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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第Ⅱ章 人里に出た三匹
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067 後始末 前編

視点が変わります。

 キョーコの体が空から落ちてくる。

 俺が跳躍すると、パトも同じことを考えたのか跳躍していた。

 二人であいつの体を受け止めると、静かに着地して下した。そして、アイツのカバンの中にあるポーションを取り出してふたを開け、無理矢理口を開けて飲まそうとするも全く飲む気配はない。仕方なく効果は劣るが、奴の服を剥がし、胸の上にポーションを掛けてやった。


 微かに鼓動が拍動している。

 ……まだ生きているが予断を許さない。

 俺はキョーコの胸の上に手を置くと、慣れたことではないが一か八か自分の魔力を注ぎ込む。

 その時、近くで魔素が集まるのを感じた。それはこの場で居てはいけない奴の力だ。

 パトが俺の前に立ち構える。

 それはしゅるしゅると音を立てて散り消えた塵を集め、形を形成していく。

 俺はそれを睨んだ。



「ヴェイド。その方が何故復活しているのかは知らぬが、無様なものだな」



 ヴェイドはキョーコによって完全に消し去られた頭や腕を失った状態で再生された。奴の細胞が蠢いて欠損部位を再生させようとしているようだが、何らかの力に阻まれたかのように出来ずにいる。

 どうやらキョーコの力によって奴の再生は阻まれているようだ。



「しかし、残念なことに俺にもお前を滅する力は残されていない。だが、同様にお前にもその力は残されていないのだろう。大人しくこの場から消えるのが引き際というものだと思うが、どうする」



 実際に俺にもパトにも力は残されていない。

 先程の奴の攻撃で貫かれた胸の傷は心臓を逸れていたおかげで再生効果が働いたが、闇の力の干渉で聖属性となった俺やパトの体は思うように穴を塞げないでいた。出血こそ止めることは出来たが、全ての力を回復に回すことでようやく保たせることが出来ている様な状況では、とてもではないが攻撃に出る力は無い。しかも、俺は既に無理をしている。キョーコに俺の僅かな力を分け与えているのだから。

 この状況でキョーコの様な聖魔法を扱えるわけでもない以上、アイツを倒す駒は不足している。せめて聖属性の付与がある武器でもあったならば、自分の魔力に頼らずに力を行使できようものだが、そんなものは人間達の教会にしかないだろう。

 まさか、この場で人間達の教会という組織が持つ力に頼りたいと思う日が来るとはな……流石の俺も思いもしなかった状況だが、ここまで追い詰めておきながら止めを刺せないのは悔しいではないか。


 だが、それは唐突に起こった。


 急に奴の体が何かの衝撃を受けたように弾み、その瞬間から痙攣し始めたのだ。

 よろけて姿勢を崩す奴の背には深々と銀色に輝く矢が刺さっていた。……アレは聖魔法の付与を受けている銀の矢。俺は奴の背の向こうを凝視すると、以前門番として立っていたライルという男が矢を構えていた。そして、奴は第二射を放つ。それも確実にヴェイドの背に刺さった。



「いやぁああああ!!!!」



 そこに村長の息子が剣を構えて走ってきた。

 奴の剣からはキョーコの力を感じる。

 よろけながら避けようと動くヴェイドの体に更に銀の矢が刺さり、痛みに呻くように仰け反ったそこに村長の息子が横薙ぎに切りかかった。



 ぼとん。



 鈍い音を立てて地面に落下する。

 ヴェイドの体は綺麗に両断されていた。

 同時にその体は白く輝いて浄化の力が働き、ジュウジュウと音を立てながら蒸発していった。

 僅かな塵から蘇った程度の奴では、あの攻撃を受けては一溜りもなかっただろう。

 この様な結末が待っていようとはな……遂にヴェイドは倒された。



 村長の息子がこちらに近付いてくる。

 奴はキョーコの前にしゃがみ込むと、俺の方に話しかけてきた。



「君、キョウさんは大丈夫なの?」

「……黙っていろ。集中が乱れる」

「す、すまない」



 俺が治療に集中していると、徐々にキョーコの拍動が強くなってくるのを感じた。


 ……焦らせやがって。

 ようやく帰ってきたか。


 その時、俺の頬に熱い滴が垂れるのを感じた。


 なんだ、これは。


 視界はぼやけるし、胸の奥が絞られるように何かが込み上げてくるものを感じる。

 不意に腕に震えが起きて、魔力を集中したいのに乱れて敵わない。

 どうなっている。

 呼吸すら不安定だ。

 鬱陶しい。

 パトが俺の横に座り、俺の手に手を重ねてきた。



「……パト」

「……力を貸すのだ」

「……わかった」



 パトの目からも滴が垂れていた。

 どうやらこれは人間の生理機能の様だ。

 こういう状況でよく出るものなのかは分からない。

 人間達が滴を流すのは死の恐怖に直面した時ではなかったか?

 この状況はむしろ喜ぶべき状況のはずだが、何故これが流れ出すのだろう。

 不可解だ。

 その時、キョーコの声が聞こえた。

 とてもか細く弱い声色だが、何故かその声に安堵したと同時に込み上げる何かを止められなかった。



「……二人とも、有難う」

「う、うう」



 キョーコが意識を取り戻して俺達に感謝の言葉を口にした。

 まだよく視界が見えている様ではないが、俺の方を向こうとしている。

 俺は何故か声にならなかった。

 パトも何も言えず滴を垂らしている。

 どういうわけか、声にしたくても声にならなかったんだ。

 そんな俺にキョーコは震える手をゆっくり上げて俺の体を探りながら、その手は俺の頬に触れたんだ。そして、流れる滴を優しく拭う。



「あらあら、……こんなに涙を流して。男の子が、簡単に……泣いては、いけない……んだよ」

「……そん……なの、知らない」

「……そうだった……ね。ごめん……なさい」



 キョーコが申し訳なさそうに答えるのを、俺は聞いていられなかった。



「少し……黙っていろ」

「えぇ」



 キョーコは目を閉じて笑顔で身を任せた。

 俺はそんな奴の反応に、不意に笑みが浮かんだ。


 全く、こいつは初めから訳が分からん。


 俺達のことを自分のことのように考える変わり者だし、こんな人間がそこらに転がっている様にも思えないが、時に俺達を叱り、俺達を褒め、俺達を甘やかすんだ。

 本当に、全く訳が分からんが、俺はこいつが居なくなるのを寂しく感じたんだ。


 そうだ。


 俺も訳が分からんことになっている。

 でも、悪くない。

 









 キョーコが回復したのは、それから一時間程後のことだ。










 周囲にはキョーコの回復を待ってジェシーが側に来ていた。

 他の村人達はシャインとアレンが中心となって事の状況を説明しにいった。

 周囲を警戒していたライルが他の自警団の者と交代して俺達のもとにきた。



「キョウさん、少し良いですか」



 起き上がったばかりのキョーコに奴は話しかけてきた。

 まだ病み上がりに等しいキョーコを煩わせるとは、喧嘩を売っているのだろうか。俺はあからさまに嫌な顔をして奴を睨みあげると、ライルはたじろいだ。

 そこにキョーコが俺の頭に触れて優しく話しかけてくる。



「インディ、有難う。もう大丈夫だから、そう威嚇しないの」



 俺はその言葉に渋々睨むのをやめた。



「それで、私に何か御用ですか?」

「いや、自警団を代表して、キョウさんには感謝の言葉を申し上げたくて。わが村を救って下さり有難うございます。我々だけでは、あの魔物に対処するのは無理だったと思います」



 奴はそう言って深々と礼をした。

 キョーコはその礼を受けて、直るように促す。



「私は村民として当然のことをしたまで。それより、こうしてはいられないですね」



 そういうとキョーコは立ち上がろうとしたので、俺が支えようとするも背が足りない。そこにライルが手を差し出して立ち上がるのを支える。……俺の役を取るとは。



「村長を助けに行きましょう」

「「「「は?」」」」



 キョーコ、お前は何を言っている?

 村長は奴に殺されたんじゃなかったのか?

 その思いは周囲にいる者全員共通だった様で、皆驚愕や怪訝な表情を浮かべていた。



 キョーコが皆に支えられて村に戻ると、キョーコはアレンと合流しアレンに家の中を案内するように話した。アレンは承諾し村長の執務室に入ると、キョーコが机をどかすように指示をした。

 それを聞いて皆で大きな執務机をどかすと、そこに切欠きが現れたのだ。

 蓋を開けば隠し階段が有り、アレンとライルに降りて中にいる人を連れてくる様にと話した。

 二人は顔を見合わせていたが、キョーコの言葉に従い下に降りて行った。


 数分後、階段を上ってきた男の顔に驚いた。

 確かに村長の顔だった。

 随分と痩せこけてはいるが、間違い無かった。

 


「後のことは村長さんにお話ししてもらいましょう。良いですね?」



 キョーコが村長の方を向いて笑顔で話すと、村長は頷いて了承した。

遂に倒されたヴェイド。

瀕死のキョーコを必死に助けようと二人で魔力を注ぎ、何とか繋ぎとめました。

インディは自分の中の感情の動きに戸惑っている様です。

回復したキョーコは本物の村長を助け出す指示をしました。

それに従い本当に見つかった村長に驚く一同を他所に、キョーコは話を進めるのでした。


後始末が続きます。

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