なんという事でしょう。
さあ、オフィスから歩いて、
徒歩わずか
3秒。
「え、ここですか?」
「うん、ここが君の寮さ!」
着いたところは、オフィスの向かいにある部屋。中は同じ位の広さだけど、こっちは入ったところが大きめのリビングになっている。新築という感じではないけど、なかなかこぎれいなアパートのようないい感じだ。「なんという事でしょう。」で有名な番組の、アフターの方で出てきそう。ここに住めるなんて、ちょっと感動。
「ここが、俺の・・・」
「ああ」
「自立への第一歩を踏み出す・・・」
「勘違いしないように言っておくけど、」
「城に」
「一応ここ、君だけの部屋じゃないからね。」
「なるのか・・・ん?」
「ここ、クラも住んでるから。」
まじか・・・。テンションが上がって厨二みたいなセリフを吐いてしまった。恥ずかしい。聞いてるのボス(見た目幼児)しかいないけど。でも、それにしても、
「その割には、人が住んでる気配ありませんね。」
この部屋には、机や調理器具、椅子くらいしかない。
「クラは、前まではここに住んでたんだけど、恋人ができてからは基本そっちのほうの家に住んでるよ。この部屋は名前だけ借りてるってだけかな。」
「クラさんって、同棲してるんですか・・・。」
まあたしかに遊び人って感じはするけどね。まあいい。
「じゃあキヨくん、とりあえず今日はもう夕方だから、君はゆっくり休んで。ご飯はオフィスで食べれるから後で来てね。シーツとか、必要なものは寝室の棚の中ね。寮の中のものは、好きなように使ってくれて構わない。あとは、電話はオフィスのを使って。こんなもんかな。他に気になることがあったらいつでも聞いてね。
そうそう、君の荷物は寝室の方へ置いておいてるから。整理整頓しておいてね。」
「はあ。・・・え?俺の荷物、まとめた覚えも運んだ覚えもないんですけど。なんでここにあるんですか?」
「企業秘密♡」またかよおい。
ボスが部屋を出ていったあと、目の前に2つあるドアを片方ずつのぞいてみた。右側はユニットバス。そして左側の方をのぞくとベッドと棚しかない部屋があった。窓は大きめで開放感はバッチリ。木製の家具と、淡い緑のカーテンに、太陽の柔らかい光が差し込む、「匠こだわりの部屋」ってかんじ。たぶんここが寝室だ。
そしてボスが言った通り、部屋の中には俺の荷物が、机の中に入れておいたあめ玉に至るまで、全て置いてあった。怖い。
部屋の整理があらかた終わって、オフィスをへ行ってみると、エンさんとクラさんはカレーを食べていた。俺も食べさせてもらった。めちゃくちゃ辛かったけど、とても繊細な味。さらに具がごろごろ入っていて、おいしかった。ボスは部屋にいなかった。
そして、食後。
プルルルル、プルルルル、プル、
『もしもし。』
「もしもし、親父?・・・俺だけど。」
『清か?』
「うん。」
『お前、今どこにいる。』
「バイト先。当分帰らないから。」
『なんだって?ふざけるのも大概にしろ。そのバイト先はどこだ。』
「・・・都得交通ってとこだよ。そこから学校も行くから。もういいだろ。とにかく、しばらく帰らないから。」ガチャン。
はあ。言ってやった。これで、あの忌まわしい家ともしばらくおさらばだ。
俺はやり切った気持ちで、自室へ帰った。
電話の向こうで、親父が「あの都得に清がねぇ。」と考えていたことも知らずに。