第137話 盗賊襲撃。
順調に旅は続く。
ポルタオの街に近づく途中。
レーダーに人の光点が現れた。
リードラが、
「バカが現れおった。
実力の差もわからぬ盗賊かの?」
「んー、まあ、俺以外は全部女だしねぇ。
舐められてるんじゃない?」
「そうですか……、私たちを舐める……」
ちょっとお怒りのマール。
アイン先頭で歩く俺たちの前に二十数人の男たちが現れた。
不揃いの皮鎧を着ている男の中に、一人だけ豪華な金属鎧。
まあ、自分がリーダーですって言ってるような物なんだけどね。
「で、何か用?」
と聞くと、
「有り金全部と女を置いていけ」
金属鎧を着た男が、俺に言った。
「嫌だと言ったら?」
「この男たちがお前を殺し女を奪いとる。
お前が死ぬか死なないかの差だ」
盗賊たちのニヤニヤが止まらない。
「嫌だね」
俺はそう言うと、最大級の威圧を盗賊たちに当てた。
盗賊たちの足が震え始めると腰を抜かし、泡を吹いて気絶する。
「主よ、やり過ぎだ」
苦笑いでリードラが言った。
「舐められたままじゃダメでしょうに?
しかし、こいつらどうすればいいんだろ……」
そう言いながら、シルクワームの糸を取り出すと、男たちを後ろ手で親指同士を結ぶ。
ガントさんが言っていたように、オリハルコンのハサミで切る必要がある糸は滅多なことでは切れない。
引き抜こうとすると細い糸が肉に食い込むのだ。
そんな俺を見ながら、
「ギルドでも確認したほうがいいですね、討伐依頼が出ているかもしれません」
マールが言った。
「ん?だったら一応盗賊のねぐらも探したほうがいい?」
「そうですね。
人質や攫われた者などが居るかもしれませんので、その方がいいかもしれません」
ふむ……。
俺は結び終えると、立ち上がる。
ねぐらは既に表示させておいた。
ここからさほど離れていない山の中。
人を表す光点も三つほどと多くない。
そこで、
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ。
リードラとマールはここに居て護衛な」
と言った。
「「えっ」」
二人は驚く。
「我も行きたいぞ」
「私もです」
「リードラ、マール、俺たちの仕事は護衛だ。
だから、二人にイングリッドの護衛はしてもらわないと困るんだ。
できるだけ早く帰ってくるから待っていて欲しい」
「うー、仕方ないのう」
「畏まりました」
二人は渋々頷いた。
「お早いお帰りを」
イングリッドも俺に声をかけてくる。
「じゃ、行ってくる」
と言うと、アインと共にねぐらへ向かうのだった。
簡単な柵に櫓。
中には一人の男が居た。
「誰だ!」
俺を見つけた男が叫ぶが、
「えーっと、面倒」
と言って、スリープクラウドで眠らせる。
そして、転がった男の指を結んで放置する。
あと二つ……の光点。
誰だろね?
近寄ると牢屋のような場所。
下半身を露出した男に手足を縛られ俺の魔法で静かに眠る少年がいた。
一応ズボンを上げて物を隠し、親指をシルクワームの糸で縛る。
ん?
小柄な体だが、力強そうな筋肉がついている。
男……女?
わからん。
シャツにズボン。
胸は……なさそうだから少年?
男色にロリコンです。
好きな人は好きなんだろうけど俺はちょっとな……。
まあ、とりあえず、少年を起こしてと……。
気付けをすると、
「あっ……」
と言って目を覚ます。
「やっやめて!」
少年は胸を隠し後ずさる。
俺は男の体に興味は無いんだがなぁ。
「脅かしたか?
悪いな」
「アンタは?
なんでこんなところに?」
「俺はマサヨシ。
俺の護衛対象がここを根城にする盗賊に襲われてな。
撃退したんだが、元から絶つためにここに来た。
おっと、縄を切るから動くなよ」
ナイフで縄を切り解放する。
「さて、少年、大丈夫か?」
と聞いてみると、
「あっアタイは女だ!」
と怒られる。
ふむ……、確かによく見れば尻の丸みや腰のくびれは女性だね。
ただ、胸が絶望的に無い。
勘違いするのも仕方ないがここは……、
「それは済まなかった」
と少女に頭を下げた。
フンとは言ったが、許してくれたようだ。
「それにしても、何でこんなところへ?」
「アタイは人質で、オヤジはアタイのためにこの盗賊団に武器を作らされているんだ。
盗賊たちがアンタらを襲撃に行っている間に、あの男が襲ってきた。
アタイはドワーフだから力はあるんだけど、手足を縛られていては何もできなくて……」
「そうか、大変だったな」
少女の頭を撫でると、少し頬を赤くして俺を見上げた。
「オヤジさんは武器をどこで作っている?」
「ポルタオの街。
ここから、二日ほど行ったところにあるんだ」
そう言えば、次はそんな街だったな。
「ああ、俺たちが次に行く街だと思う。
一緒に行くか?」
「いいのか?」
俺を見上げる少女。
「俺的には問題ない。
まあ、あいつらも文句は言わないだろう」
「あいつ等?」
不思議そうに俺を見る少女。
「ああ、仲間が居るんだ。
今は、護衛の依頼を受けてるから、依頼主の護衛をしながら待ってくれているというわけだ」
「連れて行ってくれるなら助かるけど……」
上目遣いで俺を見る少女。
「じゃあ、そうしよう。
嬢ちゃんの名は?」
俺が「嬢ちゃん」と言った瞬間に少女は不機嫌になる。
「あたいの名はクラーラ。
嬢ちゃんじゃないぞ。
れっきとした大人だ。
これでも二十一歳なんだからな」
うーん、フィナぐらいにしか見えない。
俺が考えていることを気付いたのか。、
「しっ、仕方ないじゃないか。
これ以上胸が大きくならないんだから」
と胸を気にする。
コンプレックスらしい。
胸だけでなく身長もなんだがなあ……。
でも、それはそれで需要はあると思う。
だから襲われた訳で……。
「アンタはどうなんだよ。
胸は有ったほうが良いと思うのか?」
何で俺に振る。
それに何で顔が赤い?
「俺か?
俺はまあ、胸が有ってもなくてもどっちでもいいかな」
無いなら無いで感度を見るのも、様々な事をさせて恥じらう姿を見るのも楽しい気がする。
「そうか……、だったらいい」
クラーラはそれを聞いて頷いていた。
ん?
何で「いい」んだ?
嫌な予感しかしない。
「クラーラはこいつらの宝物庫的なところを知っているか?」
「捕まってからはずっと牢屋だったからわからない」
ふむ……。
宝と武器を表示……。
崩れかけた建物の中に反応があった。
中を覗くと足の踏み場が無いほど酒瓶と食いカスとごみが散乱している。
掃除ぐらいしようや。
そしてその奥の倉庫のような部屋に入ると、数個の宝箱と鉄製ではあるが見事な剣や槍鎧が転がっていた。
収納カバンに宝箱と武器を入れていると、
「それっていいのか?」
とクラーラが聞いてきた。
「冒険者が手に入れたものは保証されるんだ。
まあ、返してくれと言われれば返すけどな。
それにしてもこの武器は丁寧な仕事だな。
数打ちの剣なんだろうが、切れ味も良さそうだ」
俺が言うとクラーラは嬉しそうにするが、
「そう、オヤジの腕は確かなんだ。
でも、私が攫われてしまって、こんな盗賊のところに来ちゃったから……」
そう言うとすぐに沈んだ顔をした。
「ふむ、それなら早くオヤジさんの所に行かないと。
そのためには、仲間のところに戻らないとな。
クラーラはこいつの上に乗っていてくれ」
軽いクラーラをひょいと抱え上げアインの背に乗せる。
「アタイ、馬になんて……」
「大丈夫。
アインは頭がいいんだ。
ちゃんと鬣を持っていれば、問題ない。
な、アイン」
アインの首を摩ると、
「ブヒヒヒヒーン」
と嘶き、クラーラを振り返って歯茎を出して笑う。
ちょっとグロテスク。
クラーラが引いている。
俺はデカい扉を出し、盗賊を二人肩に担ぐと、右手を掲げ特大のファイアーボールを打ち込んだ。
きのこ雲が上がり、爆風が届く。
燃え盛るねぐらを見ながら、
「あなた何者?」
とクラーラは振り返って俺を見た。
「そりゃ、俺が魔法使いだからだよ。
このまま建物を置いていて別の盗賊の根城になっても困るしな」
そして、イングリッドのところに戻るのだった。
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