008 獲物
怒涛の二話目投下。
「しっかし、大量ねぇ」
剣を作った際に出来た砂山は1メートル半くらいの綺麗な富士山の様な山を作っているわ。
全体的には白いけれど、よく見ると黒や茶や青や緑の砂粒が混ざっているかしら。まぁ、傍目にはよくある砂場の砂にしか見えないわね。
砂山で手始めに耐熱耐火煉瓦をイメージして作ってみたわ。
錬金自体は簡単なもので、剣を作ったのと比べたら呆気ないくらいに手早くできちゃった。たぶん、レベルが上がったのもあるのかもしれないけれど。
レンガのサイズは私がホームセンターで見たことが有るような規格サイズピッタリな感じ。
念のためステータスを確認してみたところ、MPの消費は1だったのよ。なので、試しに複数個のレンガをイメージしてやってみたの。そうしたら、複数個が一気にできちゃったのよ。で、確認してみたらMPの消費は1。
つまり、一回の錬金にはイメージした個数に関係なく1消費するってことかしら。
まぁ、剣みたいな例外的な消費をする場合もあるみたいだけど……。
それで、レンガを全部で20個程作ってみたの。
たぶん、ガリの言う囲炉裏を作る分には、周りを囲ってここの砂を敷いてしまえば大丈夫だと思うのよね。出来上がったレンガは白く粒子の目の細かいものが出来ていたわ。パッと見の印象は石灰岩みたいね。
次は食器と鍋よ。
手始めに蓋付の土鍋をイメージしてみたら、ちゃんと思い通りの記憶にある家の土鍋が出来上がったのよ。なんか、それを見たら妙な郷愁を感じちゃったわ。この事からも分かるけれど、私のイメージに忠実に錬成されるようね。
で、他にスープ皿を3つとマグカップを3つ作ったわ。白磁の皿っぽいイメージで作ったから、そんな感じのが出来たわね。ボウルの様なものも有ったら良いかしらと、幾つかサラダボウルみたいな物も作ってみたわ。出来栄えはなかなかのものよ。料理本の器に出てきそうだもの。
とりあえず一通り作ったから、それらを何度か往復して家の木の下に運んだの。
流石に石造りの物は重いわね。レンガなんて一気に全部は無理よ。
「ふぅ、重かった~。全く物を運ぶのも一苦労ね。一輪車みたいな運ぶ車が有れば楽なんでしょうけど」
「あら、キョーコちゃん。もうできたの~? 早いわね~。どれどれ、あら~、凄いじゃないのよ~」
ケリーが籠一杯に持ってきた茸を、側にある切り株に置いてこちらにやってきた。
切り株は勿論ガリが切り倒した木の切り株よ。
周囲に何個か有って、切り株の近くに腰かけるのに丁度良い丸太の椅子が用意されていたから、多分ケリーがガリに頼んで作ってもらったのね。
「あら~、ちゃんと人数分のお皿を用意したの~? 百均に売ってそうなお皿みたいね~」
「百均!? ……あらやだ、言われてみたらそんな気がしてきちゃったじゃないのよ。でも、それくらいの方が割れても気楽かしら。あはは」
「こっちのサラダボウルは良いわよ~? 土鍋は~……随分と年季の入った感じのデザインね~」
「土鍋は家の土鍋をイメージして作ったらこうなったのよ。どうも私のイメージに左右される様なのよね。サラダボウルは良いでしょう? こればっかりは百均には無さそうでしょ?」
「うん、サラダボウルは無印っぽいよ~」
「無印商品さんかい!……全く、ランクアップしたのか分からない微妙なところね。それよりそこの茸。食べられるのかしら?」
籠の中の茸は色とりどりで、地球の基準からすればとても毒々しい感じかしら。
大きさはしめじサイズから、笠の大きい椎茸クラスのものまで様々ね。それらが大量だとインパクトあるわよ。……正直な話、見た目では口に入れたくないものばかり。
「うん、大丈夫だよ~。ちゃんと鑑定したから~。色々と鑑定していたら~、鑑定レベル3まで上がったんだよ~?」
「あら、もう私と同じなのね。じゃぁ、あの表示が出ているわけね」
「うん、食用とか毒とか出てくるから~、それを見て取ってるよ~」
「じゃぁ、大丈夫かしら」
「私、ちょっと二階に行くね~」
ケリーはそう言うと、縄梯子を登って二階に上がっていったわ。
私はその時ふと肝心なものが無いことに気付いたの。
水が無いのよ。
水が無かったら何もできないわ。
これだけ木や草が茂るからにはどっかに小川が有る筈。
そんなわけで周囲の山並みを見渡してみたら、有った有った。有りました。上の方から滝の様に流れ落ちている水の流れが見えたの。それは私がさっきまで作業していたあの砂山の向こう側辺りかしら。
でも、ちょっと遠いわね。
とはいえ、無いことにはどうにもならないから取りに行くしかないかしら。
時間は掛かると思うけど歩いていけない距離ではなさそうだし。
そんな時に、パトラッシュがのそのそ戻ってきたのよ。
よく見たら口に何か咥えているわね。
「あら、パトラッシュどうしたのかしら?」
パトラッシュは咥えていたものをその場に落とすと話しかけてきたわ。
「主、獲物を捕らえた。我は食わぬが、主は好きか?」
「あなたは食べなくて良いの?」
「我は主より力を受けているので不要だ」
「まぁ、そうだったの。それにしても、これ、兎かしら。随分大きな兎ね。しかも……毛が紫色で角も有る」
某国民的RPGに出てくる眠る魔法を掛けてくる厄介な兎を思い出すわ。
なんで兎が眠る魔法なのかしら。
眠る魔法を唱えるなら羊でしょうと小一時間問い詰めたくなるアレよ。
「何~、どうしたのよ~?」
そこにケリーが梯子を下りて来たの。
「ん、ケリー。これ見て。パトラッシュが捕まえたんですって。あなた調理できる?」
彼は降りてくるなり、デカい兎の死体をガン見したわ。
微妙にのけ反る様な仕草を見せたけど、近寄っていくところを見るとやる気の様ね。
「……折角捕まえたんだから~、やるしかないでしょうよ~。毛皮を剥いで~、頭と内臓を切り落としてしまえば良いと思うけど~、まさかこんなところで動物の解体をやるとは思わなかったよぉ……」
何だか微妙に悲壮感が漂っている気がしないでもないけど、やる気になっているんだから止める必要はないわよね。
私は草葉の陰から応援しているわ!
ガンバ!ケリー!
パトラッシュの咥えてきた兎の死体にケリーはドン引きしつつも覚悟を決めました。
キョーコはそんな彼を心の中で応援です。決して口には出しません。