086 バザー 3
バザー編続きます。
幾ら何でも一時間経過しても人が全く来ないというのはおかしいんじゃないかしら。
何が原因なのかなぁ。うーん。
周囲を見回してみても動じている様子は無いようね。……どちらかと言えば落ち着いている。
私はシャインに尋ねたわ。
「ねぇ、もしかして、ここの人通りっていつもこんな感じ」
尋ねられたシャインはとても言いにくそうに躊躇っているから、答えは丸分かりね。
それでもちゃんと答えてくれたわ。
「……はい。だからこんなに広いスペースでは……」
「そう。でも、それなりにこれまでは売って帰ってきたんでしょう?」
「確かに今日みたいに全く開店から人が来ないというのは無かったと思いますが……」
彼の言葉から分かる事は、普段から人通りが少ないのはお察しの通りとしても、客入りの起伏が有って一応は人が来る事は間違い無いのよね。では、開店から人が来ないのは何故かしら。……これは何処かに吸われていると考えるのが自然よね。
先程聴こえてきた音楽とかは何か意味があるのかしらね。
例えば大道芸人を呼んで客引きをしているとして、それが東側ではなく西側に向かう様な誘導だったとしたら、開店から人が来ない理由の一つにはなるかしら。それでも全く来ないという理由にはならないわよね。東側と西側の違いは何かしら。
「ちょっと私散歩に出掛けるからお店の方お願いね」
「父さん我も連れてくのだー!」
「パトが行くならば俺も行く」
「あー、はいはい。いらっしゃい」
二人の同行は止めても疲れるだけだから、来たいなら構わないわ。
インディは兎も角、パトラッシュはニコニコ顔ね。
東側の店を見て回ったけれど、色々なお店があるというのが分かるだけで何か変わったところがある様には見えないわね。様々な人種や民族の人が行商で来ているのか、昨日見た獣人っぽい人も含めてそれだけ多くの人が来ているのが分かるわ。
でも、それくらいの話なのよね。
中央の広場に差し掛かる頃に音楽が大きくなって来たわね。
それにしても暑いわぁ。お日様が昼時に近づいてきて蒸し暑さが出てきたわねぇ。
みんな暑そうだわぁ。
服装は白系の目の荒い麻っぽい生地の服とかを着ている人が多いけれど、そんなんじゃ追いつかないってのが分かるほど額に汗を浮かべている人がいるわね。
私達も一応周囲と浮かない様に薄着にしているのよ。
体感温度がこれ以上上がる様だったら身体の周りに冷風を纏わせてクーラー感覚で涼むつもりだけれど、日頃からそれに頼りっきりなのも身体に悪そうだからなるべく常温に身体を慣らす様にしているの。
広場に入ると西地区側から沢山の男達が向かって来るのが見えて、それを人々が囲んでいるわね。
近づいてみると、アコーディオンみたいなフイゴを足で使う楽器だとか、アコースティックギターみたいな音色を立てて使う弦楽器を演奏しているのが見えるわ。
その人達は飾られた台車の上で演奏しているのよ。
何あれ。
台車はゆっくりとした速度で最初に見えた沢山の男達が引いているわ。
彼らは共通のエンジ色のシャツと半ズボンみたいな服装で、頭はバンダナを被ってるわね。
見物人達が沿道を囲んだり子供達が彼等を追ったりしているの。
陽気な音楽も相まってお祭り気分ムンムンよ。
私は楽器の構造が気になったりもしたんだけれど、それよりコレよね。原因は。
彼等は広場を練り歩いたら再び進路を西地区側に戻り始めたわ。
「お集まりの皆様、いつも演奏会をお聞き下さいまして有難うございます!お買い物は是非西地区バザー会場をご利用ください」
演奏の合間にこの宣伝文句が入るのよ。
大道芸人のパフォーマンス程度じゃそんなに差は出ないとか思っていたけれど、私の認識が根本的に甘かったわね。これは決定的な差だわ。
考えてもみれば当然の話なのよね。
私のいた日本では大道芸人なんて見慣れた余興で、それこそ他にも沢山ある選択肢の中の一つに過ぎないけれど、この世界はそうした娯楽的な催しが圧倒的に不足しているのだから、例え同じ様な余興を繰り返したとしても、人々の中に与える印象はずっと好意的に受け入れられるものなのよ。
これが仮に今回だけの催しであったなら、その効果はずっと大きく響くはずよね。
舐めていたわ。
私はとりあえず周囲の人達にそれとなく世間話の延長線上で尋ねて回ったわ。
人々の話からわかった事は、こうした催しが闇の日のバザーの目玉となっている事は確かで、この日は演奏会だったけれど、他にも大道芸人的なパフォーマーが来て演技を見せたり、絵描きを呼んで似顔絵を配ったりといったことも有るようね。
東側ではそうしたことをしないのかと聞いてみたら、元々は東側で始まったそうなのよ。スタート地点が広場からで、そこから東と西に進んでまた広場に戻ってくるというコースを辿っていた様ね。それがつい最近から西側しか回らなくなったそうよ。
どうしてかしら。
でも、一つこれで分かる事はこのまま何もしなかったら客足は望めないということかしら。
シャインの話から推測するに、彼が過去にグレイズを訪れたのは昨年の話よね。その時点では売る量も卸す量より少なかったという事情もあるけれど、売り切る程度には人が来ていたのよ。
今年私はこの卸す量を減らして直販に切り替えたいと考えて計画したから、店舗面積を増やして直販での利益をガッチリ頂くつもりだったの。でも、このままじゃ本来は有るはずの客足の波が無いわけだから敗北確実よ。
しかし、解せないのは何故西側しか回らなくなったのかという事よね。
過去に回っていたものを西限定にする事情となったら、広告費を東側が渋ったという事になるのかしら。だとすればとんでもなく東側の人達はケチだということになるの?
いえ、たぶん、そのお金を払えない様な事情が起こったと考えないとおかしいわよね。唐突に広告費が高額になったため、西側は我慢して払ったけれど、東側は突っぱねた……とか、そんな感じが有り得る話かしら。だとしたら、断る以上は何らかの代案を用意しなかったら敗北真っしぐらなのは見えていた筈よね。それなのに手をこまねいている理由がある……?
兎に角急いで対策を打つ必要があるわね。
私はそうと決まると散歩から戻る事にしたわ。
「父さん、もう少し見ていたいのだ」
「そうだぞ。折角見にきたのだぞ。終わりまで見ていくのが筋というものだろう」
二人が不満そうに私に文句を言って来たわ。あぁ、面倒ね。でも、子供心を考えたら見ていたいという気持ちも分かるのよね。どうしたら良いかしら。……って、この子達は姿形は子供だけど、年齢的には私より年上かもしれないんだったわ。
「分かったわ。私は先に戻るから、貴方達だけで見ていらっしゃい。そして飽きたらお店に戻って来れば良いわ。インディ、貴方におこずかいを渡しておくから、それを二人で使いなさい」
私は財布の代わりにしている袋から銀貨二枚をだして渡したわ。
インディはそれを両手で受け取ると、コクリと頷いてポケットにしまった。
「騒ぎを起こしちゃダメよ。何かあったらすぐ戻ってくる事。良いわね?」
「ハイなのだ!」
「分かった。善処する」
「さ、行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
「行ってくる」
二人が走っていく。パトラッシュが途中で振り返り手を振って別れを惜しんでいた様だけれど、インディに服を引っ張られてまた演奏会の台車の向かった先を目指して駆けて行ったわ。……こうして見ていると、本当に普通の兄弟にしか見えないわね。ふふ。
さて、私は店に向かって急いだわ。
店に着いた私は、みんなのおかえりにただいまと返しながら急いでバックヤードに駆け込むと、ガレージの中に用意していた大きな袋を取り出したわ。それをどんとカウンターの上に置いたの。
シャインが私の出してきた袋について尋ねたわ。
「どうしたんです、そんなに慌ててそんなものを出して」
「人が来ない原因が分かったから、これはそれに対する対策よ。あまり時間が無いから手短に説明するわ」
私は三人にこれからする事について説明したわ。
袋の中には沢山の木札が入っているの。この木札が私の奥の手ね。
本当はこんな事をしなくても充分にいけると思っていたけれど、あんなものを見てしまっては躊躇っていられないわ。
向こうがそう来るなら、こっちも対応するまでよ。
三人に説明した後は、今度は周辺のお店にも根回しよ。
私達は手分けしてこれから私達が行う事への説明と協力を求めたわ。
周辺の店主達は唐突な話に驚いていたけれど、客足が向いてくれる事なら協力するという感じだったわね。
協力してくれたお店は店先に私が用意した木の丸椅子をいくつかと木製トレーを置かせて貰ったの。
何をするにも予め手を回しておかないと効果は限定されるものね。
幸いにして天気も私達の見方をしてくれているわ。
「……さぁ、反撃よ!!」
キョーコはどうなっているのか見て歩く事にしました。
原因は演奏会行列が東側に回って来ない事だと分かったキョーコは対策に乗り出します。
しかし、演奏会を見ていたいパトラッシュとインディは小遣いを貰って駆け出して行きました。
お店に戻ったキョーコは早速対応を始めます。
周囲の店舗にも根回しして反撃開始です。
……前、中と打ってきましたが、伸びそうなので番号表記に変えました。
唐突な変更ですみません。




