088 祝勝会 前編
キョーコ達は祝勝会に向かいました。
私達は東地区の商店主や行商の人々と共にぞろぞろと歩いたわ。
参加したのは30人くらいいるんじゃないかしら。
勿論私達の隣のお店だった装飾品屋のワレリーさんと服屋さんのローグさんも来ているわよ。
私達は商店主達のあとを付いて行っているの。
彼らが目指しているのは上の宿屋街の方にあるお店の様ね。
場所は私達の宿もある東通り側の十字路に近い辺りかしら。
ギルドからも近い位置にあるから良い場所なんじゃないかしら。
話に聞く範囲には結構な人気の美味しいお店だと聞くから、時間的にも混みそうだし入れるかしら。
店はレンガ造りの建物の一階ね。ローグさん掛け合ってくれているみたいね。出てきたのは10代くらいの女の子ね。私達の人数を見て驚いているのが見えたけど、どうやら許可が出た様ね。ローグさんが先頭に入っていくわ。
「いらっしゃいませ」
みんなが入っていくのを後ろから付いていくわ。
お店に入ってみたら、ランプの明かりに照らされて良い雰囲気なお店ね。
左側がバーカウンター風な作りになっていて、右側にテーブル席がいくつかあるけれど、席数としてはテーブル四つ分だから入りきらないわ。どうするのかしらと思っていると、ローグさんは奥にある階段を上っていくのが見えたわね。どうやら二階席があるのね。
二階に上がっていくと、大きな長いテーブルが二つほど並んでいたわ。
そこに順次座っていく感じかしら。
私達は一応主賓扱いなのか真ん中の席に案内されたわ。
女の子がローグさんとメニューについて話しているわね。
私はこの店のことを知っているわけじゃないし、この世界のオーダーの仕方を知っているわけでもないからお任せできて良かったけれど、まさかこんな大人数で夕食を頂くことになるとは思っていなかったわ。
程無くしてオーダーも決まったのか、女の子は会釈をして一階に下りて行ったわね。
「本日は東地区の救世主と呼んでもいいポプリ村の皆さんとの祝勝の宴にお集まり下さり誠に有難うございます。飲み物が用意されましたら乾杯とさせていただきますが、それまでは暫しご歓談を」
ローグさんの挨拶の後、室内は和やかな会話の声で満たされたわ。
私の両隣にはパトラッシュとインディが座っているけど、右のパトラッシュ側その隣にはワレリーさんが座っていて、私はワレリーさんと話したわ。
「ここのお店は暫く振りでねぇ。今日みたいに良い売り上げの時に寄らせてもらう自分へのご褒美みたいな場所なんですよ」
「そんなに美味しいんですか?」
「えぇ、それはもう。おら、ここらでは随一だと思っているくらいだ。ここの店主の腕は誰にも真似出来ねぇくらい良い味を出すんだ。その分値段も良い値段だが、納得できる料理だと思うべ」
「それは楽しみです」
この世界の料理で美味しいと思えたのはスラムの肉串だけど、あれは飽く迄もB級フードよね。
やっぱり料理と言えばしっかりとしたレストランの料理を頂きたいじゃない?
ここはこんなにも沢山の人が笑顔でやってくるようなお店なんだから大丈夫……と思いたいけれど、実は室内の商人の皆さんの半分くらいは微妙な顔で座っていたりするのよね。
どうしたのかしら。
実は無理矢理付いて来たとかそんな口?
まぁ、あの場の雰囲気で参加した様な人もいるかもしれないわね。
例えば店主命令で派遣された下っ端みたいな参加者もいたかもしれないし。
女の子と年配の女性と若いおにーちゃんが飲み物を持って上がってきたわ。
木製のジョッキを全てのテーブルに配ると、まずは酒を持って歩いて周りながら注いで行ってるわね。私も酒を頂こうと思ったんだけれど、インディとパトラッシュのことを考えると私と同じものを欲しがりそうな予感がしたからお断りしたの。
私は年配の女性が配っていたジュースを頂いたわ。
ベリー系っぽい香りのする飲み物の様ね。
どんな味がするのか楽しみだわ。
お兄ちゃんはどうやら荷物運び役だったのね。
彼も給仕してくれるのかと期待したけれど残念だわ。
全ての卓上に飲み物が生きわたると少女と年配の女性は会釈をして下に降りて行ったわ。
彼らが降りたのを確認するとローグさんがジョッキを片手に話し始めたわ。
その場の全員が彼がジョッキを持ったのを合図とするかのようにジョッキを手にしたわね。
私も二人に念話で持つように話してから持ったわ。
「皆さんのもとに飲み物が行きわたったことと思います。では、本日の売り上げを祝して、乾杯!」
その場の全員がジョッキを高く掲げて唱和する。
そして、飲み物を口にしたわ。
ゴク。
え……なにこれ。
味がしないわね。
香りは有るけれど、水で薄めたような微妙な味のベリーっぽい水かしら。
ほんのりというより僅かに酸味と甘みの名残みたいなものが感じられて、渋みみたいなものも僅かに残っている何とも言い難い様な味わい。……まぁ、ポプリ村の例があるから、あの路線で考えればこれもここの常識的な味……ってわけでもなさそうね。
みんな微妙な顔で固まっているわ。
全員がジョッキを置いたところでローグさんが口を開く。
彼もなんとなく挙動不審な感じ。
「あー、えー、まぁ、喉も潤いましたことです。料理が来るまでまたご歓談をお楽しみください」
またご歓談をということになって話し始めたけれど、みんな微妙な顔つきのままひそひそと声を潜めて隣同士で会話していたりって感じね。
私は左隣のインディを挟んだ向こうに座るシャインに話しかけたわ。
「ねぇ、シャイン。貴方のお酒、一口頂けない? 味見だけしたいのだけど」
「え? あぁ、良いですけど……その、まぁ、良いか」
彼は躊躇いつつもジョッキを手渡してくれたわ。
私はそれを一口飲んでみたの。
うっ……、こ、これは、……さ、酒?
味は赤ワインっぽい味がするんだけれど、これも水でものすごーーーーく薄めた様な味がするわ。仄かに赤ワインっぽい風味と渋みとアルコールっぽい何かを感じるけれど、どうしようもなく酔える気がしないわね。いや、違う方向で酔った気分を味わえなくもないけれど、それは悪乗りとかそういう演技的な意味であって実際の酔いとは違うわよね。
……というか、そもそもジュースもそうだけれど冷えていないのよ。
そこはこの世界だから氷とかは簡単に用意できないので難しいってのは理解できるけれど、自分のお店で氷水作っていたから余計にその対比をしてしまうというか、たぶん、みんなそんな比較をしているから微妙な顔つきになったんじゃないかしら。
あ、そりゃ、そもそも酒って感じがしないからだとは思うけれど。
私は笑顔でシャインに戻したわ。
シャインも微妙な笑顔で私の笑顔の意味を感じ取った様ね。
酒の味見をして微妙な笑顔でいたら、念話で話しかけてくる声が。
(何、どうしたのインディ)
(キョーコ、お前は酒を飲んだではないか。ずるいぞ)
あらやだ、そんなところを目敏く突いてくるの。
私は内心げんなりしつつ返したわ。
(あなたも飲んだジュース、どうだったかしら?)
(ん、あれは香りを付けた水ではなかったのか?)
……あぁ、なるほど。
好意的に見ればそういう見方もあるのね。
ちょっと感心しちゃったわ。
確かに下町の食堂とかにレモン水を出してくれるところとかあるわよね。
あれ、意外に爽やかで好きよ。
(あれは水で薄め過ぎたなれの果てよ。確かに好意的に受け取ればそうとも取れるけれど、あんな味付けでもたぶん私達が売った水よりも高いのよ)
(なんだと!? あれでか!?!……人間とは怖いものだな。あの味でも俺達より強気の値付けを出来るのか……)
(そうよ。残念なことにそんな現実に追い打ちを掛けたのが酒ね。貴方が気にしている酒も同様に水で物凄く薄めた様な味よ。しかも冷えてないから何とも言えない後味が後からもわりと来るおまけ付きよ)
(う……、そうなのか。それは遠慮しておく)
(そもそも、さっきも言ったけれど貴方達は一応子供ってことなんだから、そういうのは人間の子供には飲ませないのよ。体に悪いからって。実際成長期の子供には悪影響もあるでしょうし)
(そうか、お前は俺達の健康を気にして……そうとは知らず我儘を言った。すまない)
なんだか納得してくれたようだから良いわ。
まさか飲み物の不味さで会話が成立するだなんて誰も思っていなかっただろうから、早くこの白け鳥を何とかしてくれないかしら。
しかし、私の期待は無残にも砕かれるのよ。
祝勝会で盛り上がる面々ですが、出された飲み物に驚愕の一同です。
水で薄めた飲み物というと、カルピスを思い浮かべちゃいますが、あれは薄めても独特の味わいがありますよね。その味が好きという方もいたりしますが、キョーコ達が飲んだものもジュースに関してはインディの言うように好意的に捉えることが出来るものだったのでしょうか。
続きます。




