない』って言われた時どうしようかと思ったよ。
で『街道を作りたい』と言ったからこれは使えると思ってね。
君の能力は使える。
オースプリングだけに独占させたくない。
だから、爵位で縛りつける。
君が有能だって証拠だよ。
それとね、私たちもオセーレからオウルへの扉が欲しいなぁ。
できれば、君の家がいいかな?
お母様が君が持ってきたお菓子にご執心でね。
お茶の時間にぜひ参加したいとか……。
ミスラには作ったよねぇ」
よくご存じで……。
「畏まりました」
「よろしい!」
ゲオルグが目を細めて笑うのだった。
言われるがままオウルの屋敷と王妃の部屋を繋ぐ扉を作った。
使えるのはなぜか王妃とイングリッドだけ。
「こうしておけば君もいろいろ考えなくてもいいだろ?」
女性だけが使う扉、本当に「菓子が食べたい」だけ、他意がないと言いたいのだろう。
数日後、オウルの屋敷に突然お茶の時間にイングリッドを連れて現れるマリエッタ王妃。
義父さんをはじめとした皆が驚いていた。
「あっ、言ってなかった」
と俺が言うと、
「「そういうのは先に言っておいて欲しい!」」
と義父さんとフィナに怒られる俺が居た。
読んでいただきありがとうございます。