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冬までに死のう。  作者: 海松みる
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十話


 案外、クラスのみんなは真面目に準備に取りかかってくれた。

まあ、思い出にもなる文化祭だから、そこはちゃんとやるに決まっているか。

もちろん、高田たちも渋々だけどちゃんとやっている。

それに、僕が発案したあの『全部混ぜ作戦』も、意外とみんな気に入ってるみたいだし。

 女子たちは、家庭科室にあった適当な布で男装用と女装用の衣装を作っている。

勿体ないけど、この衣装はあとで赤い絵の具を飛ばして、お化け仕様にする。

男子たちは、白い紙にひたすらミニ問題を書いている。

図書室から借りてきた大量のなぞなぞの本や、面白問題などの本を参考に、楽しそうにやっている。

「沢渡、お菓子はどうする?」

碧が資料を見ながらこちらに来た。

「お菓子は前日に大量に買い出しに行く。」

「おっけー。前日、と。」

ささっとメモをする碧。

「それと、黒い画用紙は放課後に美術室に取りに行くのと…。」

「そうだね。ドリンクも前日でいいと思うよ。」

「はーい。」

このペースだったら、今週中には準備が終わりそうだ。

僕はほっと胸を撫で下ろす。



 放課後の教室。

やっぱりクラスのみんなは、時間以上のことはしないのだと、ちょっとがっかりした。

なぜなら、残ってくれる人が、一人もいなかったから…。

「ホームルームで連絡したのにね…。」

「ね…。」

僕と碧は、しょんぼりと美術室へ向かった。


 「これでいいかな。」

碧は黒い色画用紙の束を見つけた。

「こんな完全なる黒い画用紙、初めて見たかも…。」

「何それ。」

碧は僕の言葉を聞いて小さく笑った。

でも、本当に初めて見た。

これまで、色画用紙といえば中途半端に切られたやつとか謎の星型に切られたやつとかしか、見た事がなかった。

「こういう完全なる色画用紙は、先生の机付近か、準備室の中にあるんじゃよ。」

碧はあるはずの無いあごひげを触りながら言った。

「じゃ、持ってこ。」

「おいっ。わしを無視するんじゃないっ!」

まだ架空のあごひげを触っている。

「はいはい、早く行きますよー。」

僕は適当にスルーして美術室をあとにする。

碧は小走りで追いかけてきた。

そんな碧をかわいいと思ってしまう自分がいた。

妹のような、なんというか。


 「よし。この画用紙は、前日準備の時ね。」

「なんか、ほとんど前日準備なんだね。」

「確かに。」

衣装と、ミニ問題さえ完成すれば、あとは前日準備で用意するだけ。

まだ、予算に手は出していない。

「もしかしたら、結構ドリンクとかお菓子とか予定以上に帰るかも。」

「ほんとに!?やった!!」

碧は飛び跳ねて喜んだ。

やっぱり、念願の実行委員が楽しいのかな。

ものすごく楽しそうにやっている。

そういえば最近、碧が生き生きとしているように見えるのは気のせいかな。

始業式のあの日から、随分とイメージが変わったような気がする。

「よし、後は物事がスムーズに進んでくれれば問題なし。」

「そだね。」

ふと、窓の外を見た。

「わあ…。」

空に浮かぶ夕陽が、今までに無いくらい綺麗だった。

卵の黄身のようなオレンジ色をした夕陽。

世界の終わりの日のような光景だ。

そんな光景見たことないけど。

久しぶりに、景色に対して綺麗と思った。

その感覚が、あまりにも新鮮で、もっと近くで見たいと思った。

隣を見ると、碧も夕陽に見惚れていた。

僕はベランダを開けた。

「うわあ…ほんとに綺麗だなあ。」

ベランダに出ようと思って、一歩踏み出した。

その時、

「沢渡。そこから一歩も動かないで。」

「え?」

碧が、突然そんな事を言ってきた。

「なんで?」

「いいから。私がいいって言うまでそこから動かないで。」

「う、うん。でも、なん」

「喋らないで!!」

碧は大声で叫んだ。

それに、とても怖い顔をしている。

僕はその姿に圧倒されて、何も言えなくなった。

「その、踏み出した右足を教室に入れて。」

碧の言う通り、右足を教室に入れた。

「そこから、一歩下がって。」

また、言われた通りにする。

「開けた戸は、閉めて。」

僕は無言で戸を閉める。

「そしたら、急いでこっちまで来て。」

小走りで碧の元へ行った。

「二度とベランダは開けないでね。」

碧は僕の目を見てしっかりと言った。

「うん……。でも、なんで…?」

「なんでもいいでしょ。私、先帰るね。」

碧はスタスタと、足早に教室から出て行った。

教室にひとり残された僕は、美術室から持ってきた黒い画用紙の束を自分の机の中にしまった。

さっきの碧は、一体どうしたんだろう。

物凄い勢いだったけど…。

聞いても、話してくれないし。

これ以上は、聞けないし…。

なんでさっきはあんなに怖い顔をしていたんだろう。

ただベランダに出ようとしただけなのに…。

さっきまで綺麗に輝いていた夕陽はあっという間に沈んでしまい、僕が帰る頃には見えなくなっていた。


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