043 裂け目
裂け目の調査です。
朝早くから出た私とパトラッシュは山の裂け目へ向かったわ。
山の裂け目は水源の洞窟の左手五百メートル程進んだ先にあったの。
確かに亀裂が走ったように崩れていて、そこにぽっかり口が開いていたわ。
「随分と鋭い裂け目ね。高さ3メートルくらいはありそうだけれど、広さで言えばゲージは出てこれないんじゃないかしら?」
「それはわからない。破壊すれば出入り可能ではないか?」
「あぁ、確かに。でも、ゲージの厚さを考えても小ぶりじゃないと出てこられなそうだから、G専用と見て良いんじゃないかしら?」
「どちらにせよ、塞げば問題ない」
「それもそうね。でも、少し中を見てみたいわ」
私が穴の中に入ろうとしたその時、中で何かが光った気がしたの。
反応したのはパトラッシュの方が早かったわ。
私の体を頭でくいっと持ち上げて背に乗せると跳躍したの。
ドゴン!!!
大きな破壊音が鳴り響いて裂け目が土煙に消える。
眼下に見える裂け目の土煙の中からGが走って出てきたわ。
「無事か、主」
「えぇ、パトラッシュが居てくれて良かったわ」
パトラッシュが岩場に着地して私を下ろすと、すぐ側で私を庇う様に構える。
Gの方は私達の存在に気付いて進路を入り口側にターンすると威嚇しているわ。
出てきたGは全部で3匹。そこそこ大振りな奴ね。レベルは20前後と結構強力な奴よ。
Gのうちの一匹が私達の方へ向けて飛んできたわ。
「ヌリカベスケルトン!」
透明のヌリカベを出して防御態勢を整えると、Gは馬鹿正直に羽ばたいて突っ込んで跳ね返されたわ。その隙に私は空魔法でG達を里へ行かせないために進路を阻む壁を用意し始めるけれど、飛ぶGの事を考えるとしっかりと閉じないといけないからイメージと魔力を構成するのに時間が掛かる。
「パトラッシュ!お願いできる!」
「応!」
パトラッシュが私の魔法の準備を支援するようにG達に向かっていく。
「主に刃向かうもの、死有るのみ」」
パトラッシュが空中でぐるぐると回転して風を纏うと、そのまま風の力を乗せたボールの様にG達に体当たり攻撃を仕掛ける。G達は飛びのいて躱したけれど、パトラッシュは追尾するように追撃する。動きを見ていると明らかに前に来ていたGより俊敏の様ね。パトラッシュの攻撃を回避する様な敏捷性を持っているなんて、文字通り飛んだ化け物よ。
それでも、パトラッシュの執拗な追尾に一匹が避けきれずに切り裂かれたわ。それを見てG達が進路を変えて里に向かおうと走り始めたの。
「えい!!」
何とか空魔法の区画の壁が間に合ったわ。
G達は見えない壁に阻まれて激突しているけれど、必死に私達から距離を取ろうとしている様ね。でも、そこにパトラッシュの爪が鋭く走る。
もう一匹が切り裂かれた。あと一匹。
私は狙いすましてスピンアイスを放つ。
パトラッシュに気を取られていたGは、私の魔法に胴を深々と貫かれ絶命したわ。
でも、この戦闘はパトラッシュがいなかったら初動の判断次第で私の負けね。ここにきて私自身の戦う能力の差がハッキリしてきた。勿論、魔法使いって後方支援向きの職業という認識ではあるけれど、この世界の魔法使いが後方支援かどうかなんて分からないし、私一人で戦わなきゃいけない場面でこれじゃお話にならないわ。
「ふぅ」
私は体に付いた土埃を払い、一息吐いた。
辺り一面はGの体液が降りかかってぐちゃぐちゃ。
このままこれを放置しておいて良いとは言えなそうだから、魔法で焼却処分することにしたわ。
私はGの遺体を焼却処分した後で、浄化の魔法で周囲に飛び散った体液を浄化して処理したの。パトラッシュの体についてたものも浄化で綺麗になったから、これを応用すれば旅先でお風呂に入れない際の生活魔法的に扱えるかもと思ったわ。
それにしても……、
「ふぅ、ここからGが出てくることは間違いないわねぇ」
全く、初っ端からこれだものねぇ。
でも、パトラッシュ強!
この子ってこんなに出来る子だったのね。
「早く閉じてしまった方が良さそうかしら」
大きく穴が開いてしまった裂け目。高さも幅も大きく開いた現状であれば、ゲージも普通に出て来られそうね。Gでも高レベルの個体が存在していることも分かったし、間違いなくこの場所をこのままにしておけないことは確定よ。
私はパトラッシュの背に乗って地上に降りると、再び亀裂の中へと進んだわ。
バッグから光の魔石を出してグローブに嵌めると、しっかりと中を照らしてくれる。
今度は何も出てこずに中に入ることが出来たわ。
中は真っ暗でよく分からないけれど、入り口から50メートル程進んだ先が行き止まりになっていたの。そして、パトラッシュが話していた縦穴が上に大きく開かれているのが確認出来たわ。
縦穴は暗くて見えないけれど、相当高く先まで有りそうね。少なくとも私のグローブについている光の魔石が照らせる範囲には天井が見えなかった。もしかしたら魔法的な力で幻覚的なものを見せられているなんて可能性も有り得るけれど、そこら辺の答えはさして問題ではないわね。
言えることは、こんな穴がガッツリ開いていたらいつまたGが出てくるか分からないから、縦穴ごとさっさと塞いでしまった方が良いということかしら。
「パトラッシュ、危ないからホール手前まで後退するわよ」
「了解した」
私が後退すると、パトラッシュも私を守る様に背後から付いて来る。ホール手前で振り返ると、私はキョーベンを握り魔法の準備を始める。今回は縦穴を塞ぐだけだから頭を捻って範囲指定する必要は無さそうだけれど、慎重に進めないと崩壊しちゃいそうよね。
うーん、単純に逆ツララで栓をすれば良いかとか安易に考えていたけれど、もっと良い魔法の使い方を考えないと。
一番いいのはセメントよね。
ダムとかの補修工事もセメントを流し込んで作るとか言うし、トンネルのシールド加工システムも掘削後にセメント壁を張り込んでいくシステムよね。まぁ、空間を隙間なく埋めると考えると、形状が安定しているより不定形な方が都合が良いのよ。でも、そうすると水属性を含んだ土属性魔法って事になるんじゃないかしら? 上手く行くかなぁ。
とりあえず液状だとすると、しっかりと蓋はしておかないと漏れ出しちゃうわよね。というわけで、私はまず空魔法で入り口付近をしっかりと封鎖した上で、逆ツララで飛び出した土が水分を吸ってフニャフニャしているって感覚でやってみたわ。
キョーベンの先から放たれた金色の光がホールの方へ飛ぶと、地面からボコボコと湧き出したかと思うと、ダバーっと勢いよく隆起したわ。それがいつものツララとは違って滑らかな流体が水柱の様に飛び出していってどんどん空間を満たしていくの。
完璧に満たす必要は無いと思うから、まずはこの縦穴のある程度を塞ぎこんでしまえば出てこられないはず。ということで、目測で私達の目の前の空間が埋まった時間の5倍程の時間を掛ければある程度までは埋まると考えて、適当なところで止めたわ。そして、仕上げとして満たされている液状の流体から水分を適度に抜いて固形化させる状態変化を入れたの。完璧に抜いたら強度的に弱そうだから、適度に粘りがある方が耐衝撃性能とかも高そうだし。
「これで良しっと。外に出るわよ」
と、その時、唐突に来たわ。
新しいスキルを獲得しました。
魔法合成 レベル無し
あ、これは合成になるのね。レベル無しということは、単純に合成するスキルってことで、威力そのものは属性レベルに依存する感じかしら。付与もレベル無しだから、魔法の扱い部分はオプション感覚なのかしら。
私達は外へ出たわ。そしてもう一度今度は入り口前で空魔法を使って壁でとじ込んでから、同じ魔法を実行したわ。今度は二回目だから割と簡単に実行できたの。たぶん、これに名前を付けてやればより素早く扱えるようになると思うわ。
最後に山肌を不自然に見えないように土魔法で整形して終了よ。
「さ、戻りましょう」
「うむ、我の背に乗ってくれ。主」
穴を閉じて山肌を修復した後、トランスルーを自分に施して全ての結界を解除したわ。これでこちらにやって来る人が居てもバレずに済むって感じ。
結構大きな音がしているはずだから、気になって山を調査する村人が出てきてもおかしくないからねぇ。
一応キャンプ地周辺には深い茂みを作って入れないようにしてあるから、村人達が私達のキャンプ地に入ってくることは無いんだけれど、河原付近は開けているからひょいひょい上がって来れちゃうのよねぇ。
私はキャンプ地でパトラッシュから降りると、彼に留守番を任せて村の中に入っていったわ。
今日も語学学習に頑張らないとね。
村に入ってみたら、やっぱり山の方で大きな物音がしたことが話題になっていたわ。
村長の息子が代表して調査に向かうという話になっていたから、調査隊が組まれることは確実かしら。
調査隊が組まれても行く場所は既に結果が出ているから、私は村に残ることにしたわ。
村では先日のG襲撃のこともあるから、結構住民達の間で動揺が広がっている様ね。村の広場に沢山の村人達が集まっていたわ。
彼らの話では山の魔物が出てくるのは初めての様だったから、あんなものが大量にやってきたらどうしようって感じね。まぁ、実際大量にいるだろうから、あの穴が開いたままだったらその予想も十分有り得たんだけれど。……一先ずは塞いであるから大丈夫と思いたいところね。
彼らの話の中で討伐隊を組織するにしても村人達では限界があると考えている様で、その対策としてギルドに依頼を出そうという話が出てきたわ。
遂に出てきたわね。
たぶん、これは冒険者ギルドっていう奴だと思うけれど、そこから討伐できる冒険者を雇ってということなんでしょうね。でも、村にあるお金ではとてもじゃないけれど高位の冒険者を呼べないという感じで意気消沈状態かしら。……私が冒険者を名乗って入るという手もあるかもしれないけれど、ギルドという仕組みがどのように働いているのか分からない現状では迂闊に選択できない手段ね。
と、その時やってきたわ。
スキルレベルが上がりました。
言語学 Lv,3 → 4
基礎会話能力が解放されました。
お、来た!基礎会話能力ですって!
もしかして、遂にしゃべられる!?
とりあえず彼らの話を聞いていたら、3の時よりずっと単語が拾えて普通に聞こえる。意味が瞬時に理解できるわ!……ようやく実用的になってきたわね。
彼らの会話の続きだけれど、ギルド関連の話の中で、南の商業都市「グレイズ」って名前が出てきたわ。確かここらもグレイズ北水源地とか出てたかしら。グレイズという名前は町の名前だったのね。
商業都市グレイズにギルド支所が有って、そこに頼みにいかないといけないみたいね。距離は馬車で三日かかるっていうから、結構遠いのかしら。まぁ、私が見る限りゆっくり走っているから、早馬ならもう少し早く向かえるのかもしれないけれど。
人と話すことについて試すにはまだ準備が足りないと思うから試さないけれど、これで情報収集という面では普通になってきたわね。これまでの宇宙語や片言から考えたら雲泥の差よ。
早く人々と話せるようになりたいけれど、もう少し世界の事を知りたいわ。そんなことを思いながら話を聞いていたら、村人の会話の中から生贄という単語が出てきたわ。
「水神様への生贄が滞っているから、水神様がお怒りになったんだ!」
村の男がそんなことを言ったの。そこに村長がやってきたわ。
「これまで通り証を持つ者も現れている。そもそも儀式の日を定めたのは水神様なのだ。我らが勝手に古き伝承を破るわけにはいかぬだろう」
「しかし!現にお怒りになられているではないですか!この上は、生贄を一刻も早く捧げるべきなんです!」
「先程の音が水神様のお怒りが原因とは限らぬであろう。アレン達が調査に向かうのだ。その後で考えても良かろう」
「……わかりました」
男は引き下がったけれど、村人達の表情は浮かないようね。
そもそも、生贄の証って何かしらね。
アレン君の調査というものも、どういう感じに運ぶのやら。
うーん、意味が分かったら分かったで面倒なことになってきたわぁ。
裂け目を塞いだキョーコ。
言語学が進化して言葉を理解できるようになってきたは良いが、内容が分かると面倒な事が増えそうな予感です。
次は視点が変わります。




