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第156話 さて、頼まれた事だからね。

「たまにはひとりで散歩」

 と皆に言って、オセーレの外に出る。

 本当はミスラに頼まれたことを実行するため。

 つまりオウルからの潜入員との接触である。


 レーダーにオースプリング王国の潜入員が居る場所を表示させ、そこにブラブラと歩いて行った。


 さすが王都だな。

 人が行き来する。

 リエクサとは比にならないや。

 まあ、比較にするのも申し訳ない感じだ。


 目的地に向け路地裏に入ると、


 ん?

 何か懐かしい匂い。

 この匂いは……。


 匂いにつられ、その匂いの下へと向かう俺が居た。


 コップに黒い液体を入れた爺さん。

 思いっきりマグカップの匂いを嗅ぎ、香りを堪能した後、一口含む様子が見える。

 それを俺はじっと見ていた。


 おっと、この近くだった。


 ふと見ると、布に粉を入れ、湯を注いで黒い液体を抽出している魔族が居る店。

 そこが目指す場所だった。

 俺を見た魔族が、

「要るかい?」

 と聞いてくる。

 俺は、

「一つ貰おう」

 と銀貨を一枚出した。

 オースプリング王朝の銀貨である。

「お客さん。

 銀貨一枚は、このカフエイには高すぎるよ。

 これは銅貨三枚だ」

 裏路地の小さな店。

 そのくらいが妥当なのかもしれない。

「そうかい?

 じゃあ、これで」

 俺は王の印章を見せた。

 俺の顔を見て驚く魔族。

 印章の意味を知っているようだ。


「ちょっと俺には荷が重いので、ちょっと、店長を呼んできます。

 その間これを飲んでいてもらえますか?」

 そう言って、液体の入ったカップを出し、奥に下がった。


 思いっきり言葉遣いが変わっている。

 王の印章がそれだけ重い物ってことなんだろう。


 俺は液体の匂いを嗅ぐと、久々の香りを嗅ぐ。

 口に含むと懐かしい苦み。

「ん、美味い」

 とはいえ久々。

 どんなものでも美味く感じるかもしれない。

 俺は牛乳と蜂蜜を入れてみる。


 苦みが抑えられて、蜂蜜の甘味がいいねぇ。

 しかし、俺には少し甘いな。


「おい、お前何者だ。

 こいつから王の印章のことを聞いたんだが……」

 奥から痩せた人間の男が出てきた。

 しかし、体はがっしりともしている。


 細マッチョ?


「ああ、ミスラに頼まれて扉を作りに来た」

「ミスラ様?

 扉?」

「まあ、実物を見てもらえばわかる」

 俺は収納カバンに入れておいた扉を使い、この場所と騎士団詰所に繋ぐ扉を作る。

 到着地点はヘルゲ様の部屋ってことで……。


 扉が自立したので、ノックする。

 既にミスラから聞いていたのか「入れ」と言うヘルゲ様の声が聞こえた。

 扉を開けるとヘルゲ様が机で書類を見ている。

「これがオセーレへの扉か……」

「ヘッヘルゲ様!」

 恐縮する男。

「落ち着け。

 王がマサヨシに依頼した物だ」

 ヘルゲ様は、外にいる騎士を呼び、

「ミスラを呼んで来い」

 と指示を出した。

 暫くするとミスラが現れ、

「おっ、約束通りか」

 ニヤリと笑うミスラ。

「頼まれましたからね。

 とりあえず、使用者登録するのは、ミスラ、ヘルゲ様、この店長でいいですか?」

「ああ、それで頼む。

 オセーレ付きの騎士になった者は登録してもらわなければならなくなるが大丈夫か?」

「ええ、問題ありません。

 逆に破棄することも可能です。

 赴任が終わって、扉を使う必要がなくなった時には教えてください。

 登録を破棄します」

「わかった」


 こうして、オウルとオセーレを繋ぐ扉が出来た。

 暗殺とか変なことに使わないでね。



 オセーレに戻ると、店長の男の肩をがっしりと掴む。

 そして、

「このカフエイは豆を煎ってすりつぶして作ってるのでいいのかな?」

 と聞いた。

「よくご存じですね。

 人間がこのカフエイの事を知っているのは珍しい。

 この豆は、オセーレの北部にある山脈のふもとで栽培されています」


 おっと、コーヒーって温かい所のイメージがあったが、この世界では暖かさは必要じゃない?

 ならば、自分が飲む分だけでもリエクサ周辺で栽培してもいいな。


「量が少ないので、ほぼ魔族側で消費され、オースプリングのほうには入っていないのではないでしょうか」

「煎る前の豆は手に入る?」

「オセーレであれば市場に行けばあります。

 煎っている物もあります。

 私の店では自分たちで煎っていますが……」


 煎るのはマナに任せるか。


「栽培している木は?

 苗でもいいし、木そのものでもいい」

「直接ふもとにある村に行ってみては?

 苗や成木があるはずです」


 一度行ってみるのも有りか……。


「わかった。

 行ってみるよ」


 さて、そろそろ帰るかね。


「あのー、今更なのですが、あなたは?」

「ああ、マサヨシ・マットソン伯爵。

 ミスラの妹の婚約者だ。

 何かあったら頼る時があるかもしれない。

 その時はよろしく頼む」

 俺がそう言うと、

「わかりました。

 店員は一人でそこに居る魔族だけです。

 声をかけていただければすぐに繋がるでしょう」

 店長は言った。


 コーヒーがあるとはね。

 これで牛乳に加え菓子に合う飲み物が一つ。

 朝食にも合う。


 俺は市場でカフエイの豆を探し、オセーレの屋敷に買って帰るのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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