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冬までに死のう。  作者: 海松みる
7/10

七話


 「はい、席に着いてー。」

月曜日。

今日は、一時限目から学活だ。

しかも文化祭の係決め。

そう、今は夏と秋の間の時期。

つまり、高校生活の一大イベント、文化祭の季節だ。

一応、中学の時は、『学園祭』という名前で文化祭のようなことをしていた。

その時の実行委員は弘人と学年委員の女子だったけど、弘人はいないしその女子も今年は弘人がいないからやりたくないと言っている。

そう。その女子は弘人のことが好きだったらしい。

弘人は人気者だな…。

そういうことで、今年の係決めは時間がかかりそうだ。

僕には関係のないことだし、と思って窓の外をぼんやりと眺めた。

 「じゃあ…まず文化祭実行委員。立候補してくれる人はいない?」

高橋先生もほぼ諦めたような声で言った。

当然、教室はシーンと静まり返る。

僕は、やっぱりなと少し笑ってしまった。

「はい。私が立候補します。」

その時、ガラスのように透き通った声が、教室の静寂を切り裂いた。

碧の声だ。

僕は、斜め後ろを少しだけ振り向いた。

「あ。」

目が合った。

今、完全に碧と目が合った。

嫌な予感しかしない。

「では今年の文化祭実行委員は如月さんでいいですね。」

先生は笑顔で言う。

高田のグループはみんな嫌そうな顔をしている。

でも、だからと言って自分たちが実行委員になるのも嫌なのだろう。

反論は一切してくる様子は無い。

「じゃあ、如月さんは前に来て男子の実行委員も決めてください。」

「はい。分かりました。」

碧は席を立った。

嫌な予感、嫌な予感…。

その時、後ろから腕を掴まれ、挙げさせられた。

嫌な予感は的中だ。

「先生。沢渡君もやりたいそうです。でも、言い出せないそうで、私が。」

「そうなんですか?沢渡君。」

僕はなんて言おうか迷った。

違うと言ったら後で碧にぼこぼこにされそうだ。

でも、そうだと言ったら実行委員をやることになる。

実行委員は結構忙しい。

でも、殴られたくない…。

碧の怖い視線が僕に圧力をかける。

「は、はい……。」

結局、碧の視線に負けて、やることにした。

「では、今年の実行委員は如月さんと沢渡君に決まりですね。」

教室中に小さな拍手が広がる。

虐待だ…。

いじめだ…。

碧と僕は高田たちにいじめられている。

でも、僕は碧にいじめられている…。

僕は一体なんなんだ…。


 「じゃあ、如月さん、沢渡君。これが、実行委員のやる事の資料だから、お願いね。」

高橋先生はニッコリ笑顔で僕たちに資料を渡した。

きっと、もう先生は僕達に任せっきりにするつもりなのだろう。

それにしても、清々しいくらいの見てみぬふりだな。

先生は全て知っているはず。

僕達がいじめられていることを。

先生にとっては、どうでもいい事なのかもな。

先生が何も言ってこないと分かってから高田の僕たちへのいじめはエスカレートした。

 僕は、はあ、とため息をついた。

「ちょっと。これからが本番なんだからね!?」

碧は僕を真剣な目で見つめる。

やばい、そのことについてのため息じゃないのに。

 それにしても碧は、やけに張り切っている。

「なんでいきなり実行委員やろうと思ったの?」

「やだあ。沢渡。私のことを悪者扱いして!ちゃんとあの白い紙見たの?」

「白い紙?」

「うん。『あの計画』の。」

まさか。

「あれに書いてあったの!?」

「うん。」

碧は平然と答えた。

「見てないのが悪いじゃん。」

碧はそう言いながらポケットからあの白い紙を出した。

僕はそれを受け取って開く。

「あ、ほんとだ。」

確かに書いてあった。

そんな…。僕が見落としてたなんて…。

紙を渡されたころは本気にしてなかったからちゃんと見ていなかったんだ。

「ほらね。まるで私が虐待してるだなんて思わないで。」

碧は白い紙を落ち込んでいる僕の手から取った。

虐待と思っていた僕の気持ちまで見抜いていた碧。

「やりたいことってあと何個あるの?」

実行委員の件は諦めて、そっちの方を聞いた。

「えーっとね。あと二十個くらいかな。」

「二十!?」

僕は驚いて気が遠くなった。

「おい!気絶するな!まだまだあるんだぞ!」

碧は僕の手を引っ張った。

僕はため息をつく。

「そんなにやりたくないならいいよ。」

碧はいじけた様子で後ろをぷいっと向いた。

「いや。やるよ。ちゃんと。」

「ほんと!?」

その言葉を聞いた碧は目を輝かせて振り向いた。

「でも、今日は九月十六日。もう二カ月もないよ?」

「大丈夫。きっと全部できるよ。」

碧は親指を立てた。


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