第101話 仮の宿が必要なようです。
誤字脱字が多く、ご迷惑をおかけしています。
軽く風呂に入り汗を流した後、庭でハニービーの巣を見ながらボーっとしていると、
「マサヨシ。
あなた、許可証を貰ってから一度でもゼファードの冒険者ギルドに行ったの?」
仕事着姿のカリーネが現れた。
「ん?なんで?
オウルの冒険者ギルドで事足りるだろ?」
「やっぱりねぇ」
カリーネは眉間に手を当てた。
「『誰も見たことも無い幽霊が異常な速さでゼファードのダンジョンを攻略している』って噂が立ってるの。
教えていなかったけど許可証にはどの階層まで進んだのかがわかるようになってるの。
まあ、わかるのはゼファードの冒険者ギルドだけなんだけどね」
「ダンジョンに入ったのは一度だけ。
別に目立っていないしな。
通常は屋敷からダンジョンへ直接入っている。
宿泊もせず、素材も売らず、顔を見せる所に居ない。
つまり『誰も見たことが無い』ってことになる訳だな」
「そう、だから一度くらいは顔を出して欲しいのよ。
あっ、転移の魔法陣から出てきたところを見たものが数名。
『美女を連れたデブ』だって言うのは報告を受けているの」
「それってすでに『幽霊』って言わなくていいんじゃない?
にしても、だからといって今までの流れを変えるつもりもないぞ」
「そう言うと思った。
だったら、ゼファードに家を買えば?
直接ダンジョンに向かうのではなく、家からダンジョンに行って、直接階層に飛ぶようにするの。
帰りは逆ね。
ダンジョンから家に戻り、屋敷に飛ぶ。
そうすれば幽霊ではなく実在すると感じられるんじゃないかしら」
いい意見とカリーネが胸を張る。
「谷間が見えるぞ」
「見せてるの」
「はいはい。
遠回りか……ちょっと面倒だな……。
でも、カリーネがその方が助かるって言うのなら、それでいいか……。
三十階のボスを倒して少々金も入った。
見た目の設定変更をしようか」
「えっ、三十階?
聞いていないわよ?」
「ボス戦が早く終わったからここに居たわけだ。
ちゃんと今朝三十階には行った。
ボス戦では俺は一切手を出していない。
アイナとマールが一瞬で倒したよ」
「そう、あなただけじゃなく、あなたのパーティーもバケモノになりつつあるのね」
「あいつらが?
そうなのかなぁ?
今まで言わなかったが、バケモノって自分の力を制御できず周りを危険に巻き込むものだと思うんだ。
だから、未だ一度として全力を使ったことが無い俺のほうはバケモノだとは思うが、自分の力を制御できているあいつらはバケモノじゃないよ」
苦笑いをしながら俺は言った。
「ごめん」
カリーネがしゅんとする。
んー、凹ませてしまったかな?
「いいや、俺がそう思っているだけ。
気にしない気にしない。
さて、家って言ってもなぁ……どうすればいいのやら。
手伝ってくれる人は……っと」
と言って俺はカリーネを見ると、はっと何かに気付いたようだ。
自分に声がかかると思って期待するカリーネが居る
「頼むよ、俺だけじゃどうにもならないんだ」
「わかった。
うん、手伝う!」
嬉しそうなカリーネ。
「じゃあ、ゼファードへ行こうか」
俺は扉でゼファードへ向かった。
「そう言えば、街の中に入るのも久しぶりか。
今更だが、オウルに居るはずのマスターが来ても良かったのか?」
「そう言うのはもっと早く言って!
来てから言わないでよ」
ちょっとご機嫌斜め。
気付かないのも問題ありなのでは?
「不動産の仲介とかは無いのかね?」
「不動産を扱う商人に聞くんだけど……私も知らない」
「ふむ」
「知ってそうな人に聞くか」
再びオウルに戻る俺たち。
ロルフ商会の前に行くと、ロルフさんは店の外に居た。
「ロルフさん、こんにちは」
「これはこれはマサヨシ様。
カリーネ様も一緒とは……」
カリーネは俺の横で静かに立つ。
俺とカリーネの関係性は何度か屋敷に来たことで知っているロルフさん。
「それにしても、直接店に来ていただかなくても、声をかけていただければこちらから参りますのに」
「急な用事だったので、直接来たんですよ」
「で、急な用事とは?」
「ゼファードで不動産を扱う商人を知りませんか?
ゼファードでのダンジョン攻略拠点として家を購入したいと思っておりまして……」
「そういうことでしたか。
こちらに座って少々お待ちください」
俺たちは店内の応接室に通される。
すると、奥にある机でロルフさんがサラサラと手紙を書きはじめた。
そして、手紙を封筒に入れ封をすると、
「言ってはおりませんでしたが、ロルフ商会にも不動産の扱いは有るんですよ。
ロルフ商会にもゼファードに支店があり、そこの店長がマクシミリアンと言います。
その者にこの手紙をお渡しいただければ、ゼファードで物件の紹介をしてくれるでしょう」
そう言って俺に封筒を手渡した。
「ココかしら」
カリーネが言う。
ゼファードの冒険者が闊歩する大通りに「デン」と構える店があった。
さすがにオウルほどの大きさは無いがデカい店だ。
財産貰ってた方が良かったのかね?
などと考えてしまう。
「いらっしゃいませ!」
丁稚のような小さな獣人の子が現れた。
「元気な挨拶がきもちいいね。
店長のマクシミリアンさんはおられるかな?」
「店長に?
どのような御用でしょうか?」
「この手紙をマクシミリアンさんに渡してもらえればわかると思う。
できるかな?」
「はい、お任せください」
そう言って、テトテトと店内に入って行った。
俺とカリーネは中に入りいろいろ並ぶ商品を眺める。
「これはこれはお待たせしました」
「いいえ、こちらもいきなり来たのですから。
こちらこそご迷惑をかけて申し訳ありません」
「ロルフさんからの手紙で『我が商会に大きな影響を与える方、粗相のないように』と書かれていました。
カミラ様を助けたのもあなただそうで……」
「まあ、いろいろありましてね……」
「不動産をお探しとか?
そちらのご婦人との新居ですかな?」
その言葉を聞いたとき、カリーネの耳がピクリと動き尻尾がファサファサと触れた。
機嫌がいいみたいだ……。
「そんなものですね」
そう俺が言うと、
カリーネの尻尾がさらに加速する。
「どのような家……いや、屋敷がよろしいでしょうか?」
「冒険者をやっておりまして、パーティーの者も来るでしょうし、家を管理してもらうメイドも住まわせます。
ですから、十人程度の者が暮らせるものだと助かります。
あと、できればダンジョンと冒険者ギルドに近い方がいいですね」
「畏まりました。
ちなみに予算は……」
「白金貨一枚までで」
「えっ、白金貨ですか?
確認して参りますのでしばらくお待ちください」
マクシミリアンさんが席を外すと、替わって丁稚の獣人君が体に似合わない大きさのトレイを持って現れる。
「お茶をお持ちしました」
丁稚君は俺たちの前に紅茶を置くと、パタパタと出ていった。
俺は紅茶を飲む。
カリーネはティーカップを持ち上げ
「『ご婦人』だって……」
と言った後「フフフ」と笑う。
「どうした?」
「なんだろう、好きな男性とこうやって住む家を捜したりしたかった……。
エリスを授かって、あの人が死んで、冒険者をやめて、ギルドに入って、今までバタバタして、知らない間にギルドマスターになって、今ではグランドマスター。
『もう無いだろうなあ』と思っていた今更の夢を実現できたことが嬉しくて……笑っちゃった」
カリーネはそう言って俺のほうを見るとニコリと笑う。
そんなカリーネを見ていると、マクシミリアンさんが再びやってきた。
「マサヨシ様のご要望に応えられそうな物件が三件ありました。
馬車を準備しましたのでその物件を見に行きましょう」
こうして、俺たちはマクシミリアンさんと馬車に乗るのだった。
見慣れたダンジョンの入口前を通り過ぎると、一つ目の物件があった。
「ここがダンジョンから一番近い物件です。
元々小さな宿屋だったらしく、十人が住まうには十分な広さかと……。
馬屋も完備、馬車を置く場所もあります。
ただし、少し古く汚れも目立ちます。
そのせいでお値段も手ごろです。
金貨三百枚になります」
馬車を降りて中に入ると、床がギシギシと鳴った。
壁にも汚れがあり、少々ヒビも入っている。
トイレは……ボットンだった。
「んー、女性が多いのでトイレは水洗のほうがいい。
それに、汚れが目立つのはちょっと……。
これは難しいかな」
こんな感じで三件をまわったが、結局いいものは無かった。
「マサヨシ様もう一軒あるのですが、この家はいわくつきなのです。
二年ほど前にある商人の愛人のために作られた屋敷なのですが、その愛人に嫉妬した商人の妻が家で自殺を図ったのです」
一夫多妻制なのにそういうこともあるんだな……。
「その怨念のせいでしょうか、ゴーストが出るようになったのです。
そしてその怨念は深く、どんな除霊師が除霊しようとしても逆に除霊師が追い払われる始末。
しかし、カーテンや家具一式、そして調理場の食器の新品が備え付け。
風呂や調理場に付く蛇口は全て魔道具化されており、温水と冷水の混合栓です。
部屋が十五部屋と少し多めですが、大浴場が一つと主人の部屋には部屋風呂が一つあります。
風呂のお湯張りは魔石で行い、冷えてくると追い炊きも可能です。
照明もエントランスにシャンデリア、各部屋にも意匠を凝らした照明が取り付けられております。
各部屋にもベッドが付いており、主人用のベッドは大きめの特注品で五人までなら……」
マクシミリアンさんは説明をしながらチラチラと俺を見た。
カリーネは機嫌良さそうにフワフワと尻尾を振るのみ。
愛人は五人居たのかね?
複数プレイ?
多分しない……と思う。
寝るの屋敷だし。
「全て付いて総額金貨五百枚。
ただし、自分で除霊をした時に限ります。
通常この屋敷ならば白金貨十枚。
金貨五百枚となると通常の二十分の一ですね」
マクシミリアンさんは揉み手を始めた。
「安いな……」
「お買い得でしょう?
マサヨシ様はお強い冒険者だと聞いています。
それならばパーティーメンバーの中に除霊ができる者が居るのでは?」
「それだけの低価格になるまで売り買いが繰り返され、結局住む者が居なかった屋敷ってことでいいのでしょか?」
「えっ、ええ……」
肯定らしい。
「二年間も放置だと、中はどうなっているのやら……。
とりあえず、物を見てから考えます。
連れて行ってもらえませんか?」
「畏まりました」
と言うと、
「例の場所へ」
とマクシミリアンさんは御者へ指示を出した。
白亜の御殿って言うのはこういうのを言うのかね……。
大理石のような物で屋敷と塀が作られている。
所々に外灯のような照明があった。
中には芝の庭。
噴水まである。
んー、オウルの屋敷が質実剛健なら、こっちは豪華絢爛ってところかな?
「綺麗な屋敷ね」
今まで何も言わなかったカリーネが窓から見える屋敷を見て言った。
マクシミリアンさんと中に入る。
玄関の扉を開けるとギイィィと重い音がする。
潤滑剤不足?
中の雰囲気悪いなぁ。
空気が重い。
体重が増えたような気がする。
目に魔力を通し霊が見えるようにしたが、見える範囲には居なかった。
レーダーに表示させると確かに居る。
「内覧時にゴーストは出てくるのですか?」
「その時は大丈夫なのです」
マクシミリアンさんは言う。
「さあ、住もうという所でゴーストが出てきます。
ですから、マサヨシ様が言っていた『内部が荒れる』という事は有りません」
マクシミリアンさんは内部を歩きながら色々な部屋を見せてくれた。
そして、主人の部屋。
すごっ……デカい天蓋ベッド。
イングリッドの物よりも格段にデカい。
カーテンは白のレースの上に分厚い布地。
これなら外から見えることは無いだろう。
風呂も屋敷にある物よりデカい。
何をするための部屋なんだ?
いや、ナニを楽しむための部屋ってことか……。
「あなた、ここいいわね」
カリーネが気に入った様だ。
確かに大きめのガラス窓で採光が考えられており、肩にかかる空気の重さ以外は問題が無い。
「じゃあ、買おうか」
と俺は言う。
マクシミリアンさんは「マジ?」というような驚いた顔をすると、
「おっお買い上げでよろしいのですか?」
と驚いていた。
「ああ、除霊もついでにしておこうか」
俺はレーダーに映る霊の場所にピンポイントでターンアンデットを強めにかけた。
「まだ何にもしてないのにぃーーー!
愛人なんてーーー!」
という声が聞こえると、レーダーから消えるのだった。
屋敷の中の空気が軽くなる。
「はい終わり」
「あら、雰囲気が良くなったわね」
カリーネは屋敷の雰囲気が変わったことに気付いたようだ。
「えっ、終わりですか?」
マクシミリアンさんが唖然とする。
「終わりですよ?
おっしゃられていたゴーストは消えました。
これで金貨五百枚なんて安い安い」
「白金貨二枚……」
ボソリとマクシミリアンさんが言う。
「商人が一度言ったことを変えるのは無しです。
金貨五百枚。
これで契約を……」
俺は小袋に金貨五百枚を入れてマクシミリアンさんの前に出し、サラサラと契約書を書く。
「えっ、魔法書士なんですか?」
「免許も持ってますよ?
契約台も出しますから、さっさと契約してしまいましょう」
唖然とするマクシミリアンさんに、
「マクシミリアンさん。
マサヨシは規格外のバケモノ。
常識は通用しないから」
カリーネは笑いながら言っていた。
「そっそれでは、鍵を……」
マクシミリアンさんは鍵を俺に渡す。
こうして、屋敷が俺の物になるのだった。
「店まで馬車で行かれますか?」
マクシミリアンさんが俺に聞いたが、
「二人で中を確認したいから、歩いて宿まで帰ります。
それに、今晩はここに泊まってもいいしね」
と俺は言う。
「畏まりました。
それで、マサヨシ様」
言い辛そうにマクシミリアンさんチラチラと俺を見る。
「ん?なにか?」
「マサヨシ様を指名で依頼を出してもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいですよ」
「マサヨシ様のお手前を見せてもらいましたが、かなりの強さを感じました。
そこら辺に居る冒険者など比にならない位に……。
ですから、難易度の高い依頼をマサヨシ様に依頼したいのです」
「いいですよ。
ただし、今、私のパーティーはゼファードのダンジョンを攻略している所です。
ですから、攻略が終わるか手が空いている時かどちらかになりますが……」
「構いません。
でしたら早速……。
難しいと思いますが、オークプリンセスかオーククイーンの肉を一キロほど手に入れてもらいたいのです。
ダンジョンを攻略する際の最初の関門と言われているボスモンスターです。
そのモンスターの肉は柔らかく美味しい。
それを手に入れてもらいたいのです。
明日にでも指名依頼をギルドに入れておきますので、受けてもらえないでしょうか?」
「ぷぷっ」っと事情を知っているカリーネが噴き出す。
「何事?」という顔でマクシミリアンさんはカリーネを見ていた。
「わかりました、ギルド経由で赤い一角獣というパーティーに依頼を入れておいてください」
「ありがとうございます。
手に入れば時期は問題ありません。
それでは、よろしくお願いします」
そう言うとマクシミリアンさんは馬車に乗り、屋敷を出て行くのだった。
読んでいただきありがとうございます。
ちょっと離れる用事があったので、予約投稿した時にダブっているのに気付かなかったようです。
ご迷惑をおかけしました。




