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第112話 下層を目指そう11(そしてダンジョンマスター)

「マサヨシ様、悲しいですか?」

 マールはは不安げに俺を見る。

 そして、俺の目尻をハンカチで拭った。


 ああ、涙の痕か……。

 俺を心配してくれているようだ。


「そうだなあ、悲しいけど。

 みんなが居るから大丈夫だ」


 空元気でも笑わないとな。


 そう思って口角を上げると、マールが悲しい顔になる。

「空元気……」

「バレたか……。

 でも『みんなが居るから』って言うのは本当だぞ

 だから、大丈夫」

「わかりました。

 でも覚悟しておいてくださいね」

 マールがニコリと笑った。。


 何の覚悟だ?


 疲れた顔をしたアイナ。

「ところでアイナ、お前は大丈夫なのか?」

「ん、大丈夫、魔力を使い過ぎただけだから……。

 しばらく休めば良くなるよ」

「アイナのターンアンデッドのお陰で助かったよ。

 あれが無かったらどうなっていたことか……」

「ターンアンデットは何となく使ったの。

 マサヨシが助かったのなら嬉しい」

 やはり疲れているのだろう、力なく笑う。

「ありがとな」

 俺が頭を撫でるとアイナは目を細めた。



 ドラゴンゾンビの居た場所に立つ寂し気なリードラ。

 手には何か布のような物を持っている。

「悪い、リードラにはミハルが逝くところを見せられなかったな」

 俺が声をかけるとリードラは、

「逝ったかの?」

 と振り向いて言った。

「ああ、逝ったよ」

「そう……。

 でも(われ)にはマサヨシが居るでのう。

 大丈夫」

 目尻に涙が光る。

 しかし、ニッコリと笑うリードラ。


 辛かろうに……。


 そして、

「これが落ちておった」

 とリードラが俯きながら何かを差し出す。

「ホーリードラゴンのローブと魔石だ。

 ローブはいつ会うともわからぬ(ぬし)に会う時のために作っておったのかもしれんのう」

 真っ白でキメ細かな鱗でできたローブ。

 俺が袖を通すとピッタリだった。


 ミハルよメタボな俺の寸法も覚えていたのか……。

 魔石は見たことが無いほど大きなもの。

 一メートル近くあった。


「リードラ、これ貰っていいか?」

 と聞く。

 すると、

母様(ははさま)(ぬし)に作った物じゃろうて、着てやってほしいのだ。

 それにこの魔石は母様の結晶。

 持っていて欲しい。

 必要であれば使ってやってくれ」

 俺が持つのが当然のように言うのだった。

「ありがとう大切にする」

 そう言うと、リードラは俺が持つミハルが作ったホーリードラゴンのローブを愛おし気に触っていた。


 そんなことをしていると、視線が……。

 クリスがモデル立ちで胸を張って立っていた。


 ありゃ?

 怒られるような気がする?


「あなた何やってんの?

 まだダンジョンマスターを倒してないでしょ!」


 やっぱり怒られたか……。


「そうだな、まだ終わってない」

「まさか、アイナにターンアンデッドで倒してもらおうなんて思っていないでしょうね?

 あなたが決着をつけなくてどうするの!」


 俺が決着をつけなきゃ意味が無い……か。


「おう、俺が決着をつける」

 そう言うとクリスを抱きしめた。

「バッ、まっ、何するのよ!」

 クリスは顔を真っ赤にして怒っているが、文句を言った後は黙って抱きしめられていた。

「ん、元気出た。クリスありがとな」

「別にいいわよ、元気が出たなら……」

 クリスがモジモジするのを見て笑ってしまった。

「バカ……」


「じー」

 おっと、残った三人から擬音語が聞こえる。

「「「ずるい!」」」


 ハモらんでも……。


「悪いな、タイミングだ」

 そう言うと俺は聖騎士の剣を持ちダンジョンマスターが居る扉へと向かった。



 ボス部屋の奥にあったダンジョンマスターの扉を開けると、そこには胸と頭だけの骨に黒いローブを着た者……これがリッチなんだろう。

 部屋の片隅には俺の身長をはるかに超える魔石があった。

「お前がここのダンジョンマスターか」

 コクリと頷く。

「死にたくないのか?」

 ブンと横に振り否定した。

「まさか、死にたいのか?」

 すると、

「そう、死にたい、私はこの薄暗いダンジョンでずっと生きてきたのだ。

 もう何千年も……。

 そこにある意思のある魔石……ダンジョンコアとの契約でここに縛られている。

 魔法の研究のことに目がくらみ契約の裏にある縛りに気付かなかったのだ」

 低い声が頭の中に響く。


 おっと、喋れるのか? だったら最初から頼む。

 声帯とかは無さそうだから、直接俺の頭に語り掛けているのだろう。


「ここに居る限り私は死ねない。

 いくら、どんな攻撃を受けても復活できる。

 たとえターンアンデッドで消えたとしても魂がコアの中にあるから……」


 何人かは、ここに来たってことか……。

 あの川を渡ってきたバケモノが俺以外に居たんだろう。


「私は何度でも復活する。

 ダンジョンコアは破壊できない。

 パーティーが数組ここまで来たが、何度も復活する私に摩滅して死んだ。

 もう人を殺したくない。

 だから誰にも負けないドラゴンの屍を私の前に置いたのだ」


 ミハルもいい迷惑だったろうに……。


「わかった、死にたいんだろ?

 何とかしてやる

 ちなみに、お前、メスばっかりがボスだったのは……」

「それは私の趣味だ。

 やはり魔物とはいえ女がいい」


 何か台無しだな。


 俺は収納カバンの中から契約台を出す。


 さて、契約による縛りなら契約を破棄させればいい。

 意志のある魔石がお前を縛り付けているなら、その魔石を俺が縛り付ければいい。


 そしてダンジョンコアへと近づく。

 契約台を持ち俺が魔石に指でユニコーンの紋章を書き始めると、ダンジョンコアは目も眩むほど輝く。

 すると今までにない脱力感が俺を襲う。


 うっわーすげえ……えげつないぐらいに魔力吸われる。

 きっついねコレ。


「ステータスオープン」


 ん?

 おーっと桁違いな勢いで魔力が減っていくのだが……。

 ステータスがおかしい。

 EX-S?

 EXの上?

 夫婦喧嘩で得た魔力で上がったのかね?


 魔力の塊である魔石、更に俺よりデカいダンジョンコアにはそんだけ魔力が必要なのか、格段に上がった魔力がどんどん減っていく。


 さーて、魔力が尽きるのはどっちが先なのやら……。

 しかし、しんどい。


 額から玉のような汗が落ちる。


 ふう、何とか隷属化が終った。

 もう立っているのがやっとだがね……。


 残ってる魔力は五桁程度。

 元々九桁あった魔力がそこまで減ってんだ。

 ほんとギリだったんだろうな。

 これじゃ、俺以外は隷属化できません。

 前の俺でも無理だったみたい。


「お前は俺の奴隷、だから制約をつける。

 それは『俺の言うことを聞くこと』」

 ダンジョンコアが光る。

「リッチとの契約を破棄し魂を解放しろ」

 リッチとダンジョンコアが光りだすと紙のような物が現れ燃え尽きた。

「契約は破棄された、お前の魂はお前のもとに戻った」

 光るものがリッチの胸に灯る。

「ああ、私の魂はココにある」

 自分の胸を指差すリッチ。

「じゃあ、殺すぞ」

 そう言って聖騎士の剣をリッチの胸に深々と差し込むとドラゴンゾンビと同じく光がリッチを包み、光が舞いだした。

「ああ、私の体が崩れていく。

 私の存在が消え、天に召されるのがわかる」


 本当だ……ほとんど残っていなかった体もローブも光になって消えていく。


「ありがとうダンジョンを制覇した者よ……」

 すべての光が消えて無くなると、そのあとに金箱が現れるのだった。



 さてコレどうしようか。


 片隅に鎮座するダンジョンコア。

「とりあえず、お前の名は長いから『コア』って呼ぶ」

 コアが光る。

「つか、『はい』『いいえ』がわからん。

『はい』は一回発光、『いいえ』は二回発光な」

 コアが一回発光、「はい」

「ダンジョンは維持できるか?」

 コアが一回発光、「はい」

「四十階より下を封印できる?」

 コアが一回発光、「はい」

「だったら、四十一階から五十階までは階段を消去し封印。

 四十階のボスを倒したら地上に戻るようにしてくれ。

 ダンジョンが無くなると町が困る」

 コアが一回発光し了承する。

 すると、軽い震動が起こり、階段が消去されたようだった。

 

 ゼファードはダンジョンに挑戦する冒険者と、その冒険者が持ち帰る素材で賑わっている。

 その元となるダンジョンが無くなればこの町が寂れてしまうだろう。

 そうなると、街の者が困るしな。


「それじゃ行くかな。

 俺以外三十七階以降は行けないだろうしね」

 俺は金箱を回収すると皆のところに戻った。


「おう、ただいま」

 俺が最後の部屋から出てくると

「お帰りなさい」

「お帰り」

「お帰りなのだ」

「お帰りなさいませ」

 皆が俺を出迎えてくれる。

「ああ、何とかね。

 攻略できました」

「マサヨシ様おめでとうございます」

 マールが俺に抱きついてきた。

 おっと、視線が集まるね。

「私も」

 入れ替わりでアイナ。

(われ)もだ」

 次にリードラ、

「最後は私ね」

 最後はクリス。

「ん? 

 でも何で最後がクリス?」

「あのね、くじ引きしたらクリスが最後だった」

 アイナが言った。

「おまえ、引き弱いんだな」

「悔しいけどその通りよ……」

 認めるしかないクリス。


「旦那様、ダンジョンコアはどのようにしたんです?」

 突然マールが聞いてくる。

「コア?

 ああ、隷属化してるぞ?」

「へっ?

 隷属化?

 奴隷にしたってこと?

 相変わらず出鱈目なことするわね」

 クリスが呆れ顔だ。

「んー、色々事情があってな」


 リッチとダンジョンコアの契約と元嫁の体が使われた理由、契約解除のためには俺がダンジョンコアと契約する必要があったことを説明した。


「では(ぬし)がダンジョンマスターになったってことだのう」

 リードラが言う。

「いいや?

 俺ダンジョンの管理なんてしないしラスボスになる気は無いぞ?」

「旦那様、それでもダンジョンマスターには変わりないのです」

 マールが言った。

「そうなの?」

「ダンジョンマスターはダンジョンコアに認められたものがなります。

 旦那様はダンジョンコアを隷属しましたから、認められたと考えていいと思います」

「ダンジョンコアがリッチを従える関係が、(ぬし)がダンジョンコアを従える関係に変わったわけじゃ。

 ダンジョンさえ従えるとは(ぬし)は凄いのお」

 リードラ興奮気味。

「まあ、ダンジョンのことは気が向いたら考えるよ。

 まだ、メルヌの近くで見つかったダンジョンさえどうしようかという所だ、

 とりあえずダンジョンは四十階のボスを倒してもその先には行けなくしておいた。

 魔物の再配置があれば今までと変わらないんじゃないかな?

 ダンジョン自体が無くなると冒険者が困るでしょ?」


「おっと、コレ金箱ね」

 リッチが昇天した後に残った金箱を床に置いた。

 中身は「炎獄のレイピア」と書いてある。

「『炎獄のレイピア』だってさ。

 義父さんに精霊のレイピアを譲ってくれたから、クリスがこれを使うといいよ」

「えっ、いいの?」

「みんな専用装備みたいになってるから、クリスもな」

「嬉しい!」

 クリスが飛びつく。

「その前に、開錠を頼む。

 喜びすぎて失敗しないように」

「うん」

 金箱に向かうクリスは真剣だ。

 少々時間がかかったが『ガチャリ』と音がすると金箱が開いた。

 金銀に埋まって、豪華な飾りがついた剣がある。

 クリスが取り上げ、鞘から抜くと刀身に炎の意匠。

「これ、魔力が通せる」

 そう言って魔力を通すと、刀身からニ十センチほどの炎が上がった。

 ヒュンヒュンと振るたびに先端から火球が飛ぶ。

「これ、無詠唱でファイヤーボールが打てるわ。

 私の精霊も喜んでる」

「そりゃ良かった。

 それはクリスのだから使ってくれ」

 こうして、炎獄のレイピアはクリスの物となった。


 ボス部屋に帰還の魔法陣が浮かび上がっている。

「さて、攻略も終わった。

 屋敷に帰ろうか」

 俺は一度ミハルが居た部屋を振り返る。

 そして魔法陣に乗るとダンジョンの入口に戻るのだった。



読んでいただきありがとうございます。

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