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冬までに死のう。  作者: 海松みる
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九話

 「わあ!二人とも仕事が早いですね!」

高橋先生は、僕たちがまとめた資料を、目を輝かせながら受け取った。

そこには、文化祭でやる内容、予算などがまとめられている。

 結局日曜日は、碧といつもの海の橋のところで予算の話をまとめた。

今の時期は、夏ももう終わって涼しいから、外でも全然大丈夫だった。

けど…土曜日は東京都心のオシャレなカフェにて話を進めていたのに、日曜日は一応東京だけどド田舎の海の橋のところで話をまとめた。

土曜日と日曜日の差がすごすぎる…。

「じゃあ、最終確認で今日の放課後に確定版の資料を渡すから、明日からさっそく準備を進めて行きましょうね!」

高橋先生は笑顔で職員室に入っていた。

 高橋先生は僕達がいじめられているのを普通に見てみぬふりをした。

なのに、今では申し訳なさも感じてい無いようだ。

まあ、実際僕たちもいじめられていることに対して何も感じていないからいいんだけど…。

先生の立場として、どうなんだろう。

「沢渡ー?どうしたの、ぼーっとして。」

あれこれ考えていると、碧が不思議そうに僕の顔を覗いていた。

「何でもない。」

碧は本当に気にしていない様子。

そういう教員の世の中を理解して、諦めてるのかもな。

「ん?まあ、いいけど。」

碧は教室に入って行った。



 放課後、確定版の資料を高橋先生からもらって、僕たちは帰った。

「ねえ、予算結構削られてない!?」

田舎道を歩きながら、碧は確定版の資料をぺらぺらとめくった。

「まあ、しょうがないんじゃない?」

碧は納得のいかない顔をしている。

でも、決まってしまったことは変えられない。

とりあえずこの予算の中で準備をしていかねば!

文化祭まで、あと十二日くらいか…。

「ねえ、沢渡。」

「ん?」

碧は資料を鞄にしまった。

「文化祭で結構日にちが過ぎてくじゃん?」

「うん。」

「それで、テストが終わったら、もう十月半ばだよ?」

「そう、だね…。」

僕はなんて言っていいのか分からなかった。

碧が言いたいことは多分、時間があまりないということなのだろう。

悲しいことなのか?碧にとって。

碧の表情が読み取れなかった。

ちょっと困ったように眉をひそめて笑っている。

僕は、碧の自殺を止めたいけれど、安易に止めたらいけない気がして、止められない。

「私さ…。」

碧が下を向いて、小さな声でつぶやいた。

何か大事なことを言う気がして、耳を大きくして聞く準備をした。

でも、いつまでたっても碧は口を開かない。

碧はひたすら下を見ている。

「どうしたの?」

「なんでもない。」

僕が聞くと、すぐにそうやって即答した。

なんて言おうとしたんだろう。

結局、僕たちは沈黙のまま、田舎道の分かれ道のところまで来てしまった。

「じゃ、明日ね。」

「うん……。」

碧は何もなかったかのように、走って帰っていった。

僕は、碧が完全に見えなくなるまで、分かれ道の真ん中で立ち尽くした。

「帰るか。」

とぼとぼと歩きだす。

海の橋のところまで来た。

なんだか家に帰る意欲が湧かない。

もう目の前にあるのに。

僕は、海の橋に頬杖をついた。

ただただ、ぼーっと水平線を見る。

ふと、下が気になった。

下を見ると、深い青色をした海が広がっていた。

屋上から飛び降りたら、地面に打ち付けられて、痛いんだろうな…。

でも、海だったら、柔らかく包んでくれるんじゃないか。

いや、でも、誰かが前に、高い所から海に落ちたら地面のように固いって言っていた気がするな。

誰だっけ…。

たしか、弘人だったような…。

そうか、結局、自ら命を絶つことは、辛いのか。

なんでわざわざ辛いことを、自分からするんだろう。

それ程、日々の生活の方が辛いのかな。

でも、碧はいつも、笑っている。

元気いっぱい、笑っている。

ふと顔に影が差す。

あれが、碧のそういう考えを引き出してしまっているのだろうか。

それなら、僕がいつも碧を笑顔にすればいいのかな。

そしたら、自ら命を絶つことなんて、しないんじゃないか?

心に、何かが広がった。

波紋のように。

それが、僕の全身に広がっていった。

何だかよく分からないけど、とりあえず帰るか。

僕は、海に背を向けて家に帰った。




 「おはよー。」

碧はいつものように机で本を読んでいた。

「おはよう。」

碧の机の落書きは、前より増えていた。

僕の机の落書きも、前より増えている。

でも、そのことについて、一切口を出さない碧を見て、僕もそうしようと思った。

相変わらず高田たちは、あからさまに舌打ちをする。

本当に、いつ自分たちのバカさに気づくのか。

僕は構わず席について、本を開く。


 一時限目は、学活。

いよいよ文化祭の準備に突入だ。

今日から、実行委員は放課後まで準備をしなきゃいけなくなるだろう。

弘人もそうだった。

でも、あの頃は中学だったから、ほとんど先生がやってくれていた。

今年から高校だし、生徒たちが主体的にやるんじゃないか!?

ということは、よくある夜まで居残りみたいな…?

冗談じゃない。

僕にだって自由な時間が欲しい。

でも、今更やめることなんてできない…。

それに、それは碧が絶対許してくれない。

もう、いいや。

僕は実行委員なんだ。

ちゃんとやらなきゃいけないんだ。

謎の悟りを開いてしまった。

いや、悟りではなく諦めかもしれない…。

うん、諦めだ。


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