第128話 塩づくり。
屋敷の庭で持ち帰った海水を収納カバンから出すと、
「何をするのだ?」
後ろから眺めていたリードラが俺に聞いてきた。
「塩を作るんだよ。
さっきリードラは海で体を洗っただろ?
ベタベタしないか?」
「そうなのだ。
屋敷の水と違ってベタベタするのだ。
しょっぱいしのう」
「海水の中には塩が混じっている。
塩以外にも色々とね。
それが乾燥してリードラの体に着いたって訳だ。
ちょっと風呂に入ってくればいい」
「嫌だのう。
主と一緒に入る」
「我慢できるならそれでいいよ」
俺はリードラの言葉をさらりと流して、
「まあ、そういうことで、塩を作ります」
と言った。
「見ていていいかの?」
「ああ、いいよ」
さてと……。
本来は過熱して水分を飛ばせばいいのだが、そこはそう……マナの登場である。
「マナ、手伝ってもらえるかな?」
俺がそう言うと、マナが現れる。
「何をすればいい?」
「このツボの中の海水から、真水だけを抜いて欲しい」
「これから水を抜けばいいのね」
「徐々にな」
「わかった」
大なべから直径十センチほどの水球が浮かび上がり、庭に向かって飛んで行った。
しばらくして鍋に残った海水を舐めると、確かに濃くなっているのがわかる。。
そのうち鍋の底に白い結晶が現れた。
更に水分が減り、底に少々の液体が残るようになると、
「もういいよ」
とマナに指示をする。
ボールに塩の結晶をとりわけ、大鍋の底に残った液体は別の瓶に入れた。
これで、にがりは手に入った。
あとで使ってみるかな?
「それだけしかできんのか?」
リードラが驚きながら聞いてきた。
「海水って結構しょっぱいけど、実際に塩になるのはほんの少しなんだ。
だから、こんなもんだ。
俺が知っている方法だと、鍋を火にかけて蒸発させる。
そんなことしたら大量の薪が必要になるんだが、俺の場合はマナが居るからな」
「私は役立つ女」
マナが胸を張った。
まあ、本来は太陽光なんかを上手く使って塩分濃度を上げておくんだけどね。
「マナ、こっちの水分は飛ばしていいぞ」
俺は塩の結晶のほうを指差す。
すると、結晶が目に見えてサラサラになるのがわかった。
塩を摘み、舐めてみる。
しょっぱ過ぎずミネラル豊富って感じだな。
まあ、勝手に俺が思っているだけだがね。
「リードラ、フィナを呼んできてくれないか?」
「心得た」
と言って、リードラは調理場へ向かった。
暫くすると、リードラはフィナを伴って戻ってくる。
「お呼びでしょうか?」
嬉しいのか尻尾がブンブン振れていた。
「塩を作ってみた。
味を見てもらえるか?」
フィナは少し摘まんで舐める。
「あっ、いいですねコレ。
岩塩のような刺すような塩辛さじゃないです。
何かまるい感じでしょうか。
余計なものが入っているけども丁度いいというか……。
粉状であるのもいいですね。
使いやすいです」
塩自体はオウルでも手に入る。
ただし岩塩。
硬い岩塩をフィナがハンマーで砕いているのを見た。
このほうが使いやすいのだろう。
そして、気になる事。
昔は塩の売価が高いと聞いていた。
どんな感じなのだろう……。
「フィナ、塩って高い?」
俺は聞いてみた。
「そうですね、このくらいの量で銀貨三枚でしょうか……」
出来上がった塩の量は一キロあるなしである。
俺イメージで銀貨一枚が一万円だから三万円か……。
前の世界で塩と言えば一キロ二百円ぐらいだろうか。
まあ、塩田で作ったり海洋深層水を使ったり、岩塩を掘り出したりなどいろいろ手間がかかればまた違う。
にしても高いのは間違いないね。
フィナが調理場から赤く熟れたトマトのような野菜を切って持ってきた。
俺も初めて見る。
「最近市場で見つけたモドーロという野菜です。
すっぱ甘いので、この塩に合うかと……」
塩をかけて食べると、まんまトマトだった。
フィナ曰く「まるい塩?」がよく合う。
「これなら野菜嫌いの我でも食べられるな」
モドーロを一つ摘まんでリードラが食べていた。
その日のスープの味が変わる。
「何か変わったのか?」
不思議がる義父さんに、
「調理方法は変わりませんが、マサヨシ様が作った塩を入れただけです。
塩が変わるだけでこんなに変わるんですね」
と、フィナが説明をする。
「今度は塩とはな。
この王国の塩は他国からの輸入だ。
だから高い。
この辺に岩塩鉱山でもあればいいのだがな……」
「これは海水から作った塩で、今のままだと生産効率は悪いんですよ。
岩塩鉱山がポルテ伯爵家の森の中にでもあればいいのですが……。
まあ、いろいろ方法を考えてみます」
調味料が一つ変われば味が変わる。
やっぱりいろいろ向こうの調味料が必要?
そんな事を考えながらの食事になるのだった。
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