065 ヴェイドとの戦い 後編
ヴェイドとの戦いの続きです。
痛みに呻いたその時、私の周囲を灼熱の炎の柱が通り抜けた。
水球はその炎に飲まれてジュウっと音を立てて蒸発したけど、幾つかの水球は瞬時に引いていくのが見えたわ。
「上手く行ったのだ!とーさん、無事であるか!」
パトラッシュが放った炎の魔法が私の周囲のヴェイドを焼き払ってくれたわ。
そして、巧みに私の作った周囲の空間結界のブロックの上に飛び乗っている。
パトラッシュの攻撃は有りがたいけれど、少しタイミングが遅く全身に無数の傷を負ったのが色々な意味で痛いわね。それでもパトラッシュの攻撃が無かったら流石に終わっていたかも。
しかし、ヴェイドは完全に焼き払えず、逃れた水球が元の人型に戻ったわ。
「……我が身体を焼くとは、万死に値する!神への反逆を後悔するが良い」
怒りの滲むヴェイドの声に呼応するように、奴の周囲の魔力がどんどん高くなっていくわ。
気のせいであって欲しかったけれど、魔力感知には彼の周囲に次々と魔素が集まるのが見えたの。これって自然界の魔力を彼が操っているってことよね。……インディの完全体時代にしていたことなんだから、彼が出来ないと見積もる方が愚かというものかもしれないけれど、そうであって欲しくはなかった。
これは厄介ね。
というのも、彼の体は私達の攻撃で少しずつ消耗していたのよ。
何度も再生しているとはいえ、部位欠損を補うために彼は魔力を消費しているから、いかに流動生物といっても魔力を失えば能力が衰えていく。そのためにこちらへの攻撃も徐々に温くなってきていたからこそ、パトラッシュ程度の未熟なコントロールの魔法でも当てることが出来たのよ。
それが、魔素を得ることで回復しつつあるのはまずい。とてもまずい。
私は痛む体を半ば無視して……って、いや、めっちゃ痛いのよ?
腕や足や色々なところが貫通しているんだから激痛よ!
でも、おネエの根性を舐めちゃいけないわ。
私がこの程度で値を上げていたら、この渡世、おネエなんて出来っこないんだから!
「パトラッシュ、それ!」
「なんなのだ!?」
自分の全身から吹き上がった炎に困惑する彼。
私はパトラッシュにあまり得意ではないけれど、火の魔法で全身をコーティングする「セルフバーニング」を施したわ。ぶっつけ本番だけれどバッチリ掛かってパトラッシュの全身から蒼白い炎が吹き上がっているの。赤じゃなくて青ってのが灼熱感あって格好良いけど、掛けた私も近くにいるだけで熱い!
「あなたの体に火の保護を付けたから、それで思いっきりいっちゃって!」
「応!」
こくりと目を輝かせて頷いたパトラッシュは風の様に飛び出していく。
返事を聞いたか聞かないかの瞬間に消えた彼は、流体の姿で飛び散る水球をパンチで各個撃破していったわ。セルフバーニングのおかげで水球の攻撃も通らず、彼の青い炎に触れるだけでジュウっと音を上げて蒸発してしまうの。そこにパトラッシュの力も加わった一発が入るからイチコロよ。
如何に魔素を吸えようが、それを上回るスピードでぶちかましてやるだけよ。
いけいけパトラッシュ、フレフレパトラッシュ!
ワンツーパンチでノックアウトよ!
ヴェイドも接近戦を仕掛けられて、しかも苦手な反属性を身に纏う相手に文字通り手を焼いているわね。水球になって全方位攻撃を仕掛けるのをやめたわ。そして攻撃を躱しながら全身で魔素の吸収を急いでいる。
……こんなに周囲から魔素を削られていったら、ポプリ村の周辺から魔力が乏しくなるんじゃないかしら。そうなったら村の結界は勿論、農作物の成育や色々なところで悪影響が起こったりしなければ良いけれど……周囲から得られているということは、どこかに皺寄せがくるのは確実よね。
うーん、ラズウルド地域は魔素が高いというのは分かっているけれど、それは領域内の話であって、山脈を隔てて領域外であるここら辺が平和なのは「魔素が薄い」からなんだと思うのよね。そんな薄い場所から奪っているのか、ラズウルドから吸い取っているのか、両者か……判然としないけれど、前者であると私の手間がドーンと増えそうな予感しかしないのよね。
私は地上に降りているインディを見た。
彼の体はだいぶ消耗しているわね。
慣れない体で全力を使った上でボコられているんだもの、彼には自動回復のスキルが有るけれど追いついていない印象よ。自動回復といっても、自身の魔力に依存したものだから、魔力的にも消耗している現状だと発動に時間を要している様ね。
ごめんなさいインディ。
でも、手段を選んでいる余裕は無いの。
『インディ、行ける!?』
『……あぁ。何をする気だ』
彼に念話で話しかけると、満身創痍と言っても良いくらいにぼこぼこなインディだけれど、強気にそう答えたわ。私はその意志に罪悪感を感じつつも、インディにもセルフバーニングを施したの。
この魔法、見た目以上に魔力が要るのよ。
青い炎にしている関係もあるんだけれど、俄かな炎では突破されて効果が無いと考えた私は、炎の出力を想像で知っているものよりずっと高く設定しているの。
インディは私の魔法を感じたらすぐに居た場所から消えたわ。
空高く飛び上がりパトラッシュとは反対側からしっかり攻撃を仕掛ける冷静な判断。こういうところはパトラッシュとは違って賢いのよね。
ヴェイドは突然の背後からの攻撃に全く防御することも出来なかった。そこに追撃を仕掛ける様にパトラッシュも良いタイミングで奴を殴って、更にインディが蹴り上げる。
良かった。
私の感知では魔素吸収による回復を上回ってる。
私はパトラッシュ達が戦いやすいように足場をどんどこ作っていったわ。空間結界のブロックは発動時に一瞬光るんだけれど、その後は無色透明だから一見して分からないのよ。でも、二人には私の魔力を感じることが出来るから、結界の場所がはっきり分かるそうなの。……確かにパトラッシュに乗って動いていた時も、何も言わなくても結界ブロックの場所を分かって乗っていたりしたわね。
次に私達の周囲を空間結界で覆う準備を始めたわ。空間結界の存在に気付かれないようにするために、出来るだけ広範囲にエリアを覆わないといけないけれど、これがまたえらく燃費が悪いのよ。
「うっ」
胸が大きく軋む様な痛み。
これは間違いなくLPを持ってかれている感覚。
それも普段の比じゃないくらいにガッツリと。
それでもしっかりと出来上がったから、一安心かしら。
二人の攻撃は阿吽の呼吸のごとくバシバシと決まっていく。セルフバーニングの炎のお陰で、彼に当たった場所がまるで抉り取られるように千切れて蒸発していくの。ヴェイドは抉り取られた体を都度回復させて二人の攻撃を幾本も腕や足を出して応戦しているわね。
もうほんと見た目は化け物よ。
そのヴェイドもようやく魔素供給が止まったのか、回復が追い付かなくなってきたわ。
「ぬぅ、何故だ。魔素の供給が止まった。枯渇など有り得んはず」
「うふふ、ようやく気付いた様ね。貴方はもう詰んでいるわよ。私の結界の中にいる以上、もはやあなたは魔素を得て回復することは不可能よ」
「小癪な。ならば、この姿にはなりたくなかったが、選ぶ余地は無いか」
ヴェイドが唐突にそう言い放つと、閃光を放って輝いたの。
目のくらむ光を突然に浴びて視界が白濁した瞬間に二人の叫び声がしたわ。
「「うわあぁぁ!!」」
光が止んだ時には、二人の攻撃がしっかりとした腕に掴まれて投げ飛ばされていた。
現れた姿は水色に透き通るロングの髪の超絶イケメンな青い肌をした人よ。
あれがほんとの魔族って奴なのかしら。
魔族ってクールビューティなのね!って、それどころじゃないわ。
あいつの周囲の魔力が異常に高まっている。
これまでは吸収一方だったものが、突然に反転して彼を起点とした魔力の広がりが空間に圧力をかけ始めている。
あ、これ、まずい奴だ!?
案の定、奴の魔力の圧力に抗しきれず、私の張り巡らした空間結界がキラキラとガラス片の様に割れて砕け散ったわ。
いやん、私のLP消費してまで作った結界がぁ……。
「……この姿を晒したのは、一千年振りか。まさかこんな木端に……万死に値する」
さも不機嫌そうな表情でそう言うと彼の姿が消えた。
いえ、それは目で追えなかっただけで、実際はパトラッシュの腹を強かに殴り飛ばしたかと思うと、瞬時に消えてインディに迫る。
目前に現れたヴェイドに受け身の姿勢を取ろうとするも、インディがクロスした腕ごと掴んで投げ飛ばしてパトラッシュにぶつけたわ。そして、奴は指先を二人に合わせると、黒い線が一筋伸びて二人の体を貫く。
「え!?!」
負傷しつつもパトラッシュに助けられたキョーコ。
セルフバーニングを二人に掛けて対抗しました。
漸く終わりが見えたかと思ったその時、ヴェイドは再び変身しました。
すみません。長くなったので区切りました。
タイトルはそのままにします。
続きます。




