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第148話 シスコン登場。

 魔族領に入ると、当たり前だが魔族の者が暮らす世界があった。

 ユンセレの街の入口でイングリッドの許可証を出すと、ケルが居てもすんなり街に入ることができる。

 しかし、さすがに国のVIPだけあって扱いが早い。

 すぐにデカい宿まで誘導された。

「ココで迎えを待ちましょう。

 少し早めに到着したので、街の兵士が連絡に走っているはずです」

「それはいいんだが、なぜおれが当主の部屋に?」

「それは私の夫になる人ですから……。

 私があなたの下になるのは当たり前です。

 それに、リードラさんもマールさんも居ますし。

 初めては二人のほうがいいですが、それ以外は皆さんとでも……」


 イングリッドもなんか変な方向に行ってない?


 部屋割りが変更できず俺が一番広い部屋を使うことになった。



 数日後、の朝、ドタドタと宿を上ってくる音がした。

 ベッドに寝る俺、そして俺の横にはイングリッド。


「ぬおーーーーーー!

 イングリッドがぁ!!

 俺以外の男と居るぅ!」

 金縁の鎧を着た魔族の大男が現れて叫んでいた。

「すみません、お止めしたのですが……」

 申し訳なさそうな宿の主人。

「誰?」

 俺が聞くと、

「えーっと、私のお兄様ですね」

 イングリッドはいつもと違う笑顔でスッとベッドを出ると下着姿でお兄様という男の前に出た。

「何をなさっているのですか?」

 そして聞いたことが無いイングリッドの低い声が響く。

「えっ、お前を迎えに……」

 お兄様の「喜んでくれるんじゃないの?」というようなキョトンとした顔。

「迎えに来る部隊は、お兄様の直属の部隊ではなかったはず。

 そこに座ってください」

 イングリッドが床を指差す。

 すると、お兄様は正座をする。

「で、どういうことでしょう?」

 仁王立ちのイングリッド。

「そっ、それは、イングリッドに早く会いたくて……」

「お父様は許可を?」

「いいや……それは……」

「許可もなく近衛の部隊を動かしたのですか?」

「ちゃんと、部隊の変更届けは出したぞ。

 ただ、返答はなかった。

 返答を待つ時間もなかったしな。

 急がないと、待ち合わせの期日に間に合わない可能性もあったのでな」

 イングリッドの質問への返答を必死で考えているのだろう……頭から大粒の汗が垂れてくる。

 それを拭くお兄様。

「予定の部隊が来れば間に合ったのでしょう?」

「長い間会っておらんのだぞ?

 早く会ってみたいと思うのは家族として当然ではないか?」

「ではなぜお母様をお連れにならなかったのです?

 相談はしたが止められたのでしょう?」

「うっ」

 イングリッドの言葉が正しかったようだ。

 お兄様は沈黙した。

 しかし俺を見ると、

「何故、男と同衾している!」

「私の公表されていないとはいえ婚約者です。

 同衾しても何ら問題はありません。

 マサヨシ様はお父様の顔を立て、私は抱いてはくださらないのですよ?

 そこのところを考えてください。

 私のことでワーワー騒いでいるお兄様とは違うのです。

 同い年なのですから、もう少し落ち着いてください!」

 イングリッドが少し声を荒げ、お兄様を指差して言った。


 一応アラフォーなんで、正味の年齢と比較されるのもなぁ……。


「おいおい、折角来てくれたんだ。

 俺だってイングリッドみたいな美人な妹が居たら気になると思うぞ。

 だから、そんなに言わなくても……」

 俺は、一応フォローしておく。

 イングリッドが「美人の妹」に反応して頬を染める。

 俺が加勢したのと勘違いしたお兄様が、

「人間風情に言われるのは癪だが」と言ったあと、

「そうなのだ、私は妹が心配なのだ。

 だから、今回のことは許してもらえないか?

 ちゃんと護衛をするのでな」

「お兄様、実際護衛は必要ないのです。

 外に居たでしょう?

 巨大なケルベロスが。

 それにマサヨシ様にリードラさんにマールさん、この三人でも十分です。

 ランヴァルド王国の顔を立て、護衛をつけてもらっただけなのです」

「俺が来たのは無駄だったのか?」

「はっきり言って無駄です」

 イングリッドが言い切った。

 しょぼんとするお兄様。

「イングリッド!

 せっかく来てくれたんだ、護衛してもらえばいいだろう?」

「兄様は過保護すぎるんです。

 私だって考えて動けます」


 お兄様のお節介の部分で今まで苦労してきたんだろうなぁ。


「俺は兄弟が居ないからその辺の面倒なことはわからないが、やはり家族だ。

 仲が良い方が良いと思う。

 素直に護衛を受けよう」

 するとイングリッドは渋る顔をするが、

「マサヨシ様がそう言うのなら……」

 と、お兄様の護衛を受けることになる。

 ちなみにお兄様の名はウルフ、がっしりとした体、身長は二メートル近く。

 短髪の偉丈夫に見えた。



 次の日、ウルフの機嫌が悪い。

 俺と視線が合うと目を逸らす。

 シスコンってそんなもんなのかね?

 馬車の周りにはお兄様の部隊が付き護衛を行う。

 そしてオセーレを目指した。


 魔物が多いという森を通る街道。

 ウルフの部隊は周りを警戒していた。

 俺はレーダーで魔物を感知する。

「馬車を止めろ。

 そこに、魔物が居る。

 ケル、見てきてくれ」

(あるじ)、了解です!」

 そう言ってケルが飛び出すと魔物が居ると思われる場所に向かった。

「クマが居ました」

 そう言って頭を咥えたケルが戻ってくる。

 そして俺の前にクマを置いた。


 首が折れたクマ。

 しかし毛皮が固そうだ。

 ある意味ハリセンボン。


「お前、痛くないのか?」

「私は大丈夫です。

 この程度では貫通しません」

「そりゃ良かった」


 ん?

 凄い視線。


「アーマーベア!」

 ウルフが大声をあげた。

「このクマなんかすごいのですか?」

「お前、この部隊でも倒せないかもしれない。

 その従魔、バケモノか?」

「まあ、従魔だからバケモノなんですが……」

 すると、

「言ったでしょ?

 マサヨシ様たちが居れば十分なんです」

 イングリッドがウルフを邪魔もののように扱う。

「イングリッド!!」

 俺がきつめの大きな声をあげると、

「はい!」

 イングリッドは驚いて少し裏返った声で答えた。

「心配だから、俺たちを守ってくれているんだ。

 この森が危ないのも、ウルフさんに教わってる。

 だから、常に監視してあのクマから守ることができた。

 それを、ウルフさんが要らないように言ってはいけない」

「ごめんなさい」

 シュンとするイングリッド。

「俺に言うことじゃない。

 ウルフさんにちゃんと謝れ」

「いや、俺が役立たずなのは……」

「先ほども言いましたが、力だけで役に立つ立たないは決まりません。

 情報というのも十分に必要です」

 すると、

「お兄様、ごめんなさい。

 私たちのために色々調べてくれていたのに」

 イングリッド言葉を聞いて、照れくさそうにウルフは鼻の頭を掻いていた。


 ラムセレの街、ソレフトの街、クラムフォの街とオセーレへ向け、街道を進む。

 途中の森を抜け広い平原に出ると、オウルに負けない外壁が見える。

 その上に浮くように王城が見えた。

「あれが、我が王都、オセーレだ。

 オウルに負けないいい都だろ?」

 ウルフが俺に近づき説明を始めた。


 イングリッドが嫌がる中、ウルフのフォローをしたせいで、俺の株がウルフの中でうなぎ上りらしい。

 まあ、嫌われるよりは良しなのだろう。


「ええ、白く輝く王城が丘の上にそびえています。

 高い位置にある分オウルより防御力が高そうですね」

「そうなのだ。

 上から俯瞰で攻撃できる分、戦いやすくなっている。

 丘まで登る坂も敵にとっては上りづらいだろう」


 山城って感じだな。


 町の人口も多いんだ。

 十万人規模もあるんだぞ。

 ランヴァルド王国は、大陸の中央にある。

 そのおかげで物流も盛ん。

 商業的にもにぎわっている。

 背後の山脈のお陰で、水も豊富だ」

 誇るようにウルフが言うのだった。



 話を聞いているうちにオセーレの入り口に近づく。

 旅人が多くずらりと手続き待ちの列ができていた。

 オセーレにも貴族用の入り口はあるらしく、ウルフが門番に声をかけると、脇にある門が開き、俺たちは中に入る。


 街の中央の道が王城へと続く。

 冒険者と近衛兵に囲まれた馬車。

 勘のいい者が、

「イングリッド殿下が帰ってきた!」

 という声を上げる。

 事前に触れが出ていたのかもしれない。

 まあ、極めつけは馬車ほどの大きさもあるケルベロスが付いている。

 目だって仕方ないだろう。

「イングリッド殿下、お帰りなさいませ!」

 という、民たちの声が連呼された。

 イングリッドは馬車の窓から手を振る。


 やっぱり王女様なんだなぁ。

 クリスが帰っても、こんな歓待はあるのかね?


 そして、見上げるような王城の門をくぐる。

「帰ってきたのですね」

「そうだな。

 イングリッドの我が家ってわけか」

「ええ、懐かしの我が家です」

 こうして護衛の依頼は終わるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] おー!拗らせてないウルフ氏! いや、ある意味拗らせてる? シスコン、ブラコン、ファザコン、マザコン。 何にしても度合い?表現?は程々に。 兄弟姉妹可愛いー!は声高に叫ぶと怒られます。 嫌われ…
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