074 幼児帰り
キョーコ視点です。
ゴトゴトゴトゴト……。
私達は馬車に揺られて自由商業都市グレイズを目指して進んでいたわ。
グレイズまではゆっくり走って一週間程。
随分時間が掛かるって?
それは荷物も沢山だし、道の途中三里ごとに私特製天使像を置いたりしていたから、色々と手間取っちゃってねぇ。まぁ、折角の異世界旅行みたいなものだし、景色を楽しみながらという感じかしら。
え、なにその天使像って?
あら、もう忘れたかしら?
ラズウルドの滝壺で作ったアレよ。
アレのサイズをぐっと縮めた1メートルサイズの物を置くことにしたの。
何故って? それは魔除けよ。
今後の行商を考えると、流通ルート上にセーフポイントが無いと安全じゃないと思って、何かないかと考えた末にこの像を三里ごとに置いてセーフポイントとすることにしたの。
そもそもジェシーちゃんの両親も魔物に襲われて亡くなっているわけだから、あれは意図して行われていたとしても、意図せず魔物が出没できる環境が放置されていることを正当化できる話でもないでしょう?
とりあえず、像の魔石部分に聖属性の付与を与えているから、像の周囲に魔物が寄り付かないという寸法よ。
将来的には街道整備の一環として、土中に魔石を等間隔で埋めるなどして魔除けをすれば良いかと思っているけれど、今回はセーフポイントに留めたの。
逃げ込める場所があるってだけでも安心出来るでしょう?
村に人を集めたらラズウルドに侵入する恐れのある人が出てくるんじゃないかって懸念については、村が中継点であればそういうことになるんだけれど、あの村から中継する様な都市はグレイズしか存在しないから、必然的に終点なのよ。だから、終点となるあの村に行こうと思う人がいない現状を考えれば、ラズウルドを目指す人も出そうにないのよね。
とはいえ、確かに増えればお馬鹿も出てくるでしょうよ。でも、そんな事態を想定しても避けては通れないからこの選択をしたのよ。
私がこういうことをし出したのには訳があって、一つは農業生産人口を増やしたいというのが有るわね。薬草生産をするにも自分達だけの人出では限界がすぐに来るから、それに従事する人達を増やしていく必要があるの。それには村の規模ではまだ小さいから、より多くの人を呼び込んで生産数を上げる必要があるのよ。
もう一つは自警団ね。
ラズウルドに侵入させないための人員を村民だけでカバーするのは、正直なところすぐに限界がくる。だから冒険者ギルドから人を引っ張ってこれる規模を確保すれば……いいえ、出来ればギルド支部を用意できるくらいに大きくなれば、村内でライセンス持ちを確保できるというのがあるわね。
立地条件的にグレイズが近いということは、グレイズの商圏としてポプリ村は衛星都市を形成できる余地があるから、グレイズの人を引っ張ってこれる環境を用意しておきたいのよ。
何にしても、仮にこの世界にずっと住み続けることになるにしても拠点は必要でしょう?
幸いにしてポプリ村には恩を売ることが出来ているから、この状況を利用して私達の拠点として活用させてもらった方が色々と都合が良さそうに思ったの。
例えば出身地を聞かれてもポプリ村って答えれば済むけれど、ちょっと前まではラズウルド山脈の中でしょう? ……どう考えたってこの世界の住人達からは怪しまれるだけなのよ。
私達の現代だって住所不定無職というよりは、戸建て暮らしの定職持ちの方が信頼されるじゃない。とても単純な理由ではあるけれど、これって大きなことだと思うわ。
三里毎に止まっては像の設置、場合によっては馬車を通り易くするための整地とかもしながらゆっくり進む私達。
あぁ、一里の計算についてはヴェイドとの戦いで一気に色々なスキルのレベルが上がって、鑑定眼のレベルもカンストしたのよ。そうしたら千里眼に変化したの。千里眼化したら重さや距離の測定とかも出来るようになって、私の視界の中には距離計が表示されている状態。
ちなみに距離計が出来たからより正確な定規とかも用意できるようになったので、錬金で木製の定規も作って村で活用させているわ。
女性部の企画組としてスタートさせたビフォーアフターズの皆さんがデザイン制作などをする上でも定規は必須でしょう? 設計図として書き残せばそれを見て同じものを作るという工業生産の基礎的な規格化が出来るから大事かなって。
マルティナさんはグレイズの商人のお嬢様だったそうだから、グレイズの人達の感覚も分かりそうなので彼女に商品制作では活躍してもらったわ。
出来れば彼女にも同行してもらおうかと思ったんだけれど、あのあとおめでたが発覚してねぇ。……まぁ、あれだけイチャついていたんだもの、やることはやってるわよねぇ。ちなみに、それに気付いたのも千里眼のお陰よ。この世界に初期症状も無い状況でそんなことを確認できる術は無いもの。
便利とはいえ不思議な感覚よね。
「父さん、顔が百面相になっているのだ」
「そうだ。怪しいぞ。何を考えている」
二人は私の膝の上に頭を乗せて寝そべりながらそんなことを言ってきたわ。
というか、あんた達最近物凄くべったりよね。
別に寄るなとは思わないけれど、どうしちゃったのかしら。
「これからのことを色々。それより、膝が重いんだけれど。そろそろどいてちょうだい。クッションが欲しいなら用意してあげるから」
「い~や~な~の~だぁ~~~!父さんの膝の上で寝るのだぁ~~~!」
「パトが寝るなら、俺も寝るのみだ」
体を振って嫌々と拒絶を示すパトラッシュ。それはもう典型的な駄々っ子。
それにしても最近こんな感じに幼児化が激しいパトラッシュだけど、インディ、あんたまでだったの!?
「はぁ。もぅ、それならこちらも考えました!あんた達がどかないなら、私も寝る!」
「「はぁ!?」」
私はそう宣言して強引に立ち上がると、ガレージに入って長いクッションと毛布を出してきたわ。それを適当に放り投げて置くと、どかっと枕の真ん中に頭をつけて寝転がってやったわ。それを見たパトラッシュが目を輝かせて私の右隣の枕に頭を付けて寝たかと思うと、すぐに左隣にもインディが頭を付けて寝たの。
全くこの子達は。
……元は威厳たっぷりに話していた魔獣だったはずなのに。
私はそう思いつつも微笑んで毛布を掛けて横になったわ。
二人は横になるとすぐに寝息を立て始めたの。
……まるでの○太君じゃないの。
どうも体に精神が引きずられているのか知らないけれど、この幼児化は酷くなる一方なのよね。まぁ、懐いている分には可愛いから良いんだけれど、何かこの子達の中で吹っ切れたのか知らないけれど、遠慮無く私に甘えるようになってきたのよ。
魔物が幼少の頃にどの様に育つのかなんて知らないから、彼らがどんな生き方をしてきたのかなんて分からないけれど、人として暮らしていく中で人間らしい愛情を注がれて暮らすということの良さが伝われば……なんて思って私も意識はしてきちゃったから、どうもそれが過剰だったかなと最近反省していたりなのよね。
私の母と同じようになんて考えたら、私みたいなダメ人間になっちゃうのよ。
え? さりげなく自分の親を貶しているって?
……人間40年近く暮らしていれば何が良くて何が悪いかくらいは分かるものよ。親の教育が完璧かどうかなんて、それこそ親も初心者なんだもの、必ずしも全てが正しいなんてことは無いわ。ただ、私はその中の良かったことを大切にしたいって思うだけで、その中の悪い部分も正しく評価しているだけよ。
どうも私は母に似てお節介な方だから、子供が困らないようにとかホイホイ考えちゃう方だと思うんだけれど、そういうのをなるべく注意して本人が失敗したりして努力する様にって気を付けていたつもりはあるのよ?
でも、それは飽く迄私基準の話でしょう?
どうも甘すぎたんじゃないかという不安がねぇ。
まぁ、この子達は私のことが好きだから甘えているってことでもあるから、少なくとも私のことを信頼しているからこそのこの状況なんでしょうけど。むぅ。
そんなことを思っていたら、幌から外を覗いていたはずのライルがこちらを見ていたのよ。なんか目が点というか、止まっているというか、戸惑っている印象よね。はぁ。
「ごめんなさい。うちの子達もまだ小さいから甘えん坊で。力は強いと言っても、心は幼児みたいなもので」
「あ、いえ。仲が良いんですね」
ライルはそう言ってあどけなさを残すその顔に微笑みを浮かべていたわ。
あんたもちょっと前までママのおっ○い吸ってたんじゃなかったのとか、そんなことをは思っていないわよ。ただ、こんなあどけない顔をしていても、この世界では大人として振る舞うんだなと思うと、なんだか自分の昔を思って色々恥ずかしくなるというか。
私は苦笑しつつも返したわ。
二人の幼児化に手を焼くキョーコ。
それを温かく見ているライルです。
続きます。




