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三匹のおネエ ~おネエ達の異世界生活~  作者: ジェード
第Ⅱ章 人里に出た三匹
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062 水神祭 後編

今回は視点が変わってます。

 俺はキョウさんの隣で呆然と立ち尽くしていた。


 現れた水神様の姿は、透き通る深い青に赤い目が光って印象的だ。

 その体は全て水の様に透き通り艶やかに光り、その体から滴り落ちる滴も仄かに光って零れ落ちていく。宙にふわりと浮くその巨体は横倒しに螺旋を描いて巻いているが、伸ばしたら相当の長さがあるだろう。

 水の龍がゆっくりと口を開く。



『我に願う人間共よ、さぁ、贄を出し、余をもてなすのだ』



 その声は低く辺りに響き渡り、見る者の心の奥底から震え上がらせるような力が感じられる。

 そこに村長の息子のアレンが前に出て龍に話しかける。



「水神よ、供物は用意した。この者をお前に渡す故、我らとの安寧の契りを継続してくれ」

『……良いだろう』

『ならぬ』



 龍の返答の声に、皆の表情に安堵の色が広がる。

 しかし、そこに思わぬ方向から声がした。

 それは、水神の後方より現れた光。

 青白く輝く光はゆっくりと水神の背後に近付くと、次第に形を形成していく。

 その姿は水神に勝るとも劣らぬ見事な龍の姿だった。



『我が名はラズウルドオルム。この湖の支配者にしてラズウルドを預かる者。我が威光を騙る者よ、其は誰か。その所業、万死に値する』



 周囲がどよめいた。

 これはどういうことだ。

 水神様が二体も現れたのだ。

 しかも、後から現れた水神様は先に現れた方を騙りだと言っている。

 どういうことだ。



『ばかな。ラズウルドオルムは死んだ。お前こそ奴の名を騙る偽物ではないか。水神としての務めを長年致してきた我の座を簒奪せんとする愚か者よ。消え去るが良い』



 初めに現れた龍が振り返り、その口から咆哮する。

 洞窟内に響き渡る龍の声に、とっさに手で耳を塞ぎ、耳の中が破れそうになるのを耐えながら成り行きを見た。不意に圧力が和らぐのを感じたので抑えるのやめると、初めに出てきた龍の体が弾け飛んだ。



「!?」



 部屋中に降り注いだ滴を被り衣服が濡れる。

 被った滴を慌てて払うと、龍がいた筈の場所には何も無くなっていた。

 背後にいた龍がゆっくりと進んでくる。



『……俺も随分と安く見られたものだ。そのような児戯に俺を傷つける力などあろうはずもない。村長よ。そうであろう?』



 唐突に振られた村長はその顔を龍に向けた。しかし、それは水神様に向ける様な畏怖ではなく、憎悪とでも言える様な醜悪な表情だった。



「何を仰るのか、私には皆目見当も付きませなんだが、一つだけ確かなことがあることをお伝えしよう。……偽の水神よ。お前は何者だ!ラズウルドオルムの名を騙ることの愚を説きながら、自らが騙るとは笑止千万。正体を現せ」



 村長はそう言い放つと杖を構えて魔法を放った。

 杖から飛んだ赤い光が龍を貫くと、龍は貫かれた場所からぼこぼこと泡を立てて沸騰して蒸発した。何ということだろうか。現れた水神は全て消えてしまった。



「父上、なんということを!?」

「黙れアレン!あれは水神ではない!なぜならば、本物の水神はつい最近死んだからだ!」



 驚愕の表情を浮かべるアレン。

 村長は龍を睨みつけながら続ける。



「え!?どういうことです」

「水神は死に、契約は消えた。だが、もう一つの契約は生きている」

「もう一つの契約?」

「そうだ。村人達の犠牲を出さず、永遠に水神を沈め続けるための契約だ」



 村長の言葉にアレンは勿論、周辺の村人も唖然としていた。

 何を言っているんだ? そもそも、今水神を消し去ってしまったということは、水神を倒したということでは無いのか? 周囲も同様の事を考えているのか困惑の表情を浮かべている。

 


「ちょっと待ってください。父上、それは何となさっているのですか!?」

「遠いご先祖の時代、水の神ヴェイド様が我が家に力をお貸しくださり、ラズウルドの魔龍との契約に対抗する策を下されたのだ。そのために行商人や旅人を贄として送り、村民の安寧を守って来たのだ」

「……つまり、それは私達が生きるために、村民以外を犠牲にするという契約を新たになさっていたのですか!?」

「そうだ」



 ……おい、冗談だろ。

 つまりそれが本当ならば、俺達の様な新参者を生贄の対象として使い、古くからの村民のみを生かし続けるために新たに契約を交わしていたというのか!? 

 俺は怒りのあまり問わずにはいられなかった。



「ちょっと待ってくれ村長さんよぉ。それじゃなんだ? うちは端から生贄のために生かされていたとでも言うのかよ!」

「そうだ」

「……んな馬鹿な!!!ジェシーは、俺達の為は勿論、村の皆の為にも運命と悟って覚悟を決めただろうに。初めから出来レースだったなんて知ったら、あまりにも、あまりにも……理不尽過ぎるだろうが!!!」



 俺達の存在は勿論、ジェシーがこれまでに感じて来た様々なを思いを考えると、あまりにも不憫過ぎて悔しかった。運命ならば仕方ないと諦めて来た俺がいたが、それが全くの嘘だと知ってまでこれを続ける意味があろうはずがない。

 俺は村長に殴りかかりたい衝動が起こった。しかし、そこで俺は唐突に肩を掴まれる。振り向くとキョウさんが笑顔で頷いて前に出た。



「ようやくゲロっちゃいましたね、村長さん。貴方が先に仰ってくれるのならば話が早いんです。そろそろ正体をバラしても良い頃合いではありませんか? 三十年程前にラズウルドオルムは一人の老人を食らった。食われたのは貴方のお父さんですよね」

「……」



 キョウさんも何を言い出すんだ? 老人を食らうだって? 生贄には若者しか選ばれたことはないんだぞ。それを老人を食らっただなんて。

 村長は彼の言葉に黙して語らず、ただその眼光を鋭くして彼を射すくめる様に見つめていた。



「そして、お父さんに成り代わっていた魔物は、貴方のお父さんの死を境にあなたに成り代わった。本物の村長さんは次のラズウルドオルムへの供物ですものね。……だから、先程あなたはこの部屋に入れず困ったのでしょう? ……私が張った結界の力に阻まれて入れなかったんですからねぇ?」



 確かに、村長は先程不自然なまでにここへ入るのを拒んでいた。

 俺達はアレをてっきり普段のプライドの高い彼が照れてそうしているのかと思っていたが、そう言われてみれば納得できるかもしれない。入れないからあの場に不自然に立ち往生していて、入れないと分かっていたから手を引かれることに大袈裟に反応していたなら、確かに辻褄は合う。

 村長も彼の話にようやく反応する。



「……貴様、何者だ」

「私? ……私はただの旅の商人ですよ。ただ、ちょっとだけ情報通なだけです」

「人間風情が小癪な。我に逆らおうと考えたこと、後悔させてくれよう」



 村長はそう言い放ち、杖を構える。

 杖が怪しく赤く光ると、その光が村長さんの全身を包み、それが次第に黒い靄に変色したかと思うと再び赤く閃光を放つ。禍々しい光が消えそこに現れたのは、青白い顔をして白銀の長髪を揺らし、黒い靄を纏った魔族の法衣を着た男だ。その双眸は血塗られたように赤く輝いていて、もはや村長の面影は何処にもなかった。



「我は水神ヴェイド。我が身を目視したことを後悔するが良い」



 魔族の様に見えるその男は、自分を水神と名乗った。つまり、俺達は魔族に命乞いをしていたとでもいうのか!? だがそこに違う方から子供の声がした。



「……ほぅ、やはりお前が俺を騙っていたのか」

「何者だ」



 その声は湖の中から発されていた。

 そちらに目を向けると一人の少年が湖水の上を歩いてやってきたんだ。どうやって水面を歩いているんだとも思ったが、それ以上にその顔に驚いた。それは随分変わった服を着ているが、キョウさんの息子さんのインディ君で間違いないだろう。


 でも、いつもと雰囲気が違う。

 何というか、直視できない独特の威圧の様なものを感じる。



「……魔王配下の六眷属が一人か。眠っていたのではなかったか」

「……何故それを知っている」

「そんなこと、最初から言っているだろう」

「……ばかな」



 村長はインディ君を見て驚愕の表情を浮かべている。

 どういうことだ。魔王配下六眷属?

 インディ君は村長さんの前に出ると、格闘術の様な構えをとった。



「キョウ、手出し無用に願えるか?」

「……分かった。でも、貴方に危険が及ぶようなら、その限りではない」

「感謝する」



 キョウさんが村人達の方に向き直り呼び掛ける。



「さぁ、ここは危険です。すぐに出なさい。さもなければ何が起こるか保証できませんよ」

「ささ、我に続いて脱出するのだ!」



 今日さんの言葉に呼応するように、俺達が来た道からパトラッシュ君がひょっこり現れて、皆を誘導し始めた。その場に似つかわしくない笑顔で現れたので拍子抜けするが、その表情を見て村人達も緊張が解れたのか、すぐに反応して彼に続く。

 アレンだけが村長さんの変わり果てた姿を見て呆然と立っていた。

 俺はそれを見て強引に彼の手を引いた。



「何をする!?」

「あんた、いい加減に目を覚ませ。アレは魔物だ。さっさと出るんだ。そうしなきゃあんたも犠牲になるぞ」

「しかし、父が……」

「アレはお前の父じゃない。さぁ、行くんだ!」

「お、おい」



 要領の得ないアレンを引っ張って、キョウさん達を横目に見ながら俺は出口へ向かった。

 たぶん、キョウさんは村長さんが何者かを知っていたんだ。

 だからこの場所への同行に拘っていたんだろう。


 行商というには色々と謎の多い人だとは思っていたが、ライセンス持ちのハンターだとしたら辻褄が合う。むしろ、この村にそうした討伐者が来てくれたことは運が良いというべきなのだろうが、命の恩人でもある彼に、ただ逃げるという選択しか取れない自分の存在が歯痒いばかりだった。

 そんな中で俺に出来ることが有るとすれば、こうして足手まといにならない様に協力するのが精一杯の努力だろうか。



「……ご武運を」



 俺はひたすら洞窟を出口へ向かってアレンの手を引いて走った。

 最初は後ろ髪引かれる様に抵抗のあった手の力も、次第に諦めたのか力を入れる必要が無くなっていった。

 

 アレンもようやく理解したのだろう。

二匹の水神を前に困惑した村民達。

衝撃の事実を口にした村長は魔族に変身してしまいました。

そして、そこに現れたインディ。


洞窟での話が続きます。

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