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第133話 犂

 次の日、村人たちが横一列に並び鍬を振るって土を起こしていた。

 一鍬一鍬大変そうだ。

 小さな子も混じっている。


 作っておいてなんだが、全部人がやるんだよねぇ……。


 広々とした土地を見て思った。

 トラクターやコンバインなんてありゃしない。

 ふむ、牛犂って無いのかねぇ。


「ベイトさん、畑を起こしたりするのは鍬でしかできないので?」

「それ以外にもありますが……」

 ベイトさんは顔をしかめる

「プラウという大きな引っぱる鍬のようなものもありますが、奴隷を雇い入れて引かせることができるぐらいの豪農でなければいけません。

 奴隷と機器と両方を維持できないといけないのです。

 私どものような小さな畑で麦を作るようなところでは無理です」


 共同で使えばいいと思うんだがねぇ。

 奴隷も共同って言うのは難しいだろうが……。

 しかし、プラウって本当は牛や馬に引かせる奴じゃなかったっけ?

 奴隷制があるせいで、魔物を捕らえてまで慣らして使うことが無かったのかもしれないな。

 牛かぁ……メルヌから引っ張ってくる?

 扱い慣れている者と言えば……。


 さっそく、

「ちょっと、農機具を仕入れてくる」

 と扉を出した。


 おっとっと……。


「食料は足りなくないかい?

 オークの一頭でも置いていこうか?」

「マサヨシ様のお陰で、衣食住ともに前を上回っています。

 元々は小麦など食べていなかったのですから、今は前回貰った小麦や野菜だけでも十分です。

 肉など祭りの時に食べられればいいほうだったのに今では当たり前にあります。

 島の中にも食べられる芋も有りました。

 我々だけでも自立できる道を作っておかないと、もしもと言うことがあります」

 村長であるベイトさんも俺が居なくなった時の事を考えているようだ。

「わかりました。

 何も置いていかないけど、今度お酒を持ってくるよ。

 そういう楽しみも必要でしょう?」

「それは皆喜びます。

 特に男どもがね」

 ニヤリと笑うベイトさんが居た。


 オウルに戻ってアランに声をかける。

「アランはメルヌのフォレストカウと仲が良かったよな」

「ええ、向こうで力比べしてましたから。

 俺が勝ってましたけど……」


 牛殺し登場。


「だったら三日月島に仲のいいフォレストカウと行って、田や畑の耕作を手伝ってやって欲しい」

「その辺なら、俺も小さなときに手伝っていましたから、できますよ」

 アランは力こぶを作ってアピールをする。

「しかし、フォレストカウですか?」

「ああ、フォレストカウほどの力があれば、農具を引っ張らせてもいけるんじゃないかとね。

 それじゃ、準備しておいてくれ。

 オス二頭とメス三頭ぐらいで、乳が出ていてもいい。

 向こうの栄養補給に使えればいいと思う。

 いいのを見繕っておいてくれ」

「わかりました、早速行ってきます」

 そう言うと、アランはオウルからメルヌへと走っていった。


 廊下は走らないように。


 さて、ロルフ商会へ向かおう。

 あそこならプラウのこともわかるだろう。

 と思って玄関に行ったらラウラに見つかった。

「旦那様、どこへ?」

「どこと言われてもなぁ。

 ロルフ商会だよ」

「私がお供しても?」

「そりゃ別にいいけど……。

 ラウラにしては珍しいな」

「私だって!

 一緒に行きたいことはある……のです」

「『私だって』ねえ……。

 前は目の敵にされていたのにな」

「それは、私と戦ってくれないから……です。

 今は……いろいろな喜びを知った……ました。

 今は、こんなこともできる……できます」

 スカートをたくし上げると、そこにあるはずの下着が無かった。


 そりゃ、ガーターベルトにノーパンなんて、なんかエロいが、そんな行動をさせる気はさらさらないぞと……。


 俺が驚いているのを見てラウラが笑う。

「私は剣では勝てませんが、行動で驚かすことはできそうだ……です」


 そんなギャップは要らないし、主人がそんな趣味だと思われるのもなぁ。

 ラウラは剣でいいよ。


「とりあえず下着を着て欲しいんだが……」

「わかりました」

 そう言うと、わざと見えるようにスカートをたくし上げ、下着を着けるラウラが居た。

「うっ上も……」

 モジモジしながら……。


 ラウラ、どうした?

 どこに行くつもりだ?


 誰かが来る気配がする。

 俺はラウラの手を引っ張り応接室に入った。


「あのなぁ、それじゃ誰かに見られるだろう?」

「旦那様に見られるために準備をしておく。

 それはメイドとして重要とマール様が……」


 まさか、あいつも……。

 ふつうは着てなくて、俺の部屋来る時に着てる?


「俺は大事なものを人に見せたくない。

 だから、下着ぐらいは着て人に見られる確率を極力下げておくこと。」

 でないと、ラウラを連れて出られない。

「わかった……わかりました」

 そう言うと見たことのある上半身を晒し、上も着るラウラが居た。

 そのあと、

「少しだけ抱っこです」

 ラウラが抱きついてきた。


 甘えるラウラ。

 こういうギャップはいいかな。

 白銀の鎧を着て凛とする姿のほうが印象に残る俺にとって、嬉しそうに抱き着くラウラが好印象だ。


 しばらく思うように抱き着かせた後、盛大に出遅れたがラウラを連れロルフ商会へ向かった。

 ラウラは三歩後ろぐらいをついてくる。

「こんにちは」

 ロルフ商会に顔を出すと、

「これはこれは……」

 とロルフさんが現れた。

 そして、

「どうぞこちらへ……」

 と応接室に通された。


「して、今日はどのようなご用件で?」

「農具を買いたいんだ。

 手に入るなら、この商会で。

 入らないのなら、売ってくれる人を紹介してもらいたい」

「それで、その農具とは」

「プラウと言う、土を起こす道具。

 聞いた話では奴隷に引かせるようになっているらしいんだ」

 ロルフさんは顎に手を当て……。

「手には入りますが、あまりいい道具ではありません。

 重いせいで奴隷の人数が必要であり、また過酷な労働にもなります。

 マサヨシ様はそのような奴隷の扱い方はしないと思っておりますが……」

 と、あまりいい顔をしない。

 実際に奴隷が使う姿を見たのかもしれない。

「奴隷になんて引かせないよ。

 フォレストカウに引かせるんだ。

 メスは乳を出すから放牧でいいんだが、オスは草を食んでいるだけではね……。

 メルヌに居るフォレストカウの中にはオス牛も居る。

 だから、そいつらに頑張ってもらおうかと思っているんだ」

「魔物に引かせるのですか?

 確かに力のある魔物であれば、あの大きなプラウを引いても苦にはならないでしょう」

 ウンウンと頷くロルフさん。

「そしてフォレストカウは労働の対価として食事と世話をしてもらう。

 フォレストカウには『人には手を出さない』という制約をつけておけば、フォレストカウから人に手を出すような事故もないだろうしね。

 村に何頭か居て貴重な労働力として順番に使っていれば、田畑を耕すのが楽になるし、村人はフォレストカウを大事にするんじゃないかな?

 まあ、とりあえず、ある村で使ってみるよ」

「マサヨシ様ならではの考え方ですね。

 それでしたら、明日までに探しておきましょう。

 確か……商会の倉庫に二つほどあったと思います。

 明日の朝、マサヨシ様のところへお持ちします」

「取りに来ますよ?」

「いいえ、いつも来ていただいていますから」

 こうして、プラウが手に入るのだった。


 帰り道もラウラは後ろからついてくる。

 俺は屋台に立ち寄ると、出来たてのガレットを二つ買って近くにあったベンチに座る。

「ラウラ、隣に座れ」

「私はメイドだ……ですから……」

「主人が言っているんだぞ?」

「かしこまりました」

 ラウラが俺の横に座った。

「ほい」

「えっ?」

 と言いながらラウラがガレットのようなものを受け取った。

「買い食い。

 嫌か?」

「したことが無かった。

 私は小さなころから家で剣の訓練。

 学校へ上がると、学校と屋敷の往復。

 それが当たり前だったから……」

「これもラウラの初めてだな。

 あっ、この前もう一個貰ったけどね」

 ラウラの耳がぶわっと赤くなる。

 そして、

「私は……貰ってもらえて……良かった……です」

 俯き赤くなりながらラウラが言った。

 未だに男言葉が表に出るラウラ。


「そうだなぁ、今はメイドのラウラよりも騎士のラウラのほうがいいかも。

 そのほうがラウラが楽そうだ」

「えっ?」

「今は、俺と二人だけでしょうに?」

「わかった」

 ラウラがニッコリ笑う。

「買い食いって楽しいだろ?」

「ああ……」

「ちなみにこのガレットは味が薄くてこのままでは美味しくない。

 そこで、蜂蜜とバターの登場」

 ラウラのガレットに蜂蜜をかけ、その上からバターをのせる。

「ガブっと食ってみな」

 ラウラは大きな口を開けてかぶりつく。

 そして、口を閉じると固まった。

「美味いだろ?」

 コクコクと頷く。

 そして、俺も同じことをして食べた。


 出来立てだから美味いねぇ。



 二人ともガレットを食べ終わると。

「いいな、買い食い」

 とラウラがニコリと笑った。

「ん、その笑顔イイね。

 ラウラはあまり笑わないから。

 それが俺のご褒美かな」

 ラウラの頬に蜂蜜が付いている。

「あと、これももらっとく」

 人差し指でラウラの頬についた蜂蜜をとると、口に入れた。


 俺、向こうでもこんな事しなかったんだけどねぇ。

 若返っているのかね。

 ちょっと恥ずかしい。


 やった後に少し後悔する俺。

 気づいたのかラウラがくすくすと笑う。

「私はマサヨシ殿で良かった。

 別の誰かだったら、屋敷の中と騎士団の往復……まだそれならいいが、下手すれば一人屋敷の中に閉じ込められるだけだったかもしれない。

 新しいこと、新しい考え方、私の知らないことを知っている」

「んー、それは俺が……」

「別の世界から来ているから……と言いたいのであろうが、それは違うぞ?

 別の世界にも一つの場所に押し込めようとするものは居るだろう。

 だから、マサヨシ殿で良かったとつくづく思うのだ」

 そしてラウラは少し考えた後、

「マサヨシ殿。

 騎士の私と、メイドの私、どちらがいい」

「そうだなあ。

 それこそ、ラウラが好きだ

 だから、どっちもだな」

「それは……嬉しい。

 そして、恥ずかしい……ぞ」

 俯いてニヤニヤしているラウラが居た。



読んでいただきありがとうございます。

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