089 祝勝会 中編
祝勝会編続きです。
先程一階に下がった少女と年配の女性が、料理を二階に上げているのが見えたわ。
ワゴンにまずは運んで、それがいっぱいになってから運んでくる様ね。
少女がワゴンを押して料理を運んできたわ。
奥の席から順に置いているわね。
ワゴンの中には六人分の料理が入っているから、三十六人いる人数を考えれば五回で運び終わる計算になるかしら。ワゴンは二台あるから、一台が動いている間に二台目に料理を運び、一台目が運び終われば二台目を運び出して一台目にまた運ぶという感じで動いているの。
私から見て向かい側のテーブルの方から先に配っているわね。
料理はパスタっぽいものが見えるわ。
……パスタならあまりハズレって出ないから大丈夫だと思うけれど、先程のあの薄~い飲み物を考えると不安を感じるなって方が無理な話かしら。
それでも匂いは意外に良い感じの匂いがしているのよ。
アツアツの料理から出る湯気が室内を漂って空腹を刺激するわ。
昼間アクロバティックに動きながら魔法を使って大道芸チックなことをしたから、流石に私も今日はお腹が空いているのよねぇ。
程無くして私の前にも料理が運ばれてきたわ。
少女が置いて行った皿の中には他の皆さんと同じパスタ料理が入っているわね。
シーフードのクリームパスタって感じかしら。
全員に運び終わると先程の様に会釈をして少女達は降りて行ったわ。
それを見てローグさんが全員に行き渡ったか見回すと、頷いて口を開いたわ。
「皆さんのもとにも料理が運ばれました。さぁ、この食事で本日の疲れを労いましょう。頂きます」
頂きますの唱和があったわ。
私は用意されているフォークを持って、くるくるとパスタを包んで口に入れる。
「うっ……」
こ、これは酷い。
まず口に入れた瞬間にもわりと鼻を突く様な生臭さ。それは思わず嘔吐しそうになりそうな程の生臭さと共に、味気ない塩気もなにもあったものじゃない粉っぽいホワイトソースらしき何かが口の中いっぱいに不快感をまき散らしてくれるわ。そして、噛み切れるけど微妙に芯の残るパスタはとてもアルデンテなんて好意的な感想を出せない程のもっさりとした食感を伝えてくれるのよ。
もはやこれは生ゴ……以下省略。
私は両隣のパトラッシュとインディの反応を見てみたけれど、あら? 意外にも普通の顔で食べているわね。……でも、その隣のシャインやワレリーさんは顔色がとてもじゃないけどよろしくないわ。
周りを見回しても流石に会食であることを意識して噴き出したり吐き出す人はいなかったけれど、その分我慢して飲み込んだりしているからか、顔色は誰もが酷い有様よ。
あっれーーー、おかしいなぁ。
ここってこの町で一番評判の良いお店って言ってなかったかしら~。
それがどういうわけか生ゴ……(自主規制)を出すようなお店に連れて行かれるだなんて、もしかして私達って嫌われてる~? 実は私のしたことに迷惑していて、みんなで寄って集って私達に体張った嫌がらせをしているとか~? うーん、それは随分とエムな人がそろっているってことよねぇ。
……とまぁ、こんな悪態をつきたい程度にはイライラしてきているんだけれど、誰も文句を言わない辺り皆さん被害者ってことなのかしら。……このイライラの矛先は何処に持っていけば良いのかしら。
私は食事に手を付けるのをやめて、席を立ちあがったわ。
唐突に立ち上がった私に同席する一同の目が集まる。
「ローグさん、ベルを使って下さる」
「は、はい」
私はあえて感情を表現せず無表情で声の抑揚もつけずに言ったわ。
ローグさんはそれに慌てたようにベルをぶんぶん鳴らしている。
程無く少女が階段を上ってこちらにやってきたわ。
「なんでしょうか」
彼女は何の疑問も無いという風な素知らぬ顔をしている。
それが余計に私の癇に障る。
「呼んだのは私です。あなた、この料理食べて下さる」
「はい?」
「いいから、お食べ」
「は、はい」
彼女は私の剣幕に押され、部屋の奥にある棚からフォークを取り出すと、それを持って私のもとに来て皿の中のパスタをフォークでくるんで口に入れたわ。
でも、不思議なことに彼女は平然とそれを食べたのよ。
ちょっとまって、生ゴ……(自主規制)食べても平気ってどういうこと!?
「……味をどう思うかしら」
「はい、美味しいです」
うわ、この子良い笑顔で言い切ったよ。
もうその答えに全員同時にガクリときたわ。
いや、お約束と言われればそうかもしれないけれど、美味しいってどんな味覚しているのかしら。
「へ、へぇ~、へぇ~、美味しいの? これで美味しいですって? へぇ~」
「はい。とっても美味しい出来ですよ」
笑顔で言い切られると余計に怒りが込み上げてくるわね。
でも決して表情には出さないわ。
えぇ、意地でも出してやらないわよ。
「そう、貴女が美味しいと思うのは勝手だけれど……いいわ。これを作った人を呼んできて。今すぐ!」
「え、しかし、兄は厨房で料理中ですから、次の料理をお客様へお出しするのが遅くなるかと……」
「良いの。そのことに対して文句は言わないから、さっさと呼んできて!」
「畏まりました」
彼女はぺこりと礼をして足早に下へ降りて行ったわ。
それにしても、あの料理を作ったのはさっきのお兄ちゃんだったのかしら。
あらやだ、意外にイケメンとか思ってたら、あの生ゴ……(略)を作る魔手の持ち主だったなんて。人は見掛けに寄らないとは言うけれど、残念無念ね。
あ、でも、イケメンの手料理だと思ったらちょっと気分良いかも。
あらら、私ったらこんなところで気分が浮上するだなんて不謹慎よね。
そんなことを思っていたら、少女が予想通り先程運ぶのを手伝っていたお兄ちゃんを連れてきたの。
彼は少女と共に私の前に来ると礼をしたわ。
「あなたがこれを作った料理人?」
「はい」
「そう。じゃあ、食材費用は出すから、お宅の厨房貸して下さらない?」
「え?」
「貴方達に拒否権は無い」
私は押さえていた感情を露わにしたわ。
それまで抑えていた魔力も解放したから、魔力を感じられない人でも何か得体の知れない力を感じているはず。
案の定というか、彼らの心拍は上がって手足から熱が奪われていくのが千里眼の表示で確認できるわ。
「わ、分かりました」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
「費用を頂けるんだ。拒否する理由はないだろう」
「じゃあ、案内してもらいます。あ、皆さん、しばらくの間お茶でも頂いてゆっくりしていて貰えます? 私が皆さんに口直しを用意させていただきますから」
「は、はぁ」
皆さんぽかーんとしているけれど、私は念話でパトラッシュとインディにお茶出しをお願いしてガレージを部屋の隅に開いておいたわ。二人は合点承知とばかりにそそくさと用意しに行ってくれたわね。
それを見届けた私は少女と兄に付いて行って厨房に入ったの。
そこでは先程配膳で来ていた年配の女性が調理しているのが見えたわ。
「あら、どうしてお客さんをお連れしたの?」
「母さん、この方が費用は出すから厨房をお借りしたいと仰るものだから」
「それで受けてきたというのかい!? 何を考えているんだい」
「あの、奥様」
「お、奥様!?」
私の奥様発言に異様に驚いているわね。
私は構わず続ける。
「そこ、どいて下さる? 御嬢さんのお話通りですから。お三方は私の邪魔をせずにご覧になっているのは構いません」
「し、しかし」
私は彼女にも眉間に皺を寄せていかにも気が立っているという風に凄みを付けて言ったわ。
「早く」
「は、はい!」
その後は私が調理を始めたの。
美味しい料理がどういうものか、私が分からせてやろうじゃないのよ。
私の中でメラメラと闘志が燃え上がったわ。
え、その情熱はおかしいって?
確かにちょっと違う方向への情熱かもしれないけれど、そんなこと知ったことじゃないわ。
食い物の恨みは昔から怖いというでしょう?
この場合は何とも言えないあの不味さに対する消化不良なもやもやが、私に料理をせよと訴えているのよ。
恐るべき生(自主規制)の破壊力を前に燃え上がったキョーコ。
味見をさせても良い笑顔で返す少女の態度に対抗心を燃やし、遂に自分で料理をすると言い出してしまいました。
続きます。




