P02 解せぬ
P編続きます。
父さんは重傷だったのだ。
体中が穴だらけだったし、体力も殆ど残ってなかった。魔力も父さんが維持している色々な物を保持する限界に近かったのではないかと思うが、我らが補充したからその負担は無くなったが、寝ているだけでも力を使う父さんの体は一刻を争う程に危険だった。
穴だらけの傷は傷薬を使えば治るはずなのだが、父さんの傷薬やポーションを使っても穴は塞がってくれなかった。
インディの話では、傷薬は体の再生能力を促進して治すもので、それは体内の魔力を起爆剤としているため、魔力に余力を残していない父さんの体では効果が薄いそうなのだ。全く効果が無いわけではないが、効きが遅いため効果が無いのと変わらない程の変化しか認められないという状況らしい。
それなのに父さん本人には全く自覚が無く、体を動かせるようになったからと何でもしようとするのだ。故に我もインディも心穏やかではなかった。その為我らは父さんの行動を常に見張っている必要があった。
「ちょっと、貴方達、私はもう大丈夫だから、皆のお手伝いをして来て頂戴よ」
「ダメなのだ!父さんはしっかり回復しないと危険なのだ!」
「そうだぞ。お前は分かっていない。ヴェイドの様な輩は塵一つで復活を遂げられる程厄介な奴だ。再び復活してお前を狙うとも知れぬ。その時にお前のその体では満足に動くことは出来まい」
インディの言う通りで、父さんが完璧に消し去ったはずのヴェイドは実際に塵から再生したのだ。我らが見ていないところで再び復活したヴェイドが襲ってきたら、我らと違って再生に時間の掛かる父さんの体は不利なのだ。
「心配してくれるのは嬉しいんだけど、寝てばかりいるのも疲れるし退屈なのよぉ」
父さんが恨めしそうに外への戸を見ているけれど、そんな目をしても無駄なのだ。
そこにタイミングよく助っ人が登場したのだ。
戸を開けて入って来たのはライルの母親だ。
この人は我らにも難しい説得を難なくこなしてしまう凄い魔法の持ち主だ。
彼女の登場に我は目を輝かせたが、父さんはとってもげんなりした表情をしていた。
「おやまぁ、キョウさん!起きてちゃダメでしょう」
「ライル母!言ってやってくれ。俺達では全く話にならんのだ」
「そうなのだ、そうなのだ!ライルの母ちゃん言ってやって欲しいのだ」
「あらあら、もうキョウさん。おチビちゃん達を困らせちゃダメでしょう!こんなに親孝行なおチビちゃんの言うことも聞けなくてどうするの。貴方の仕事は今は寝ること!眠って体を治すことが第一だよ!大体、貴方が動かなくても私の様に他の誰かが来てくれるんだから、必要なことがあれば頼めばいい事じゃないのかい?」
「……はい。ごめんなさい」
そう言って父さんはネブクロの中に顔を埋めたのだ。
その日から三日の間は沢山の人が家を訪れて行ったが、父さんには寝ていてもらったのだ。どうしても話す必要があることは向こうからやって来るのだから、わざわざ父さんが出歩く必要もない。
村長やライルの母ちゃんやアレンにライルはよく来ていた。
アレンの妻のマルティナも村の特産品という物の相談で訪れていた。
彼女は父さんがアレンに頼んで呼んだそうだ。
「ごきげんよう、キョウさん。お加減は如何ですか」
マルティナは村の他の女達とは違って所作がゆったりとしていて綺麗なのだ。何故彼女はあのような振る舞いをするのかは分からぬが、あまりに綺麗なので彼女が帰った後でインディに彼女の動きの真似を見せたら、インディはキモいと言ったのだ。
彼女が良くて我が駄目なのは何故だ。
解せぬ。
「ごきげんよう、マルティナさん。お陰様で皆さん良くして下さるから、この通り寝たきりでも不自由しておりません。とはいえお呼びしておきながら、この様な無様な格好での応対となり、大変申し訳なく思っております」
父さんは眉尻を下げてその様に話していたが、寝たままなのにも関わらず無様には見えない。寝ていても格好良い父さんはとても凄いと思う。
なのでこれも後でインディの前で真似をして見せたら鼻で笑われたのだ。
解せぬ。
「いいえ。キョウさんご一家のお陰で私達一家は救われました。……本来であれば村を救って下さったことへの感謝が先でしょうけれど、私個人の思いとしてこのことを感謝したいと思っております。本当に、有難う存じます」
彼女はそう言って深々と礼をした。
その仕草がまたとても優雅に感じられて、謝罪や感謝の口上を述べるだけなのにも拘らず、この様な動作により印象を変えることが出来る彼女は、もしかすると何らかの精神作用系の魔法を使っているのだろうか。
これもインディに相談してみようかと思ったが、また鼻で笑われそうな気がした故に相談しなかった。
その後、父さんはマルティナと何やら相談を始めた。
父さんの話では村の民芸品の売り方の変更の話から始まり、売り物の作りの改めや、新しい形の提案、これまで民芸品製造は女の仕事としていたが、男も出来る仕事を用意することなど、多岐に渡っていた。それに対し彼女はしっかりと受け答えし、父さんの提案を真剣な表情で聞いて、考え、彼女から見た視点での話を返していた様に思う。
人族という動物はこの様に会話を重ねることで、一人の考えの足りないものを補足していくのだな。野蛮で弱き生き物としか思っていなかったが、我には真似の出来ないことをこの二人は自然にやっている。
話が終わった後で、父さんにどうやったらあのような会話の仕方が身に付くのかと尋ねたのだ。そうしたら父さんは一瞬目が点になっていたが、その後プッと噴き出して笑い答えたのだ。
……我の話のどこに笑う要素があったのだろうか。
解せぬ。
「あはは、ごめんなさい。そんなこと言われたの初めてで、あんなお嬢様な奥さんとなんて私も慣れているわけじゃないわ。ただ彼女の口調に合わせただけよ。でもそうねぇ、この世界にはこういった人同士の会話にも生活の違いが出るものだから、相手と同じ程度の対応を出来ないと相手にされないなんてこともあるのよ。面倒な話でしょう?」
「確かに面倒なのだ。必要なことを的確に答えられれば、動くことには支障無いと思う」
「そうなのよ。でも、それだけでは動かないこともあるのが人間の世界なのよねぇ。私も昔はそうした関係を作るのが面倒に感じたものだけれど、仕事として人と話すことをしていたこともあったから、慣れちゃったのかな」
「そうか。継続することが大事なのだな」
「そうかもしれないわね。でも、パトラッシュはそんなこと気にしなくても良いのよ。あなたはその子供の姿を大事に暮らした方が、きっと良いことが沢山あると思うから」
そう言って父さんはニッコリと微笑んでくれた。
我もその笑顔を見て自然と笑みが浮かび頷いていた。
村の売り物の話は父さんの回復後に本格化して、父さんは色々と変わった物を用意していた。それらは穴の開いた棒が多数に大きな布というものが一つ、小さな樽状のものが2つ、あと大量の薄い小さな木札を作っていた。
木札は完成後村長の家に運ばれて、数日後戻されてきた。
その板には何やら文字が書かれていて、無料という文字がある。
無料とは何だ?
インディにその話をして尋ねたら、無料とはお金が掛からないという意味らしい。
商売の話をしていたのにお金が掛からないとはどういうことなのだろう。
商売とはお金と物を交換する行為だったのではないのだろうか。
解せぬ。
キョーコとマルティナの会話風景を見て格好良いと感じたパトラッシュは、後でインディにどれほど素晴らしかったかを実演してみせましたが、インディには理解されませんでした。
そして、二人の会話により生まれた様々な物の中にあった大量の木札。
その木札には無料の文字が書かれていて困惑のパトラッシュなのでした。
本日は投下が事情により遅くなりました。
お待ちくださっていた皆様には申し訳ありません。
明日も遅くなりそうですので、17時過ぎ辺りに眺めたら上がっているかも。
(……とか言いながら空いている時間に投下するかもしれませんが)




