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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第III章 グレイズの三匹
90/157

080 おかしい

キョーコさん視点です。

 ゴトゴトゴトゴト……。



 私達の乗る馬車はグレイズ周辺に差し掛かったわ。

 幌の中の前方側についている小窓からも街並みが見えるわね。


 ライル君の話ではグレイズには北と西の境界壁外にスラムが出来ていて、グレイズには入れない身元の不確かな人や、貧しい人、犯罪者等も隠れ住んでいるそうなの。だからグレイズ内に入る直前のスラム付近が最も略奪等の被害に遭いやすい警戒すべき場所らしいわ。

 


「!?」



 その時私は何か膜の中を突き抜けたような感触が体を駆け巡ったわ。

 何かしら、嫌な感じはしないけれど、特殊な結界みたいな力が働いている気がするわ。私は千里眼で周囲の属性情報を確認してみると、どうも聖属性の結界が張られているみたいね。

 この世界の人間の中で聖属性を使える人達がいるとしたら教会ね。

 教会はポプリ村の魔法陣の様に集落を守るための結界を作ることが出来るから、グレイズもそうした力で守られていることは想像に難くないけれど、こんなスラムまで守るなんて随分と太っ腹なのね。教会ってもっと金の亡者的なイメージが有ったんだけれど、実は良い人達の集まりなのかしら。


 え? 宗教団体のイメージが悪過ぎるって?


 歴史を紐解けば宗教が元になった戦争なんて枚挙に暇ない程出てくるでしょう? それくらい有り触れた切っ掛けを作り出す存在が教会ってもんじゃないかしら。そりゃ、良い人もいるかもしれないけれど、良い人も狂信が過ぎると原理主義になるじゃないの。

 私は日本人の何事も中庸という考え方は良い考えだと思うわ。原理主義に陥らないための抑止弁としてバランスをとれるから。とはいえ、バランスを取ろうと配慮し過ぎることで、配慮を欠いた存在をエスカレートさせる愚も犯すんだけれどね。

 振り切った物を引き戻すには振り切った対応をしないと戻せないものよ。重りの違う天秤を釣り合わせるには、相応の重りを加える必要があるでしょう?

 話が脱線したわね。

 教会がスラムの人達も含めて守るために結界を張っているとすれば、少なくとも魔物からの襲撃は減るから随分と治安は良くなりそうね。……私がわざわざあの象を置かなくても済むことは有り難い事かしら。

 小窓から見える景色に街並みが近付いてきたわ。

 


「……こんなだったか?」

「……いや、俺は暫く行ってなかったからなぁ……」



 御者台のシャインとアレンのぼそぼそとした声が聞こえたの。

 二人は私が後ろにいるとは知らないから、二人の間の内緒話的な感覚なのかしら。

 彼らの反応だと、何かがおかしいみたいだけれど、何がおかしいのかしら。

 私は小窓から見える外を見回してみたわ。でも、これと言っておかしいと感じるものは見えないわね。沿道では家を修繕したり改築している様な所もあれば、古いあばら屋みたいな家を解体して廃材を分別している人達も居るし、小道を地ならししている人達もいれば、路地で子供達が遊んでいるよく有り気な景色が広がっているわね。

 私はライルの反応が気になって後ろを振り返ったわ。

 ライルはというと、外を見ているわね。

 特に変わった様子は無くじっと外の状況を警戒して待機しているいつものライル君っぽいけれど、ん、でもおかしいわね。あの姿勢になったのっていつからだったかしら。もう結構前からよね。

 気になった私は静かにライル君のもとに寄ったわ。

 それをパトラッシュとインディが不思議そうな目で見ているわね。

 ライル君のもとに近付いても彼が振り向く様子は無い。

 普段なら気配を感じて振り向くはずなのに、やっぱりおかしいわ。

 それで近くまで寄って彼の肩にそっと手を置いたの。

 そうしたらビクっと震える様に反応して慌てて振り向いたわ。



「な、何ですか!?!突然ビックリするじゃないですか!」

「何でもないけど、ずっと微動だにせずにいるから気になりまして。どうかなさいました?」

「あ、え、あー。いや、なんというか、俺の知っている景色とはあまりにも違ったので」

「どう違うの? さっき前の二人も驚いた様子で話していたのが聞こえたんだけれど、私には何がおかしいのかさっぱりわからなくて。見る限り、家を建てたり直したり、色々と土木工事が盛んなのが分かるくらいかしら」



 私がそう尋ねると、ライル君は眉根を寄せて困ったような表情で言うのよ。



「……それがおかしいんですよ」

「へ、なんで?」

「スラムですよ? どうしようもない人達の掃き溜めとも呼ばれた場所です。俺もここに初めて来た時は追剥に遭いそうになりました。その時は幸運にも助けられたのでこうして無事で今が有りますが、本来は馬車を見れば追剥の一人や二人が出てくるのが普通なんです」

「えー、でも、私が見る分には額に汗してキラキラと働く男達や女達って感じですよ。どう見ても普通の一般市民にしか見えないけれど。あ、でも服装とかは確かに貧しそうかしら」

「服装も随分良くなっています。以前は綻びが有ってもそのままのぼろ布を纏っている者が殆どでした。でも、今見えているあの人達の服は綺麗に修繕されています。継ぎ接ぎであろうと服らしい形をしたものを着ていること自体が不自然なんです」



 なんだか分からないけれど、有り得ないという雰囲気を強く押し出して力説するライル君を見ていると、以前のスラムって本当に酷い場所だったのかもしれないわね。でも、現在見えている景色からはとても想像がつかないわ。

 推測するに、現在起きている状況はポプリ村の最後の行商が行われた昨年以降のお話しってことになるから、それ以降に何らかの施策が施されてこういう改善が見られたということかしら。

 こんなことを出来る権限があるのは町の有力者でしょうから、その人達が治安改善のための策として市街地拡張を決断したという感じかしらね。

 疎外されていたものを取り込むことで懐柔策とするのは、洋の東西問わずどこの国の歴史でも有り得た話だから、世界が違うここでも似たような事を考える人が居ても不思議じゃないわね。こういう事が出来る人がいるからこそ、自由商業都市として百年以上の歴史を持つ町になったのでしょうね。

 

 スラムの市街化整備は至る所で行われている様で、本当に急ピッチで色々と汚かったころのものを潰していっている感じがしたわ。

 あ、そうそう、私は最初気付かなかったんだけれど、この世界って汚物処理があんなだったじゃない? スラムって言うんだもの、汚物もパーティ会場はここですってくらいに飛び交っているんじゃないかと思っていたんだけれど、私が気付かない程に空気は綺麗なのよ。

 千里眼で汚物の状況を眺めても街中に汚物反応が飛び散っている感じは無いというか、不思議な話だけれど、汚物が一か所に集められて浄化されているっぽいのよね。


 なんだ。

 都市部はこういう暮らし方が出来ているんじゃないのよ。


 やっぱポプリ村みたいな田舎だからあんなだったのよね。

 そうよね。……ちょっと安心。


 私達は何事も無く境界門まで来たわ。

 境界門には複数台の馬車が結構な行列を作っていたわね。

 時間にして一時間近くは掛かりそうな予感かしら。

 門の付近には幾つか屋根の付いた商店が並んでいて、美味しそうな匂いを漂わせて肉などが串に刺して売られているわ。雰囲気はお祭りの露店みたいな感じかしら。ちょっと懐かしい雰囲気ね。

 それにしても美味しそうな匂いだからか、検問前の馬車の客が買い物に沢山出ているわね。この辺も意外に良い雰囲気じゃないの。

 私はライルにお使いを頼んだわ。全員分だから肉串六本分を買ってきてもらうことにしたの。勿論、ついでに聞き込みもお願いしたわ。

 彼は頷いて足早に出掛けて行ったわね。

 

 検問は順調に進んでいて、所要時間は一件あたり五分くらいかしら。結構早いんじゃないかしら。まぁ、ちんたらやっていたら大行列になるわよね。でも、大行列になっても食事も出来るし治安も悪くないなら困りそうもなさそうだけど。

 ライルが戻って来たのは並びに行ってから三十分くらいだったかしら。ご丁寧に大きな葉っぱで包まれた肉串六本を持って帰って来たわ。気温も上がってきていたから額に汗していたので、すぐに風の魔法で冷風を纏わせてあげて水を差しだしたらごくごく飲んでたわね。

 肉串は御者台の二人に小窓越しに先に渡してから、ライル君が落ち着いたところでみんなで一緒に食べたわ。



「「「「!?」」」」

「旨い!」

「まぁ、美味しい」

「うまー」

「……旨い」



 四者四様な反応だけれど、美味しいということは間違いないわ。

 こんなに美味しい調理をする店が異世界にあるだなんて、ちょっと感動しちゃったわよ。

 だって、ポプリ村なんかあんな……あ、まぁ、仕方ないわよね。貧しいんだし。って、ここもスラムだから貧しいのよね!?!

 なにこの格差。

 これって都市と田舎の差って奴?

 腐っても都市は美食家が暮らしているということかしら。

 味付けは良い感じに香辛料が効いていて、肉の甘みと絶妙な塩加減と火加減。香ばしい焦がし具合といい、祭りの出店でも相当の老舗じゃないと出せない伝説的な味付けじゃないかしら。……これは行列ができるわけだわ。



「みんな、グレイズに入りますよ!」

「え、もう検問終わったの?」

「はい」



 私の問いにシャインが笑顔で返事を返したのが小窓越しに見えたわ。

 旨い旨いと感動しながら食べていたら、検問もあっさり終わっていた様ね。

 特段怪しい団体ってわけでもないから当然っちゃ当然だとは思うけれど、B級グルメに舌鼓を打って感動していたら検問越えていたとか、どこの誰得旅番組かしら。



 何はともあれ、グレイズよ。

グレイズエリアに入ったキョーコ達。

スラム周辺はライル達の知る過去とは違っている様です。

人々が額に汗してキラキラと輝きながら働く姿は平和そのものです。

そして、検問前の露店で食べた串焼きの味に感動する一行でした。


次はグレイズ市街地に入ります。

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