テーマ×テーマ小説 (主人公:フリー(自由)×現場:クローゼットの中)
こんにちは、葵枝燕です。
この作品は、我が姉の唐突な思いつきから書き始めた作品の第二弾です。
詳しくは、裏話も交えつつ、後書きにて語りたいと思います。
それでは、どうぞご覧ください!
ここに押し込められて、一体何日が過ぎたのだろう。
ここは、薄暗い。ここは、風すらも通わない。ここは、閉ざされている。
向こうから開く者がいなければ開かない、そんな扉が私の目の前にある。それはつまり、こちら側にいる私からは開けることすらできないということを意味している。
“ここ”は――そういう場所なのだ。
ここに押し込められて、一体何日が過ぎたのだろう。
いつの間にか、日を数えることすらやめてしまった。太陽が昇り、太陽が沈み、太陽が昇り――ただ繰り返すその日々を、数えることが無意味だと知ってしまった。
きっとこの先、ずっと私はこの場所にいるのではないか――そんな気がしてくる。この、薄暗く閉ざされた空間から、出られるはずがないのだと。ただ流れる日々の中で、そんな思いだけが湧き上がる。
ここは、そういう場所だから。自分では、どうすることもできないのだ。そう、私では、きっとどうすることもできないのだ。
この閉ざされた、果てしなく孤独な空間。常に薄暗いここは、それでも完璧な“孤独”ではない。私のような存在が、そこかしこにいるのだ。そうして誰もが、こんな思いを抱いている。
いつの日か、“ここ”から出ていけるのだ――と。そんな、ささやかな希望を持っている。
それでも、押し込められた日々は、私達に虚しさを与える。こんな仕打ちをする存在を、恨み憎むこともある。そうしたところで、この空間が開くことはないのだが。そうでもしなければ、黒い感情に押し潰されそうになるのだ。
きっと、私達をここに閉じ込めたあの存在は、私達がこうしていることを知らないだろう。いや、それ以前に、私達をここに閉じ込めたことさえも、忘れてしまっているのかもしれない。私達のことなど、脳の片隅の片隅に追いやって、そう簡単には思い出せない場所にあるのかもしれない。
そう思っても、簡単には希望を棄てられない。いつか、いつかきっと――そう思わずには、そう願わずにはいられないのだ。
どれほどの時間が過ぎただろう。私は、物音を聞いた。それが、目の前の扉が軋む音だと気が付いたとき、微かに高揚したのを感じた。この空間の全てが、期待と興奮に包まれていくのが、私のツルリとした肌を伝う。
扉がゆっくりと開いていくのを、私達は息を飲んで見つめていた。両開きのはずの扉は、なかなか開かなかった。右側の扉だけが重々しく開き、左側の扉と三十センチほどの隙間ができたところで止まる。この空間に久しぶりに、明かりらしい明かりが射し込んだ。私達は、ひたすらに待っていた。
誰かがここから出て行くのだろう――とそう思っていた。
しかし、私たちのそんな希望は、あっけなく打ち砕かれた。この決して広くない空間に、新たな存在が入ってきたのだ。
私達が何か声を上げるよりも前に、目の前の扉は閉ざされる。開いたときとは逆に、素早く閉まった。バタリという重い音が、この空間を漂って消えていく。そうしてまた、薄暗く閉ざされた空間へと戻ってしまう。落胆と悲嘆とが混ざりあった空気が、この空間を重くする。
きっと、私達はまた忘れられるのだろう。ここは、この扉を開ける力を持つあの存在にとってそういう場所だ。隠し場所であり、保管場所であり、いつの日か棄てるはずのものを置く場所だ。それらを押し込んでおいていることにすら、目を逸らしたいのかもしれない。
幼い頃に着ていた大量の洋服、叔父から譲り受けたというギター、刃が錆びついた彫刻刀セット――それらが静かに呼吸を繰り返している。私も、たくさんの仲間達に囲まれて、ひっそりとただここにいる。
私達は、一様に同じことを考える。それは即ち、モノを管理するという面においては色々な意味で最悪といえるこの空間から、どんな理由であれ、たとえあの存在の手を離れることになったとしても、出て行きたいということだ。しかしそれには、あの存在の力が不可欠なのだ。つまり、気紛れで忘れっぽいあの存在が、私達のことを思い出してくれなければ始まらないのである。
私は、いや私達の心は、また諦めへと塗り潰される。それでも、微かな希望を持っている。
いつか、この空間から出られることを夢見て。
『テーマ×テーマ小説 (主人公:フリー(自由)×現場:クローゼットの中)』のご高覧、ありがとうございます。
この小説は、前書きでも述べたとおり、私の姉の唐突な思いつきで書くことになった作品です。その思いつきというのが、「主人公と現場のテーマを五つずつ出し合って、それぞれから一つずつ引いて、それで何か書こうぜ!」と、いうものです。
そして、第二回となる今回のテーマが「フリー(自由)×クローゼットの中」でした。主人公テーマは姉の考案で、現場テーマは私の考案です。ここは、前回の『テーマ×テーマ小説 (主人公:フラれた直後ベロベロの美女×現場:夜景がキレイな公園)』と同じですね。
ちなみに、このテーマが決まったときの私の反応が、「“フリー”って、あれか。某水泳アニメか!」でした。……そんなわけなかったんですけど。それに、犯罪臭がするというか、なんとなくこわい感じの組み合わせだなと、姉と二人思ったのを憶えています。
それはさておき。
私にとって、部屋のクローゼットは物置と同義になりつつあるので、そんな自分の状況というかそのようなものを描いてみました。ほんとにもう、他人に見せられないくらい大変なことになっているのですよ。なかなか棄てられないから、片付きませんしね。
主人公は、そんな我が部屋の物置クローゼットに山のように積まれている漫画本の一冊です。主人公が“フリー”ならば、何を主役としてもいいのだろう――そんな思いで、あえてヒトではなくモノを主役に書いてみました。ともあれ、あれらも、早くいらないのは売り払うなり何なりして、手放さないといけないんですよね……。上の仕切り棚が落ちてこないか心配になってきます。
そんなこんなで、今回もどうにか、無事に一つの話を作り上げることができました。〆切ギリギリでしたが……。
実は、第三回のテーマを先ほど決めたのですよね。しかし、これまた今回以上に厄介なテーマなんです。「書けるか不安でしかないし、あのテーマ何……?」って感じです。本当に不安……。
さてと。今回はこのへんで。
この度は、拙作のご高覧、誠にありがとうございました!