007 フェンリルブレード
暫く起き上がる力も沸いてこなかったわ。
仕方ないから体が言うことを聞くまでそのままの状態よ。
まるで金縛りにでもあったみたいに自分の体が言うこと聞かないのに、意識だけはある感じ。以前、筋トレに毎日ジム通いしてある朝突然金縛り状態になったことがあったけど、何度もなりたい状態じゃないわね。ちなみに病院行ったら、暫く禁止って言われたわ。
試しに現在の状態を確認するためにステータスを表示してみたの。
キョーコ
年齢 37 LV,1 職業:錬金術師
HP120
MP80
LP6
AT15
DF11
MA23
MD36
SP10
LU50
スキル
錬金術 LV,7
鑑定眼 LV,3
画 力 LV,10
調理術 LV,5
裁 縫 LV,7
工 芸 LV,8
調 教 LV,9
称号:お姉
え、何これ。
MPが300減っただけじゃなくて、何気にLPが4も減ったわ。どういうことかしら?
仮にさっきの錬金に5レベル相当の負荷を掛けていたとして、MP消費が300で1レベル分と考えて、4LPで残りの消費を賄ったとしたら、全部でMPの消費は1500ってことかしら。
でも、LPはMPを代用できるってこと?
えーと、単純計算で出ている標準スペックがステータスの数値だとして、LPはその体で負荷を掛けられる限界値だとすると、見かけのHPやMP以上の数値をLPは示していることになるわね。
私の場合はマックスが10だったから、仮にHPに変換できるとした場合は1200がマックスってこと? いやいや、そんなわけないわよね。たぶん、これは飽く迄錬金術の必要エネルギーを満たすために緊急的に変換されたと考えるのが正しい筈よね。
うーん、わからないわ。
でも、とりあえず鑑定よ。
鑑定結果 「剣 :名前なし 精霊銀製、ブルージェム付加済み」
せ、精霊銀?
なんかすっごいファンタジー色付いたわよ。
名前なしってことは、名前を付けたら良いのかしら?
名前? ……ブルーの宝石ついてる精霊銀の剣、パトラッシュは狼……フェンリルブレードとかどうよ!
名称設定を受諾しました。
剣 :名前なし は 剣:フェンリルブレード となりました。
名称設定により世界に登録されました。
はい?
何が始まったの?
世界に登録されたってどういうこと?
まぁ、フェンリルブレードになったのは良いけど、仄かに青白く光り出してるわよね。明らかに。
とりあえず剣を砂山から抜いて、私はガリの方へ向かったわ。
ガリはというと、こちらはこちらでなんだか凄いことになってたわ。
ガリは言っていた通り、木を切り倒してどうやってやったのかわからないけど、スライスされた板を四本の木を基礎に木の上で組んだりして、ウッドデッキみたいなものを既に作り上げていたの。
蔦で器用に作ってあった縄梯子を登って私は上に上がったわ。
そこでは私が渡したあの包丁を器用に使って、組木の要領で釘を使わずに小屋を組み始めていたのよ。
何処の昭和初期生まれのおとーさんかと思ったわ。
私が上がってきたのを見たら、ガリも作業をやめてこちらに笑顔で来たのよ。
完璧に薄着してどう見ても野郎よ。マジ、野郎。
「まぁ、よく上って来れたわね。怖くて尻込みしちゃうんじゃないかと思ってたわ」
「あらやだ、私、小さいころは幼稚園の二階からトランポリンにダイブして首を捻挫した程よ。これくらいの高さなんてどおってことないわ」
「……捻挫って。まぁ、良いわ。それよりこの包丁良いわね。木も簡単に切ってくれるから、くり貫いたり色々と活用させてもらっているわ」
「まぁ、そうなの? それは良かったわ。あ、そうそう、これこれ。出来たのよ」
私はベルトに刺して運んできた剣を鞘ごと外して彼に渡したわ。
彼はその剣の出来具合に一瞬驚いて見ていたけど、受け取って鞘からゆっくり剣を抜いたわ。
「……凄いわね。普通にかっちりした剣じゃない。どうしたの?」
彼は鞘を抜いて日差しにかざす様にして眺めていたわ。
作った自分が言うのもなんだけど、透き通る刀身が宝石の様にキラキラと輝いて本当に綺麗なのよ。
「だから、作ったのよ。そいつを作るのに錬金術レベルが5も上がったわよ」
「うそ!? マジ?」
「マジよ。マジ。そいつのためにLPまで削られた程よ。文字通り命を削って作った様な剣ね。大事にしてよ」
「……そうだったの。それは大事にするわ。それにしても素晴らしく綺麗ね」
「有難う。その子の名はフェンリルブレードよ。ちなみにあんたにしか抜けない設定付きよ。あ、私は例外的に抜けるけど。ウフフ、よろしくね」
「フェンリルブレードって、わんこに因んだのね。まったく。でも、あのわんこと同じ銀色に瞳の色と同じ青い宝石だものね」
「えぇ。良いでしょう?」
「うん、勿論よ。有難う。あ、そうそう。日が暮れる前には屋根も綺麗に葺いて小屋にしちゃうから、あんたは……耐火煉瓦とか用意できない?」
「耐火煉瓦? なんに使うの?」
「家の中で火を使うのに燃え移らないように耐熱耐火のレンガとか有ったら、それを組んで囲炉裏みたいなものを作れるでしょう?」
「あぁ、なるほどー。いいわねぇ~。土鍋と一緒に用意しておくわ」
「お願いね~」
私は笑顔で手を振ってバイバイした後、縄梯子を降りたわ。
下に降りたらケリーが木の下に枯れ木や枯草とかを集めていたの。
他にも自分で編んだ編み籠の中に木の実とか色々集めてきたみたいね。
「ケリーは一体何をしているの?」
「あらキョーコちゃん。私はガリの作る家の中で使う物を用意しているのよ~。枯れ木がなくちゃ火も起こせないでしょうよ~? 枯草も沢山あればワラベッドみたいなもんにはなるんじゃないかしら。板の上よりはマシだと思うのよ~」
ケリーがそんなことを考えて枯れ枝や枯草を集めていただなんて、本当によく考えているわねぇ。
「あんた、意外に気が利くわね」
「私に出来ることが少ないからよ~。ガリは力仕事バリバリでしょ~? キョーコちゃんは錬金術なんてスキルが有るでしょ~? 私ったらせいぜい料理くらいよ? それもこんな何もない所じゃ何も出来ないのよ~?だから、せめて役立つものを用意しようと思ったのよ~」
「まぁ。でも、用意してくれて助かるわ~。私も頑張らなくちゃ」
「だったら、お皿とか鍋とか用意してよ~。菜箸やお玉はガリにさっき頼んだのよ~?」
「分かったわ~。用意しておく~」
そうと決まったら、私はケリーと別れて先程作業していた大岩を崩した後に出来上がった砂山に行ったわ。
あ、そうそう、言い忘れていたけど、パトラッシュには周辺をパトロールしてもらっているのよ。
近場に変な動物とかやってきたら狩っちゃって頂戴って。
とはいえ、あれだけガリガリに痩せていたのだから、この辺に獲物はいないのかもしれないけれど。
そうだ。
後でパトラッシュのための犬小屋もガリに用意してもらおうかしら?
私は鼻歌交じりにそんなことを考えながら、先程の砂山へ駆けて行ったわ。
昭和初期生まれのお父さんは小屋組み出来る人結構いるんですよね。
あの世代の工作能力の高さは凄いなと思います。
そして、ガリはそんなお父さん達に負けないくらい立派な工作が出来る人なんですね。実際に近くに居たら頼もしいに違いない。