第12話 漢(おとこ)の武器はやっぱリアレなんです。
朝起きて収納カバンを確認する。
炎の風から分捕った武器の中にオリハルコンのチェーンフレイルなる武器があった。
急いで宝箱ごと収納カバンに仕舞ったせいで、確認していなかったのだ。
何じゃこりゃ?
収納カバンからそれを出すと、床からゴトリと重そうな音がした。
現れたチェーンフレイルを見て俺は愕然とする。
これって、〇ンダムハンマー?
チェーンの両端にバスケットボール大の金のような金属球と取っ手が付いていた。
金属球にも持ち手があり、金属球そのものをパンチのように叩きこめるようになっている。
ん?数か所の穴。
まさか……。
この世界なら起動は魔力か……。
金属球に魔力を通すと、
「ブシュー」
という音と共に金属球から気体が出て体が引っ張られた。
これ、投げつけたあと加速できる
俺は、そのチェーンフレイルを持ち感触を確かめる。
漢を感じる質量兵器。
「うわっ、何の音?」
裸のクリスが起き上がる。
魔力を通した時に出た気体の音で目を覚ましたようだ。
俺を見つけると、
「何してんの?」
と聞いてきた。
「ん?収納カバンを覗いてた」
「何でニヤニヤ?」
クリスが不思議そうに聞く。
顔に出ていたようだ。
「ああ『珍しい武器があるなあ』とね。チェーンフレイルだって」
「チェーンフレイルって本来は棒の先に小さめの鉄球が付いているやつでしょ?これじゃチェーンだけだし、見た感じオリハルコンなんでしょ?重すぎて振れないんじゃない?」
そうは言われたが俺はチェーンフレイルを軽々と持ち上げる。
諦めたような顔で、
「あっ、ごめん。マサヨシはバケモノだった」
とクリスは言った。
「躊躇せずにバケモノ認定するのはやめて欲しいな」
ボソリと言う俺。
「だって、バケモノじゃない。
普通はその重さは簡単に動かせないのよ?
オリハルコンって同じ量の鉄の倍の重さがあると言われているわ」
「ふむ……それを軽々とか……。俺、向こうじゃ少々動いただけでも息切れしてたんだがねぇ」
前の世界の俺を思い出し、天井を見上げながら言った。
「でも、その力で私を助けてくれたでしょ?
優しいバケモノさん」
優しい声でクリスが近寄る。
「偶然そこに居ただけだろ?」
「あなたには偶然……でも私には違う……運命。
そこまでじゃないかもしれないけど、そう思ってもいいじゃない」
そう言って抱き付いてきた。
目を逸らし天井を見る俺。
んー、ムズ痒い。
この場を誤魔化したい。
そこで、
「んー、この武器を使ってみたいんだが……」
と抱き付くクリスを見下ろして言ってみた。
「それを?
だったら、冒険者ギルドでしょ?
依頼を受けて魔物と戦ってみたら?」
それで今日の動きが決まるのだった。
木漏れ日亭で朝食を終えると、クリスの意見に従い冒険者ギルドに行って依頼票のある掲示板を見た。
「これなんてどう?」
クリスが指差したのは、これまた留守番をして茶色くなったオーク討伐。
食料を得るために、人そのものや馬車を襲っているらしい。
「ちょっと遠いけど、私たちには十分でしょ?」
俺の知識では身長二メートル程度。
豚の頭に人の体。
手や足は人に準じていたような気がする。
「負けたら犯されたりするんだろ?」
ラノベ情報を聞いてみた。
「そうね、そうなるでしょうね。でもあなたなら何とかするでしょ?」
「そのつもりだけど……でも、クリスは留守番かなぁ。
五十頭程度のオークって言うのが何頭になってるかわからないじゃない?
おれは、クリスがそういうふうになるのを見たくないぞ?
それに、子を作りたいって言うなら俺の嫁さんになるってことだろ?
家を守るのも嫁さんの仕事の一つだと思うがね」
「うー……」
「待っててくれるかな?」
俺はできるだけ落ち着いた声で、クリスに言った。
「わかった、待ってる」
「よしよし、ありがとな」
頭を撫でると目を細めて気持ちよさそうにするクリスだった。
「リムルさん、これをお願いします。あと、その場所までの簡単な地図を」
依頼票を受付に差し出す。
「Bランク……また複数パーティー用の依頼じゃないですか」
「ダメでしょうか?」
「ダメではありません。
でもマサヨシ様は規格外ですから許可を出したいのはやまやまなんすが、一応ギルドマスターに聞いてきます」
いつの間に「規格外」認定。
クリスの「バケモノ」認定と一緒か……。
「ギルドマスターに聞いたら『許可出しとけ』ってことなので、出しますね」
リムルさんは羽ペンをサラサラと走らせ、依頼票の受付を始める。
「リムルさん、オークを倒した証拠はどうしたら?」
「討伐部位は鼻になります。
他にも皮は低級の鎧の材料。
そして、オークの肉は美味しいので珍重されます。
この前のように持ってきてもらえればギルドで高く買い取りますよ?」
ふむ、オークは全部持って帰ればいいのか……
「それではお気をつけて」
の声と共に依頼票と地図を渡された。
「それじゃ、行ってくる」
俺が言うと、
「私は木漏れ日亭で待っているわね」
というクリス。
待ってくれている人かぁ。
久々だ。
よし、頑張ろ。
ギルドを出ると、二人は別れ、俺は門へとクリスは木漏れ日亭へと向かうのだった。
俺は門を出て高速移動でオークが居るという森の中へ向かう。
あえて中腰……体形といい、色といい、ド〇だ。
レーダーにオークを表示させると、レンジの外に多くの光が現れた。
近づくと全体の数がわかってくる。
依頼票じゃ五十ほどだったはずだよな……。
見ると百を優に超える数の光点である。
俺は高速移動をやめ、徒歩でオークの光点の塊に近づいた。
遠くに見える豚の頭の人型の魔物。
俺の知っているオークで良かったようだ。
体形に親近感を持つのはご愛敬。
俺はチェーンフレイルを収納カバンから出し、両手に持った。
あっ、俺、この背広以外装備無いぞ?
炎の風の戦利品の中の黒衣のローブというものを取り出し羽織った。
ローブのくせに一番能力が高かったからだ。
チェーンフレイルを実際に振り回してみると、体の質量とフレイルの質量が合っていないようで振り回される。
それでもしばらくまわしていると、重心を上手く変えることで扱えるようになった。。
そのあと、直径一メートルはありそうな木の幹に向かって金属球を投げ、魔力で鉄球を加速させ実際に当ててみる。
すると、幹が爆ぜ大きな音を立てて木が倒れた。
おお、高威力。
木が倒れる音を聞こえたのか、オークが四頭現場に近寄ってきた。
確認しに来たようだ。
首を傾げるオークたち。
首を傾げられるのもなぁ……。
向こうにとって俺は小さなオークに見えた?
俺はフレイルを回し始める。
不思議そうにそれを見守るオークたち。
先頭のオークの腹に金属球を投げつけると、腹を突き抜け、後ろに居るオークまで倒した。
残ったオークたちは俺を見て驚愕する。
俺を殺そうというのだろう。
残ったオークは数瞬止まると、仲間を殺された怒りに任せ、こん棒を振り上げ走ってきた。
力任せに鉄球のチェーンを振ると、チェーンの勢いで一頭のオークが胴で真っ二つになり内臓をぶち蒔いて倒れた。
これじゃ、クリスがバケモノだって言うのも頷けるよなぁ……。
強引に力に任せて振り回してもオリハルコン製のチェーンも球もそれに耐えた。
鉄球そのものを持ち最後のオークの足に叩きつけると血しぶきが舞う。
足の肉がグチャグチャになったようだ。
動けず足を押さえるオークの頭に鉄球を叩きつけた。
確認しに来た最後のオークは鉄球そのものを頭に投げつけると、あまりの威力からか花火のように爆散した。
俺この世界になじんできたのかね?
大分変ってきてるよなぁ。
キル数で性格変わるのかなぁ。
最初は吐き気を催していた俺。
今は当たり前のように盗賊を殺し、魔物を狩るようになった俺。
そんな事を考えたが、
「んー、仕事仕事」
俺は呟きながら残る集団に向かって歩く。
血まみれの俺を見つけると、次々とオークたちが群がってくる。
回すのも良しだが鉄球を手に持ち叩きつけるほうが強いね。
鉄球の加速を利用すると、移動もできた。
どのくらい時間が経ったか、周りに居るオークが数頭になったころ、通常の三倍以上の大きさは有りそうなオークが現れた。
三倍だから角は……付いていないか……。
ここのボスなんだろうなあ……。
でもこの大きさって、異常じゃない?
苦笑いの俺。
小柄な俺(オーク?)に蹂躙された部下のオークたちを見て、オークのボスは激昂していた。
手には鞘から抜いたうっすらと青く輝く二メートル近くありそうな剣。
体が大きいため、比率的にはショートソードにしか見えない。
オークのボスは走り寄り上段から剣を振り下ろした。
俺はそれを金属球で受ける。
「ベコン!」
という音と共に俺の足が足首まで地面に埋まった。
ニヤリと笑っていたオークのボスに焦りが見える。
受けられるとは思っていなかったのだろう。
俺は持ち手側を振り回しオークのボスの右足に絡めると全力でチェーンを引く。
すると、チェーンが足を締め付けそのまま足を切断してしまった。
そしてグズグズになった切断面から血が噴き出す。
「グワアアアアア……」
痛みによる叫び声。
体重を支えられなくなった足。
足の無い方へオークのボスが倒れる。
その頭に金属球を叩きこむと、ベコリと音がして金属球が埋まり、目から生気が消えた。
頭から血が噴き出す。
周囲に何頭かのオークは居るようだが、散り散りに逃げて行くのが確認できた。
オークの体を収納カバンに仕舞う。
オークのボスの剣も仕舞った。
そのあと、オークたちが居たあたりに行くと魔物の骨に混じり馬や人だったと思われるものの骨が転がっていた。
何か残っていないかと、周囲の金貨でレーダーに標示させると、原形が残っていた数台の馬車に光点が現れる。
これじゃ火事場泥棒だな。
カッコわる……。
馬車の御者台の下に隠し箱のような物がありそこに貨幣が詰まっていた。
ある高価そうな馬車の御者台の下からは金貨とマットソン子爵宛と書いてある蝋印がされた手紙が見つかる。
一応回収しておくか……。
それを回収すると、周囲には何も表示されなくなった。
空を見ると日が沈みそうだ。
意外と時間がかかったな……。
俺は扉を出しそのまま木漏れ日亭に向かうと、カウンターで座っているクリスがいた。
「あっ、マサヨシ」
俺を見つけると嬉しそうに笑う。
「ただいま、クリス」
「凄く汚れてるけど、大丈夫?」
そう言って椅子から降りてきた。
「ああ、大丈夫だ。汚れだけだ」
「依頼は?」
「終わった」
すると、ルーザさんが出てきて、
「クリスさんはね、日が傾き始めてからずっとここで待っていたの。可愛いわね」
目を細めて笑いながら言った。
「おっ女将さん。それは言わないでよ」
赤くなるクリス。
「ありがとな」
とクリスの頭を撫でたあと、
「さて、俺は部屋に戻って着替えるか」
俺が部屋に向かうと、クリスも俺に付いてきた。
ローブを取ると
「貸して」
と言ってクリスが受け取りハンガーにかける。
スーツ、ワイシャツもクリスに渡した。
そして皮靴を脱ぐ。
足がひんやりして気持ちいい。
ただ、革靴はオークのボスの剣を受けたせいで少し痛んでいた。
この服も洗わないとな……。
靴の予備も要るか……。
俺はハンガーからローブ、スーツ、ワイシャツを取ると洗濯機をイメージして水と共に洗う
洗剤は無いから水洗いのみか……。
超音波洗浄って使えるかね。
汚れた水は風呂場の排水溝に捨てる。
何度か洗うと水は綺麗になった。
一応スーツも水洗い可能な物だ。
暫くは大丈夫だろう。
その後温風で乾燥させ、ワイシャツはプレスをイメージしてシワをとる。
一連の流れを見ていたクリスがびっくりしていた。
風呂に入るために下着を脱ぐが、完全な一張羅。
下着買わないとなぁ……。
これも洗って乾かしておいた。。
風呂から出ると、炎の風の戦利品から適当なズボンとシャツを探す。
すると「サイズ調整」という魔法がかかったズボンとシャツ、そして靴を見つけた。
なんだそりゃ?
収納カバンから取り出してみると、
どう見ても痩せ体形の服。
服は大きければ何とかなるが、小さければ破れるだけだ。
「んー、これじゃ俺に合わない。
でも『サイズ調整』って何?」
すると後ろからクリスが近寄ってきて、肩越しにズボンとシャツを見た。
「マサヨシ、この服高いわよ?
軽く魔法がかかっているわ。
サイズ調整の魔法ね」
「サイズ調整の魔法?」
俺は聞いてみた。
「ええ、鎧とかでもいちいちその人に合わせて作らなきゃいけないでしょ?
でも何代も使おうと思ったらサイズ調整の魔法をかけておくの。
そうすれば当代の者に合った大きさに変わる。
シャツやズボンにその魔法をかけるぐらいだから、結構なお金持ちの人の物だったようね」
「ふむ、それは助かるな」
実際にズボンを履いてみると、合わせたように着心地が良かった。
シャツについても同じだ。
「これ便利だな」
と俺が言うと、
「でも、魔法の付与は難しいのよ?
マサヨシみたいにホイホイ魔道具を作るのはおかしいの。
そのボタンは魔石でできているから、その魔石にサイズ調整の魔法が付与されているんでしょうね」
そんな話をするクリスのほうから「クウ」という可愛い音がした。
真っ赤になるクリス。
腹が鳴ったらしい。
待っている間何も食べていなかったようだ。
心配して食べられなかったと思うのは、思い込み過ぎかな?
「さて、飯を食うか」
「ええ」
そう言って二人で食堂へ向かうのだった。
読んでいただきありがとうございます。




