005 初めての錬金術
今日も三匹は元気に生きています。
きゃー、遂にファンタジーの醍醐味(?)薬草が登場しましたよっと!
早速そのことを二人に教えたわ。
「ねーねー、ちょっと!この白い花と黄色い花、みんな薬草の原材料ですって!」
「へー、そうなの? レベル3になるとそんなことが分かるんだ?」
「……でも、どうやって薬草にするのよ~?」
ケリーの言葉がいちいち引っかかるのよねぇ。
そうよ。どうやって薬草にするかなんてわからないわよ。
でも、ただの白い花と黄色い花に名前が付いて効能まで分かったんだから大したもんじゃないのよ!
だけど、分かったわ。
作ってやるわ。
私はどうにかして花から何か作れないか考え始めたの。
そんなことをし始めていると、ガリは持っていたあのぼっこで木をいとも簡単に切り倒したわ。
「え!? 何、何!?」
「……すげー。流石にマジで切れると驚くわー」
ガリが自分でも感心したように言っているけど、切れると思っていたってことでしょう?
いえいえ、それよりも素よ、言葉遣いが素に戻ってるから!
もう、なんて恐ろしい子。
でも、ガリが枝を振るったとき、風が走った様に感じたわ。どういうことかしら。
ケリーの方を見ると、ケリーはケリーで周囲で枯れ木を探してきている。
何をしようとしているのかしら?
まぁ、良いわ。
私はフォルボーをそこらで拾ってきた大きめの石の上に置いてみたの。
そして、石ですり潰してみたわ。
茎からは緑色の汁が出てきた以外は特に変化はないわね。
試しに手をかざしてみる。
私には錬金術師という職業が出ている通り、錬金術のスキルがある。
ならばそれが効果を発揮してくれるのではないかと思うのだけど、やり方が正しくないのか上手く行かないわ。
一つすり潰してだめなら、二つなのだろうかとやってみるけど上手く行かない。
何本も潰してみるけど、何も変化らしいものは起きなかったわ。何故?
仕方ないので、次はクレディルで実験してみることにしたの。
フォルボーを端にどかしてからクレディルを置いて潰そうとしたとき、前のめりに姿勢を崩して両手で石の上を掴んで体を支える格好になったの。
その瞬間、手の中が光ったわ。
おそるおそる手を上げてみると、手の中には白い練り物状の何かが出来ていたの。
べチャッとした掌に付いているそれを見ていて気付いたのだけど、先程転んで作った擦り傷が見てる前でさーっと緑色の光を発して治っていくのよ。
これにはさすがにドン引きしたわ。
いや、あまりに非現実的すぎて。
で、慌てて出来上がったアレを鑑定してみたの。
鑑定結果
「傷薬」……傷を治す。欠損部位は治せない。
……何これ。
傷を治すまでは分かるわ。
でもわざわざ書いてある「欠損部位は治せない」ってどういうこと?
つまり、欠損部位が治せる場合はトカゲのしっぽを切ったとしても、一瞬で再生させちゃうとかそういう感じ?
ひゃだ! 怖い!
この薬にはそんな効果は無いにしても、欠損してなければ治っちゃうってことだものね。
何はともあれ、恐ろしい、もとい凄いものが出来てしまったわ。
「ねぇ、ちょっと!聞いて!傷薬が作れたのよー!」
「はぁ!なんだってー?」
「だから、傷薬よ。傷薬~!」
遠くにいるガリが首を傾げながらこちらにやって来たの。
ケリーは私の呼びかけにもどこ吹く風で、淡々とマイペースに何やらやっているわ。
こちらにやってきたガリを見ると、彼の手も結構な切り傷や擦り傷が見えたの。
流石に作業していたら暑かったからか、今の彼はコートもヅラも脱いでTシャツ一枚よ。
ガリってヅラが無ければ結構なイケメンなのよね。……頭に残念なが付くんだけれど。
私はまだ手についてるぬめったアレを彼の手の傷に擦り付けてやったわ。
彼は嫌そうにその手から逃げる様な仕草を見せたのだけど、強引にひっ捕まえてやったわよ。
そうしたら、私の時の様に傷口が緑色に光って綺麗に治っていくのよ。
なんかその様が見事なまでに綺麗に治るから、気持ち良いくらいよ?
彼も突然の現象に呆気に取られてたわ。
「……すげぇ。何これ。どうやって作ったのよ?」
ガリは自分の手を見て、傷ついていたところが跡形も無く綺麗に治っているのを様々な角度から見ていたわ。
「分からないわ。ただ、私が倒れそうになった時に、丁度フォルボーとクレディルを手の下敷きにする感じになったのよ。そうしたら掌が光ってべちょっと」
「……わけわかんないわ、それ。でも、つまりは材料を両手の下に置けば良いって事なんじゃない?」
「うん、そうなのかしら。ちょっと色々とまた試してみるわ。あ、この傷薬、鑑定したら欠損部位は治せないって出たのよ。つまり、欠損してなければ傷が治るってことだと思うの。凄い薬効よ」
ガリの目は半ば呆れを含んだ眼差しね。
まぁ、無理もないわね。
私でも他人から聞いたらそう思うようなことだもの。
「……それはまたとんだチートね。現代医学でも治せない様な傷も治っちゃうとしたら、現代に戻ったら億万長者間違いない話ね」
「そうね。戻れたらだけど」
「「……」」
二人して柄に無く黙ってしまったわ。
嫌な現実ね。
私達三人がこの場所に運ばれたのが何なのかは分からない。けれど、この状況の理不尽を嘆いても誰も答えをくれるわけじゃない。だからこそ、皆そのことは口を噤んでいるんだと思う。
仮に私がここでどうするのよと話をしたって、答えらしい答えなんて出せないもの。理不尽を理不尽だと喚くくらいなら、おネエになることもないわ。そう言って全てが解決着くなら、世の中簡単なお話だと思うの。
だって、私達の存在って、それこそ理不尽の最たるものじゃない? 自分の性格は自分で選んだわけじゃない。既にそうなっているものを変えるのは大変なこと。それに足掻いて一度は誰しも苦悩して、それでも抗えない現実と向き合うの。
ここもそうした意味では同じね。
全く意味不明で謎だらけ。
……そもそも現実世界ですらないっぽいし。
その上で私みたいな人間は楽しむことを大事にする。仕事でも私生活でも、どんな辛い事ことが有っても楽しく暮らす。楽しんでいる間は不安なんて感じている暇も無いじゃない。その方がずっと前向きに物事を捉えられるし、前向きな答えを導き出せる。私はそうやって暮らして来たわ。
実際、私楽しいし。
そんなことを考えていたら、ガリが口を開いたわ。
「とりあえず、治してくれて有難う。何かあったらまた教えて。あ、そうそう。あたしもちょっとした発見だったんだけど、実はあたし忍者になれるかもしれないわ」
「はぁ!?」
彼の唐突なアホ発言に今度は私が懐疑の視線よ。
ガリはそんな私の反応にお構いなく話してきたわ。
教えたくて仕方ないって得意顔してるの。
「いやね、何だかわからないけどバカみたいなジャンプ力が有るのよ。だから、結構簡単に木の上に飛び乗れちゃうの。数メートル程度の木なら楽勝なのよ。というわけで、木の上に小屋組みを作れないかと思って頑張ってるのよ」
「ほんとにぃ~?」
「嘘だと思うなら、見てなさいよ」
そういうと本当にガリは楽勝で私の背丈を超えるくらいのジャンプをして見せたの。
私は驚いてアホの子の様に口をあんぐりと開けてしまったわ。
彼はその様子に気を良くしたのか、ニンマリと笑顔を浮かべてじゃあと言って去っていったの。
何なの、アレ。
錬金術スキルが発動しましたが、実際に行われたのは調合ですね。
錬金術のスキルは物の状態を変化させるという扱いです。
キョーコさんは今後研究していくことでしょう。