第138話 親子再会。
「ただいま」
俺が扉を抜けて皆の元に戻ると、三人とお付き達はお茶を飲んでいた。
「主よ、お帰りなのだ」
「お帰りなさいませ旦那様」
「マサヨシ様お帰りなさい」
俺のほうを見て言う三人。
盗賊たちは綺麗に並べられている。
「旦那様、向こうは?
それにその女性は」
とマールが言った。
「ああ、向こうにはこの二人が居た。
宝と武器も回収したから、もう無理じゃないかな」
俺は眠らせた男をドサリと地面に置く。
「この人は少女に見えるがクラーラというれっきとした成人女性だ」
すると、
「幼く見えて悪かったな」
とクラーラから憎まれ口が発せられる。
「ドワーフですから、女性が幼く見えるのは仕方ありません。
低身長で胸が有る方か無い方の両極端なんです。
エルフと違い、成人状態が長い訳ではなくて成人前の状態が長く続きます。
幼く見えるから、ドワーフと一緒になりたいという人も居るぐらいですから」
やはり需要は有るらしい。
「そう言えば、初めてだわ……ドワーフの女性を見るのって……。
ガントさんはごっつい髭もじゃドワーフなんだがなぁ」
「ドワーフの女性はクラーラさんのような感じです。
ですから、夫婦が同年齢でも親子に見える有名な種族ですね」
ロリババアって訳ね……。
言わんけど。
「クラーラのオヤジさんはそこに転がる盗賊団の武器を作らされているらしい。
それで、助かったって報告をしに行くわけだが、俺とクラーラで行ってくるよ」
「また留守番かの?」
不機嫌なリードラ。
「そうなるな。
まあ、ボルタオの家まで連れて行くだけだからすぐだよ。
アインも居ることだしな」
その言葉を聞きアインがブルブルと首を振る。
「旦那様、ここで待っていればいいのでしょうか?」
「そうだな。
盗賊たちの監視をしておいてもらえると助かる。
逃げようとすれば……」
と俺が言うと、マールの右手から光るものが出た。
「殺せばいいのですね」
という。
命が惜しいのか、マールの言葉に引く盗賊たち。
「もうしばらく、お茶でも楽しみます」
イングリッドが言う。
「でも、マサヨシ様、お茶ばかりでは少し楽しくありません」
座ったまま見上げるイングリッド。
「ハイハイ」
俺は収納カバンから、イチゴのショートケーキとクッキー、プリンを人数分出す。
「やた、人数分ある」
「これだから、イングリッド様のお付きはやめられない」
「あれ、新作でしょ?」
お付きから喜びの声が上がる。
「これでも食べて待ってて」
俺が言うと、
「はい。
それではお茶の続きをしましょう」
とイングリッドはリードラとマール、そしてお付きと茶会を始めるのだった。
俺はクラーラを俺の前に乗せ、アインを駆ってボルタオの街を目指す。
街道に居た旅人はアインのあまりの速さに腰を抜かしていた。
「お前凄いんだな、風景が流れるようだ」
アインの首を撫でながら言うと、
「ブルブル」
と首を振って更に加速する。
「もっといける」と言いたいようだ。
「何これェー、早すぎぃー」
クラーラがギュッと俺に抱き付いてきた。
「オヤジさんに早く知らせたいんだろ?」
「それはそうだけどぉー」
「ほら、街の門が見えてきた」
俺はアインの速度を緩め、門の前に止まった。
「何者だ!」
という門番に、
「俺はマサヨシ・マットソン。
この娘を盗賊から助け、親に合わせるために来た」
そう言うと、門番に義父さんから借りた王都の通行証を見せる。
これはほかの街でも使えるらしく、街に入る際の入街税を払う必要もなくなるらしい。
「これは……マットソン家の紋章。
それも、マットソン家と言えば鬼神の家ではございませんか」
たまたま居た門番が義父さんを知っていたらしい。
「どうぞ、中へ」
俺はアインとクラーラとともにボルタオの街に入った。
賑わう街。
鍛冶屋が多いようで、で店にも武器や防具が並ぶ。
「鍛冶の街ってところか」
「ボルタオの街の近くに鉄鉱山があって、そこでとれる鉄で作った武器は安くて質がいいといわれているんだ。
そりゃ、ミスリルやオリハルコンもあるけども、そんなものを使えるのは一握りだろ?
ふつうの兵士は鉄でできた剣武器を使う。
だから、貴族の領兵用の武器を大量に買い付けに来る。
そういう者たちでこの街は賑わっているんだ。
あっ、そこ左に曲がって」
言われるがままにアインを歩ませる。
クラーラーは俺を見ながらニヤリとすると、
「アタイのオヤジはバクシーって言って、この街で一番の鍛冶師。
同じ鉄でもオヤジが作ったものが一番切れ味がいい。
すごいだろう。
あっ、そこ左」
胸を張りながら言う。
「オヤジさんが好きなんだな」
「そっ……そういうわけじゃないぞ。
親子だからな……。
あっ、ここ!」
俺は槌の音がする小屋の前に止まった。
レーダーで確認すると、中に二人。
一人はクラーラーのオヤジさんとして、もう一人は監視かね。
「俺一人で行ってくるよ。
クラーラはアインと待っててくれるかな?」
雰囲気が変わったのに気づいたクラーラは静かに頷く。
俺はアインから降り小屋の中に入った。
「すみません。
ここはバクシーさんのお宅と聞いて来たのですが?」
「誰だお前!
バクシーは俺の仲間の武器を作っているんだ、忙しいんだよ!」
邪魔そうに睨みつける人間の男。
うん、完全にドワーフじゃないね。
「いや、バクシーさんの娘さんに会いましたので、その件でご報告を」
その言葉に、
「バクシーの娘は俺の仲間のところに居るんだ、お前が会うはずがないだろう!」
と反応した。
ん、盗賊の一味だね。
俺は一気に近寄ると、手加減して当て身を入れる。
すると、男は簡単に意識を失った。
一応、親指を結んでと……。
槌の音が聞こえるところへ行くと、いかついドワーフが真っ赤になった炭に剣の形をした鉄を入れていた。
顔は長い間の仕事で焼けたのか真っ赤だ。
ある意味赤鬼。
じっと鉄の色を見るドワーフ。
そして、温度を見極め、一気に油の中に突っ込んだ。
ジュッと煙が上がりその煙に火が付く。
しばらくするとその火は消えた。
焼き入れか……。
俺に気付いたのか、いかついドワーフが俺のほうをジロリと見た。
「あいつらの仲間か?
どうやっても、お前らの武器を作るのにあと二週間はかかる」
低い声でドワーフが言う。
「いいえ、私は娘さんを助けたのでお連れしました」
ドワーフは目を見開くと、
「何!
クラーラを!」
「ええ、外にいらっしゃいます」
ドワーフは道具を置くと外に飛び出した。
「クラーラ」
「オヤジ!」
二人の声が聞こえる。
「兄ちゃん、悪いが下ろしてくれないか、俺じゃ背が届かねぇ」
ドワーフはそう俺に言ってきたが、アインがひざを折り背を低くする。
「アイン、ありがとね」
そう言うと、クラーラはドワーフの前に降り立った。
「オヤジ、アタイ危なかったんだ。
あいつらの一人が幼く見えるアタイを気に入って襲ってきた。
タイミングよく、マサヨシが来てくれなかったら、アタイ……」
ありゃ、呼び捨て?
そういや、『こう呼べ』って言うのも言っていなかったな。
まあ、いいけど。
「あんた、ありがとうな。
儂はバクシー。
こいつは俺の一人娘。
俺の鍛冶のせいで何かあったら、槌を振るえなくなる。
あんたは俺にとってもこいつにとっても命の恩人だ。
俺にできることがあれば、何でも言ってくれ」
仕事人のごつごつした手で俺の手を握りながら言っていた。
「たまたま居ただけですから、あまり気にしないでください」
と俺はいうのだが、
「そうはいかない
クラーラ、お前この人のことをどう思ってるんだ?」
「それは……助けてもらった恩もあるし……」
クラーラの顔が赤い。
「男勝りで男の事など気にしなかったお前が、そんなに顔を赤くするとはな……」
苦笑いのバクシーさん。
「そうだ、クラーラを貰ってもらえないか?
儂のせいで行き遅れてはいるが、性格はちょっと問題があっても可愛い娘だとは思う」
「オヤジ。
実の娘に酷い言いようだな。
マサヨシは貴族様だ。
アタイみたいな女を娶ったりしない」
クラーラがバクシーさんに言った。
「だからいいんじゃないか。
貴族は妻を多く持てる。
末端でもいいから妻にしてもらえばいい。
押しかけでもいいから、なってしまえ!」
勝手に決まるねぇ。
まあ、周りには「たまたま」って女性ばかりだけどね。
「どうだい?」
詰め寄るバクシーさん。
「どう?」
見つめるクラーラ。
「どうって言われてもなぁ……」
「嫌?」
ここで嫌とは言えないだろう……。
「嫌ではない……と思う。」
「じゃあ、決まりだな」
「何が決まり?」
「アタイを貰ってくれ」
バンと無い胸を張り、俺に詰め寄った。
「何でそうなる」
苦笑いの俺。
「アタイがアンタに惚れたから。
それにオヤジも納得しているから」
「俺は納得してないが?」
「マサヨシは追々」
との返事。
俺は関係ないらしい。
何となくクリスに聞いても「いいんじゃない?」で終わりそうな気もするが……。
「簡単に娘を差し出していいのかね?
俺が娘を邪険に扱うかもしれないだろ?」
「娘をないがしろにする奴なら表の顔を取り繕うはず。
そんなこと言う奴が悪いはずがない。
これでも、いろんな人間を見てきたつもりだ。
その経験がお前ならいいと言ってる。
俺も娘も納得してるから大丈夫だ。
奴隷のようにこき使ってもいいぞ!」
ガッハッハッハとバクシーさんは豪快に笑って俺の体を叩いた。
結局断り切れず、クラーラは俺と共に暫く行動することになる。。
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