085 バザー 2
バザーのお話の続きです。
私はガレージの中から丸テーブルと椅子四脚を四セットと丸椅子八脚、カウンターテーブル二台に高さ150センチ横幅90センチ程の斜め格子状のパーティション二枚に、ガラスで中身が見えるウォーターサーバーを3つ、それに木製のティーカップとマグカップを用意したわ。
それらを見て呆気にとられているみんなを代表してアレンがおそるおそる尋ねてきたわ。
「あのぉ、これをどうするんです?」
「これをそこの空きスペースに置くのよ。さぁ、みんな手伝って」
私はみんなに指示してテーブルと椅子を配置して行く。私達のお店側にカウンターを二台並べて置いてバックヤード風にスペースを作って、四つのテーブルセットを均等に置いたわ。丸椅子は予備として重ねて控えておいて、適宜必要数を出す感じ。
ウォーターサーバーには予め水二つとハーブティが入っているわ。水は私の魔法で浄化してある特別製だからただの水じゃないわよ。しかも、ウォーターサーバーの底に敷いた魔石が冷気を発する様になっているから、キンキンに冷えた水が常に出て来るという優れものなの。
ハーブティは銅貨五枚、水は銅貨一枚で売るの。
え? 水なんてわざわざ買う奴がいるのかって?
大丈夫よ。
日本と違ってここは水もタダではないから、井戸から汲み出す汚れた水と浄水じゃ話が違うのよ。普通の飲食店でも水は注文するか、食事に対するサービスとして料金に含めている形になっているわね。……昔見た少年漫画のギャグ作品に、居酒屋で砂糖水や塩水を注文するなんてお笑いネタがあったけど、この世界では普通にメニューに水が有るのよ。面白い現実よね。
スペースの両サイドの間口にパーティションを用意してバックヤードスペース分を塞いでいるんだけど、そこに「ティープレイス・ポプリ」って感じの名前の木彫りの看板を掛けて完成よ。
おまけにそのバックヤードの中にフィッティングルーム風の覆いがされた物置きを用意したんだけれど、ここにガレージの入り口を設けて有るから、みんなにはここから入って色々と在庫を取り出したりして貰うのよ。
しかしまぁ、こうして出来上がって見ると……お隣の地べた販売とかが物凄く見窄らしく目立つわね。
私はつかつかと隣の地べたー店主2人に声を掛けたわ。
「こんにちは、お隣の御二方。私は隣のポプリ村の販売店の責任者ですけど、ちょっと宜しいですか」
「あぁ、なんだい? どうかなすったかい?」
「ん、あぁ。こんにちは」
お隣さんは私達から見て左側のロマンスグレーの年配のおじ様が、ウチと同じ様なブレスレットとか雑貨を敷物の上に沢山並べて売っていて、右隣の方もそこそこ年配のおじ様なんだけど、栗毛色の長髪に口髭の雰囲気のある彼は縫製品を扱っているわね。旅人向けの服を畳み起きしているけれど、これもやっぱり敷物の上の地べた置きね。
その彼らのお隣はウチみたいに運んできた木箱の上に敷物を敷いて陳列しているし、布張りの日除けで覆っているから店らしく様になっているんだけれど、この二人はうちより早くに来ていたからどの様に運んで来たのかは分からないけれど、どうも大風呂敷に包んで持ってきた様なのよね。
そうなると置く台が無いのは当然だし、日除けなんて用意出来るわけないのよ。
「ねぇ、一つ提案が有るんだけれど、良いですか?」
「んあ、なんですかい?」
「なんだぁ?」
「タダで良いから、私に貴方達のお店を弄らせてくれないかしら」
「「はぁ!?」」
二人は理解出来ないという顔で目が点ね。
「折角お隣になったんですから、私どもとしても仲良く出来ればと思いまして、ここは一つ私達も御宅の売り上げに貢献したいんです」
「はぁ、それは構わんけど、本当に金払わないからな?」
「あぁ、俺もしたいという分には構わないが、酷い扱いをしたら即刻やめてもらう」
「えぇ。それで構いません。では、お近づきの印にあちらの椅子でお茶でも一杯飲んでいて下さいな。勿論無料ですよ。パトラッシュ、ご案内をお願い」
「はいなのだ!さぁさぁ、どうぞこちらにいらっしゃいませなのだ」
二人が戸惑いつつも無料の言葉につられてパトラッシュについていったわ。
さぁ、始めるわよ。
私はガレージの中から大型テント二つとカウンターテーブルを四つ出して、アレンとライルにカウンターテーブルをコの字型になる様に配置してもらったわ。丁度うちのお店側と仕切る様な感じに置いたの。そして、目隠しに布で覆ってから細かい作業の開始よ。
商品の陳列にはそれぞれの店が地べたに敷いていた敷物を魔法で綺麗にしてからテーブルの上に敷いて雰囲気を出して、装飾品屋の方はディスプレイ用に適当に切った丸太とか使ってブレスレットをはめて陳列させたりして動きを付けてあげて、客の視点を下だけじゃなく上にも持って行く形で作ったわ。こうすることで自然と店主と目が合う形になって、接客に繋がるって寸法よ。
縫製品を扱う方も畳み置きしつつ、木製のハンガーの吊るし置きも用意してみたの。
奮発してうちの姿見をこちらに持って来たわ。
うちは服は扱っていないから、小さな鏡を複数置いておけば良いと割り切ったのよ。
こうして小綺麗になったお店を目隠しの覆いを取って披露したわ。
そうしたら二人とも口をあんぐりと開けて固まっていたわね。
その反応は良いと受け取って良いのよね? ね?
「如何ですか?」
私は笑顔で尋ねてみたんだけれど、口を開けたままなの。
どうして?
「あの、何か問題でも御座いました?」
ようやく装飾品屋のおじ様が私の方を振り向いたわ。
「本当に金は払わないからな?」
「えぇ、借り賃は頂きませんよ」
「……まぁ、えぇ。あんたんとこのお茶、とても旨かっただな。おら、こんなに旨いお茶は初めて飲んだ。有難うな」
良かった。装飾品屋さんの方は問題無いみたい。
私は服屋さんの方を見つめる。
彼も我に返ったようでようやく私に気付いてくれたわ。
「……馳走になった。俺も不満は無いが、本当に金は払えないからな?」
「えぇ。ご心配なく」
しつこくお金は払えないと言われると鬱陶しくも感じるけれど、とりあえずこれで不自然に浮いた店は消えたわ。何とか開店時間にも間に合ったし、お客さんの来店を待つだけね。
私達はお店の商品で着飾って臨戦態勢よ。
「さぁ、開店ですよ!みんなしっかり頑張りましょう!」
「「「「おぉーーー!!!」」」」
私達は円陣を組んで声を上げたわ。
程なくしてシャインも手続きを無事に終えて帰って来たので、これで準備万端よ。
こうしてバザー開始時刻を回って他のお店も開店したわ。
通りの周囲の建物に入っているお店も開店して商店街の雰囲気が出て来たわね。
遠くの方で音楽が鳴っているのが聴こえるから、大道芸人が音楽でも演奏しているのかしら。
私達の居る場所の近所の建物に入っているお店は薬問屋さんに火薬問屋さんに馬具屋さんね。あとは倉庫が有るだけだから割と殺風景な場所なのよ。……まぁ、街の外れに位置する様なところだから地味目なお店しか無いのは仕方ないわね。それでもバザーの日には店先にテーブルを置いて小物とかを陳列して販売する様で、開店と同時にその作業をしていたわ。
出ている商品は薬問屋さんは小袋を沢山陳列しているから、あの中に薬が入っているのかしら。火薬問屋さんは小さな棒の束とかを出しているところを見ると手持ちの花火かしら。……ちょっと気になるわね。馬具屋さんは革のバックバックや小物入れとかの他にアクセサリーっぽいものも扱っているわ。
これで周囲も準備万端かしら。
私は、さぁこい!さぁこい!さぁこい!
……と構えていたんだけれど、かれこれ一時間経過しても人が一人も来ないのよ。
誰も来なかろうが隙を見せない営業スマイルとおもてなしの姿勢はしっかり維持しているけれど、横目に見ればパトラッシュやインディが明らかにだれているのが分かる。アレンやライルも苦笑いしているわね。シャインは私同様に営業スマイルで立ってはいるけれど、あれは頭抱えて困っている感じかしら。
何で誰も来ないの?
スペースを普段の四倍にしたキョーコ。
カフェスペース的な何かを作ったかと思ったら、お隣まで改造しちゃいました。
シャインも帰ってきて準備万端開店!と思いきや、一時間経ってもお客は一人も来ませんでした。
続きます。




