第100話 下層へ向かおう5(三十階ボス戦)
誤字脱字が多く、ご迷惑をおかけしています。
順調に下へ向かう俺たち。
クリスは夜目が効かず、マールは夜目が効く。
その辺は「ダーク」という言葉の差ということだ。
すんげー昔に善神と悪神の戦いがあり、その際善神についたのが(白)エルフであり、悪神についたのが(黒)エルフだそうな。
その名残が肌の色と夜目。
だからと言って悪い奴が居る訳ではなく、エルフでも悪い奴が居るし、ダークエルフにもいい奴が居る。
要は肌の色の違いということだ。
ただし、黒い色を嫌う者も居るらしく、エルフとダークエルフの格差はある。
国王になる者は純血の(白)エルフでなければならないらしい。
好きなようにすればいいと思う。
クリスの件でそのうち俺にもなんかありそうだねえ。
そんなことを考えていると、
「どうかした?」
「旦那様何か?」
とクリスとマールが聞いてきた。
少し考え過ぎたのか「心ここにあらず」だったのだろう。
「ん?『白でも黒でも綺麗だな』って眺めてた」
軽いリップサービス。
「そう?」
「えっ」
薄暗い中でも二人が赤くなるのがわかった。
「私は?」
「我は?」
俺とクリス、マールの会話が聞こえたのか、アイナとリードラが突っ込んでくる。
「お嬢様方もお綺麗ですよ?」
と言うと、
「心がこもってない」
「じゃな」
と怒られてしまった。
確かに適当だったかな。
「ホントにアイナは可愛いし、リードラは綺麗だと思います。
俺には分不相応」
と言うと、簡単に機嫌が良くなった。
良かった良かった。
一日一階のペースは崩れず。
宝箱を回収しつつ休み明け三日目には三十階のボス部屋にたどり着いた。
「早三十階層か」
「あり得ない速さね」
クリスも戦闘に参加を始めたためだろう。
「私も魔力酔いは無いにしろ、ステータスが上昇しているのは確かね。
だだ、表示に影響はないかもしれない。
おなじAでもBに近いAも居れば、Sに近いAも居るから……」
「その辺は曖昧なんだな」
「同じ表記だからと言って、強さが一緒って訳じゃないのよ。
その強さは身をもって体感しないとわからない。
同じステータスでも簡単に倒されることもあるの」
クリス先生が教えてくれた。
「さて、ボス戦ですが……。
次はアイナ、マールで戦います」
俺がアイナとマールを見ると、二人はコクリと頷く。
「ただ、一応皆で入ります。
俺もだがクリスとリードラは不測の事態に備えていてください」
「わかったわ」
「心得た」
「カリーネに聞いた話ではボスはジャイアントエイプクイーンらしいです。
どんな魔物なのかはわかりません。
ただ、サルなのは間違いないと思います」
扉を開け、中に入る。
トラップ的な天丼は起こらず、今回は五人全員がボス部屋に入ることができた。
しかし、このダンジョン、ボスがメス限定なの?
理由はわからないがその傾向があるよね。ラスボスも嫁ドラゴンゾンビだし。
何となく途中のボスも何かのメスか女性の高位モンスターのような気がする。
女に飢えているのか、女がダンジョンマスターなのか……。
部屋の奥に真っ赤な目が二つ。
よく見るとデカいサルのシルエットが見える。
あれがジャイアントエイプクイーンなんだろうな。
真っ赤な口紅と濃いチーク、そして蒼いアイシャドウの濃い化粧。
んー似合ってない。
俺と目が合うと興奮し始めた。
えっ顔が赤くなってる。
それは自然なサルの顔じゃないのか?
モジモジしているが……何でだ?
不意に投げキッスをしてくる。
何かが飛んでくる感じがして、俺は無意識に避けた。
猫とネズミのカートゥーンなテレビだったら追っかけてきそうな投げキッス。
俺はあれに当たりたくない。
そのあと、サルは周りに居る女性陣を睨み。
「ウォウーーーン」
と雄たけびを上げた。
結構な威圧が籠っている。
しかし、リードラは当然として、クリス、アイナとマールは平然と威圧を受け流した。
暫く吠えると、効果が無いことを悟ったのか、サルは俺を見定め、二十メートルは離れたところから飛びついてきた。
抱き付く寸法か?
いくら女だといっても、勘弁してほしい。
俺が素早く回避するとサルは俺のほうへ体の向きを変えた。
すると、アイナがすっと体を動かし、おもむろに聖騎士の剣を払った。
すると、アキレス腱の辺りに線が入り徐々に血が流れそこから血がおもむろに噴き出す。
警戒していなかった子供にアキレス腱を切られ、踏ん張りが利かなくなり倒れたサル。
そのサルの首元にマールは飛び乗り頸動脈あたりに短剣を突き刺した。
血が吹きあがりマールを濡らす。
銀髪に血が滴りサルの首元に血だまりを作っていた。
何度かボスサルの手がマールを掴もうとしたが空を切り、そのまま動きが途絶えた。
「強っ……」
俺が呟く。
ん?
「アイナ、マール、ボスを倒した後体調は?」
「大丈夫」
「私もですね」
大丈夫らしい……。
強くなった証拠か。
「あれを二人で簡単にとはな……」
「やっぱり私もうかうかしてられない」
リードラは苦笑い。
クリスは少し焦っているようだった。
ただ、リードラもクリスもアイナを温かい目で見ていた。
あれ?
ボスを倒した後に宝箱が現れた。金色の豪華に飾られた豪華な宝箱。そういえば敵から宝箱が出るのは初めてだ。
あれだけ魔物を倒してるのにな。
「あっ、金箱。
すごい、私も初めて見た」
クリスが目を見開いて驚く。
「えっ、金箱って?」
「ダンジョンを攻略する中でたまに……本当にごくたまに出てくるの。
カリーネのほうが詳しいと思うけど、歴史の中でも三十個いっていないんじゃないかしら?
確率は限りなくゼロに近いと言われている。
中身は……金銀財宝だったりどんな職人でさえ作れない武器や防具。
まあ、希少な宝だと思ってもらえればいいわ。
とりあえず、カバンに入れてみてよ」
何か、ガチャっぽいな。
とりあえず宝箱を収納カバンに入れた。
「ヒヒイロカネのガントレット、白金貨三十七枚、金貨六百二十三枚、即死の罠」と表示される。
さすがレア宝箱、中に入る金の量も半端ないな。
おぉ、ファンタジーで出現率の高いヒヒイロカネ出現。
ガントレットなら何となくリードラかな?
中身がわかるのは少しドキドキ感が無いかもしれないが、まあ安全第一で……。
「ヒヒイロカネのガントレットと、白金貨と金貨。
罠は即死の魔法だそうな……」
そう言って金箱を再び取り出した。
よく見れば箱自体にも赤や青黄色の宝石がちりばめられ、ドラゴンそのものやフェニックスのような魔物、そしてトラのような魔物、カメのような魔物があしらわれていた。
金箱を見ている俺に気付いたのか。
「マサヨシ、金箱自体も美術品として価値があるの。
オークションに出せば、かなりの値段になるわね」
と、クリスが説明をしてくれた。
「さて、罠を外すから少し離れて」
クリスはそう言うと、ボキボキと指を鳴らす。
そして、真剣な目をして鍵穴に向かった。
数本の棒のような物を駆使し、たまに魔力を纏わせて、罠の解除作業を行う。
メルヌでは見せなかった真剣な顔。
俺たちは声をかけずじっと見ていた。
じっとりと額に汗が浮き、クリスの美しい金髪が纏わりつく。
音がしなかった空間に「カチャリ」という開錠の合図が響いた。
「うわー、手強かった。
こんなの初めて。
ほんのちょっと手がぶれれば、発動するようになってるんだもの」
緊張から解かれたクリスは苦労を話し始める。
「お疲れさん。
よく頑張ったな」
と俺が声をかけると、
「すごく難しかった。
正直言えば、マサヨシにわざと宝箱を開けてもらおうかと思ったぐらい。
即死の魔法が仕掛けられていたけど、マサヨシならレジストしそうだからね」
と、笑いながら言う。
「冗談だろ?」
「いいえ、冗談じゃないわよ」
冗談じゃないんだ……。
頼られているってことなのかね?
「まあ、それでも、みんなが後ろに居てくれたから安心できたのは確か。
みんなもありがとね」
と、クリスは俺たちに言った。
「さて、これがヒヒイロカネのガントレット。
ちゃんとサイズ調整の魔法もかかっているし、炎の精霊が付いているみたい」
そう言って俺にガントレットを渡す。
「これはリードラかなぁ。
ちょうど指先は開いている。
爪を伸ばすのにも邪魔にはならないだろう」
今度は俺がリードラにガントレットを渡した。
「良いのかの?」
申し訳なさそうにリードラが聞いてきた。
「いいんじゃないか?
サイズ調整の魔法がかかっているという事は、ドラゴンに戻っても手についたままってことだ。
リードラは鱗が防具。ただ、手には防具を着けていない。
ちょうどいいと思うぞ。
もし、モーニングスターを使うことがあってもそれならば邪魔にならないだろうしな」
「では貰おう」
リードラは早速ガントレットを着けた。
赤いガントレットが白に映える。
「似合うな」
と俺が言うと、リードラは少し照れていた。
軽くジャブをすると、拳に炎が纏わりついたのは炎の精霊のせいだろう。
「あとは、硬貨だけね。
魔道具や貴金属は無いみたい。
でも白金貨も多いから、またお金が溜まるわね」
と、クリスが言う。
金はあるに越したことはないと思う。
ただ、ダンジョン攻略が終わった後、得た金を一気に放出したら経済が混乱しそうだ……。
「まあ、マサヨシは貴族になるし、持っていても損はないか……。
ちなみにあのジャイアントエイプクイーンは魔石に皮と牙、爪ぐらいしか美味しい所が無いから、金箱はその補填だったのかしら……」
とクリスは呟いていた。
Gな時計のタイマーは一時間程度しか経っていないが……
「さて、三十階のボスも倒した。
大分早いが帰るかね」
すると、
「我の仕事が無いのう。
我は要るのか?」
ごねるリードラ。
「確かに今のところほとんど出番がないな。
でも、リードラが居てくれるだけで安心できる。
このパーティーの隠し玉ってところかな?」
「そうか?
それならば仕方ないのう。
我は主の隠し玉なのじゃからな」
ちょっと違うがまあいっか。
リードラはモジモジと共に顔が赤くなり目に見えて機嫌がよくなる。
結局いつも通りボスを倒した後のルーチンで三十階の転移の魔法陣から入り口脇に出て、屋敷に帰るのだった。
読んでいただきありがとうございます。




