第15話 料理は美味しいのですが、主に塩味なんです。
「昼食ぐらいは食べてはいかぬか」
義父さんが言う。
「わかりました。クリス、いいだろ?」
「ええ、いただきましょうか」
クリスも笑う。
義父さんがベルを鳴らすと、執事が現れた。
「セバス、三人分の食事を頼む」
「畏まりました」
セバスさんは、そう言って下がった。
しばらく話をした後、俺は義父さんに肩を貸し、言われるままに行くと、そこに長いテーブルがある。
すでに食事が準備してあった。
席に座ると、セバスさんが義父さんの横に付く。
「セバス、このマサヨシを儂の養子にすることに決めた」
義父さんはセバスさんに言った。
いきなりの言葉にセバスさんは驚き、
「そんなに簡単に決めてもいいのですか?もう少し時間をかけても……」
「私がそう思った。
だからいいのだ。
普通の冒険者は冒険で得た他人の金を『領民に使ってくれ』とは言わない。
更にはあのオリハルコンの大剣を片手で振る男だぞ?」
「何ですと?全盛期の当主様が両手でやっと扱えたものを片手で……」
「しかし二年はこの者が私の跡を継ぐことは無い」
「それはなぜ?」
セバスさんが義父さんに理由を聞いた。
「この者はゼファードのダンジョンを攻略したいと言いおった。
それも二年でだ」
「そのような無謀なことを……。
普通ダンジョンを攻略するのに十年をかけると言われているのに……」
呆れた顔でセバスさんが言うと、
「冒険者となったからには何かで名を残したいのであろう。
その気持ちもわかる」
と義父さんが言った。
「畏まりました。
わたくしもマサヨシ様をこの家の当主候補として扱わせてもらいます。
宜しいですね、マサヨシ様」
「私は貴族というものを知りません。
ですからお手柔らかにお願いしますね」
と俺が頭を下げると、
「そこは、厳しく行かせてもらいます」
セバスさんは姿勢を正しニヤリと笑った。
終始にこやかな食事になる。
久々にワインを飲んだ気がした。
食事は美味いのだが、大体の食事が肉や野菜をベースに塩味で味を調えている物ばかりだ。
「やはり、香辛料のような物は手に入り辛いのでしょうか?」
俺が言うと、
「マサヨシ様、香辛料は南方より手に入れることになります。
遠方のため高価すぎてなかなか手には入りません」
セバスさんが言った。
「砂糖などは?」
「砂糖こそ南方からのものになります。
砂糖の重さが金貨の重さと言われるほど高いのです」
再びセバスさんが言う。
「砂糖が使えるのは、祝いの時だ。
それでも茶色い。
白い砂糖はシュガーアントの倉庫アリが持つという。
しかし、何千の兵隊アリに何万の働きアリを討伐し、奥にたどり着かなければならないというリスクが付きまとうのだ。
そのためもっと高い。
砂糖の代わりに果実も使うがやはり甘味が足りん」
義父さんが言った。
「蜜は?」
「魔物であるハニービーの蜜が有名だが、討伐して蜜を絞らなければならないために高くなりますね」
セバスさんが言った。
「ちなみに大豆などは生産しているのでしょうか?」
「できなくはないが、小麦のほうが高く売れるからのう」
義父さんは言った。
「魔物の卵や乳は食べないのですか?」
「貴族がそんなことを言ってはいけません。
魔物の卵は下賤なものが食べる物。
食べる者がなく、その卵を食べたせいで死ぬものも要ると聞きます。
動物の乳を飲もうという者も居ません」
セバスさんが諭すように言った。
「もしや、下賤なものが食べる卵というのは、産み捨てられて時間が経ったものなのでは?
わたしは、新鮮な卵を食べたことがある。
調理すると美味しかったのですが……」
「マサヨシ様、それはそうかもしれませんが、どうやって新鮮な卵を得るのですか?
自分で探すしかない。」
「それは私が何とかします。新鮮な卵が手に入るようになったら、ごちそうしますよ」
スープ的な物は有るが、今んとこ「さしすせそ」の「し」しかない。
そして、卵も牛乳もない。
何にも無いなあ……。
だから、何とかしないと……。
「儂とセバス以外の者が居る食事。久々に堪能した」
にこやかに義父さんが言った。
「私も、貴族の高価な食事というのを初めて食べました。美味しかったです」
俺も満腹になっていた。
「私も久々にコース料理なんか食べたわ」
クリスが言う。
「ナイフもフォークもうまく使っていたな。
そういや、クリスは名字付きか……貴族か何かかな?
苗字はオーベリソンだったっけ?」
「何!
オーベリソンじゃと?」
義父さんは「オーベリソン」という言葉に反応し大きな声を出した。
「だよな?」
俺はクリスに尋ねると、
「えっええ……」
クリスが言い淀んだ。
「エルフのオーベリソンという名字は王族につながるはず。
そのような者が冒険者とはな」
義父さんが言った。
「えっ、お前王族だったの?
本当?」
「ばれちゃったわね、私は王位継承三位クリスティーナ・オーベリソン」
「王位継承三位って、王女だろ?それが何で奴隷なんかに?」
「仕方ないでしょ?
お城に飽き飽きして、冒険者になるって飛び出して、Bランクになって調子に乗ってたら、薬飲まされて奴隷にされたの……。
マサヨシが助けれくれなければどうなっていたか……」
ヤレヤレのポーズをするクリス。
ヤレヤレで残念なのは、クリスのような気がするが……。
「あー、退屈だからって城を飛び出してやらかすパターンか?
それ、ダメなやつだろ?
王女が奴隷なんてバレたら、どうするんだ?」
「あら、いいのよ。
私はマサヨシに貰ってもらうから」
フンという感じでそっぽを向くクリス。
「拾ったものは最後まで責任を取れって?」
「まあ、そういうことね」
クリスは二ッと笑った。
はあ……。
「仕方ないからクリスもお義父さんも面倒見るさ。
とりあえず宿を引き払って、王都にも行かないとな。
養子縁組の手続き準備もしないと……」
「マサヨシよ任せたぞ」
嬉しそうに義父さんが言った。
「お義父さん、ちなみに冒険者ギルドなんてのはこの街にあるのですか?」
俺は聞いてみた。
「小さいながらもあるぞ。
ただ、平原に強い魔物は居ない。
開店休業のような感じだな」
「そうですか……。
では、冒険者としてはドロアーテを拠点とします」
「それはお前が好きにすればいい。
先ほどの扉を使えばあっという間だろう」
「その通りです。
しかし、冒険者として私に何かして欲しいときは、遠慮せずに言ってください」
そう言うと、
「わかった」
と言って義父さんは頷いた。
俺とクリスはドロアーテに戻り、木漏れ日亭に行く。
数日間ではあったが世話になったルーザさんに礼を言うと、宿を出た。
おっと、忘れてた。
トランクスタイプで紐で絞める下着とタンクトップを数着買っておく。
ズボンとシャツは有るが、スーツの替えは無いな。
今度セバスさんに作れないか聞いてみるか……。
俺とクリスは各々の荷物を持って木漏れ日亭を出た。
「短かったが、いろいろ世話になったところだな」
「そうね、ゆっくりできた場所」
そう言いながら歩き始めた俺たちの前に男が四人現れるのだった。
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