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第108話 突破の報告。

誤字脱字が多く、ご迷惑をお掛けしております。

「ただいま帰りました。

 そしてこれを……」

 そう言って義父さんに精霊のレイピアを差し出した。

「これは?」

「精霊のレイピアというものだそうです。

 四十階のボスを倒した際に金色の宝箱が出てきまして、その中に入っていたものです。

 切れ味、強度共に最高の物だとクリスが言っていました。

 あと、精霊付きの剣だそうです」

 父さんは鞘からレイピアを抜く。

 刀身にはうっすらと蒼く魔力の層ができており軽く振ると、真空波のような物が出た。

「確かに業物のようだな。

 これをどうすればいい?」

「腰につけていただければいいかと。

 鬼神が普通のレイピアでは良くないとクリスが……」

「クリスがか?」

 義父さんは嬉しそうに笑うと、

「うむ、わかった、ありがたく貰っておこう」

 と言って腰にレイピアをつけた。

 精霊のレイピアの精密な飾りが白髪にスッと伸びた背の義父さんには似合っていた。



 夕方の冒険者ギルドは込み合う。

 依頼の達成と未達の判断は生活にかかわるせいか、揉めている者も多い。

「オークの討伐という依頼ですが、これでは……」

 受付嬢が困っている。

 討伐証明である鼻の数が少ないのだ。

 後で待っているパーティーも処理が進まずイライラしているようだ。

「四頭ということでしたよね?

 これでは三頭です」

 受付嬢が聞くと冒険者たちが、

「仕方ないだろ?

 居るはずのオークが居なかったんだから」

「そうだ、俺たちだって頑張ったんだよ。

 だから、達成にしてくれ。

 でないと、宿代さえ出ない」


 ギリギリでの生活をしているのだろう。


 焦りがあるのか若い冒険者たちはイライラしていた。

 そして、引かない。

 困った顔の受付嬢。

 男性の受付も忙しく手が回らないようだ。

「お邪魔しますよ」

「あっ、マサヨシ様」

 受付嬢は俺を見る。

 

 なぜあなたが?

 

 という感じだったが、

「未達は未達なんですが、努力をしたというのなら達成にしてはどう?」

 俺は提案した。

「しかし、討伐部位が足りません」

「オークの鼻でしたら、俺が出します。

 一度解体場に行かなければいけませんが。

 ただし、今回だけ。

 同じようなことをしているのを聞いたら……そうですね……報酬を返してもらいます」

「おう、俺らも金が貰えれば問題はない」

「少し待っててもらいましょうか。

 あなたも今のうちに後ろの人の手続きを」

 そう言うと、解体場へ行った。

 オークを出し、鼻を削ぐ。

 そして、再び受付へ戻った。


 列が動き出したか……。

 

 受付の後ろに並んで待っているさっきのパーティーに

「ほい、鼻」

 と、鼻を渡した。

「やった!

 もうけた」

 若い冒険者たちは喜んでいた。


 んー、反省してもらいたいんだがなぁ。

「もうけた」とか言われたらちょっとねぇ……。


「でも、本来は未達。

 ちゃんと、依頼通りの数を倒すように。

 でないと、本気になります」

 俺は結構な威圧を込めた言葉で笑いながら、若い冒険者たちに言った。

 威圧に慣れていないのか、若い冒険者たちは顔にじっとりと汗を浮かべる。

「あっああ……今回だけだ」

 若い冒険者たちのリーダーが言った。

 そして、若い冒険者のパーティーは終了手続きを終えそそくさと去っていった。

 去り際に、

「あのデブ、何者だ?」

 と言う声が聞こえる。


 ま、いっか。


 しかし、それでは良くないのか、

「マサヨシさん。

 ダメですよ!」

 受付嬢が少し怒っている。

「揉めて時間がかかるのもなぁ……って思ってね。

 甘かったかな?」

 俺は頭を掻きながら言った。

「甘いですね。

 冒険者ギルドはさっきみたいなことは当たり前なんです。

 今回だけですからね!」

 と受付嬢は言う。

 しかし、

「でも、ありがとうございました」

 と言って、頭を下げた。


 許してもらえたようだ。


「こちらこそ、余計なことをしてすまんね。

 で、マスター居る?

 報告があるんだ」

「奥にいらっしゃいます。

 勝手に入ってください」

 俺は自由に奥に行く許可を貰えた。


 忙しいから放置かな?


 マスターの部屋をノックすると、

「だれ?」

 とカリーネが返事をした。

「俺だけど、入っていいか?」

「ええ、どうぞ」

 中に入るとカリーネは机で書類にサインをしていた。

「忙しそうだな」

「ええ、でも、もう夕方だからそろそろ置く予定。

 で、どうかしたの?」

「四十階のボスを倒したって報告」

「あっそう……」


 おっと、つれない反応。


 しかししばらくすると、

「……………………えっ?

 今何言った?」

 とカリーネが唖然として聞いてきた。


 おお、この世界でノリ突っ込みとは……。


「えーっと、四十階層のボスを倒したって報告」

「えっ三十七階超えたの?

 どうなってた?」

「あそこは川があって先に行けないようになっていた。

 更には川にはデカい魚の魔物も居て、泳いで行っても小さな船で行っても襲われる。

 あれじゃ、普通の人じゃ先には行けないんじゃないかな?」

 俺は三十七階の説明をした。

「あなたは?」

「んー、水の上を走った」

「人って水の上を走れるの?」

 カリーネからの本気の質問。

「走れないと思う」

「はあ、あなただから……ってことね」

 溜息をつきながらカリーネが頷く。

「そうなるね。

 さすがにクリス、アイナ、リードラ、マールは俺の扉を使って対岸に連れて行ったよ」

「そんな風にしないと行けないダンジョンだから、先に進めなかったのね。

 このダンジョンのダンジョンマスターって相当ひねくれてる」

「ちなみに金色の宝箱ってのも二つほど出たんだが……」

「えっ、金箱が?」

 目を見開き驚くカリーネ。

「伝説級のお宝が入っているって聞いたことがある」

「ああ、宝箱の中身はヒヒイロカネのガントレットと、精霊のレイピア。

 確かに凄そうな武器だったよ。

 ヒヒイロカネのガントレットはリードラ、精霊のレイピアは義父さんに渡したんだ」

「金箱自体も芸術品の価値があって高く売れるの」

「クリスもそんな事を言っていたな」

「持ってるだけで冒険者のステータスになるし。

 この国の冒険者を統括するオウルの冒険者ギルドにも無いから、グランドマスターをやっている私でさえ見たことがない。

 ダンジョンを攻略してマスターを倒せば確実に出ると聞いたことがあるんだけど、攻略されてないダンジョンがゼファードしかないでしょ?

 元々ダンジョン内のモンスターから出る確率がゼロに近いから金箱の数は少ないの。

 個人で持っているか、この国にはないけどどこかの王城内に保管されているか……」

 カリーネが語る。

「三十階と四十階のボス倒したら出たけど。何か条件があるのかねえ。

 正直わからん。

 ボスのほうが比較的出る確率が高いのかもしれないがね」

「そうかもね、それこそあまりに金箱が出た数が少なすぎて条件はわからない。

 でね、オウルに金箱があると箔がつくのよねぇ。

 冒険者に有能なのが居るってことで……」

 じーっと俺を見るカリーネ。


「ほしいなぁ」ではなく「くれ」と言う感じの甘える目。


「別に箱ぐらいならいいぞ?

 一個渡しても、もう一個あるし」

「しかし、どんだけ強運なの?」

「呆れられても困るなあ、倒したら出ただけだし……。

 まあ、要るというなら、ほい」

 俺は金箱の一つをマスターの部屋に出した。

「ホント、ありがとう。

 オウルのギルドにも箔が付くわ」

 カリーネが抱きついてきた。


 しばらくすると、一度離れて俺を見るカリーネ。


 ん?

 どうした?


「あのね、普通に金箱を持ち込んだら、冒険者のランクもパーティーのランクもSランク確定なんだけど……」

「でも、身内贔屓じゃいかんだろう?」

「何言ってるの!

 三十七階が限界だったダンジョンの四十階のボスを倒して帰ったんでしょ?

 金箱も持って帰ってるし、どうせ倒したボスも持って帰っているだろうし」


 おお、読まれてる。


「よくおわかりで」

 と返すと、

「慣れたわよ!

 あなたの非常識さ、どうしようもないわ!

 能力のわりに評価されていないし。

 大暴走を治めたのも表に出てないでしょ?」

 カリーネが何故か怒る。

「申し訳ない、まだあまり依頼も受けてないしなぁ。

 なんだかんだでAまで上げてもらってるし、更に上げてもらえるのも気が引ける」

「謝らない!

 あなたが凄いのはわかってるんだから!

 ギルドとしてはランクを上げるのが普通なの!」


 そんなに言われてもなぁ。


「でも俺は別にランクは上がらなくていいぞ?

 今でもダンジョンにも入れるしな。

 カリーネや他の奴らが俺が強いと知っててくれればいい」

「欲が無いんだから」

 ため息をつきながらカリーネが言った。


 ふう、やっと解放された……。


「ちなみにサイクロプスの肉って食えるの?」

「何ですって?」

 再び驚くカリーネ。


 そんなに驚くことなのか?


「サイクロプス自体は稀な魔物」

「ダンジョン内にはうようよしてたぞ」

「ふう……」と溜息をついたあと、

「あのね、この世界サイクロプスが出てきただけで天災認定されるの。

 Aランク以上のパーティーがいくつか集まって討伐する。

 ただ、体が大きいため素材となるものを持ち帰ることが優先されるの。

 たまに近くに出たからと言って何台もの荷馬車で回収することはあっても、肉は現場で食べられるだけ食べ持ち帰らないのが通例。

 しかし現場で食べた者は『頬が落ちるほど美味しい肉』と口々に言っている。

 そんな肉、外に出すだけでも高値で売れる。

 まあ、あなたのことだからみんなで食べるって言うんでしょうけど……。

 というかサイクロプスを単独パーティーで撃破できるってどういう強さなの!」

 カリーネがまた怒った。

「あっ、アイナもマールも単独でサイクロプス一体倒せるぞ?」

「もう……非常識!」


 コロコロ表情が変わるカリーネが何となく可愛い。

 

 知らぬ間に笑っていたようだ。

「もう、何で笑うの?」

「ん?

 見てて面白いから」

「あなたのせいでしょ!」

「そう?」

「そう」

「そうか?

 悪かったな」

「んーもう、そういうんじゃなくて!」

 うまく言えないのかカリーネがじたばたしていた。

 そんな姿を見て俺は何となくホッとするのだった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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