075 中級
キョーコさん視点の続きです。
「そうですね。親としては未熟な私だけど、二人はこんな親でも良いって思ってくれているみたいだから、駄目だ駄目だと思いつつも甘やかしちゃうんですよ」
私は二人を見つめながらそう返した。
幸せそうに眠る二人の寝顔を見ていると、このままにしておきたいと思う分には情もある。
「親心というものなんですね。キョウさんがあの魔物を倒す時の必死さを見たら、俺でも二人と同じように親を守ろうと思ったと思います」
「あらら、そんなに?」
「えぇ」
「まぁ、今回の旅は一応私が責任もって貴方達も守るつもりだから、何かあったら遠慮無く言うんですよ?そうじゃないと、私は貴方のお母さんに顔向けできなくなっちゃいますから」
「はい」
笑顔で頷く彼。
ライル君って意外に素直なのよね。
ジェシーちゃんには微妙にひねているのは、たぶん彼女のことが好きだからとかって話なんでしょうけど、まぁ、小柄で地黒な肌にツンツンしたオレンジ頭とか萌え要素は満載な子だから、私もなんだかんだ目を掛けちゃうくらいには可愛いのよね。
とはいえ、この子は見掛けによらず本当に強い子だから、あの村の中の住人として考えると頭一つ以上飛び抜けた印象ね。
魔法の適正は火属性と風属性だったからそっち方面は強化できたと思うんだけれど、武術の方は私には弄りようが無かったから二人に稽古を任せっきりだったの。でも、インディの話では人間にしては侮れないと言っていた辺り、かなり実力を上げたってことよね。それだけ戦闘センスに天性のものがある子なんでしょうね。
彼は幌の外を再び眺め始めたわ。
私の千里眼に引っ掛かる敵影は無いから平和そのものだけど、あともう少ししたらまた像設置に動かないといけないわね。
とりあえずはそれまで休んでいましょう。
私は目を閉じてしばし休息をとったわ。
眠っていると、唐突にガタンと馬車が止まったの。
馬のいななきが聞こえる。
ガバっと飛び起きた私達。
私は鑑定に引っかかる情報を確認すると、前方と後方に魔物が四体来てるわね。
既に出入り口付近にいたはずのライル君の姿は無いわ。
「パトラッシュ、インディ、分かっているかしら?」
「俺が前へ向かう、パトが後方のに当たれ。キョーコは留守番だ」
「何を言っているのよ。留守番はしないわよ。ただ、私がすべきことは理解したわ。この馬車を結界で守るから、存分にやっちゃいなさい」
「「応!!」」
二人は頷きあうと出口に向かって駆け出して行ったわ。
さー、私もお仕事お仕事。
キョーベンを出して魔力を集中すると、馬車の周囲を四角く囲むように聖属性結界を発動させたわ。今回のはちょっと強めにしているからキラキラと白いのが飛んじゃうアレよ。
発動させたら私も外の状況を確認するために外へ出たわ。
幌の外ではオークっぽいのが居たわね。
あら、今日は豚の丸焼きかしら。いや、チャーシューや角煮も捨てがたいわね。ハムやソーセージもいけるかしら。そんなことを思っていたけれど、普通に考えればオークは強いのよ。
実際知性を持つオークは武器として大きな槌を持ってやってきているし、後方に二体、前方に二体と考えると集団行動が出来る作戦能力があるってことよね。
ライルが珍しく剣を持って接近戦を仕掛けているわね。
たぶん、あの体の感じから矢が効かないと判断しているんだと思うけど、自分の得意な武器を使用せずに躊躇いなく他の武器を使用する判断を出来るあたり、戦い慣れているわねぇ。
彼からは勉強することも多そうよ。
感心してばかりもいられないから、私らしい戦い方を始めましょうか。
私はキョーベンに魔力を込める。
オークは槌を振り上げてライルの剣を弾き返す。
強力な膂力の前に細腕のライルでは耐えられないかと思われたけれど、彼は上手い具合にその力を受け流しているわね。
こういうところも戦いなれている証なのかしら。でも、決定力不足は否めない。
当たらなければどうということは無いは相手も同じなのよ。
といわけで、土魔法の出番よ。
え? なんで土魔法って?
それは土木工事を色々としている中で気が付いたのよ。
物質の状態を左右させるこの魔法って、物質の質量に対しても作用するのよ。
状態変化で質量を巨大化し続ければ、それはある一定の段階で重力を発する重みに変わっていく。そう考えたらこの魔法の持つ可能性って恐ろしいと思わない?
考えてみればよく土魔法の代表的なものとして思い浮かべる地震の魔法だって、惑星のプレート運動に対して作用しているとも考えられるのだから、そこに質量変化による作用等が働いているのは間違いない話なのよね。
で、私が何をしようとしているかというと、オークの周囲にピンポイントに重力を強化して縛り付ける魔法よ。
「グラヴィトン」
重力効果が働きだしたオークの体は次第に鈍くなりだしたわ。動くのにも重力の影響を受けて通常以上の力が必要になれば遅くなるのも当然よね。
動きが緩慢になりだしたオークを見てライルは一気に仕掛けたわ。
両手に魔力が集まるのが感じられたかと思ったら、その魔力は彼の剣に行き渡る。
そして構えると、一気にその剣を振り抜いた。すると、その剣先から光が発せられて二倍に伸びた剣がオークを真っ二つに両断したわ。
豚肉一丁上がり~。うふ。
ライルが仕留めたのをみていると、その横で戦っていたパトラッシュは既に仕留め終わっていたわ。しっかりと食べられるように原形を留めて倒している辺り、よく考えているというべきか単に食い意地が張っているというべきか。
私達は前に向かったわ。
アレンは必死に剣を振るっているわね。
ライルと違ってパワー負けしないアレンはオークの攻撃を受けてもしっかりと受け止めているのよ。この子は華奢なくせして意外にハイパワーなのよねぇ。でも、力負けしないだけで勝てるかと言われると、う~んって感じかしら。
一方のインディはというと、あ、もう止めかしら。
そこにライルとパトラッシュが走る。
アレンがオークの攻撃を受け止めている隙に二人が両サイドから攻撃を仕掛けたわ。
パトラッシュの拳が叩き上げたところにライルの光る剣が両断する。
これで二丁上がり。
「オークがこんなところで歩いているとは……」
アレンが剣を鞘に収めながらそんなことを呟いたわ。
「オークは珍しいの?」
「珍しいですね。この辺はもっと弱い魔物しか移動していなかったはずです。オークが出ただけでも驚きの話ですが、それが四体で集団行動しているなんて話は聞いたことが有りません」
「あらま。そうなの。でも、危なげなく倒せたから良かったわ」
「それは、そうですが。キョウさん達に鍛えられていなかったら、俺達だけで対処できたかどうか……オークは冒険者でも中級クラス以上の人が集団で対処する魔物なので」
「え?」
つまり、私達は中級以上ってことになるんだけれど、いえいえ、その前にこのレベルで中級だとしたら、ラズウルドってどうなっているのよ。……うーん、あまり考えたくないネタが思い浮かんじゃった。
とりあえず、私はオークを豚肉の塊にしてガレージに仕舞うと、再び進みだしたわ。
その後も何度か散発的に魔物が出たから討伐したわ。ライルに聞いていわゆる討伐部位というものも別途保存したりしておいたから、冒険者ギルドに行くことが有れば報酬を貰えるそうなのよね。
報酬ゲットのお仕事はライルとアレンに任せれば良いとは思っているけれど、私もギルドに加入しないとだから、少しは残しておいた方が良いかしら。
そうこうしているうちにグレイズエリアが近付いてきたわ。
オークに襲われたキョーコ達。
修行の成果もあり怪我人もなく済みましたが、アレンの話からオーク討伐が中級冒険者の仕事だと知りました。
次はまた視点移ります。




