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第136話 さて、オセーレへ。

 夏の気配を感じる頃、

 少しお腹が目立ってきたクリスとカリーネ。

 幸いクリスもカリーネもつわりは軽く、元気いっぱいである。

「私も行く!」と駄々をこねるクリスを押さえるのが大変だったが、イングリッドの帰国の護衛はクリス無しで行くことになった。

 当然である。

 アイナも屋敷に居てもらうことにする。

 義母さんとクリス、カリーネに何かあったら、アイナの治癒魔法で何とかしてもらうためだ。

 聖女補正は妊娠、出産にも効くようで、赤子の成長具合も手に取るようにわかると言っていた。


 結局、俺とリードラとマールは戦馬に乗りイングリッドが乗る馬車を護衛していた。

 豪華な馬車に護衛がたった三人。

「もっと護衛を増やすか?」

 と俺がイングリッドに聞くと、

「マサヨシ様だけでも大丈夫だと思います。

 それにお付き達もそれなりの腕を持っているので大丈夫でしょう」

 とのこと。



 オウルからガヤニの街までの街は扉で向かって中を通る。

 通ったという証拠だけを残すのだ。

「街道は通らなくていいのか?」

 とイングリッドに聞いてみたが、

「まあ、聞かれたらその時はその時です」

 とのこと。


 そう言うなら気にしないことにする。


 そして、ガヤニの街に入った。

 ゴブリンの襲撃の跡があるものの活気にあふれている。

 中央の通りには屋台や出店が出ている。

 その中にはドラゴンライダーを模した置物が売られていた。

 白いローブの中に黒い服。

 おっと、痩せてるねぇ。


「あれって、旦那様ですよね」

 マールが俺に聞いてきた。

「そうじゃな、(ぬし)の人形じゃな。

 という事は(われ)の姿も人形になっておる訳か」

「本物はもっと綺麗だよ」

「当然だのう。

 我は(ぬし)の下で力を得ておるからな。

 見た目も良くなっておる」

 リードラはある胸を更に張っていた。


「にしても恥ずかしいな」

 俺は頭を掻く。

 そんな事を言っていると、

「マサヨシ様、それぐらいの事をしているのです。

 襲われた町を救うという事は、それだけの命を守るということ。

 英雄扱いされても仕方ないんです」

 イングリッドが馬車の窓から顔を出して言った。

「できることをやっただけなんだがねぇ」

「それでもです。

 マティアス王が知った今、そのうちマットソン子爵の息子の話は伝わってくるのではないでしょうか?」

「そんなことはどうでもいいよ。

 まあ、ちょっとした子爵家の箔になればいいんじゃないか?」

「凄く分厚い箔ですけどね」

 賑わう通りを抜け、結局そのまま街を抜け街道に出た。


 旅人とすれ違いながら街を目指す。

 途中にあった村には、少しずつではあるが住人が戻ってきているようだ。

 人の姿がチラホラ見えた。

 街道の途中で夕闇が迫ると、こっちの世界で生活してきて初の野宿。

 お付きの者たちはせっせとテントを張った。

 火を起こし、料理を始めるお付き達に、収納カバンから食材を出す。

「こんないい物を?」

 お付きの一人に聞かれたが、

「食い物ぐらい美味くないとな」

 と言って食材を渡した。


 お付きの料理の腕は良く……といってもフィナには負けるが……渡した食材で美味いスープとステーキが出てきた。

 食事が終わり、テキパキと働くお付き達を見て、

「イングリッド、風呂は有ったほうがいいのか?」

 と聞いてみた。

「それはもう……有ればうれしいです」

 

 イングリッドの本音。

 エアコンなどない馬車の中でずっと居たのだ、汗はかいているだろう。

 

「でもこんなところにお風呂は難しいのでは?」

「多分大丈夫。

 マナ、小屋と湯船作れるか?」

「簡単!」

 マナがチョイっと出てくると、街道脇の広場にセメントでできたような小屋ができる。

 中を覗くと脱衣所に湯船もある。

 ただ天井はなく、夜空を見ろと言わんばかり。

 月見ならぬ星見風呂らしい。

 五人は入れそうだ。

「湯を張ってくれ」

「ホイホイ」

 少し熱めの湯が張られた。

「凄い……」

 イングリッドの驚く声。

「マナのお陰だよ」

 マナが胸を張っていた。

「さて、先にお付きに入ってもらって、あとから俺と一緒に入るか?」

 と俺が言うと、

「えっ、いいんですか?」

「お付きが許してくれるなら……だがね」


「マサヨシ様のご厚意でお風呂が湧きました。

 お前たち、入りなさい」

 と、イングリッドがお付きに言うと、

「姫様は?」

「マサヨシ様と後から入ります」

「畏まりました」

 すんなりと決まる。


「お付きが何も言わなかったけど?」

「ええ、お父様が許したのを知っていますから。

 どんな声が聞こえたとしても、この者たちは喋らないでしょう」

「声?」

「二人で入るのでは?」

「リードラもマールも入るぞ?」

「えっ、あっそうだったんですね」

 イングリッドは勘違いに気付き少しモジモジする。

「イングリッドもそのうちな。

 外より部屋の中のほうがいいだろう?」

「私は外の開放感がある場所でもいいですが」

 恥ずかしそうに言うイングリッドが居た。


 いえいえ、外ではちょっと……。

 リードラとはしたけれど……。


 夜空に星が瞬く。

 周りに照明が無いせいか、小さな星までがはっきりと見えた。

「こういうのもいいですね」

 湯船の縁に頭を置き、上を見るイングリッド。

 かわいい双丘が風呂に浮く。

「そうだのう。

 (われ)も夜空をまじまじと見たことはないのう。

 星が瞬き、綺麗だ」

 同じくリードラ。

 イングリッドより高く裾野が広がる双丘が浮いていた。

「お風呂でこんな風に空を見るなんてありませんね」

 マールも呟く。

 リードラよりも低いが形の良い双丘が浮く。

「露天風呂って奴だな。

 まあ、壁作ってるから空しか見えないが、向こうの世界じゃ明るすぎて星が見えなかった。

 こんなふうに空を見上げたのはいつ以来か……」

 双丘が三組。

 それよりも空を見上げる俺が居た。


(ぬし)の世界ではこんな風呂があったのかの?」

「景色を見て人がくつろぐための風呂はあったなあ」

「こちらの世界にも公衆浴場というものは有ります。

 でも、外を見ながら……という風呂は有りませんね」

 イングリッドが言った。

「それにしても、旦那様。

 旅先で、それも野宿で、お風呂に入れるとは思いませんでした。

 イングリッド様のお付きの方々もびっくりしていましたよ」

 マールが俺に言う。

「そうですね、オウルに行くときよりは格段に環境が良いと思います。

 マサヨシ様のお陰ですね」

 イングリッドも便乗した。

「そうかねぇ、マナのお陰なだけだぞ?」

「でも、マサヨシ様が居なければ、精霊は居ませんからね。

 だからマサヨシ様のお陰なのです」

「まあ、そういうことにしておこうか」

 ゆっくりと夜空を眺めていた。


 

読んでいただきありがとうございました。

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