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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第Ⅱ章 人里に出た三匹
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069 後始末 後編

引き続き後始末です。

「この中で村長さん一家に批判や被害に対する賠償を請求できる人は、これまで騙されて亡くなった人々か、殺されかけたジェシーとその親族だけですよ。しかし、前者は既にこの世に居ない以上、生きている者は後者のみ。つまりジェシーの判断のみが村長に対する責任の追及を出来るとみなせるかと。というわけで、ジェシー、貴女はどうします?」



 私に振られたジェシーは、唐突な振りに挙動不審に首を振って辺りを見回したけれど、全ての耳目が自分に注がれていると知り、目を白黒させながら前に出てきたわ。



「あ、あの……、私、自分のことはキョウさんに助けて頂いたから良いんですけど……、強いて挙げるなら両親に対する謝罪を、してください。事故、……ではなかったんですよね?」



 あら、私はそこに触れなかったけれど……この子、自分で気付いたのね。

 まぁ、手を掛けてきたという言葉を出せば、そういう結論に至るだろう話だけれど、意外に目敏いというべきかしら。

 彼女の言葉に村長はアレンの支えを離れ、自分の力でふら付きながらも彼女の前に行くと、ゆっくりと膝を折り、その場に跪いたわ。



「取り返しのつかないことをした。謝って済むことではないが、本当に申し訳ない。もし命を差し出せというならば、この命を差し出そう」



 彼女は村長の謝罪の言葉にただ茫然としていたわ。

 たぶん、彼女の中では自分のことであって、自分のことでないような何かを見ているのでしょうね。人間、あまりにも非現実的なことが続くと、色々な感覚が麻痺していくものですもの。……まるで他人事のように、不思議と冷静に見ている自分に気付いてしまったりするのよね。そういう感覚、……あまり思い出したくないけれど。



「……あの、すいません。それ、あなたが為さったことなんですか?」



 え?

 この子何を言い出すの?


 これは多分、周囲の大人がみんな思ったことよ。

 驚いたわ、この子。

 彼女は無表情のままだけれど、ゆっくり屈むと跪く村長に手を差し出したわ。



「それも、貴方に成り代わった魔物がしたことですよね。いいえ、たぶんだけれど、これまでの怖いことの殆どが魔物の仕業だったんじゃないですか? だったら私、村長さんに全てを押し付けることは出来ない。……でも、この哀しい気持ちや、やりきれない思いを沢山の人達が思って亡くなって行ったことは、心に刻んで欲しい……かな」



 重いわね。

 本当に重い。

 どうするのこの空気。


 え、そこ?

 とか言わないでよね。


 私はもう少しシリアスにならない程度に収めたかった気持ちも有るんだけれど、やっぱりそうもいかないわよね。

 私はこの村の状況を考えると、村長と村民を分裂させるのは得策じゃないと思ったから、多少のズルは仕方ないものとして、私がジェシー達を保護することでバランスを取れるかと思っていたけれど、人の中にある思いはそう簡単なものじゃないわよね。


 ……自分のことを棚に上げ過ぎていたわ。

 

 この後、村長は彼女に「すまぬ」と一声かけてその手を取ったの。

 彼女は微笑みを浮かべて「はい」と告げると、ゆっくりと村長と立ち上がったわ。


 私はその後の処理として色々と動いたわよ。

 村民には村長へ感謝の気持ちを込めて批難の声を謝罪させた上で、ジェシー一家にもこれまでの村長の口車に乗っていたとはいえ、片棒を担いだことを謝罪させたわ。

 ジェシーはそれを受け入れて手打ちね。


 実のところ、どこまで関係を修復できるか分からないけれど、こうでもしてさっさと形作りに入らないと、インディと約束したラズウルドへの不可侵体制が構築できないわ。

 私にとっては、村の平和より家族の願いに応えることが最優先だもの。


 まぁ、ジェシー一家の保護者にもなったから、私にとっては彼らも家族みたいなものなんだけれど、そこはそうなる前に決まっていたことだから、頬かむりしてあっかんべーよ。ふふ。


 で、結局その後どうしたかというと、いわゆる三里の監視については、村の製材組合と自警団を一体化させて、山林管理組合を作り、自警団の活動をそちら主体に改めたわ。こうすることで村民達は森の管理をしつつ部外者の侵入を監視出来るという寸法ね。

 また冒険者ギルドのライセンス持ちを増やすということでも話がまとまり、今後は徐々に楽になっていくという希望が見える形で落ち着かせたわ。


 私は最初の村での宣伝通りに商人として活動するから、新たに会社を作って村を拠点に商売をするという話は変わりないわよ。というのも、私が今後二人を探す上で入ることになると思う商業都市グレイズには通行許可が必要なの。


 そこで役立つのが「ライセンス」というものになるのだけれど、これはライルが持つ「冒険者ライセンス」とジェシーの兄のシャインが持つ「商業者ライセンス」があって、ライセンス持ちが一人いれば代表者として入れるの。

 まぁ、新人のメンバーがライセンス取得のために町に入るとかあるから、代表者の責任でライセンスを取らせるという建前があるんだけれど、私にとってはそれで充分でしょう?



 ジェシー一家が私にとって好都合というのはこういう意味もあったのよ。







 全部の話が終わった後、私はジェシーちゃん達と家に帰ったわ。

 帰宅して私のガレージから料理を出してもらって食事をしたあと、インディからの催促でパトラッシュと共に家の庭に出たわ。ジェシーちゃん達には親子で夕涼みということで。

 木の壁で囲われているから人目は無いから良いけれど、彼はさらにガレージを出すことを催促してきたから仕方なくガレージを出して中に入ったわ。



「随分な念の入れようね。どうしたのかしら」



 私達は家具のガレージに入ったから、適当に置いてある椅子を出して腰かけたわ。

 インディとパトラッシュは私の対面に座ると、インディが恨めしそうな顔で話しかけてきたの。

 あらやだ、そんな表情をされるような事したかしら。



「キョーコ、お前は馬鹿なのか」



 ねぇ、開口一番に言う言葉それなの。

 ちょっとー、気が悪いわねぇ。



「馬鹿とは随分な言い草ね。私の行動に何か間違いがあって?」

「間違い?……そうだな。間違いだらけだ」

「あら、どこが?」

「お前は言ったはずだ。どんなことをするにも自分の命がまず最優先だと。なのにお前は自分の命を粗末にして戦った。あれは言い訳できないはずだ」



 あー、なるほど。

 そこが引っ掛かったの。

 確かに彼らには命有っての物種だと教えたわね。

 でも、私はこうも言ったわ。



「それはね、貴方達の命に危険が及ぶなら、私は命を懸けて貴方達を守るとも言ったはずよ。それが親というものだと」

「……しかし、それで失われては俺達はお前を失ってどうすれば良いというんだ」

「あぁ、確かに」

「おい!」



 私の軽い返事に突っ込みが入ったわね。

 でも、実のところ私もそこまで頭が回っていなかったのよ。

 なるほど、子供に教えられるってこういうことなのね!

 え? それは違うだろって?

 えー、現に思いつかなかったことに頭が回ったんだもの、そういうことでしょう?



「貴方達に不安を抱かせたことは謝るわ。それに懸命に救ってくれたこともね。でも、私がした事が間違っているとも思えないの。だって、そうしなかったら貴方達を守れなかったでしょう? 誰かがやらなきゃいけないのに誰にもそれが出来ない状況で、私に唯一その力があるという前提に立てば、私は迷うことなく貴方達を守ることを最優先する。それで私が亡くなったなら、貴方達は私のことは忘れて自由に暮らせば良いわよ。それだけの力は有るでしょう?」



 私がそう話したら、インディの眉間にどんどん皺が増えるのよ。

 肌の色が透き通るように白いのに、さらに青筋が出てくるみたいな皺のより具合よ?

 綺麗な顔は怒ってもクールビューティとか嫉妬しちゃうわぁ。



「お前は何も分かっていない。……お前は俺達の中に知らないものを持ち込んだ。こんなものを知らなければ俺達は元の姿に戻ることも出来ただろう。だが、お前の持ち込んだものは俺達からその道を完全に消し去った」

「それは何かしら?」

「お前の与えるものは温過ぎるのだ。これまで数え切れぬ程の人族を殺してきた俺に、人としての生き方と心を持ち込み、あまつさえ俺を守るだと?……馬鹿げている。俺は守られるような存在でもなければ、あの村民どもが感じたような単なる迷惑な魔物でしかない。お前は命を粗末にしている。守るべきはお前自身の身であるべきだ」



 あー、この子の中ではそういうことになっていたのね。

 確かに過去のラズウルドオルムが人間に対してしてきたことを考えれば、人間の立場に立ったら許されるような存在ではないわね。

 村人じゃなくても客観的に災厄の元凶そのものだものねぇ。

 実際、私が分解する前の彼は凶悪な魔龍だったと思うわ。

 でも、物事には見えている部分だけが重要じゃないのよ。

 良心の呵責だなんて、彼の真面目さ故に出てくる様な感情かしら。

 私はパトラッシュの方を見たわ。

 パトラッシュも眉を下げて神妙な面持ちね。

 犬型だったら耳を垂らして尻尾も下げて伏せている様な印象かしら。



「パトラッシュもインディと同じ気持ち?」

「……我も主のことは大事だ。主が居ない生き方など知りたくもない」

「そうじゃなくて、貴方も自分が過去にしてきたことを後悔している?」

「……人族に対するものを言うのであれば、……許されることでは無いだろうな」

「……そう。分かったわ。じゃあ、まず一つ貴方達の考えを訂正しましょう。貴方達の過去は既に亡くなったのよ。いわば貴方達の前世であって、貴方達のことじゃない。貴方達は私が生んだ子達でしょう?」



 私の言葉に二人の目が点になったわね。

 まぁ、私も大きく出過ぎたかなとは思ったけれど、そんなに間違ってもいないと思ったからつい。

 え? ついでおネエに勝手に生んだ宣言されたら、たまったもんじゃないって?

 あらやだ、そんなこと気にしてたら、ファンタジーなんて生きていけないっしょ?

 私は構わず続ける。

 


「人の世界にも前世を覚えているという人が居るかもしれないけれど、その人が前世で犯した罪を今世が背負うだなんてことは有り得ないことなの。よって、貴方達の中に前世の罪なんて一欠けらも残ってないわ。仮に貴方達に罪があるとすれば、前世と今世を混同して罪の意識を持つことかしら」



 インディが私の言葉に動揺している様子だけれど、意を決してという感じに拳を握って叫ぶように言ったわ。



「そんな都合の良い話が通るのか!」

「通るに決まってるでしょ」

「はぁ!?」



 威勢よく出たのに素っ気なく返されて肩透かしを食らったようなインディ。

 殊更理解できないとばかりに目を白黒させているわ。



「だって、パトラッシュはそのものを変換しただけだけれど、貴方なんて塵から再構築しているんだから、もはや過去の貴方と全くの別物でしょう? 文字通り私が生んだのよ」

「な!お、うぅぅ。……お前は、俺の父であり、……母親でもあったのだな」



 インディはガクリと項垂れたように肩を落として顔を伏せると、呟くように言っていたわ。

 しみじみと言われてみれば確かにそうなるけど、肩を落とすほどの事かしら。

 失礼しちゃうわ。

 その後ゆっくり顔を上げると、視線を逸らして口を尖らせながら恥ずかしそうに話し始めたの。



「俺は、お前が……父であり母でもあるお前が居なくなるのは、とても耐えられないと思ったんだ。お前が居ないという欠落を、パト同様、俺は埋められる自信が無かった」



 最後にパトラッシュを噛ませているのは彼の照れ隠しかしら。

 でも、それは無理もない感情ね。……私も自分のことを棚に上げていたわ。



「ごめんなさい。貴方達を不安にさせたいわけじゃなかったの。ただ、生きていて欲しかったのよ。でも、貴方達からしても同じだったのね。それを聞いて私は嬉しいわ。こんな即席の親子だけれど、私達って意外に良い親子してたのね」

「そうなのか?」

「えぇ、そうなのだと思うわ。実のところは私も親初心者だから分からないけれど、互いに思いあう心って大事なことだと思うの。私は貴方達を心配し、貴方達は私を心配する。その関係があるって分かって、私はとても安心したわ」



 不安げだった二人の表情に安堵感の様なものが見られる。

 どうやら私の言葉が受け入れられた様ね。

 あの子も大変だったけれど、この子らもやっぱり大変ね。

 人には個性があるものだから、全く一緒の事なんて無いって理解はしていても、どうしても経験則から勝手に判断してしまうから間違ってしまう。

 毎日が新発見みたいに構えてないと、大事なことを見逃してしまうのかもと思うと、気を付けなきゃね。

 二人の表情に余裕が出てきたかと思ったら、唐突にまた拳を握って話しかけてきたわ。



「そうか。……ならば、俺はお前の子としてこれからもいる!」

「我もなのだ!主の子として立派に子供をするのだ!」



 二人の宣言にも似た発言に、私は思わず笑っちゃった。



「ふふふ、あははは、もう、二人して何を言うかと思ったら、子供宣言とは。……あのね、親子というのは幾つになっても変わらない関係を言うのよ。そこに出来不出来も関係無いの。私は仮に貴方達がどうしようもない悪ガキだったとしても、親であることをやめる気は無いから安心して」

「「……そうなのか!?」」



 二人の声が揃う。

 随分驚いた様子ね。

 まるで悪い子だったら見放されちゃうとか恐怖を感じているパターン?

 全く、この子らは想像力逞しいというか、なんというか。

 でも、そういう強迫観念ってあるわよね。

 私の中にもそういう記憶があるわ。

 むしろ、その記憶が有るから現在の私が有るのかもしれなけれど、そう思う程度には強い思いがそこにはあったんでしょうね。

 大人になった私には、それが間違った思いだと分かるけれど、幼い心には決して切り離せない強い思いとして育ってしまうのよ。特にこうして親が1人だけしかいないって状況は、それをより強く抱かせるのよね。

 たぶん、そこにもう一つの道を示す何かが有ったなら、また違った視点が与えられて和らぐなんてことも有ったのかもしれなけれど、本当の所はそんなことが可能なのかなんて、後付けの言い訳でしかないのかな。



「そうなのよ。……とはいっても、悪ガキになるのは勘弁してよね」

「……善処する」

「……頑張るのだ」



 フフ、二人ともまるで耳を垂らして尻尾も下げている様な雰囲気よ。



「あ、そうそう。さっきは有難うね。パトラッシュ」

「何のことなのだ?」

「竜のことよ。最初はまさかインディが自分で竜を出して出てくるとは思っていなかったから、私も内心ビックリしたけれど、次のは私が用意した竜だから」

「……そんなに動じた様には見えなかったぞ」



 インディが懐疑的な目で言ったわ。

 でも、実際驚く様な余裕も無かったというか、そんな気力も無かったし。

 そもそも驚くことなんて、そんなこと以前に色々ありまくったでしょう?

 確かに個々の出来事を見れば、それぞれすごく驚くべきことだとは思ったんだけど。



「人間はね、本当に驚く状況に出くわすと、かえって冷静になってしまうものなのよ」

「フン」



 あんまり信用されていないっぽい目つきねぇ……。

 この感覚は本当よ。

 あまりに衝撃的な事を目の当たりにしちゃうと、どっちかというと私には時が止まって見えちゃう感じかしら。頭が真っ白というか、本当に理解不能だと感情も湧き出さないのよ。そして、遅れて色々な思いが込み上げてくるんだけどね。


 まぁ、とりあえずさっきの会話で二人が納得したのを見て、この場の親子会議はこれで終わり。

 時が過ぎない部屋の中での話し合いだから、外に出たのは現実世界では一瞬の出来事ね。

 私達は出て行ったと思ったらすぐ帰ってきた形だから、ジェシーちゃん達も早かったわね程度にしか思ってなさそうだったわ。

 私達はその後親子でお風呂に入ってから寝袋に入ったの。









 いつもの一日と比べると、随分と濃くて長い一日だったわ。

 意外に頭が回るジェシーちゃんに驚くキョーコさん。

 重い空気が流れちゃったけれど、なんとか一件落着です。

 かと思ったら、インディ達に呼ばれての親子会議。

 二人から指摘されて自分の問題点を認識しつつも、互いに思いあう心を知り心温まるキョーコなのでした。


 今回はいつもの倍量でお送りいたしました。

 二つに分けても良かったかなと思いましたが、切の良いところまでということで。

 長く続きました第二章も次で終わりです。

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