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004 鑑定眼

 私が思考停止を決めかけた瞬間、それは起こったわ。



「……我が名はパトラッシュ。主に仕えるもの。この身は主と共にあろう」

「……しゃべった」

「……しゃべったな」

「……しゃべったよ~」



 何これ、何これ、何、ちょっと……。

 私は興奮が最高潮に達した。



「……人外がしゃべるとかファンタジーでしょ!ちょっとー、異世界生活って奴じゃないのこれ!ひゃだ、上がる!」



 私はパトラッシュに抱き着いて頬ずりをしたわ。

 それを二人は呆れ顔で見ているの。

 このモフモフ具合最高じゃないの!っていうか人語を喋る犬よ!?



「ケモナーには最高の餌だと思うけど、残念ながらあたしらにケモナー属性いないのよね」

「キョーコはケモナーじゃなくて~、単なる馬鹿飼い主だよね~」



 ガリとケリーにおバカなことを言われても気にならないわ!

 だって、こんな立派な毛並みのわんこもとい狼さんが私の事を主と言ったのよ!

 もう、異世界万歳じゃないの。っていうか、スイス設定どこ行った!


 北欧じゃなくて異世界っぽいことはこれで確定なんだけど、これは考えたくない現実がほぼほぼ決定した瞬間よね。

 うーん、そうなってくると、私達の常識的選択は無意味。

 考える方向を根本的に改めないと、もしかしたら生き抜けない?

 むぅ、パトラッシュを手懐けるのにスキルってのが有効だったとすれば、これが一つの生き残る為のポイントになるのかも。


 モフりながらも頭を回転させる器用な事をしている私。

 さっきまでの思考停止の選択肢なんてポイっと捨ててやったわ!



「どうするのよ、こんなデカいの連れて」



 腕組みして私に問いかけるガリに、私はパトラッシュに抱き着いたまま答えたわ。

 色々おかしな事は起こっているけれど、可愛いは正義でしょ?



「どうするもこうするも、番犬は必要でしょ? あなたのぼっこでぶっ叩くのだってどこまで通用するかわからないんだし、折角だから守ってもらいましょうよ。ね、良いわよね? パトラッシュ♪」

「主の仰せのままに」



 私達の仲良しっぷりにガリも諦めたのか、両手を胸半ばに上げて降参のようね。

 そこにケリーが近づいてきてパトラッシュの頭を撫で始めたわ。



「……それより~、二人とも~、このまま夜になったら間違いなく寒いよ~?」



 ケリーの言葉に私は辺りを見回しちゃった。

 確かにここには何もない。

 気候の感じは春っぽいけど、夜は相当寒そうだわ。

 幾ら北国の人間で春先の気温は夏の様に感じたとしても、朝晩の寒暖差は厳しい。

 このまま夜を迎えるようなことになったら、寒さで凍え死ぬこと必至。

 どっかに町が無いか探さないといけないけど、見渡した限りには草原と森しかない。


 

「ねぇ、パトラッシュ。人里を知らないかしら」

「人族の住まう場所ならば、ここから山を越えた向こうにある」

「山を越えた向こう? って、あの山?」



 私は正面に見える大きな山脈を指さした。

 パトラッシュは頷いた。


 

「ど、どうやって越えるの?」

「主は歩いていく他に何か方法を知っているのか」

「あ、やっぱり歩くの……」



 私は思わず二人の方を見ると、二人とも苦笑して私の方を見ていたわ。


 あぁ、そうよね。

 あれを見て楽勝だなんて誰も思わないわよね。


 何よりあんな場所を登山できるような装備なんて一つも持っていないわ。

 幸いしている面があるとすれば、私達が北国の冬の地からの転移者だってことかしら。しかも寒い夜だったから、チャラチャラしていても防寒については完璧よ。

 とはいえ、すぐに越えられる気もしないから、ここで何とかする方が良いわね。



「山を越えるのは後回しよ。とりあえず、そうねぇ、あの山の麓の森の木を利用して何とかしましょう」

「今すぐ山を越えるよりは現実的かしら」

「さんせーだよ~」



 そうと決まった私達は森へと歩いたわ。

 しかし、歩き始めた途端に私は躓いた。



「ぎゃー!」



 顔面が地面にバタンと行く様な無様な格好にはならなかったけれど、代わりに掌に擦り傷が出来てしまったわ。痛い!

 二人にはドジねとか、おバカが転んだとか、あんたも年ねとか、散々な言われようだったけどめげないわ。

 私達が出た小高い丘から麓の森までは1キロくらいかしら。そんなに遠くは無いからすぐに着けると思うけれど、足元の草むらが意外にもさもさとしていて歩きにくいわね。


 森への道中は鑑定眼というスキルが使えるのか試してみたの。

 試しにそこらの草花を見て鑑定と念じてみたところ、白い花なら白い花、黄色い花なら黄色い花とウィンドウが出て表示されるのよ。


 うん、レベル1だもんね。

 そうだよね。

 鑑定したって見たまんまだよね。

 ……ですよね~。


 それでも熟練度みたいなのが有るとしたらと思って片っ端から鑑定していったら、唐突にウィンドウが現れたわ。



 スキルレベルが上がりました。

 鑑定眼 1 → 2

 世界の基礎知識1が解除されました。



 そう表示されたので、鑑定で先程表示した草や花を見てみると、白い花は「フォルボー」、黄色い花は「クレディル」と表示されるようになった。つまり、名前が解禁されたっぽい。

 花も草も地球の花とは似ている様で違うのはわかっていたけど、こうして改めて名前を見せられると違う場所に来た感が増してくる。勿論、この鑑定結果は二人にも都度教えているわ。

 二人も気になったら何だろうと見るようにしていたら、唐突に鑑定眼のスキルを取得したそうなの。で、3人で辺りを鑑定しながら進んだわ。

 付近の森まで来る頃には二人の鑑定眼がレベル2になって、私の鑑定眼が丁度3になったわ。



 スキルレベルが上がりました。

 鑑定眼 2 → 3

 世界の基礎知識2が解除されました。


 

 世界の基礎知識2って何かしら。基礎知識というくらいだから、基礎的な情報くらいは出してくれるんでしょうねぇ。とはいえ、1であれだから、それほど期待できなそうだけれど。

 試しに先程見たフォルボーとクレディルを鑑定してみたの。



 鑑定結果

 フォルボー 薬草の原材料。

 クレディル 薬草の原材料。



 ちょっと、ちょっと、奥さん!

 薬草の原材料と出ましたよ。

 パトラッシュちゃんが仲間になりました。

 黒い毛に赤い瞳から銀色の毛に青い瞳の狼さんに変身です。パッと見でキラキラと輝く毛の艶を見てキョーコさんはメロメロです。


 鑑定眼がみんなに発現しました。

 キョーコさんが薬草の原料を見付けた様です。

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