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第117話 リードラのストレス解消のつもりだったんだが……。

 少し暖かくなったある朝、食事を終えると空を眺めるリードラを見つけた。

「空を飛びたいのう。

 でも、(ぬし)がいいとは言わぬだろうな」

 リードラが呟く。


 いやいや、言うよ。

 「飛ぼう」って。

 そういえばダンジョンばかりで、空を飛ばしてないなぁ。

 別に俺を気にせず空を飛べばいいと思うんだが……。

 リードラ律儀だよなぁ……だったら……


「いいねぇ、どこに行く?」

 俺はリードラの横に立ちそう言った。

「おお、(ぬし)か……」

 リードラが軽く笑う。

「元気が無さそうなんでね」

「元気は今出たぞ?

 (ぬし)が来たからのう。

 (ぬし)が付いてくるのであれば、どこへでも行きたいな……。

 今の(われ)であればどこにでも行ける」

 と、ニコリと笑って言った。

「だったら、イングリッドの故郷、魔族の国ってのはどうだ?」

「面白そうだな」

「だったら私も連れてってよ」

 喜ぶリードラの背後からクリスも現れた。

(ぬし)二人っきりの邪魔をする」

 リードラがクリスを睨む。

「マサヨシと二人っきりにしてなるもんですか」

 睨みあう二人。


 何やってるんだか……。


「じゃあ、三人で行くか?

 リードラ、いいか?」

(ぬし)が言うのだ、仕方ない」

 溜息をついて渋々のリードラ。

 それに対し、

「やた!」

 と、喜ぶクリス。

 クリスもオウルの外に出るのが嬉しいようだ。


 そう言えばオウルとゼファードの往復だったしね。

 馬車を仕立てて皆とどっか行くのもいいかな。


 一応、扉で一度オウルの街を出る。

「マットソン子爵の屋敷からドラゴンが飛び出した」っていう噂が立つのも何か面倒な気がしたからだ。


 

 そういう訳で、俺とクリスはリードラに乗り空の人になっていた。

「街道沿いでよいかの?」

 リードラが聞く。

「街道沿いでいいけど、少し離れたほうがいいだろうな。

 ドラゴンが出たと騒がれてもいけない」

「心得た」

 リードラは街道から距離を離す。

 そして高度を上げた。

「ペンネス、からパルティーモを目指して、そこから魔族領への街道ね。

 途中小さな村もあるけど、街と言えばフォランカ、ガヤニ、ポルタオ、ヒュリケンがあるわ。

 ヒュリケンがオースプリング王国とレーヴェンヒェルム王国の国境の町。

 ついでに、主な街に寄ってみたら?

 イングリッドの帰郷の手伝いをするんでしょ?」

「だったら、魔族の国の王都に行ったほうが早いだろう」

「オセーレね?」

「オセーレと言うのか?

 でもなあ、この時代の旅って言うものも味わってみたいしな

 とりあえず、街の場所を確認しながら中に入りつつ国境まで行くか」

 こうして大体の方針が決まる。



 パルティーモの街から西に飛ぶ。

 途中、小さな村がぽつぽつと見えた。

「村に人影がない。

 リードラに怯えているのかしら?」

 クリスが言うと、

「この高さで音が無ければ人になど姿は見えんよ」

 リードラが返す。


 確かに無音に近いリードラに気づく者は少ないだろう。

 にしても街道にも人が居ない。

 街道である限り昼間は誰かが歩いているはず。


 そのまましばらく飛ぶと、

「人気があるんだな。

 黒山の人だかりだ」

 フォランカが望める位置まで来た。

「あれがフォランカのはずなんだけど……。

 何かおかしいわね」

 

 確かにおかしい。


 外壁に沿って人のようなものが集っている。

 外壁の上に冒険者らしき者が立ち弓を射ている。

 そんなことにかまわず、はしごを持った人らしき者が壁に取り付く。

 弓を射たり、魔法を使ったりする者まで居るようだ。


 戦争か?

 ん……いやなんだありゃ?


 よく見ると小さな魔物

「あっ、悪い、あれ魔物だわ……」

 観光モードの俺はレーダーを出していなかった。

 レーダーでは数が数えられるような状態ではなく、フォランカの街の周りに魔物を表す光点がびっしりだ。


「「気づくのが遅い!」」

 クリスとリードラに怒られる。

「あれはゴブリンね。

 万とは言わないまでも、数千は居る。

 フォランカ自体が大きな街じゃないから外壁も低い。

 あまりもたないんじゃないかしら?」

(ぬし)よ、どうするのだ?」

「まあ、当然助けるって選択なんだろうな」

 俺は頭を掻く。

 そして、

「リードラは上空から離れた場所に居るゴブリンをブレスで焼き殺してくれ。

 俺とクリスは降りて壁の周りのゴブリンを殺す」

 と指示を出した。

「私は?」

 マナがひょいと顔を出した。

「マナは町に降りかかる矢や魔法を無効化してもらえるかな?」

「りょうかーい!」

 そう気の抜けた声で言うと街の上空へマナが飛んで行く。

 すると街に降り注いでいた矢や魔法が何かの壁に当たって弾け飛ぶようになった。



 リードラが速度を落とし低空で飛んだ時に俺とクリスは飛び降りる。

 丁度パルティーモ側の入り口の前。

 木の槌で扉を開けようとするゴブリンたちを切り伏せた。

 俺は左手にマシンガンの魔法、右手に家宝の剣で戦う。

 クリスはファイアーボールと炎獄のレイピアで戦う。

 クリスの精霊が炎の犬となってゴブリンに食らいついているのが見えた。

 遠くでリードラのブレスでできるきのこ雲も見える。

 ブレスのたびに衝撃波が俺たちを襲う。


 リードラは相変わらずすごいな。

 クリスも凄いと思うのだが、そのクリスがかすむ。


 時間が経つにつれゴブリンたちの数が目に見えて少なくなる。

「俺、向こうに行ってくる。

 魔族領側にも入り口はあるんだろ?」

「あるわね。

 わかったわ、この辺はあらかた片付いたから、私一人でも大丈夫」

「任せた」

 そう言うと、全速で反対の入り口へ向かった。


 ありゃ、こっちのほうがやばいじゃない。


 攻城槌のようなものが作られ「ドン」という音がすると、扉が歪むのがわかる。

 蝶番も今にも壊れそうだ。

 上から弓で攻撃するが、ゴブリンの数が多くてあまり意味をなさない。

 持って一撃。

 扉を破壊されるのを見るしかない住人達。

  

 俺は攻城槌に群がるゴブリンにマシンガンの魔法を打ち込むと二十ほどのゴブリンが倒れた。

 少なくなった方のゴブリンが耐えられず、攻城槌を落とし、堕ちた攻城槌が転がったせいで何匹かのゴブリンが潰される。

 フォランカ側は安堵。

 ゴブリン側は落胆。

 一瞬で雰囲気が変わる。

 

 雰囲気を変えた張本人を見て、

「ウォーー!」

 と何かが吠えた。


 ん?

 

 荷車に世紀末覇者が座っていそうな椅子が乗っており、デカいゴブリンが座って俺を睨んでいた。

 俺へ威圧しているのだろう。

 そして、多勢に一人しかいない俺にニヤリと笑うデカいゴブリン。


 この群れのボス?


 何の余裕なのか、ゆっくりと立ち上がると首をゴキゴキ鳴らしながら俺に向かって歩き始めた。


 俺の倍近くはある身長。

 ムキムキの体。

 どうなればこんなデカいゴブリンが出来上がるのやら……。


 椅子の横にあったサイクロプスが持っていそうなこん棒に鉄の鋲が打たれたものを持つ。

 俺は、自分から進み出てそのゴブリンの前に立った。

 俺に矢が放たれる。


 不意打ちらしいな。


 俺は矢をはじいた。

 それを見たデカいゴブリンは俺に向けて走り出す。

 そして、上段からこん棒を叩きこんだ。


「ゲヘヘ」

 デカいゴブリンの低く太い笑い声が聞こえる。


 作戦成功?


「「「ギャハハハハ」」」

 周りに居たゴブリンからも笑い声が聞こえた。

 嘲笑の声。


 勝ち誇ってるねぇ。

 何かムカつくなぁ。


「よいしょっと」

 こん棒を持ち上げたときに、デカいゴブリンは驚愕したようだ。

 そして、周りがしんとする。


 そりゃ潰れているはずの俺がそのまま居たらびっくりだろうなあ……。

 地面には刺さったけど。


 埋まった穴から出て、パンパンとスーツについたほこりを払うと俺はニッと笑った。

 そして左手から魔力多めの一発。

 音も何もしない。

 しかし、デカいゴブリンの眉間にコイン大の穴が開き後方に脳漿が飛び散る。

 デカいゴブリンは膝から崩れるようにして倒れた。


 ゴブリンたちは強いはずのデカいゴブリンが何で倒れたのかわからないのか、じっとデカいゴブリンを見る。

 俺は、イメージしたマシンガンをオートにして魔力の弾をバラまいた。

 ゴブリン達が次々と俺の弾に当たり倒れる。

 そして周囲の仲間が倒れていく様に気づき、ゴブリンたちは逃げ始めた。

 森のほうへ逃げようとするゴブリンたちの前にリードラが舞い降り、ブレスで焼き払う。

 逃げる場所のないゴブリンは次にクリスのところに殺到した。

 しかしクリスも強化されたファイアーボールでゴブリンたちを焼き尽くす。

 数千を三人で虐殺。

 …………そしてゴブリンは居なくなった。

 フォランカの壁の上から唖然として俺たちを見る冒険者。

 扉を開けて出てこようとする者も居るが、蝶番が壊れているせいで出られないようだ。


 フォランカの街から少し離れて俺たちは集まる。

(ぬし)よ、どうする?」

 リードラが聞いてきた。

「んー面倒。

 リードラのことを説明するのもなぁ……。

 先に向かうか」

「さんせーい!」

 クリスが手を上げる。

「そうだな、そのほうが面倒臭くない」

 リードラも同意。

 俺とクリスがリードラの背に乗っていると、

(ぬし)よ、私を忘れないでください」

 と言ってマナが俺の中に入ってきた。


 悪い、忘れてた。


 リードラが舞い上がる。

「さて、次はガヤニの街に行こう」

「心得た」

「しかし、ガヤニの街は大丈夫なのかね?」

 レーダーには魔物の帯。

「そうね、ガヤニの街のほうが人口も多いし、戦える者も居るでしょう。

 元々魔物の居る森の中心だったところだから城壁も高い。

 時間は稼げるでしょう」

 クリスが言った。

「要は急げってことね」

 俺たちは再び街道沿いに飛ぶのだった。



読んでいただきありがとうございます。

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