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その日は面接のはずだった。

 親父と口論になって3日目。口も利かないし、第一顔すら合わせてないが、大して気にならない。

 ていうか稼業を無理に継がせようとする方がおかしいんだよ。「お前には特別な力がある」だって?そんな厨二みたいなセリフにだれが引っかかるかよ、ハゲ親父。

 おれの夢は安定した職を手にして平凡に生きることなんだよ!住職じゃない。

 なんか親父の事を考えてたらまたいらだってきた、なんて考えながら家を出ると、家のポストにこんなチラシが入っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


~パート・アルバイトさん大募集!~

チームワーク重視!!世の中の役に立てるやりがいのあるお仕事です。


時給 3,000円~ 昇給あり(年2回)

社員寮・有給あり(条件あり) 制服支給制 免許不要

1日1時間、週1日からOK!


資格 ①15歳以上の男女

   ②弊社まで面接に来れる方


興味がある方は、ぜひ一度お電話ください!

070-XXXX-XXXX 

都得とえる交通(株)担当 岩倉紀彦いわくらのりひこ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 俺の家は寺で、しかも山奥にあるから、ビラ配りの人も来たことがないに等しい。

 おまけに、条件が良すぎる。こんな良いバイト、オミズ位しかないだろ。

 今考えると、なんでこんな怪しげなところが盛りだくさんなものに興味を持ったのかわからない。

 だが、間抜けな俺の目はここに釘づけになってしまった。


「時給 3,000円~昇給あり(年2回)社員寮 あり」


「社員寮、あり、か。」

俺は迷うことなく、携帯を取り出していた。


 寺口清てらぐちきよし、16歳、自立のための、そして地獄への第一歩を踏み出した瞬間であった・・・。トホホ(泣)




 昨日まで降っていた雨はやみ、すっきりとした秋晴れの中。俺は今、都得の入口ドアの前に立っている。

 エレベーターもついてないような小さな3階建てのビルの、2階のワンフロアだ。入口のすりガラスのドアは、白いペンキで「都得交通(株)」とだけ書いてあるシンプルなデザイン。

 ビルが道路に面しているせいか、車のエンジンの音がひっきりなしに聞こえる。

 外からはスズメか何か、小鳥のさえずりが聞こえる。

 額を流れ、足元へと落ちる汗を見る。

 水たまりが大きくなっていく。


 さて、なんでこんなに風景の描写が多いんだろう、話が進まねえな(怒)とみなさんお思いだろう。なぜかというと、


 チャイムを、

 鳴らしても、

 反応が

 ないっ!!


 今まで

 ピーンポーン・・・(10秒)ピーンポーン・・・(10秒)ピーンp(以後繰り返し)って、「ピーンポーン・・・(10秒)」を何回やったと思う?78回ですよ?時間にして15分以上ですよ?

 「都得」って名前だから、都内の会社だと思ったら、普通に市内だし。バスで行こうと思ったら、金がないから歩く羽目になったし。スマホのナビ使ったら迷ったし。2時間歩いてようやく着いたと思ったらこれですか。ふざけんな。

 しょうがない。もう一回押して、出なかったら帰るか。


「『ピーンポーン』・・・はあ。何で出ないんだよ「おい」ぎゃあああっ!」

 

 目の前のドアに夢中で、後ろに人が立っているのに気づかなかった。その人が話しかけてくる。

「おい、お前なんでここに立ってるんだよ。不審者か?」

「いや違いますよ!俺はここに面接に来たんです。あんたこそ誰ですか。」

 初対面でいきなり不審者って。ひどいやつだなあ。第一、俺よりもはるかに身長があるのがむかつくし。・・・別に俺はチビじゃないから。平均身長ににわずかにとどいていないだけだ。そう、わずかに。



「あ!あぁ、そうかお前が。なんだよ早く言えよ。ささっ、早く入って入って。」

こいつは質問に答える気がないらしい。一人で勝手に納得して、さっきとは一転、俺をドアの内側に押し込もうとする。てかこいつヒョロイのに力が強い!あっというまに、俺は入口をくぐっていた。


 ドアの中は意外と広く、目の前にスチール製の机が並んでいた。ちょっと小さい職員室みたいな感じだ。でも誰もいない。

「ただいま帰りましたー。あ、君。外暑かったよね。ここに座ってもうちょっと待っててね。お皿の中のお菓子、食べちゃっていいから。」

そう言って右手にある、応接セットに案内された。おとなしく座る俺。


 ・・・こんなふうにお菓子を勧められたときって、食べてしまってもいいんだろうか。食べないとせっかくの好意を無駄にすることになるけど、食べたら食べたで厚かましいって思われるし。どうしよう。

 

 よし、食べよう。これに決めた。ちょっとお高そうなクッキー。ん、なんか視線が。

 気配を感じて顔をお菓子から上げると、反対側の椅子に男の子が座っていた。めっちゃ俺のクッキー見てるし。食べたいのかな。

「ねえ、これ食べたいの?」

そう声をかけると、ばっと顔をあげてコクコクうなずいている。クッキーを渡すと満面の笑みでかじりだした。それにしても、さっきのでかい男は、一体何をしているんだろう。

「ねえ、ぼく。さっき俺と一緒に来た人ってどこにいるか知ってる?」

「クラのこと?アイツなら、今お茶をいれてる。もうそろそろ来るよ。それよりも、その中のお菓子食べないでよ。僕のなんだから。」

 なんか、小動物みたいな顔の割に偉そうな幼児だな。


しばらくクッキーをかじる幼児を観察していると、さっきの馬鹿力がコーヒーを持ってきた。

「おまたせー。あ、ボス!そのお菓子はお客様用のなんだから食べちゃだめですよ。」

 ・・・え。

 ぼす。

 つまり、社長。

 敬語。

 相手は幼児だぞ正気か?

「あの、その子って・・・」

「自己紹介がまだだったね。ボクはここ、都得交通株式会社の社長。みんなには『ボス』って呼ばれてるんだ。ヨロシクね。」

いやいやいや。嘘だ!めちゃくちゃだ!だって推定年齢5歳の幼児だぞ。クッキーかじってにこにこしてるんだぞ。

「あの・・・冗談ですよね。」

「いや、じょーだんじゃないよ。この人はうちの社長。んでもって俺はここの人事担当、入社3年目の岩倉紀彦いわくらのりひこっていうんだ。それで、君は?」


 落ち着け、俺よ。社長が何歳だろうがいいじゃないか。あくまでも職に就くのが優先だ。

 まずは自己紹介。「えっと、俺は「ああ、知ってるから言わなくていいよ。」」

 自己紹介ぐらいさせてくれよ。

寺口清てらぐちきよし君。16歳。家からバスで1時間、ここからだと歩いて10分のところにある高校に通う、高校1年生。成績は中の下。趣味はネットサーフィン。山奥の密教系の寺の住職の息子。だけど寺の仕事が嫌いで、将来絶対に継がないと決めている。そのため、自立した生活を築くための仕事と家を探していた。・・・こんなところでショ。」

 なんかこの幼児、俺の個人情報をペラペラとしゃべっているんですけどー。

「何で知ってるんですか!」

「企業秘密♡」おい。

 

「それはさておき、君、霊に関しての知識あるよね。」

 そしていきなり話題転換。

「まあ、一応。」

「霊、見れる?」

「はあ。まあ。」


そう返事をすると、幼児・・・もといボスは、また満面の笑み。

「じゃあさ、今から現場行ってみようか。クラ、さっき入った依頼、あれに連れてってあげて。」

「ちょっとちょっと、まだ面接らしい事、俺何にもやってないですよ。」

いきなり現場って。まだ業務内容すら教わってないぞ俺は!

そう心の中で盛大に叫んでいると、馬鹿ぢ・・・岩倉さんが

「いいんだよ。やって見せた方が早いからね。危険な事はないだろうし・・・たぶん。」

 最後の一言、小声で言ったつもりだろうけどばっちり聞こえてますから!


 そういうことで、現場に引きずられて行きました。














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