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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第III章 グレイズの三匹
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076 スラムの王

双子姉妹のサリア視点です。


(大丈夫かなぁ)

(……あまりに危険そうなら、何とかしましょう)



 私はサリア。

 私達はケリーに頼まれてスラムの中心に進んでいるよ。


 スラムの中心にはスラムの王が暮らし、スラムの王を中心としてスラムの秩序が保たれているの。

 全てのルールはスラムの王が決めて、スラムの王に逆らったものは生きていけない。

 スラムはグレイズに入ることが出来ない者達によって作られた場所だけど、時代を経るごとにスラムの置かれた状況は変化していって、現在はグレイズでのいわばお尋ね者の巣窟と化しちゃっているんだ。

 私達もその仲間と呼ぶべきなんだけど、元は私達の暮らしている場所の人々の様な弱者が暮らす場所だったそうだよ。


 ケリーさんは私達の案内も不要とばかりに前を進んでいるけれど、どういうわけか間違いなく王のところへ近付いて行っているんだ。それだけに周りの雰囲気がやばくなってきている気がするんだけれど、そんなの全く意に介した様子もなくて、本当に清々しいくらいに鼻歌交じりに堂々と前を進んでいるんだよ。

 なんで怖くないんだろー。

 いざとなれば私達の力でも何とか逃げることは出来ると思うけれど、あの王は流石に私達の力でも無理。あんな化け物と戦ったら命が幾つ有っても足りないんじゃないかな。


 私達姉妹はただ人の良い人達の助けだけで生き残ったんじゃないんだよ?


 これでも私達二人で四つの属性を扱える魔法使いだから、組織の中ではそれなりに一目置かれていたんだから。スラムの王もそれを理解しているから、本気でどうこうしようとは向こうも思っていなかったと思うんだ。じゃなかったら無傷では済まないもの。

 周囲からは微妙な気配がしているんだけれど、向こうからこちらに近付こうとするのはいないみたいなのよね。どちらかというと警戒しながら様子を窺っている感じかな。

 こういうのは下っ端のお仕事だと思うんだけれど、こうまで露骨に気配を感じるとねぇ。とはいえ、人数が人数だけにまともに相手をしようものなら私達でも対処しきれないだろうから、流石に厄介な場所に踏み込みつつあるかしら。



「ねぇ、そろそろお出迎えとか有っても良いんじゃないかなぁ。客人に素通りさせるほど臆病なら仕方ないけれど」



 ひぃいぃ、何てこと言うの!?

 ケリーさんは唐突に周りに聞こえるような大きな声でこんなことを言ったわ。

 流石にそれは不味いでしょう!


 

「……ほぉ。随分大きく出てくれるじゃないか。散々な言われようだなぁ」



 低いながら良く通る声が私達の進行方向前方よりしたわ。

 こつこつと靴音を鳴らして出てきたのは、栗色の髪を後ろに撫でつけるように流し切りそろえられた顎鬚の男。

 このスラムのボスにして父との約束を破った男。

 私が構えると、姉さんも同時に構えていた。

 ……考えることは同じね。



「ローベルト、貴方が直々に出てくるとはお暇な様ね」



 彼は姉さんの声にも振り向くことなく、その視線はケリーさんに向けていた。

 ケリーさんはその彼からの視線を逸らすことなく立っているわ。



「……綺麗なお嬢さんの言葉には耳を傾けてあげるのが紳士ってものじゃないの? 僕、そういう甲斐性の無い男はダメだと思うんだよね。だからと女の尻を追いかけまわしているのが良いとも言わないけれど、少なくとも大人らしい余裕ってものがあるでしょう」



 うぅ、ケリーさんの発言がヒートアップしている。

 


「ふん、ガキがよく言ってくれるが、生憎女と言っても年端もいかぬガキを相手する程困ってはいなくてね。子供は子供らしく家に帰って大人しくしているのが身のためだと思うんだがな。どうだい坊主?」



 なんだか意外にも我慢している?

 冷静に返してくれているのは有り難いけれど。



「へぇ~、僕の事を子供と見てくれるんだ? それは有り難い。そこまでリップサービスしてくれるなら、君の評価を上方修正することにするよ」



 え、なんで子供と見られたら評価が上がるの?

 普通あのくらいの年頃の子だと幼く言われるのは傷付くんじゃないかしら。

 でも、ケリーさんの口調はそんな感じもなく、むしろ嬉しそう? なんで?



「ほぉ、それで何の用だ?」

「簡単。君、ここで一番エライんでしょう? だったら、君の希望は少なくとも叶うと考えて良いんだよね?」

「ふ、そんなに甘くはないが、それらしいことは出来る」

「あらら、随分と情けないんだね」

「そう言ってくれるな。これでも苦労が多いんだ」

「じゃぁ、何でそんな地位に甘んじてるの?」



 ケリーさんのその言葉の後、ローベルトの目は明らかに険しくなった。

 ローベルトの逆鱗に触れる内容だったのか、私が知る彼からは想像もつかない様な怒りを感じる。

 それは彼の周囲から漏れる魔力の量からして尋常じゃないもの。



「言うのは簡単なんだよ。何事もよぉ。誰が好き好んでこんな立場にいるか。だがなぁ、上には上ってものがあるんだよ」

「小さいねぇ。実に小さいよ。スラムと言ってもこれだけの広さを持ってるんだから、上手く使ってとって変わろうって気にはならないんだね。そんなに辛い仕事なら、僕が変わってあげるよ~?」

「……なんだと」


 

 ぶわっとローベルトの体から魔力が噴き出す。

 漏れ出している時とは比べ物にならないわ。

 これだけの魔力を持っているんだもの。

 流石スラムの王……誰も敵わないはずだわ。

 でも、ケリーさんは相変わらず全く動じた様子もなければ、魔力に気圧されるわけでもなく一歩一歩ローベルトに近付いていく。

 ローベルトはそれをじっと凝視するように見ているけれど、ケリーさんの歩みに躊躇いは全くない。そして、ケリーさんはローベルトの前に立った。



「示威的に力を示したつもりだろうけれど、そんなんでいいなら僕も見せようか?」

「何……!? これは、なんだ!?」



 ケリーさんの話の後急にローベルトが耳に手を当てて苦しみだしたわ。

 膨大な魔力も嘘の様に消えて、気圧されていた私も急な変化に驚く程。

 何故ケリーさんは何もしていないのにローベルトが苦しみ始めたのかしら。



「へぇ、君には分かるんだ。それは誤算だったかな。その声に耳を傾けたら最後、君の命はこの世からさようならだよ?」

「ぐぅ、お前は何者だ」

「僕? 僕はただのおネエだよ」

「おネエ?」

「知らない? 姿は男、心は乙女な男のことを言うんだよ?」

「……ふざけてるのか」

「ふざけてやるほど、おネエは甘くないんだよ~?」

「ぐぅぅぅぅ……!?」



 急に呻いていたローベルトの表情が和らいだ。

 彼も唐突に何が起こったのか分からないという顔をしている。



「ねぇ、君、僕を受け入れてくれる?」

「……分かった」



 何がどうなっているのか分からないけれど、ローベルトがケリーさんを受け入れたのは分かった。

 その言葉を告げたあと、ローベルトは膝をついてその場に倒れこんだわ。

 慌てて周囲の部下達が彼の体を支えるけれど、既に彼は気を失っていた。


 何が起こるかと恐々付いて来たけれど、結果を見ればケリーさんがローベルトを圧倒して終わったと思っていたら、唐突に笑い声がしたの。その声はこもったような不鮮明なものだけど、よく通る声していたわ。それにどこかで聞いたような気もするけれど、スラムに知り合いはいないから似ているというだけなんだけど、不思議な印象ね。


「ローベルトがそこまでやられるとはな。面白い」

「誰?」


 ケリーさんが声のする方を向いて誰何すると、建物の影からゆっくりとした足取りで出てきたの。それは大きな体格の男で、かなり鍛えられた体つきをしているんだけど、何より注目が行くのは覆面よね。黒い生地に目や口とかが空いていて、その穴の周囲を様々な紋様が描かれているの。どこか異様な雰囲気があるはずだけど、嫌な印象は無いのは何故かしら。


「ローベルトは表の顔だ。俺が真のスラムの王……と言ったところか。あー、別に約束は違えないぜ。その条件を飲むから出てきたんだ。分かってくれよな」

「そういうのは覆面を外してから言うもんじゃないの?」


 うは、相変わらずケリーさんは容赦なく突っ込むなぁ。でも、出てきた男はその言葉を聞いて頭に手を持っていくと、素直に覆面を剥ぎ取ったの。


「ま、これで良いか?」

「うん、良いよ。宜しく」


 私は唖然としたわ。

 いえ、私だけじゃない。アリサも目が点になっているもの。

 


 この日を境にして北のスラムは大きく変わり始めたの。

 サリアの目前で繰り広げられたケリーとスラムの王の話し合い(?)はケリーの願いが通って終了となりました。圧倒的な魔力を誇った王が何もすることなくその場に膝をついた状況に周囲はドン引きです。


 次はまた視点変わります。

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