081 冒険者ギルド
キョーコ達もグレイズに入りました。
グレイズの町に入ると、ポプリ村ともスラムとも違い、沿道の建物は二階建て以上の建物が立ち並んでいたわ。沢山の馬車が行き交い、人々も沢山見える辺り、ようやく街らしい街に来た気がするわね。
幌越しに過ぎ行く街並みを見ていたら、小窓からシャインが気持ち大きめの声で話しかけてきたわ。
「まずはいつもの宿に入ります」
いつもの宿というのはグレイズ門前町の東側にあるそうなの。
北門通りという私達が入ってきた通りと、西門通りという西門から伸びたメインストリートの交差点を東側に行ったところの奥にある割とこじんまりとした宿ね。建物は二階建てで、一階にカウンターと食堂があって、二階が客室って感じよ。
部屋は二つ借りたわ。
ライル、シャイン、アレンの3人で一部屋、私達一家で一部屋という感じ。
部屋の広さはシャイン達の方が広いの。私達の方は一人部屋サイズの部屋を追加で借りた感じだから。
部屋割りについては一室で泊まる方法も有るのよ? 寝袋で寝れば良いことだから。でも、建前上子供部屋を用意しておきたいから私のお金で個別に借りている感じにしているわ。
本当のところは私達の特殊な事情を考えると、一室別にあった方が都合が良いかなと思って。まぁ、その気になればガレージで眠ることも出来るんだけれどね。
みんなで話したりする時はシャイン達の部屋でする感じよ。
馬車の積荷は馬車の中に置きっぱなしだから本来であれば護衛は馬車番をするんで、ライルやアレンは馬車で寝泊まりって感じになるんだけれど、私の魔法で結界張ったから盗みに入ることは不可能なんで部屋に泊まりなさいって話したのよ。
シャイン達のいる部屋で私達はこれからの動きについて話していたわ。
「シャインとアレンさんには、それでは商業ギルドでの手続きについてお願いします」
「はい、任せてください」
「ライル君はどうするの?」
ライルは自分に振られてどうしようかとちょっと考えていたようだけれど、そう迷わず決まったみたいね。
「俺は久々に散歩してみようと思います」
「なら、俺も行く!」
ライルがそう話したら、何故かインディが一緒に行くと言い出したわ。
よく見るとパトラッシュと何か目配せしているわね。
何を考えているのやら。
「インディ、ライル君に迷惑でしょう」
「俺は行くったら行くぞ」
インディは私が止めてもプイッと顔を逸らして拒否の構えね。
参ったわねぇとか思っていたら、ライル君がインディの肩にそっと手を置いたの。
「あ、いや、インディ君一人なら俺でも見られると思います」
こんなことを言ってるけど無理してないのかしら。
そう思っていたらインディから念話でぼそぼそと話しかけてきたのよ。
理由はまぁ分かったから良いけど、誰しも感傷に浸りたい時ってものが有るから、彼にとってそうした時間の妨げになることで負担にならなければ良いけれど……。
私は苦笑いしたわ。
「ごめんなさいねぇ。では、お願いします。パトラッシュは私と一緒ですよ」
「はいなのだ!」
パトラッシュは端から離れる気ゼロね。
満面の笑みで返事を返したわ。
というわけで、みんなのそれぞれの行き先が決まったわけ。
時間的には昼時をこえた辺りだから、気温的にも最高潮な時間帯なんで外に出るのは厳しい感じかしら。私はこっそり出て行く四人に風の保護と聖属性の保護を加えておいたの。風の保護で暑さを程よく和らげてくれるし、聖属性の保護が悪意から守ってくれれば良いかなって。
「さて、パトラッシュ。私達も出るわよ」
「どこへ行くのだ?」
「ギルドよ」
貴重品らしいものは何も置いていないから、部屋には特段の処置はしてないわ。まぁ、こんな安宿に強盗に入る様な人もいないでしょうし、そもそも私達が貧しい村出身と分かっている人々からしたら、そんな苦労をしても得るものが無いってものよね。
冒険者ギルドはメインストリートに戻って十字路を南側に行ってすぐのところにあるわ。
一際立派な建物だからすぐにわかるの。
四階建ての石造りで立派な石材が使われていて、いかにもお金がかかっているってのが周りの建物と比べてもハッキリわかるくらいなんだけれど、ギルドってそんなにお金儲けに走っているのかしら?
まぁ、メジャーな職業として冒険者が存在しているくらいだからお察しってことなのかしら。
私とパトラッシュは宿を出てからガレージで着替えて外を歩いているの。
服装はちょっと前までの商人っぽい小奇麗な装いから冒険者っぽい旅装にして、パトラッシュにもそれなりの武装をさせてあるのよ。
パトラッシュは私が作った爪やらプロテクターをとても気に入って目を輝かせていたわね。
え、なんで着替えたかって?
そりゃ舐められたら嫌だから、それらしい格好しておいた方が良いでしょう?
私達はギルドのドアをそっと開けて中に入ったわ。
(うわ、酒臭)
中に入ってまず飛び込んできたのは臭気ね。酒の匂いと食事の匂いが混ざって、そこに体臭とかもあるのかしら、何とも言えない男くささというか肌臭いというか、微妙な香りが漂っているわ。
見た感じ一階は酒場って感じかしら。
この辺はゲームとかに有りがちな印象だけれど、一斉に私達の方を見る目線が痛々しいわね。
私達はゆっくりと中を歩いたわ。
色々な人種や容姿の人がいるわね。
服装もいかにもな冒険者風の装いの人もいれば、とても軽装の装備の人もいるし、厳つい世紀末からやってきました的な人もいるかしら。
こういうところで仲間を集める……という雰囲気にも見えないのよねぇ。どちらかというと、既にグループ決めが終わっている学校の教室の中の様な雰囲気といえば伝わるかしら。
そこにゴトリと音を立てて立ち上がる男が出たわ。
先程並べて出した中の世紀末風の格好のパンク禿の方。厳つさ的には組合受け良いと思うけれど、見た目は全く好みじゃないのよねぇ。そもそも私、こういう如何にもってタイプは苦手なのよ。
「おうおうおう、ここは託児所じゃねぇんだぜー」
彼の座っていたテーブルの仲間達が下卑た笑いをしているわ。
それを見て見ぬふりする周囲の冒険者達は強いから興味無いのか、弱いから我関せずなのか。たぶん後者なのだと思うけれど、私が前者を選ぶことも有り得るから悪いとは言わない。でも、これを放置しておくのは品の良い話では無いと思うけれど、そういう感覚は持ち合わせていないのかしら。
「へぇ、託児所なんて気の利いた施設が有るんですか。それは初耳です。ご利用されたことは?」
「はぁ。んなもん知るか」
「あらあら、それはそうですね。どう見ても甲斐性無さそうですし。悪いことを聞きました」
「んだてめぇ、舐めてんのか!!!」
彼が私の服を掴みかかろうとしたけど、しっかりとその手を掴んで止めたわ。
私の細腕なんて簡単に振り払えると思っているんでしょうけれど、残念。私と貴方じゃ全くお話にならないくらいに差が付いているのよ。
そんなことなんて理解できてないんでしょうね。
必死に外そうとするも外れない手に焦る彼。滑稽ね。
「あらら、こんな華奢な腕の男に敵いませんか? そんなに太いのに? 見かけ倒しというのはこういうことを言うのでしょうね。お望み通り、離して差し上げますよ」
私が手を離したと同時に彼は私に殴りかかろうとしたわ。
でも、それも残念ね。
「とーさん、こいつ倒しても良いのか?」
「駄目ですよ」
パトラッシュが彼の腹に強かにパンチをお見舞いしていたの。
とは言ってもちゃんと手加減は出来ていたから死にはしないけれど、泡吹いて倒れたわ。
「何晒すんだてめぇ!!!」
彼のテーブルの仲間達が一斉に立ち上がって構えたわ。
うーん、べたな展開になったけれど、こいつらどうにかしないと進めないのよねぇ。
私はちらりと周囲を見回したけれど、みんな私と視線を合わそうとしないでプイって目を逸らすのよ。
あらやだ、意気地なしねぇ。
そんなんで冒険者なんて出来るのかしら。
私は一息溜息をついたわ。
「私はここを通りたいだけ。それとも、貴方達がご丁寧に私を接待して下さると?」
「何言ってるんだ。お前らの行く先は地べただ!」
ピンクモヒカンが棍棒を持って振りかぶってきたわ。
あんなものにまともに当たったら痛いなんてものですまなそうだけれど、それは飽く迄「普通の人」ならってことなのよね。……ラズウルドの魔物やヴェイドとも戦った現在の私は自分で言うもなんだけど、もはや普通の常識的な範囲の人ではないのよ。本当に残念だけど。
私がそれを手で受け止めようとしたら、パトラッシュが私の前で跳躍して棍棒を蹴り返していたわ。
ピンクモヒカンはその蹴りの衝撃に耐えられず腕があらぬ方向に曲げられて、そのまま自分の棍棒で顔を殴打された感じよ。
あちゃー、面倒な怪我をさせちゃったなぁ。ぬぅ、こんなのに薬使うとか無駄なんだけどなぁ。
周囲の空気はドン引き。そして、威勢の良かった他の仲間達も沈黙して後退り始めたわ。
「もう終わりのようですね。まったく呆れるほど不甲斐無い」
私は仕方なくバッグからポーションを一瓶取り出すと、世紀末パンク禿とピンクモヒカンの顔に半分ずつ振りかけてやったわ。あんなのに一本は贅沢よ。でも、それで充分だった様でポーションは瞬時に緑色の光を発して彼らの傷を癒したわ。
まぁ、これだけの事なんだけれど、初っ端から悪目立ちし過ぎよね。はぁ。
程無くして世紀末パンク禿もピンクモヒカンも目を覚ましそうだったから、私は構わずに彼らの横を通ってカウンターに行ったわ。
カウンターに座っていた人達も私の動きに目を奪われて固まっている感じ。
「ちょっとマスター、どちらで登録をすればいいんですか」
「え? ……あなた方ライセンスをお持ちではないんですか?」
「はい」
私の言葉にマスターが持っていたグラスを落としたの。
というか、口開けて固まってるわね。
「あの、マスター、落としましたよ?」
「へ? あ、あぁ、すみません。あ、えーと、登録は二階の奥の受付で承っています。右端の階段から上に上がって下さい」
「有難う、マスター。さ、行きますよ」
「応!」
パトラッシュが笑顔で頷いて手を頭の後ろで組んで付いてくる。
店の雰囲気は相変わらず固まったままで、私達の行動の一部始終を逃さないとばかりに見ているわね。
うーん、まぁ、絡まれても切り抜けたから良いか。
私達は構わず階段を上がったわ。
グレイズに入ったキョーコ達は宿に入るとそれぞれの行動を始めました。
ライルと一緒に付いて行ったインディは何を考えていたのでしょうか。
そしてキョーコ達は早速ギルドでお約束を受けました。
ギルドでの出来事が続きます。




