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田舎の学生に都会は合わないようだ。

 バスで25分、俺たちは東市の中心部に立っていた。

 市役所の周りには高層ビルが立ちのぼり、歩道には髪までカラフルな女の子や仲良さげなカップルが笑いながら歩いている。そんなリア充ロードは、非リア充には針のむしろに等しい。

 ちなみに俺は、ここら辺には駅に行くときと、親父の服を買うときくらいしか来たことがない。


 そのためただいま緊張からくる動悸と息切れがマックスになっております。


 そんなガクブルの俺に構うことなく、クラさんはあるビルの前で立ち止まった。「依頼人はこのビルのカフェにいるってさ。急ごう」


そこは、貧乏人や田舎者が決して入れないような、格調高く高級な店。

そう、デパート。




 やばいよこれ。どういう事だよ?コーヒー1杯800円。家で入れたら1杯20円しないのに。

 見てるだけで金銭感覚が狂いそうなメニューを見ながら、横目で斜め向かいの席の依頼人を観察する。


 片方の女性はスーツが良く似合ってるな。頼りがいのあるキャリアウーマンって感じかな。こんな人も依頼したりするんだな・・・除霊。

 もう片方の男性は・・・ジャージが良く似合うな。昼間っから遊びまわってるヒモって感じだ。このカフェに全く調和していない。

 男性は携帯をいじりながらだらしなく座ってるけど、女性はそれを一切無視してシャキッと座っている。


 ちなみに、俺はパーカーとジーンズにスニーカー。クラさんは半袖のワイシャツにネクタイ、そして半ズボン。ピアスとなぜかピン止めまでつけているというよく分からない格好。そのせいで、さっきから視線をすごく感じる。「こんな野良犬がなんで迷い込んでるの?誰か追い出してちょうだい!」的な。


「では改めて、深沢 礼香れいかさん、ご依頼を聞かせていただいてもよろしいですか?」

オーダーの後、クラさんが切り出す。


「はい。ここ一週間くらい、肩がとても重くて、常に視線を感じるんです。部屋の中のものの位置が、変わっているときもあって。

 先日、同居していた彼が交通事故にあって亡くなったばかりだったので、怖くなって霊感のある友達に相談したら、『危ないものが憑いてるよ』ってふうに言われたんです。それで、都得さんを紹介してもらいました」


彼氏が亡くなった?じゃあ隣の男性は誰なんだ?


クラさんは男性の方は無視して、女性————深沢さんと話し続ける。


「では、よろしくお願いします」


 しばらく事務的な話をした後、深沢さんは席を立った。つれの男性置いてかれてるけど、大丈夫なのか?


 あ、顔をあげた。周りを見渡して・・・深沢さんが居ないのにようやく気づいたのか。慌てて席を立とうとしてる。そこですかさずクラさんが捕まえる。

「ちょっとすいません。場所変えてしゃべりましょうか」

 クラさん、完璧な営業スマイル、一切崩れてません。




 不満たらたらな男性を連れて、着いたところはビルとビルの間の薄暗い路地。リア充スポットのすぐそばなのに、ここにその熱気は届かない。

5メートルくらい離れて、男性とクラさんは向かい合っている。俺はクラさんの後ろから2人を見る。


太原たはらさん、初めまして。私、都得交通の岩倉紀彦と申します。今回、ご依頼を受けましたので、あなたの快適な成仏のため、ご協力させていただきます。」

クラさんが太原さんに名刺を差し出しながら物腰低く挨拶をする。


「え?ちょっと待ってください。この人死んでるんですか?」

だって、こんなに姿がはっきり見えるのに。足だってしっかりあるぞ?

「あれ?言ってなかったっけ。

この方は今回のお客様の、田原さん。さっきの深沢さんの元彼で、この前酔ったまま車運転して事故って死んじゃった人だよ。」

「こんなにはっきり見えるのに?」

「それ首輪の効果の一つだから。」

スゲーな、あの幼児ボス


「あのさー、それでお前ら俺に何の用なんだよ。」

「ああ、大変失礼致しました。よろしければ、あなたの未練を教えていただいても、よろしいですか?」

「俺の未練?」

この人の未練?何でそんなこと聞くんだろう。


「はい。未練を果たせば、あなたはこの世に縛り付けるものから解放されますから。」

つまり、未練の消滅➝この世からの解放➝成仏ってことか。


太原さんは、下を向いて考えている。 

「そうだな・・・。

 俺の車とぶつかったあのトラック。あいつ、俺とぶつかる瞬間スマホ見てたんだよな・・・。

 あいつさえいなければ、俺は今日も礼香と過ごせていたんだ。

 あいつがのこのこ生きているのが許せない。

 あいつを消したい。

・・・・・・これが俺の未練だ。

お前ら、俺に協力してくれるんだろ?だったら、あいつ、あの運転手殺すの手伝えよ。なあ!」

最初はぼそぼそとしゃべっていたのに、段々と声がでかくなり、最後には何を言ってるか聞き取れないほど激昂している。


やばいこいつおかしい。こいつ、復讐だけしか考えてない。

俺がおどおどしてると、ぼそっと、

「あーあ、こりゃだめだ。めんどくせえなぁ」

と聞こえた。

・・・今の、クラさんのつぶやきですか?!クラさん営業スマイル崩れてないのに。

 そんなにこにこ笑顔のまま、太原さんに近づいていく。


「そうですか。つまりその運転手を殺したい、ということですか。」

歩きながら、ゆっくりと腕まくりをする。

「そうなんだよ。手伝ってくれるのか!?」

「ええ、もちろん・・・。

あなたの速やかなこの世界からの消滅の、ね。」

ん?


ズン!


一瞬で間合いを詰めたクラさん。

ふっとぶ太原さんは、すでに意識を手放している。


ズササ・・・。


ケ、KO・・・。

ひっくり返っている太原さんを見下ろすクラさん。背中から、どす黒いものが湧き出ている・・・気がする。


「こんな風に、意識を失うと霊は消滅するんだ。この世にとどまろうっていう意思が薄れるからね」

確かに、あおむけになっている太原さんの体は、段々と薄くなっていってるけど。


俺のほうに振り向いたクラさんの顔!ヤの付く自由業の方みたいだから。任侠風だから!笑ってるのに!


「さ、帰ろっか。」

激しくうなずきすぎて、首がもげそうになった。














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