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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第Ⅱ章 人里に出た三匹
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K02 あの雨の日

ライル視点です。


 村に久々の雨が降った。

 作物の作付も終わり、土木工事も滞りなく進んでの雨は恵みの雨だろうか。

 面倒な仕事が終わってからの久々の休息の理由付けには丁度良い。


 俺はライル。

 この村で自警団に所属している。

 昨年の襲撃で団長が亡くなって以来、ライセンス持ちの中で一番ランクが高いということで俺が団長代行をするはめになっていたが、少し前にあった魔物の襲撃の際の活躍を機にアレンが団長に就任したので代行からは降りた。


 元々俺は団長になりたくて自警団に所属しているわけでもないから、その地位に拘りが有るわけでもなかった。むしろ人を采配して動かすということが面倒で困っていた程だから、そういう作業に長けたアレンの方がよっぽど適任だと思う。ただ、これまではアレンの力がそれほど強くなかったこともあって、戦士としては三流という評価からどうしても見劣りしていたというのが実情だ。


 俺がライセンスを取る気になったのはシャインと共にグレイズに行ける地位を得るためだった。昔から近所に暮らしていたこともあって仲良く遊ぶ仲だったシャイン。幼い俺はずっと似たような暮らしをしていくものだと思っていたんだ。だからシャインと同じ道を進むのが当然のことの様に考えていた。でも、現実はそんなことはなくて、シャインは商人で、うちは単なる農家だ。進む道なんて違うに決まっていた。

 そんな自分の運命を変えるべく、親元を飛び出してグレイズに一人入ったんだ。


 グレイズに入るにはライセンスが要る。

 俺の様なガキが簡単に中に入れる様な伝手は無かった。

 グレイズに入れず門前のスラムで途方に暮れていた時に、追剥が俺を囲んだ。

 スラムという治安の悪い場所でガキが一人いればそうなるなんて火を見るより明らかな話だったけれど、当時の俺にそんな知識なんて有りはしない。だから半ば呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。

 迫りくる手に恐怖してたところ、唐突に追剥達が吹っ飛ばされた。

 何が起こったのかと思いつつ固まっていると、背後の方からも叫びが聞こえたかと思うと、ドシンという音と衝撃が伝わって来た。そして背後から左肩を触れる手を感じた。



「坊主、大丈夫か」



 俺が振り向くと、そこにはとても大きな男が立っていた。茶色の長い髪に高い鷲鼻、そして顎鬚。その金色の瞳は無表情に俺のことを見下ろしていた。俺が小柄だからというのもあるかもしれないが、それにしても大きいと感じたのは奴の存在感の大きさ故かもしれない。



「……はい」

「ここは危ないぞ。田舎から出てきたのか?」



 声色は低く腹の底に通るように感じる。

 でも、不思議とそこに恐怖は無かった。



「はい」



 俺の言葉に奴は一息呼吸をすると、俺を見据えていた目線を逸らしてぼそりと言った。



「……お前、付いて来るか?」

「良いんですか?」



 俺の質問に彼は居心地悪そうに視線を逸らしたままぶっきら棒に答える。



「……悪かったら聞かねぇだろ」

「あ、いや……そうですね。有難うございます」

「フン。素直にそう言っとけ。ほら、行くぞ」



 奴は俺の肩をポンポンと優しく叩くと、そのまま前を進む。

 俺は奴の後を静かに付いて行った。


 あいつが居なかったら俺は強くなれなかったと思う。

 俺は運が良い奴だった。

 

 奴と共に暮らすようになって、最初は奴の言うことを聞いているだけだった。実際何をして良いのかさっぱりわからなかった田舎者の小僧だった俺からしたら、見る物全てが初めての物ばかりのグレイズでの生活は奴の誘導無しには厳しく感じた。しかし、それも一月程過ぎた頃には慣れて、逆に奴の世話をするようになっていた。

 奴の暮らしている家は山の手の見晴らしの良いところにあった。

 初め連れてこられた時は、実家とのあまりの違いに茫然としたのを覚えている。

 家の中も広々としていて、大きな居間から見える街並みは壮観だった。

 奴は居間のカウチにどっかりと座ると、俺にも座るように促してきたので座った。



「んで、お前はどうして一人でグレイズに来たんだ」

「……ライセンスが欲しい」

「ライセンス? 冒険者か? それとも商業者か?」

「どっちでもいい。ライセンスを持って、堂々とこの町に入る資格があるって言いたかった」

「ふ~ん。んで、それは何のためだ?」

「……」



 俺は問われても答えられなかった。

 何のために? 幼馴染に先を越され置いて行かれた様に感じて、自分もその資格が欲しいだなんて、流石の俺も言えなかった。ただ、この場に来てグレイズに入る資格というものの価値が何なのかを、改めて感じた気がしたんだ。

 奴は俺が何も答えないのを見ると、溜息を一つ吐いた。



「……あぁ。わかったよ。それ以上は無理には聞かねぇ。ライセンスが欲しいなら手を貸してやる。だがな、世の中何事もタダでは動かねぇんだ。お前は俺に魂を売る気はあるか?」

「……え」

「何の覚悟もねぇ奴を構うつもりはねぇんだよ。まぁ、何のことは無い。お前が嫌ならここを今すぐ出りゃ良い。グレイズに入れたんだから、お前の目的は半分達した様なもんなんだろ?」

「……良い」

「あぁあ?」

「……あんたに魂でも何でも売るよ。その代り、俺を強くしてくれるか?」



 奴は俺の答えを聞いて口をあんぐりと開けていた。

 自分で質問を振っておきながら、奴は俺の答えを予想外という面持ちだった。

 でも、その後すぐに笑みを作って言った。



「馬鹿なガキだ」



 奴はその後俺を数部屋有るうちの一つに案内し、その部屋を俺の部屋にすると言った。そして、街に繰り出すと俺の生活道具を買い揃え、冒険者ギルドに連れて行ってくれた。

 ギルドで手続きして冒険者としての仮ライセンスを得て、その後は奴と付き添っていくつか任務をこなして正式なライセンスを得てからは、奴は俺を奴の仕事場に連れて行くようになった。そこは東方商会の私兵部隊で、奴の仕事はそこでの幹部の護衛だ。それも最高幹部の護衛役ということもあり、奴は一目置かれた存在だったんだ。

 


「ほぉ、君が噂の子だね。なるほど、そっくりだ。ふふふ、私にも君くらいの娘が二人いてね。たまにここへ連れてくることもあるから、その際は仲良くしてやってくれ」

「はい」



 彼の同僚のあの人はそういって優しく俺に話しかけてくれていた。そして、実際にその姉妹とも会ったことがある。

 彼は元気にしているのだろうか。

 もはや彼らに会うことは無いだろうけれど、あの後どうなったのかは気になっている。



 それはあの雨の日、スラムの中で俺達は戦っていた。

 だが、戦況はこちらの圧倒的不利だった。

 どうしてこのような状況になったのか分からなかったが、俺達はたぶんはめられたんだと思う。


 あの日奴が俺を逃がしてくれなかったら……。



「行け。お前のいるべき場所はここじゃない!!」

「そんなの出来ない!あんたと一緒にいる!!」

「馬鹿を言うな!!!……お前が俺の柵に縛られる理由は無い。帰るんだ。今すぐ!!!」



 その金の瞳は俺を鋭く射抜いた。

 あの眼を見てしまっては、俺に選ぶ選択肢は無かった。

 俺は歯を食いしばり、涙が零れるのも構わず奴のもとから走り去った。



 そして、里に帰ってきた。


 

 あれ以来、こんな雨の日を見るとあの瞳を思いだす。

 魂を売ったはずなのに、俺は返品されてしまった。

 でも、そうまでして俺を守ろうとした奴は何を考えていたんだろうか。

 それはこの前の戦いで見た親子の姿の中に答えが有ったように感じる。


 奴のことは殆ど詮索したことが無かったけれど、そういうことなのかもな。

ライルの過去の回想です。

雨の日を見ると思い出す彼のグレイズでの出来事が語られました。


次からは三章です。

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