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第152話 代替わり。

 オセーレで与えられた屋敷に滞在はしていたが、特に「何かしてくれ」と言われず手持無沙汰だったある朝、オセーレ側にセバスさんが現れる。

「クラウス様が執務室に来て欲しいと……」

「わかりました、すぐに向かいます」


「マサヨシ、来たか」

 机の前に立つ、義父さん。

「義父さん何でしょう?」

「ああ、話があってな……。

 王城からこれが届いた」

 義父さんは王の封蝋がされた手紙を机の上に投げる。

 既に封蝋は破られていた。


 …………以後、マットソン子爵家の当主はマサヨシとする。


 と書かれていた。

「そういうことですか」

 俺は義父さんを見る。

「ああ、そういうことだ。

 お前がこの家の当主だ。

 元々沈むしかなかった家。

 お前の好きにすればいい。

 後は任せた」

 父さんが蝋印に使っていた指輪を外すと俺に渡してきたので、

「わかりました」

 と言って俺はその指輪を手に取ると父さんと同じく、右手の薬指に入れた。


 更に、

「マサヨシ様、フリーデン侯爵家の者からこれが」

 とフリーデン侯爵家の蝋印がされた手紙をセバスさんが持ってきた。

「なんだ?」

 義父さんが聞いてくる。

「ちょっと待ってください」

 内容を見ると、


 まあ……あれだよな。

 …………ポルテ家領地はマットソン子爵の物となった。


 封筒の中にはそう書いた契約書のような物もある。

「ということだそうです」

「ふむ、予定通りか……」

「ええ」


 まあ「俺が当主になるまでに」って言っていたからな……。

 その辺の情報を仕入れて、さっさと手続きをしたのだろう。


 そして一週間ほどで、イングリッド殿下の身を守った事への功労として、俺は陞爵とボルタオ周辺の領土の統治が決まり、伯爵になった。


 体のいい押し付け。

 何となく忙しくなるだけのような気がする。



 ある日、俺はオセーレの部屋で考えていた。


 俺が統治せねばならない町は、我がメルヌの街周辺、そして旧ブラーム・ブルーキンク伯爵ボルタオの街、旧ポルテ伯爵領のリエクサ。

 メルヌの街とリエクサの街は道で繋がってはいるが、ボルタオの街とは繋がっていない。

 メルヌとリエクサはオセーレからパルティーモへの街道に、ボルタオはパルティーモからオセーレへと続く街道にあるからだ。

 ああ、リエクサから先は繋がっていない。

 それはボルタオの街とリエクサの街の間には鬱蒼とした森林地帯が広がり、人が入ることを拒んでいるんだよねぇ。

 そのせいで、リエクサは終点になっている訳ね。

 だったら先ずはボルタオとリエクサの街を繋ぐ道が必要か……。

 パルティーモを経由するとどうしても遠回りになってしまう。

 できるだけ起伏の無い直線の道があるといいだろうな。


挿絵(By みてみん)


 まずは現場確認である。

 今回俺はリードラに乗ってリエクサに向かった。

 高空から見るポルテ伯爵領。

 森が海のように広がり、島のようにポツリポツリと小さな村が見える。

 その中央付近にある大きな島がリエクサのようだった。

 そこに続く小さな細い道。

 これがメルヌの街からの道。



 俺が当主になってから、義父さんは義母さんのところへ行っている。

 代りにクロエが戻ってきていた。

 もれなくテロフも付いてくる。

 リエクサの近くの森に降り、大きな扉を出してオウルの屋敷に居るクロエとテロフを呼び戦馬に乗り換えてリエクサの街へ向かった。


 リエクサの入口に着くとクロエが門番に、

「クロエです

 新しき領主、マサヨシ様を連れてこの街に戻ってきました」

 と言う。

「クロエ様お帰りなさいませ」

 門番は頭を下げ、門を開ける。

 俺たちは旧ポルテ家の屋敷へ向かった。


 煌びやかな屋敷が目の前に広がる。

「凄いな。

 メルヌの屋敷がみすぼらしく見える」

 俺が言うと、

「その結果、借金に塗れ、領地まで失う……恥ずかしい話です」

 そう言って睨み付けるように屋敷を見ながら馬を降りるクロエ。

 俺たちもそれに続いた。

 馬丁に預ける。


 玄関から中に入ると、ドンと正面に肖像画。

「父と母の肖像画です」

 恥ずかし気にクロエが言う。

 ロビーの上には豪華なシャンデリアのような物。

 建物の壁は白く塗られ、縁は金に塗られていた。

 豪華な絨毯、過剰な装飾が見える。


「私はこの家が苦手です……」

 眉間にしわを寄せるクロエ。

「こんなことしてちゃあ、借金まみれにもなるよな」

 事情を知っているのかテロフも言った。

「確か……代官が居たはずなんだが……」

「執務室だと思います。

 こちらへ……」

 クロエ付いて執務室へ向かう。


 執務室の大きな扉をノックすると、

「どなたでしょう?」

 と落ち着いた声が響いた。

「マサヨシ・マットソン伯爵です」

「これは、領主様」

 バタバタと音がすると、ギイと扉が開いて頭がボサボサの男が現れる。


 年齢で三十前後だろうか。


 扉を開けて中を見ると、様々な書類が山積みになっていた。

「私はルカスと申します。

 マティアス王の依頼で、あなたの下で働くことになりました」

「王が?」

「ああ、ちょっと待ってください。

 えーっと、ああ、どこだったかなぁ……うわっ」

 書類の山の一つが崩れた。

「くそっ。

 えーっと、あっあった。

 これこれ」

 書類の山から探し出された王の蝋印がされた手紙。


 マティアス王の手紙がこんなに適当に扱われているとは……。


 封を切ると、


 …………戦える配下は居ても、政治で使える配下は少ないだろう?

 リエクサにもボルタオにも回しておいた。

 好きなように使うがいい。


 と、書いてある。


 ありがたい。


 読み終わってルカスを見ると、

「前領主が放置していた案件が山積みで、大変なんです」

 その言葉を聞いたクロエが申し訳なさそうな顔をしていた。


「急ぎでやらなければならないことは?」

 俺が聞くと、

「森が多いせいで、魔物が村を襲います。

 その対応でしょうか。

 林業が盛んなので、魔物が多いのは死活問題です。

 死人が出ることもあり、恐れを抱いて村を離れる者も居ます。

 村から人が離れると、どうしても生産性が低下してしまって……」

 ルカスが言う。


 文官系のルカスに、魔物の対応は難しいか……。


「わかった、魔物の件はこちらで何とかしよう。

 他には?」

「後は、私が対応できます。

 ああ、本当に税率は四割でいいのでしょうか?

 他のところは大体五割から六割なのですが……」

 税率の低さに驚いているらしい。

「それでいい」

「領民は『前よりも安くなった』と喜んでいます」


 この広い森を切り開き畑を作れば作物は多くとれるだろう。

 皮算用だがね。

 リエクサの周りだけでも開墾しないとな。


「そうだ、このクロエはポルテ伯爵の娘だ。

 この辺のことをよく知っているだろう。

 二人で相談して統治を進めてくれ」

「「畏まりました」」

 ルカスとクロエの二人は頭を下げるのだった。




読んでいただきありがとうございます。

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