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第125話 御前試合の結果と後始末。

 マティアス王主催の御前試合。

 観客席には俺に手を振るイングリッドと、ふてくされたランヴァルド王。

 出場者の中になぜかアイナ。 

「自分の力を知りたい」と言う事らしい。


 マティアス王の身内枠ですか?

 目立つんじゃね?


 アイナは準決勝で前年度の優勝者であるヘルゲ様を瞬殺した。

 歓声が上がる。

 結局、決勝は俺とアイナの戦いとなり、俺の勝ちになった。

 さも当然と言うように笑うイングリッドに、やはり機嫌が悪いランヴァルド王。

 マットソン子爵の下に優勝者と準優勝者が出ることとなり、マットソン子爵家の名が轟いたようだ。

「優勝者はゼファードのダンジョンを制覇したマサヨシ・マットソン」

 ざわざわと観客が騒ぐ。

「そして、その婚約者であるアイナ」

 マティアス王がアイナを紹介すると、

 アイナはマティアス王とハイタッチをしていた。

「誰だあの少女は?」

 と言う声が聞こえる。


 マティアス王、アイナ、アンタら仲が良すぎない?


「マサヨシ殿は、幼子が好みなのか?」

「ああ云う娘を差し出せば、あの者が私の下に付くかもしれんのだな」

 と訳のわからない言葉が聞こえる。


 勘違いも甚だしい。

 ちゃんと年齢相応です。


「王よ……。

 確かに正しいのですが、ちょっと紹介の方法があってもいいのではないですか?」

「いいではないか、余興だ。

 アイナが『出場したい』と言っておるとクラウスから聞いてな。

 私がねじ込んだのだ」


 表立っては言わないが親バカである。


「まさか、最後に当たるようにしたのも?」

「当たり前であろう、我が娘が勝つ姿を見たいのだ、その回数は多い方がいい。

 つまり、お前と最後に当たるようにせねばならんかった訳だ」


 やっぱり親バカである。

 普通に「我が娘」って言ってるしなぁ。

 あんまり目立たせないようにして欲しいんだがなぁ。

 結果、今回の事で表に出過ぎたような気がする。

 そう、アイナはマティアス王の娘なのだ。



 次の日の朝、少し早めに庭に出ると、見たことのあるフードを被った曲者たちが糸のオブジェになっていた。

「ギ、ギ、ギ」

 とシルクワームの幼虫たちがやってくる。


 若干ドヤ顔っぽいのは、褒めて欲しいからかな?


 頭を撫でてやるとシルクワームたちは庭の警備にのそのそと去っていった。

 そのあと、ブーンと言う羽音とともに、ハニービーの女王蜂が現れる。

 そして頭を下げて去っていった。


「お久しぶり、大変だねえアンタらも」

 メルヌの街で石のオブジェになっていた者たち。

 ハニービーの毒針で痺れているのか、何もできない。

 麻痺を解いてやると、

「くっ、殺せ!」

 悔し気に俺を睨む曲者たち。


 オッサンの「くっころ」聞いてもなぁ……。


「えーっと、ノルドマン公爵が指示したの?

 確か、娘さんが妊娠したんだよね。

 アイナがマティアス王と聖女の娘で、それが表立っては困るのは、今娘が妊娠している、ノルドマン公爵ぐらいだと思うんだけど」

「…………」

 曲者たちは口をつぐんだ。


「手伝いましょうか?」

 マナが現れる。

「炎を使えば、催眠状態にすることができますが……」

「炎?」

「ええ、炎の揺らぎは催眠効果を与えます」


 そう言えばスプリ〇ンでそんな能力のある悪役が居たなぁ。


「できる?」

(ぬし)よ、簡単です」

 スッとマナが曲者たちの前に出ると、ゆらゆらと揺れる炎を各人の目前に出した。

 どのようにしているのかはわからないが、曲者たちは瞬きができない。

 そして、曲者たちがゆらゆらと揺れ始める。

 一人また一人と目の焦点が合わなくなり、揺れが止まった。

「はい、できました」

 ニッと笑ったあと、マナが俺の中に入ってきた。


「で、誰に頼まれた?」

「バロー子爵」

 ぽつりと一人の男が呟いた。


 聞いたことが無いね。


「そのバロー子爵が、何でこの屋敷を襲う」

「私たちは、言われた通りにするだけ。

 理由はわからない。

 この屋敷に居るアイナという娘を『攫うまたは殺す』と指示を受けた」

「ふむ……」


「殺す」も入っているのか……。


「御前試合で準優勝の娘。

 我々ではアイナという娘を倒すのが精いっぱいだろう」


 俺の雰囲気が変わったのか、『ヴン』と羽音が変わり、ハニービーたちが俺を見た。

「どうしたのか?」とヘコヘコ動いてシルクワームの幼虫も現れる。

「バロー子爵はどこにいる」

「この先の屋敷。

 我々の報告を待っているはず」


 ふむ……。


 更に雰囲気が変わったのに気付いたのか、クリス、リードラ、アイナ、マール、更にはタロスや義父さん、ラウラが現れる。

「どうしたのだ?」

 義父さんは俺の前に転がる曲者のオブジェたちを見て、

「ふむ、やはり目立ちすぎたかな?」

 と呟いた。

「でしょうね」

 俺も言った。

「しかし、なぜ、アイナは御前試合に出場を?」

「自分の強さを知りたかったのもあるし、ちょっとしたイタズラ。

 かつて街に放り出した娘が王の下で仲良く居る。

 それだけで、向こうは気が気じゃないとおもう」

 というアイナ。

「お前が聖女の娘であるという話は誰から?」

「お爺様から」

 苦笑いで義父さんが頭を掻いていた。

「義父さん!」

「自分の出生の秘密ぐらいは知っておいても良かろう」

 義父さんが言う。

「私だって知りたい!

 マサヨシが何か隠しているのは知っていたから

 だから、私もイタズラがしたかったの。

『あなたが殺そうとした娘が王の下でほほ笑んでいます』って……。

 でも、そんなことするって言ったらマサヨシは『ダメだって』言うでしょう?」

「そりゃ言うさ。

 わざわざ殺される可能性が高くなるようなことはしなくてもいい」

「じゃあ、何で私をダンジョンに誘ったの?

 強くなってほしかったからじゃないの?

 マサヨシが居なくてもやっていけるようにしたかったんじゃないの?」

 真剣なまなざしでアイナが聞いてきた。

「それはな、強くなってほしかったのはあるが、正確には近くに居てもらうために強くなってほしかった?

 戦いの場で俺の近くに居てもらうためには、強くなってもらわないと困る。

 要は俺のわがままだ」

「えっ、一緒に居たいから?」

「俺は一緒に居たかった。

 だから、誘った。

 それでアイナが強くなった。

 その流れだな」

「でも、小さな子は抱かない」

 アイナはちょっと拗ねる。

「それはちょっと違うだろう?

 アイナを抱かないのは俺の倫理観だよ。

 だからフィナも抱いていないだろ?

 心配するな小さくてもアイナは俺の婚約者様だよ」

 そう言ってアイナの頭を撫でると、

「ほら、子ども扱い」

 と言って、更に拗ねられた。


 こういう時はどうすれば……。


「さて、アイナは表舞台に出さないって言っておいて、アレだからなぁ。

 ノルドマン公爵は今妊娠している娘が男を産まなければ、次代の王の爺さんにはなれない。

 王がアイナを認知した場合だという条件は付くが……。

 気が気じゃないだろうね。

 すでにアイナは武において、表立った成果を得た。

 前年度の優勝者を倒したからね」

 俺は話しをすり替える。


 ズルいなぁ……俺。


 そして、

「あとは、内政において成果を出し、他の貴族から慕われるようになればアイナに王女という道ができる可能性があるかもしれない。

 母親が聖女と呼ばれた女性であることも表に出せばより確実だろう」

 と俺は一つの道を言った。

「マサヨシはどうしてほしい?」

 アイナが聞いてきた。

「さっきも言っただろ?

 正直、アイナは俺の傍に居て欲しいかな。

 皆と一緒に姉妹のようにね」

 アイナは周囲を見回す。

 皆が微笑んでいた。

 すると、

「もうイタズラは終わったの。

 私はみんなとマサヨシの隣に居る

 だから、ごめんなさい」

 そう言ってアイナは頭を下げるのだった。

「ふむ、手配をしようとすればできるのだがな。

 プリシラも『奴隷出身の女王って面白そうね』と言っておった」

 義父さんが悪い顔で笑う。


 プリシラ様にも言ったのか……。


「政争に参加させるつもりはありませんよ。

 どうしてもアイナがそれを望むというのなら考えはしますが……」

「儂も孫のようなアイナに頼まれては断れなくてな……」

「義父さん、そういう事は私も混ぜてもらわないと……。

 エントリーにアイナが居た時点でおかしいとは思いましたが……」

「マティアス王も乗り気になってしまってな……。

『まあ、ごたごたがあっても面白かろう』という事で結局決まったのだ」


 爺バカ、親バカのせいってわけね……。


「で、この結果と……」

 俺はオブジェになった曲者を見下ろす。

「バロー子爵とは何者で?」

「ノルドマン公爵の子飼いの貴族だな。

 いい仕事、悪い仕事、いろいろな仕事をしていると聞く」

 義父さんが言った。

「要は、面倒を請け負うって感じですか……。

 アイナに手を出させないためにはどうすれば得策でしょう?」

「それは、恐怖を刻み付ければよい。

 戦場では当たり前のことだ。

 儂がたった一騎で千の兵士の相手をするのなら、最初の一人をむごたらしく殺す。

 一瞬で首を飛ばし、四肢を飛ばし、剣先に手足首のなくなった兵を刺して投げつける。

 その様を見れば、数で優っていても自分が死ぬかもしれないという恐怖が沸き上がる。

 恐怖は体をこわばらせ、動けなくなる。

 儂は知らんが、お前ならそれに近い殺し方を知っているのではないか?」

 義父さんは俺をチラリと見る。

「まあ、それに近いことはできますね」


 数日後、寝室でバロー子爵の死体が見つかったらしい。

 ただ眉間に穴が開き後頭部が爆発したようになっていたという事だ。

 誰が殺したという捜査が行われているようだが、さて犯人は見つかるのかね?



 朝起きると、マールは既に目を覚まし、髪をまとめ上げているところだった。

「旦那様、昨日は激しすぎです」

「正直人の顔を見ながら人を殺したのは初めてだったんだ。

 それから逃げるのに、マールに甘えてしまった。

 申し訳ない」


 俺は炎の風の件で、酸欠で人を殺したことがある。

 その時は魔法を使ったら死んでいた。

 目の前で魔物ではなく人の頭が爆ぜる姿を見るのは初めてだった。

 マールに謝りながら罪悪感が襲う。


 マールは優しく笑い、

「旦那様、頭もボサボサ、服もぐしゃぐしゃではいけません。

 私が整えてあげます」

 そう言って、わざとなのだろう……マールは俺の顔を胸に押し付けた。

「アイナちゃんのためによく頑張りました」

 ゆっくりとマールが俺の頭を撫でる。


 女性に撫でられるのは久しぶりだ。


「人を殺すって、やっぱ、やりたくないね。

 でも、そうして皆を守るのも当主なんだろうね」

「私に命じてもらえば、やりますよ?

 全てを背負う必要はありません」

 マールが優しい声で言う。

「んー、でも、できることから逃げるのも嫌だな。

 俺ができる間は俺がするよ。

 さて、ノルドマン公爵がこの後どう動くか。

 俺がやった証拠はなくとも、俺がやっただろうとは思っているだろうからね」

 そう言い終わると、

「はい、できました」

 寝癖一つなく、ビシッとしたスーツを着た俺が出来上がっていた。

「ご褒美をもらいますね」

 そう言って唇を重ねるマール。

 そして離れる時に、

「さあ、今日も頑張りましょう!」

 とマールに急かされるように言われ、部屋を出る俺と後ろで扉を閉めるマールが居た。


読んでいただきありがとうございます。

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